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俺がこの場所にいるのは間違っている

ここは学校――――だが、別に変人がいるわけではない。ありきたりな、平凡な高校だ。

だが、こんなに広い屋上を使っているのはどうやら一人のようだがな。


生徒が500人近くいるこの学校で、この屋上を使っているのが自分ただ一人ということに、どこか特別感を感じながらその状況を満喫する。やはり屋上に来て正解だった。冬ならまだしも、夏だから皆クーラーの効いた教室にいるのだ。それに屋上は昼になると影になるような場所が一つもない。ここに来ようとしないのも納得だ。


屋上に一人分の自作テントを張り、影を作ってくつろぐ。

この学校は屋上は開放しているものの、テントを張るというのは当たり前だが禁止されている。そもそも、不要物を持ち込んでいる時点でアウトなのだ。

だからこそ――――隠しながら持ってこなければいけない。

小型クーラーボックスの中にテント一式を詰め、その上に昼食と飲み物を置いてカモフラージュ。昼食時になったらクーラーボックスを持って屋上に行けば完璧だ。


昼食用に買っておいたパンを食べながら思う。


そこまでした対価は――――それ以上のものだな。


もちろんバレたら即生徒指導ものだ。

だがこの男――――愛川 将(あいかわ しょう)に友人と呼べるようなものはいなかった。そのため、テントのことを知っているものはおろか、将が屋上にいることすら知っているものは少なく、バレる危険性は限りなく低かった。


誰もいない屋上をこの上なく満喫し、パンを食し終わった後に思う――――


さて、どうしたものか・・・


***


「はい!それでは役割をそれぞれ決めていきたいと思います!」


横一列で対面する形に並べられた机と椅子。その間の一番端に置かれたホワイトボードの前に女子生徒が立ち、声を張って皆に呼びかける。

教室を一室借りて始める会議――――文化祭のための会議だ。


何故俺がこんなことに・・・?


文化祭実行委員を決める際に自分には関係ないと眠っていたらこのざまだ。

案外、学生というものは祭りごとは好きなくせにそれを作るのは嫌という自己中心的な者が多く、このような実行委員というものは「なんとなく」で決まってしまうのだ。そのため、居眠りを決めていた自分に「なんとなく」で決まってしまったのだ。・・・正直言って最悪だ。


ただ――――そんな中でもこんな奴はいるがな


隣をチラリと見ると目をキラキラと輝かせ、まるでやる気マンマンという()()()を醸し出している女子生徒――――佐々木 咲(ささき さき)だ。

しかし、そんなサキの目線は何度も別の方向を向いている。その方向は向かいにいる二年の学年――――自分たちの先輩にあたる人物だ。

おそらく、サキの思惑はその先輩に自分のことをアピールするためだろう。自分はしっかりものです。自分は皆のことを思ってやってます――――と。


――――その中でも、目当てはやっぱりアイツか?


自分の目の前にいる人物――――名前は確か如月 斬夜(きさらぎ ざんや)だっけ?

この学校で圧倒的成績を持ち、容姿も良い。さらには運動神経も良いときたもんだ。いわゆる――――勝ち組というやつなのだろうな。普通の女子高生だったら当然憧れを抱くだろう。

それにしても、わざわざ文化祭実行委員にまでなるくらいだ、サキは相当ザンヤのことを狙っているらしい。


それにしても名前が痛すぎる・・・名付けたやつは中二病でも抱えていたのか?あんな名前ラノベでしか見ないぞ・・・


夜を斬ると書いて斬夜――――あまりの痛いネーミングセンスに内心ドン引きしているとホワイトボードの前に立っている女子生徒が自己紹介を始める。


「私は、この度文化祭実行委員長に選ばれました!美空 空(みそら そら)といいます!成績目的で委員長を立候補しましたが文化祭はしっかり盛り上げていくつもりなので、皆さん頑張りましょう!」


3年の先輩――――ソラ先輩の自己紹介が終わると、拍手が起こる。委員長のソラ先輩は「では」と言うとホワイトボードに役職を書いていく。副委員長、秘書、会計、etc・・・


――――とりあえず適当な係について、さっさと終わらせてしまおう。


そう思いながら書かれていく役職を見ていると、隣に座っていたサキが立ち上がり「はい!はい!」と勢いよく挙手をする。


「どうしましたか?えぇっと・・・」


「サキです!私、副委員長やりたいです!」


名前がわからずにいる委員長に対し、サキは食い気味に自己紹介して副委員長を立候補する。

なるほど、ここで目立つことによって愛しのザンヤ先輩の気を惹こうって魂胆か。


「うーん・・・サキちゃんはそう言ってるけど、皆はどうかな?」


委員長が皆に問いかける。しかし、やはり皆重要な係になりたくないのだろう。特に委員長や副委員長といった責任がかかる役職などは、皆が無言で同意の拍手を送る。ショウもそれに同調し拍手を送る。

