陰の指揮官
「・・・はい!じゃあ今日はここまでにしようか!みんなお疲れ様!」
ソラ先輩が手を叩いてみんなの意識を向け、終了の合図を知らせる。
その合図を聞くと、各々荷物を持って帰宅を始める――――
「じゃ、みんなお疲れ様!」
次々と部屋から出ていくみんなに笑顔で手を振る。しかし、そんなザンヤの顔はどこか余裕のないような顔をしていた。
まあ――――今帰ったやつの中にも犯人がいる可能性もあるんだしな、ザンヤからすれば落ち着いていられないだろうな。
見送るザンヤの顔を椅子に座りながら見ていると目が合いザンヤはこちらにニコッと笑顔を向ける。
「君は帰らないのかい?」
「え?・・・あぁ俺はもう少し居残っていこうかと思って、仕事も終わってませんしね」
「そう・・・」
ザンヤはそういうと、ふたたび作業に戻る。おそらくザンヤも居残るつもりなのだろう――――まあ本音は残業を建前とした俺の観察だろうな。
ガラッと扉が開き、ソラ先輩が戻ってくる。
「おや?ザンヤ君も手伝ってくれるのかい?」
「はい、まだこんなに残っていますし・・・鍵は施錠しておくので委員長は帰ってもいいですよ」
「いや、私はショウ君に用があってね」
「へぇ・・・三年生が一年生に用ですか・・・」
ザンヤはチラリとこちらを見る。だが目を合わせないように俺は書類に目を向ける。
・・・完全に疑われてんな・・・
まあ犯人は男、というところまでは覚えているんだろうな。ソラ先輩に対して一切の疑心がなかった、さすがに性別まで忘れることはないってか。
「ま、俺もそろそろ帰りますかね・・・じゃ、お疲れ様です先輩」
「うん、お疲れ!」
「あ、待ってショウ君!私も一緒に行くから!」
ソラ先輩はザンヤに謝罪しながら施錠お願い!と頼むと、小走りでこちらに来る。
「ちょっとショウ君!待ってよ!」
「なんですか・・・俺もう帰るんですが・・・」
「『帰るんですが・・・』じゃないよ!ショウ君が残るように・・・」
ソラ先輩がそこまで喋ったところで立ち止まり、人差し指を自分の唇の前に出して静かにするようにジェスチャーで伝える。そして会議室を見る――――聞こえてないだろうか。
再び歩き始め会話を続ける。
「そのことはとりあえず人気のないところで・・・」
「わ、わかったけど・・・どうして?」
「あー・・・あまり人間関係の作戦会議してるとよく思われないでしょう?だから誰もいないようなところで話しましょう」
「・・・それもそうだね」
まあ本音はザンヤにバレないためだが、適当に理由をつけておけば納得してくれるだろう。
「あと、あまり俺と行動してることも言わないようにしましょう。不審がられると団結力がなくなります。俺の連絡先教えるんで、気になることは適当に連絡してください」
そう言いながらポケットからスマホを取り出す。それを見るとソラ先輩も察したのかスマホを取り出す。
お互いのスマホを近づけ連絡先を交換すると
「じゃ、できるだけこのことは内密で・・・」
「う、うん・・・」
しっかりと連絡先が追加されていることを確認すると電源を切ってポケットにスマホを戻す。
気づけばもう会議室からは結構離れている。そろそろ本題を話してもいいだろう。
「確か先輩って音楽教室に通ってましたよね?」
「?・・・うん、今でも通ってるけどなんで?」
「時間があるときでいいんで俺に・・・ピアノを教えてくれませんか?」
「ピ、ピアノ・・・?」
ここからは俺の願望だ。
みんなのため、ソラ先輩のためという建前すらない。ただの願望だ。
俺からザンヤへの・・・唯一の嫌がらせだ。




