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ゲームに舐めプは必要ないようです

「はあ・・・」


電車の中で揺れながら、ショウは誰にも聞こえない程度にため息を吐く。


スローガン決めが終わり、一通りの方針が決まったところで帰宅。思った以上に早く帰れたこともあり、嬉しいこともあるが、それ以上にこれをあと2か月もやるのかと思うと気が重くなってしまう。

2か月後の今頃は9月の下旬あたり・・・クールビズの期間も終わり、白く涼しげな学生服から黒い学生服に衣替えをし、気分を一転させる期間でもある。


・・・つか夏休み中も行くことになるよなこれ・・・積みゲー消化できると思ったんだがな・・・


家に積まれている様々な種類の、決して少なくはないゲーム・・・文字通り積みゲーを夏休み中に消化してしまおうという計画が、文化祭というイベントによって崩れていくのを感じ、さらに気が重くなる。


――――ガタン・・・と、電車が駅に停まり、扉が開くとともにショウは素早く駅を出る。

そして、駅の正面に建つ建物――――その中へ入ろうと歩みを進めると、扉が自分のために自動で開いてくれる。

すると、中からは様々な色のライトと大きな音で出迎えてくれる。ここは――――ゲームセンターだ。


ショウの家からそう遠くないこのゲーセンはショウの行きつけの場所だ。ショウの家は学校から遠いため、同じ学校の生徒たちとも会うことはない。まさに、ショウにとって最高の場所だった。


そのゲームセンターの中にある一台のゲーム台の前に立つと、硬貨を一枚入れてゲームを始める。

決して新しくはない。しかし、昔からのお気に入りのゲームだ。


ゲーム台のレバーを掴み、置いてある拳銃の形をしたコントローラーを持つと、液晶に向かって銃を向ける。


・・・マルチの誘いが来てるな・・・


――――このゲームはFPSゲームだ。昔のゲームだが、一応マルチもある。しかし、マルチといっても今のようなオンラインゲームとは違い、向かいの台としかできない。だが、マップの広さは最近のゲームにも負けず、土地を活用しながら戦う戦略と技術の両方が試される面白いゲームだ。


・・・せっかくだ、マルチでやるとしよう。


銃でYESのボタンに向かって引き金を引くと、ボタンが銃で撃たれたかのようなエフェクトがでる。

さて、今回は相手の誘いに自分が乗った形になるため主導権は相手になるのだが・・・どうなるのか。

それも、このゲームでマルチを選ぶと対戦モード、協力モードの二つのモードがあらわれる。しかし、それを選べるのは誘った人のみだ。自分に選ぶ権利はない。

対戦モードなら相手との戦い。協力ならNPCとの戦いになるが・・・

相手の選択を待っていると、モードが選ばれる。選ばれたのは――――


『対戦モード』――――ということは敵は向かいにいる相手か・・・


このゲームのもう一つの特徴なのだが――――『対戦モード』をやると気まずくなる。それも、このゲームはストックというものがない。つまり一本先取性なのだ。そのため、負けたほうはやられっぱなしで終了。勝ったほうはそのまま勝ち逃げ。仲のいい友達とならまだしも、全然知らない相手やこれから仲良くなろうとしている相手にはおすすめできないモードだ。


まあ、こうなっては仕方ない。ほどよく手加減してナイスゲームとでも言っておこう。


そう思っていると画面が暗転し、再び明るくなる。そこは廃墟だった。


廃墟か・・・建物が多いため隠れる場所が多く、かなりの技術と戦略が試されるステージだ。適した武器はスナイパーライフルだが・・・初期武器は拳銃一丁のみなので、どこかで拾わなければいけないな・・・


スタートの合図をカウントダウンと見合いながら待つ。15秒から始めるカウントダウンは徐々にその数字を減らしていき、動けないプレイヤーはそのカウントダウンが終わるのを待つ。

しかし、残り5秒のところで違和感を感じる――――これは・・・


手榴弾の音!?


まだ始まってもいないのにも関わらず、確かに手榴弾のピンが抜かれた音がする。音からしてかなり近い。この距離でまともに手榴弾なんか被弾したら間違いなく一発KOだ――――クソッ!


ボンッ!――――と、爆弾の爆ぜる音が響く。周囲は煙で包まれ、プレイヤーの姿は見えない――――だが、ゲームは終わっていない。


あいつ――――ノンストップバグを知っている・・・!間違いなく初心者ではない!



ノンストップバグ――――このゲームの待機時間をスルーすることができるバグのことだ。

待ち時間の間にひたすらレバーを右に傾けることでカウントダウン関係なく移動できるようになるバグであり、この技はこのゲームがあまり知れ渡っていないということで情報が少ない。つまり――――


今、向かいで戦っている相手は相当やりこんでいる。ということだ。


――――なかなか面白くなりそうじゃないか――――!


