あの日の天才は
電車に揺られながら、その男は思考すらできないほどに、ただ理性だけで感情を抑えながら――――激怒していた。
愛川・・・・!愛川 ショウ・・・!
何故こんなことになったのか、何故自分はそれほどまでに怒っているのか、そんなことすらも分からずに・・・ただ一つあるのは、『愛川 将』という男に対しての絶対的な恨みだった。
さて、最初の間違いは・・・どこからだったのだろうか――――
***
「ふん!」
拳を思い切り振り落ろし、全ての感情をそこにぶちまける――――あぁ、なんて快楽的なのだろう。
不良を殴り飛ばし、その男・・・ザンヤは思う。
表面上では優等生を気取り、モテモテの人生を・・・
裏では社会のゴミどもを殴り正義の鉄槌を――――
今日だって後輩たちの言い争いを止めた、皆のことを思って文化祭実行委員に立候補した――――あぁ、なんて優しいのだろう・・・『俺』!
自分の姿に酔いしれ、ザンヤは狂人の如く、倒れた不良を何度も何度も踏みつける――――
・・・まあ、今日のところはこの辺にしておくか
流石に疲れが出てきたようで、ぜぇはぁと息を荒くしながら帰路へと向かう――――
「!?」
向かおうとした、その時に見つけてしまう。
――――こいつ、同じ制服・・・!まさか現場を見られたわけじゃ・・・
それは一人の男子生徒、しかしその服は見覚えのある制服――――同じ学校のものだった。
問題は見られたかどうか、どうやら電話をしているようだが・・・
――――!?違う!こいつのスマートフォン・・・ロック画面が映っている――――!
完全に見られたことを実感し、電話をしている男子生徒に「おい」と話しかける・・・さて、どうしたものか・・・
男子生徒は「はい?」と、とぼけた顔で返事をする。バカが・・・電話をしているフリだということは分かっている。
「・・・お前同じ学校のやつだよな?・・・今の、見ていたか?」
「さあ、拙者何のことだか分からないでござるよ」
手を広げ、What?と茶化すように言うその生徒の腹部に、容赦なく拳をいれる。
その場で崩れ落ちるように倒れた生徒に、脅すように言葉を続ける。
「もし誰かに言ってみろ、お前もあの不良どもと同じ目にあうぞ」
そう言って、今はその場を離れる。
もし他の生徒にでもバレたらまずい・・・だが、気弱そうな生徒だ――――あれだけされれば口を割ることはないだろう。
「大丈夫だ」と、誰かに願うようにそう思いながら・・・
***
――――昨日は迂闊だった、まさか人に見られるとは・・・だが、問題視するほどのことではない。俺は人望もある・・・そんなことをしたと言いふらされた所で信じるやつなど誰もいないだろう。
そう思いながら、会議室へと足を運ぶ。
『俺』なら、うまくやれる――――
***
「はい!じゃあ今日も会議始めていくよ!」
3年の先輩――――ソラ先輩が開始の合図をかける。
どうやら今日は出し物を決めるらしい、だがこれは――――大変そうだ。
目の前の惨状・・・女子生徒たちが言い争っている光景を見てニヤリと笑う。
片方の女子生徒が提示した企画の欠点を、もう片方の女子生徒が指摘したのだ。すると事は大惨事、あっという間に喧嘩・・・いや、一方的な言い合いになってしまった。
今は3年の先輩が止めてくれたが、次はどうだろうか・・・いや、心配する必要はないか。
――――だって、『俺』がいるのだから。
***
ある日、ある女子生徒がこんな発言をした。
「わたし、部活とか勉強とかで忙しいんで、行ける日を決めてその日だけ行くことにしますね!皆さんも、友達付き合いとかあるんですし、行けるときにだけ行くってことにしましょうよ!」
――――なるほど、いいサボり文句だ。
この発言のおかげで大半の生徒は来なくなった。これも神からの贈り物だろうか・・・?こんなにも――――
――――都合のいい展開が起こるなんて――――!
これで文化祭の準備は全く進まず、実行委員会は期間内に終わらない。という緊急事態が起きるだろう――――だが、あぁ、なんということだ!幸福なことに、こいつらには『俺』がいる!
俺が華麗に参上し、皆をまとめ上げることにより、俺の評価はより一層良くなるだろう――――最高じゃないか・・・!
よし、早速俺も休むことにしよう・・・!来る時が来るまで――――
そんな浅はかな計画を立て、早速ザンヤは実行に移すことになる・・・なったのだが。
――――そんな思惑は儚く、容易に砕け散った。
なんだこれはぁ・・・!?
それはどうしようもない怒りだった。
日課として毎朝ポストを確認し、中身を整理するザンヤだったが、今日のポストには一つ奇妙な物が入っていた。
一枚の封筒――――その中に入っていた紙と写真、問題なのは写真の方だ。その写真に写っていたのは――――自分、不良に暴行を働いているザンヤ自身の姿だった。
そして紙――――それはザンヤが会議に出るように仕向けられた内容だった。会議に出なければ写真を流すと、そう書かれた内容だった。
・・・ふざけるなよぉ!?
自分の計画が崩れ落ちていく瞬間だった。
最後の最後で華麗に登場するはずの自分が、たったの写真ごときで会議に出席しなければいけない。
それは、ザンヤのプライドを傷つけるものだった。
――――会議に出席させるということは、少なくとも犯人は文化祭実行委員に関係しているものだ・・・こうしてはいられない、すぐに会議室に向かわなければ・・・!
ものすごいスピードで支度をして、駅へと向かう――――
――――絶対に、絶対に許さないぞ・・・!




