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こんにちは、こちら勇者ですが何者ですか?

その日、町はいつも以上に賑わっていた。

――――まあ、自分はこの町に初めて来たわけだから、いつも知らないんだけどさ。

しかし、それでもこの町がいつも以上に、と言われるのも少し合点がいった

なぜかって?それは――――


「勇者様がすごいことしたってのは分かるんだけどよぉ・・・」


ラブはポンチョについたフードを深くかぶり、あたりを見回す。

この町にいる人間はみんな笑顔だった。

歌を歌い踊りだすもの。

それを見てゲラゲラと笑い、皿の上の料理を平らげるもの。

しまいには、あまりの感激に涙をこぼし笑いあうものもいた。


「さすがにこれは・・・洗脳レベルじゃねえの?」


そんな賑やかな町の中心となる噴水には、それはとても大きな――――


()()()()なんて誰得だよ・・・」


そう、とても大きな像が。

その像の周りでは参拝していくものや、賽銭のようにお金のような物を投げ込む人であふれていた。

そしてみな、口々にこういうのだ――――「勇者様」と

近くに建っている石碑にしゃがみ込み、書いてある文字をゆっくりとなぞる。


――――文字はこっちの文字じゃないのか・・・まぁ音声言語は一致してるし、解読はいけそうだな


「わかりましたか?これが、僕がここの人達のことが嫌いな理由の1つです」


声のする方向へと振り向くと、そこには外出用の服装を着たミハイロフが立っていた。


――――にしても、また一人称が変わったな・・・そんなに身分をばらしたくないのか


「まぁ、ここの町の住民が変わり者ってことは分かったよ・・・」


大体の人間の特徴もつかめたしな・・・


ゆっくりと立ち上がりミハイロフのいるほうに向き直る


「なあ、ミハイロフここに落ちてる円形型の金属はお金でいいんだな?」


「はい・・・?そうですけど、ここのお金は世界で一番流通しているお金ですよ?ラブさんどこ出身なんですか・・・」


「あー・・・それについては詮索してくれないでくれ・・・下手したら死ぬ」


「死ぬって・・・さすがに冗談と思いたいんですが・・・」


嘘かどうかなんて簡単に見抜けるミハイロフは確かに冗談じゃないと知り、苦笑いをする


「ところでミハイロフ、手はもう大丈夫なのか?」


「あ、はい。一応僕は治癒魔法の術式を取得しているので・・・」


「魔法・・・ねぇ・・・」


魔法という聞きなれない言葉を聞き、少し考えてしまう。


――――魔法か、どんな魔法があるのか知っておきたいところだが・・・どう言い訳しようか・・・


「もしかして、魔法も知らないんですか?」


「え?・・・あぁ、恥ずかしながら知りません」


――――まさかあちらから話題を振ってくるとは・・・


どうしようか思案しているとミハイロフ側が察したのか、話題を提示してくる。


「そうですか・・・まぁ深くは聞きませんが、魔法の基礎ぐらいは教えときますよ」


冗談抜きの『詮索したら死ぬ』という言葉に気遣ったのか、『あまり深くは聞かない』と深くは聞かないでくれる


「まず、魔法と言うのは先天的なものである。というのを頭に入れておいてください」


「先天的・・・じゃあ俺は使えないのか?」


「いえ、そういうわけではありません。魔法を使うために魔力を使用するのですが、魔力というものは普通に生活していれば勝手に蓄えられるものなのです」


「ほう・・・それはまた、なんで?」


「例えば、そこに生っている木の実にも、魔力の元となる栄養素を含んでいるんです。なので、普通に食事ができる人はそれなりに魔力を含んでいるはずなんです」


――――じゃあ、なおさら自分に魔法は使え無さそうだな

そもそも、自分はこの世界のものは食べてきていないのだ。

それに加えて魔法は先天的なもの、つまり才能がないものは使えないのだ。そうなってくると自分には使えないと考えるのが妥当だ。


「・・・ん?ちょっと待て、使われない。つまり、魔法が使えないやつらの蓄えられた魔力はどこに行くんだ?」


「魔法の使えない人は基本的に健康体でガタイが良くなるんですよ。魔法は使えるが魔力を使わないって人も、その分魔力は体の栄養へと費やされるので基本的には健康体になるんですよ」


「そして」とミハイロフは説明を続ける


「基本的に魔法は術式がなければ発動しません。僕は家で書き溜めておいた術式で手のけがを治しましたが・・・あまり治癒魔法というのは効率が良くないんです。魔法を使わなければ、勝手に魔力が栄養に回るわけですから、本当に命の危険が及ぶ時などにしか使わないんですよ」


「へー・・・」


要約すれば、魔法には魔力と術式が必要で、魔力はゲームで言うところのMPってところか。

そして、そのMPを溜めるためにはよく食えと・・・。


「・・・ただ、勇者にはその常識が通用しません」


「・・・どういうことだ?」


「本当に噂なのですが・・・勇者は術式を使わずに複数の魔法を使うそうなんです」


「・・・一つ聞きたいんだが、術式はそれにあった術式でしか反応しないのか?例えば、治癒魔法を使うには治癒魔法の書かれた術式しか無理・・・みたいな」


「はい、なので最初はみんな魔法が使えなかったそうです。そこに、魔法を見つけた人が術式と魔法という文化を世に広めたと言われています」


「なるほど・・・『書き溜めて置いた』という発言から察するに、おそらく術式は使い捨て・・・一度使った術式は再度使用不可なんだよな?」


「はい、その認識であっています」


――――つまり、魔法を使いたいときはどこかに術式を書くか、または元から書き溜めて置いた術式を使わなければいけないわけだ・・・


何を思いついたのか、ラブはニヤリと口角をあげる


「まあ、魔法については分かったが・・・俺達はそれよりももっと重要なことがある」


「・・・重要なこと・・・?」


ミハイロフが不思議そうな顔をしてこちらを見る

そう――――俺達には・・・


「俺達には・・・!金がねぇ!」


「・・・お金ですか・・・」


「あぁ!金がなければ何もできない!服を買うことも!髪を染めることも!何もできないんだ!」


心からそう叫ぶラブに、町の人々は気づかなくとも。

ミハイロフは静かにドン引きしていた。


「というわけで――――」


後ろを振り向き、落ちているコインを拾い上げる


「一儲け・・・しますか♪」


薄気味悪い笑みをこぼし、ラブは静かに町の人々を見ていた――――

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