◇◇◇


2・・・1・・・0・・・

本当のスタートの合図が鳴り、ゲームが始まる。しかし、すでにステージは煙幕で包まれ、お互いに姿が見えない状況になっていた。

しかし、そんな状況でも今圧倒的に押されているのは――――ショウだった。


こっちはまったく動いていないから相手からすれば行動範囲はバレている――――しかし、こちらからは敵の位置がまったくつかめず、おまけに武器も拳銃――――ハンドガン一丁のみだ。圧倒的不利、だが負けるわけにはいかない。煙幕で自分の姿が隠せるのは幸いか――――


その時、一つの銃弾が左頬を掠る――――音は全くせず、正確にこちらを撃っている。これは――――


サイレントスナイパーライフル――――!?


サイレントスナイパーライフル、かなり遠距離でも正確に相手を打ち抜くことができるスナイパーライフルに音が出なくなり、相手から位置バレを避けることができるサイレンサーが付いた強力な武器だ。

そんな武器を廃墟というスナイパーライフルが活躍するような場所で見つけられてしまった。おまけに相手はこちらの位置をほぼ完璧に把握している。おかげでダメージを喰らってしまった、掠っただけなので致命傷にはならなかったが、ここに居続けるのはまずいだろう。


左上に表示されているHPバーを確認すると、緑色のゲージが5分の1ほど減っていた。

回復するにはステージに落ちている包帯や医療箱を見つけなければいけないが、そんな暇もなさそうだ。


二発目の弾丸が放たれる。さっきの位置とは反対に右側、しかしそれもショウのいる位置にかなり近い。


――――ひとまず隠れるしかないな。


撃たれた方向を確認しながら、その位置と逆方向に走る。

建物を陰にしながら、銃弾に当たらないように何度も移動する。


――――あれは・・・!


走っていると、やっと一つ目の武器と巡り合う。その武器は――――


アサルトライフルか・・・安定性はないが連射力と破壊力は非常に強力な武器、どちらかというと中距離戦向けの武器だ。スナイパーライフル相手では厳しいかもしれないが・・・持っていて損はないだろう。


走りながら武器を拾い、建物の陰から陰へと移動する――――しようとすると

ヒュンッ!――――と目の前を銃弾が通り過ぎる。


あいつ――――!建物と建物の隙間を撃ち抜きやがった――――!


幸い、弾丸は当たらなかったためHPは減っていない。しかし、自分の移動するタイミングと位置すら特定され始めた。

だが――――


こっちも負けるつもりはないんでな――――!


人間一人分ほどの建物との間、それがいくつも重なってできる隙間は弾丸が通るか通らないかのわずかの隙間だ。

そのわずかの隙間を、いくらスナイパーライフルでも少しもずらすことなく撃つのはかなり困難だ。それをできる相手・・・かなりの強者だろう。だが、勝てないわけではない――――!


アサルトライフルを構える。その方向は、さっき弾丸が飛んできた方向――――そこ方向を向きながら、隣の建物の陰へと横ジャンプをする。


弾道はちゃんと確認した――――位置は把握したぞ――――!


スナイパーライフルでも困難を極める隙間――――その隙間を狙って引き金を引く。こちらの武器はアサルトライフル、それも移動しながらだ。この隙間を通り抜けるなんてほぼ不可能――――だが、俺ならできる――――!


バンッ!――――と、弾丸の放たれた音が鳴り響く。放たれた弾丸は、隙間を抜け――――スナイパーライフルを持ったプレイヤーの右胸を撃ち抜く。


――――手応えあり!


どこか建物に当たった様子はない。弾丸の方向も完璧だった。相手の姿は見えないが当たったと考えていいだろう。

だが、ヘッドショットは外したみたいだな・・・だが、確実にダメージは入っている。威力と位置を計算するに5分の1・・・自分と同じぐらいのダメージは喰らっているはずだ。


弾道と武器の威力から相手に与えたダメージを割り出し、確かな手応えを感じながらも「安心してはいられない」と次の建物へと移動する。


――――さあ、本番はここからだ――――!


◇◇◇


――――ひとまず見つかったアイテムはこれだけか・・・


壁や床がどころどころ壊れている廃墟、安全地帯ともいえる建物の中に入ってアイテムを確認する。

現在持っているアイテムは、手榴弾3つ、アサルトライフルとハンドガン、そして数種類の弾薬だけだ。


まずいな・・・武器が中距離型のアサルトライフルと近距離型のハンドガンしかないのはまずい。これでは遠距離型のスナイパーライフルを相手に戦うことなんてできない。

それに、相手は撃たれたことにより警戒して移動しているはずだ。もう一度相手の位置を突き止めなければならない・・・さて、どうしたものか。


どうしようか考えていると、相手が先に動き出したようだ。どこからか足音がする。

足音から場所を特定しようとしていると――――ボンッ!


――――!?


その音は爆発音だった。間違いない、手榴弾を使ったんだ。

音のした方向の窓から顔をのぞかせる。ここは二階のため、広く外を見ることができる。一階よりも素早く相手を見つけることができるだろう。


だが、二階の窓を覗いて見えたのは――――


なっ――――!?


