それはほんの一握りの幸せ
「こ・・・これは・・・」
「・・・結構増えたな・・・」
草原が広がる土地に、ポツリと建つ一軒家――――ミハイロフの家に無事帰宅し、袋を開ける。
その中には大量のコインが入っていた。
「これだけあれば半年は持ちますよ・・・これで仕事探しにも困らない・・・!」
ミハイロフは日々の辛さを思い出しながら、目の前の大量のお金を見て涙を流す。
あまりにも幸せそうな顔をするので、少し言い出しづらくなってしまうが・・・
「あー・・・、それ多分ほとんど使っちまう・・・申し訳ないが・・・」
「は?何言ってるんですか!絶対嫌ですよ!」
そう言ってミハイロフは、お金の入った袋を大事そうに抱きかかえてこちらを睨みつける。
「いや・・・でも、勇者倒しちまえばそんなお金はした金だしさ!頼む、ここだけは我慢してくれ!」
そう言って、手を合わせて懇願する。
ミハイロフは頬を膨らませながら、「・・・しょうがないですね!」と言って袋を元の場所に戻してくれる。
「その代わり、絶対勇者倒しますからね!絶対ですよ!」
「あ、あぁ・・・」
相当お金を手放したくなかったのか、勇者は絶体倒すと念押ししてくる。
「あ、ちなみに金の使い道なんだが、まず服を買うことになる。もちろんミハイロフのもだが」
「え!?私のも買うんですか!?」
そう言うとミハイロフはキラキラした目でこちらを見る。相当うれしいのだろう。
なにしろまともな服が着れるのだ。今着ているようなボロボロの服ではなく、まともな綺麗な服を着られるのだから。
「当然だろ、一緒に稼いだ金なんだからな。ただ、女ってことを隠すなら、個人的に家で楽しんでもらうことになるがな」
「それでもいいです!外出用の服が綺麗じゃなくても、それでもいいです!」
――――そこまでして女ってことを隠したいか・・・なぜそこまで・・・?
サラッと男のフリをし続ける宣言をしたミハイロフに対し、当然の疑問が浮かぶ。
何故そこまでして自分を隠したいのか、何故そこまで別人であろうとしているのか。
しかし、その疑問はミハイロフが自分から話さない限りは解決しないだろう。と思い、思考を切り替える。
「それと、髪の色を染め変えないといけないんだが・・・あの町ってそういう技術あったりする?」
「ありますよ、というか髪を染めたいんですか?それなら私がやってあげますよ」
「染めれるのか!?」
「一応、染色の術式は覚えているので・・・言ってくださればやりましたよ?」
――――なんだ・・・じゃあ最初っから言っていれば、わざわざ心配する必要もなかったってことか・・・
己のコミュニケーション不足を恥じ、ラブは「じゃあ頼む」とミハイロフにお願いする。
ミハイロフは「わかりました!」と言うと棚から、おそらく染色の術式だろう物を取り出す。
「あ、ラブさん!何色に染めますか?」
「何色か、そうだな・・・」
ラブは町にいた人達の髪を思い出す。
――――基本的に赤茶っぽい色から青色・・・女の人は色々な髪色の人がいたな・・・あれも染色だろうな。
だが、黒色は誰一人いなかったから、染めないという選択肢はないな。それに――――
チラリとミハイロフの顔を見て思う。
――――あれだけ今か今かと染色を楽しみにしている女の子がいるのに、「やっぱりなし」ってのはねぇわな。
ラブは考え、一つの結論を出す。
「よし、ここはミハイロフに任せるよ。どんな色になるか楽しみだ」
「!――――任せてください!」
ミハイロフは様々な花を持ってくると、一つずつラブの髪の横に持ってきてどの色が合うかを確認し始める。
「・・・へぇ、花で染色するのか」
「基本的には色がついていれば何でもいいんですけどね、私はこれしか持ってないので・・・」
申し訳なく思ったのか、徐々にミハイロフの声が小さくなっていくのを感じ取り、むしろ申し訳なくなってしまう。
