来るって言ってばかりで狂って
「だから・・・あれは演技でな?」
「いいですのよ、個性的な歌声も芸術ですわ・・・きっとどなたかが評価してくれますわ」
「だから・・・」
俺の番が終わり、体育館を出た時に待っていたのはマリーだった。
そしてマリーは開口一番に「よかったですわよ!」と言ったのだ、それは確かにマリーの本心だ・・・しかし、それは決して『上手だった』ではない、あくまでも『よかった』なのだ。それは、たとえ音痴だとしても・・・
「いいかマリー、あれはわざと音痴に魅せることによってだな・・・」
「ショウ、いくらなんでも自分を悪く言うのはいけませんわ、どれだけ音が外れていたとしても芸術は芸術、それを恥じることはありませんわ」
「あのなぁ・・・」
マリーはこういうやつだ、決して相手のことを悪く言わない。
自分の行いを悪く思う人がいれば、反対に良く思う人もいる――――だからこそ自分にはそれをどうこう言う資格はない、しかし自分の考えに嘘を吐くのも悪い、と・・・そう考えるやつなのだ、だからこそ――
――――いくら俺が下手だろうと、決して否定はしない。だからこそ『よかった』であり、『上手かった』ではないのだ。
どれだけ説得しようとしても同情するように話を聞こうとしないマリーに半分ほど諦めながら話す。
すると――――
「あ、ショウくん!」
「・・・ソラ先輩?どうしたんですか?」
おそらく走っていたのだろう、汗だくになりながらこちらに向かってくるソラ先輩、そんな姿にどこか焦りを感じ、事情を聞く。
「実はザンヤくんが見つからなくて・・・もうすぐ出番なのに」
「出番って・・・もしかしてサプライズの件ですか?」
「うん、学校中探したんだけど見つからなくて・・・」
「そうですか・・・」
ショウの歌う番は後半で、ほぼほぼ最後と言ってもいい番手だった。
なるほど、それで自分の番の時に2回も歌わせてくれたのか・・・苦し紛れの尺稼ぎと言ったところか。
「心当たりないかな?」というソラ先輩の質問に、顎に手を当てて考えている素振りをする。
「ショウ、一体どうしたんですの?」
「あぁ・・・どうやらこの後に演奏するヤツがいなくなったみたいだ。早急に探さないと大変なことになるだろうな」
後ろから状況を理解できずに問いかけるマリーに簡単に説明すると、「それは大事ですわ!」と声を上げる。
「・・・ショウくん、その子は?」
「幼馴染のマリーです。マリー、この人は文化祭実行委員のソラ先輩・・・」
二人にお互いのことを説明していると、マリーに「それどころじゃありませんわ!」と話を遮られる。
「今はその方を探すのが先ですわ!名前は何と言いますの?!」
「えっと・・・如月 斬夜だけど――――」
「私は校舎の中を探してきますわ!ショウたちは他の生徒に見なかったか聞き込みしながらの探索をお願いしますわ!」
「お、おう・・・」
マリーはソラ先輩から名前を聞くと、こちらへ指示を出して「如月さーん!どこですのー!」と大声で言いながらすぐさま走り去ってしまう。
「・・・すごい子だね・・・」
「純粋に舞台を無茶苦茶にしたくないんでしょうね・・・まあ、マリーはああいうやつですよ」
行ってしまったマリーを見届けると――さて、とソラ先輩の方へ向き
「じゃあ手分けして探しましょう。僕はこの周りにいないか探すのでソラ先輩は別の場所をお願いします」
「うん、じゃあお願いね」
そう言って手をこちらへ向けて去っていく先輩をしっかりと見届け――――
・・・さて、やりますか
スマホを取り出し、楽譜を確認する――それは、今まさに探しているザンヤが弾くはずだった曲・・・そして、歌合戦の最後にサプライズとして使う曲だ――――
その楽譜を削除すると、スマホの電源を切り再びポケットに戻す。
体育館の扉を少し開き、中を確認する。
盛り上がっている観客とは反対に、どうやら裏方はあたふたしているようだ、やはりザンヤが見つからないことに焦っているのだろう。
その中に静かに足を踏み入れ、ニヤリと静かに――――その男は微笑んだ。