手榴弾が目の前に現れる――――間違いない、相手が投げ込んだのだ。

とっさにハンドガンを取り出し、手榴弾に向かって撃つ。弾は手榴弾を貫通し、目の前で爆発を起こす。


――――ダメージはない。だが――――いまので位置はバレた。


この建物に入ってきた足音が聞こえる。

おそらく、相手プレイヤーは闇雲に手榴弾を投げ込んでいたのだろう。それでこちらを潰せれば大儲け、悪くても相手の位置を突き止められる――――やるな。


相手の作戦を素直に褒め、アサルトライフルへと武器を切り替える。


だが――――これならどうだ!


下に向かってアサアルトライフルを乱射する――――この場所を選んだ理由だ。

アサアルトライフルの弾は床に当たることなく、そのまますり抜けて下の階へと向かう。

貫通バグ――――一部の場所でのみできる裏技だ。今頃下の階では雨のように銃弾が降り注いでいることだろう。

だが、当たっているとは思えない、所詮貫通できる範囲は決まっている。それこそ当たっていたら大儲けというやつだ。

仕返しとばかりに、次は下から上に向かって銃弾が放たれる。


――――相手もアサアルトライフルを持っていたか・・・!


もうこの場所に居続けることはできないだろう。

二階の窓に手をかけ、ジャンプする。

衝撃でダメージを受け、緑だったHPバーは黄色を通り越し赤色になってしまう。ほぼ瀕死状態だ。

しかし、休んでいる暇はない。足早に建物の陰に隠れ、相手から身を隠す。HPはほぼ0、一発でも喰らったら終わりだ。


――――っ!まずいな・・・だが、収穫はあった。


相手は何故わざわざこちらに来たのか。

このゲームにおける位置バレはかなり致命的だ。それも、闇雲に手榴弾を投げるなんてのはかなり危ない。しかし、その危険を冒しながらも相手はこちらに出向いたのだ。つまり、遠距離で行動できなくなった何かがある。そして、その何かはおそらく・・・


アイテム欄の弾を見てショウはニヤリと笑う。


◇◇◇


ショウを見失った相手プレイヤー・・・アサルトライフルを構えながら物陰に隠れて移動する。

その行動は何かを探しているようだった。それは相手プレイヤーではない別の何か――――


――――!


建物と建物の隙間にそれはあった。

スナイパーライフルに装填するための・・・銃弾だ。

周りに敵がいないことを確認し、その弾を拾おうとする・・・すると――――


ピンッ!と音が鳴り、気づく。これは――――罠だ!


ボンッ!――――と、爆発音が鳴り響く。それは、ショウの手榴弾だった。


――――どうだ・・・!


ショウは建物の上から敵を確認する。

ゲームが終わっていないところを見ると、どうやら殺し損ねたようだ。

だが、あの狭い空間での手榴弾、避けるのは困難だったはずだ。入ったダメージは相当だろう。

追い打ちをかけるように上からアサルトライフルを構える。だが――――


うおっ!


先にアサルトライフルを上に向けて撃たれる。幸い当たらなかったため、死ぬことはなかったが・・・


これはかなりまずい――――!


相手プレイヤーが上に弾を乱射しながら駆け上がってくる。階段を使おうにも、これでは使えない。もはや逃げ場はない。


アサルトライフルを存分に使っている・・・弾を全部使ってでも逃がさないつもりだろう。

そして最後はスナイパーライフルで終了・・・あそこで倒しきれなかったのが仇となったわけだ。

さあ――――どうするか


まだ負けたわけじゃない。ここであきらめてたまるかと次の作戦を考える。


――――少し賭けになるが・・・やるか・・・!


◇◇◇


相手プレイヤーが階段を上りきり、ショウの姿を探す。すると、横から手榴弾のピンを外す音がし、即座に反応してその手榴弾を撃ちぬく、煙で体が包み込まれ、目の前が見えなくなると同時に無数の弾が撃ち込まれる。だが、途中にその弾が撃たれることは無くなり、確信する。相手のアサアルトライフルの弾は――――もうない。


こちらもアサアルトライフルの弾はないため、スナイパーライフルに切り替え、煙から体を出す。

すると――――


――――!?


ショウが建物の屋上から身を投げ出した。

ここは3階建ての屋上だ。あの体力では落ちたら即死は免れない・・・何が目的だろうか。

上から落ちたショウの姿を見ようと顔をのぞかせる。それが迂闊だった――――


下を向くと、そこにはハンドガンを構えたショウの姿があった。ハンドガンから弾が放たれ、頭を撃ち抜く――――ヘッドショット、ゲームオーバーだ。


・・・少し賭けになったが、お前の意識が戦闘から疑問へと変わってくれたおかげで、油断をつくことができた――――俺の勝ちだ・・・!


ショウの画面にWINの表示が浮かび上がる。

これで、ゲームクリアだ。

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