「いや・・・別にいいよ、むしろそれがいい。ミハイロフの選んだその花が」
「・・・ふふっ、そういって貰えてうれしいです」
ミハイロフは再び花を手に取ると、ラブとの髪と比べ始める。
「うーん・・・これもよさそうですね・・・あ、でもこっちも捨てがたい・・・」
自分のために真剣に選んでくれているミハイロフを見て、どこか嬉しくこそばゆい感じになる。
――――なんだろうな・・・幸せっていうのかな・・・
自分とミハイロフの今この時間が、どこか大切に、貴重に思えてくる。
この時間が今大切だと。ずっと残していたいと思う。
ヒシヒシと今という時間を身にしみこませる。絶対にこの気持ちを忘れないように――――
「――――ラブさん!決まりましたよ!ラブさんの色はこれです!」
そういってミハイロフが前に突き出した花は、綺麗な青色をした花だった。
――――青か・・・町の人たちの色と誤差はない色だし、適切だな。
「よし、んじゃ早速その色で頼むよ」
「わかりました!・・・あっ、でも・・・」
「?――――どうしたんだ?」
さっきまでやる気満々だったミハイロフが突然その活発さを失くし、疑問に思う。
「実は私・・・人にやったことはなくて・・・ミスしたりしてしまったらすいません!」
――――なんだそんなことか
「全然いいよ、むしろ実験台だと思ってくれ。禿げたりしない限りは構わん」
「禿げたり・・・あ、たぶんないと思います。大丈夫です!」
「おいちょっと待て!本当にそれ大丈夫なのかよ!」
「多分」という不安げな言葉にラブはツッコミを入れてしまう。
その反応にミハイロフは「大丈夫ですよ!大丈夫!」と、まるで宥めるかのようにラブを椅子に座らせ、染色の準備をする。
「では、いきますよ」
ミハイロフはラブの頭に術式の書いた紙を乗せると、その上に青色の花を置く。
ラブはそれを感じると、ゆっくりと目を閉じ、終わりを待つ。
――――楽しみだと感じるのはいつぶりだろうな・・・
思えば、今日は色々なことがあった・・・だが、その分いいこともあるな・・・
そう思いながら、待っているとミハイロフから「終わりました!」という声が聞こえる。
「おぉ、ありがとな」
「えぇ・・・と実はですねラブさん・・・」
何やら言うことがあるらしく、ミハイロフの次の言葉を待つ。
「その・・・ちょっと失敗してしまいまして・・・」
そう言ってミハイロフがだした鏡には、ラブの顔が写っていた。
緑の髪をした――――ラブの顔が
「どうやら生物にやると勝手が違うらしく・・・すいませんでした!」
そういって頭を下げるミハイロフに対し、思わずラブは――――
「・・・ぷっ!ハハハッ!」
大声で笑っていた。
「緑とはまた斬新な・・・全然いいよ、ありがとう。ミハイロフ」
「――――はい!どういたしまして!」
それでもやってくれたミハイロフに心から感謝し、お互いに笑顔で言葉を交わす。
すでに外は日が落ちかけ、夕焼けになっていた。
「――――そういえば、ラブさんは宿とかどうするんですか?」
「そうだな、町は勇者が来て大混乱だろうし・・・今日は泊まれなさそうだな・・・」
・・・ん?待てよ?
ラブは気づく、今起きている想定外の事態を。
それは、思春期の男性諸君が最もあこがれた事態――――
そして同時に、ミハイロフも同じことを思う。
――――これは・・・
もしかして・・・
((男女一つ屋根の下ってやつですか――――!?))
思わぬ事態に、お互い緊張を隠すほどの余裕はなかった。
どうやら焼き餃子さんがレビューをしてくださったみたいで、アクセス数がすごいことになっていました。焼き餃子さんありがとうございます!
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