サキは副委員長に選ばれたことを満足気にしながら、ペコリと皆に向かってお辞儀をすると、憧れのザンヤ先輩の方を向いてさりげなくウインクをし、自分の席に座る。

本当に油断も隙もない女だ。


ソラ先輩が副委員長の部分にサキの名前を入れ、再び前を向き直すと


「さ!じゃあどんどん決めていこうか!」


***


――――雑務か・・・まあ楽だし自分に合ってるな。


配役された自分の係を確認し終わると、再びソラ先輩が話を始める。


「それぞれ係を確認したところで、早速会議を進めていきたいと思います!」


そう言ってソラ先輩はずっと置いてあった箱を持ち、二年生徒の机の上に箱を逆さにする。

すると、中から大量の紙がバサァと山になって出てくる。


「今出した紙、君たちもどこか見覚えはあると思います。そう!文化祭のスローガンを募集した際に集まった用紙です!今日はこの中からスローガンを選んでいくよ!選ばれたスローガンが文化祭のテーマにもなるので、よく考えて選んでね!」


うわぁ・・・と、大量の紙を見て思ってしまう。だが、紙が置かれたのは二年の先輩のみ――――このままなら「一年生は帰宅!」とかならないか・・・?


そんなことを考えていると、ソラ先輩がニコニコしながら箱を持ってくる・・・まさか。


「当然、一年生の分もあるからね!一緒に頑張ろう!」


やっぱりか・・・。


想像していた最悪の状況に落胆していると、ふとあることに気づく。


「・・・そういえば、三年の生徒は委員長しかいないんですか?少なくとも今いるのは二年と一年しか見えないんですが・・・」


そう、三年生徒の姿が見えないのだ。もしどこかにいるなら手伝ってほしいものだが・・・。


「三年生は受験とかもあるからね・・・委員長以外の人は文化祭の参加は任意なんだ、もちろん実行委員もね、今年は誰も実行委員を希望しなかったから私一人なんだ・・・あ、でも当日は来る人いるから!頑張ろ!」


――――ということは、この量をここにいる人達だけでやらなければいけないのか・・・


あまりの量の多さに再度落胆していると、それが顔に出ていたのか隣から「ちょっと!」という声が聞こえる。


「そんなにやるのが嫌なら実行委員辞退したら!?他にやりたい人だっているのに!」


「――――」


急に怒り出すサキに驚きと瞬時の理解で言葉を失う。


別に嫌とは言っていないし、クラスの奴らがやりたがらなかったから俺がここにいるんだろ・・・何言ってんだこいつ・・・


やる気があるアピールをしたいのだろうサキに文句の一つも言ってやりたいが、これでもサキはコミュニケーション能力が高く、クラスのまとめ役などにもなっている。ここで敵対心を見せたら最悪、クラスの人間全員から敵対されるかもしれない。そうなったら自分の平穏なぼっち生活に終止符を打つことになってしまう。それだけは絶対に避けたい。


どうやってこの場を収めようか、そう考えていると――――


「まあまあ、とりあえず落ち着こう?」


「――――!」


「あ、ザンヤ先輩・・・!」


まるでキラッとでも効果音が鳴りそうなイケメンスマイルをこちらに向け、サキをなだめてくれる。


「こんなに量も多いしさ、一緒に頑張ろうよ!」


「は、はい・・・すいません」


助かったか・・・ここは一応お礼を言っておくか、めんどくさそうだしな・・・


「すみません・・・ありがとうございま――――」


「じゃあ、早速やりましょうよ!みんなでやったほうが楽しいですし!」


お礼を言おうとしたところを遮られ、さらには無理矢理ザンヤを引っ張って自分の席に座らせてしまう。そして、おそらくザンヤ先輩目当てで来たのだろう。女子生徒の群れがザンヤ先輩の周りを囲い始める。

あっという間に自分の席の周りは占領されてしまい、空いている席は――――


・・・まあいいか。


男しかいない二年生徒の席に座り、淡々とスローガンを選び始める。

しかし、周りの雰囲気はそれどころではない。女子を「ザンヤ」という存在にすべて取られ、男たちは恨めしいと言わんばかりにそれを睨んでいる。


――――早く終わらせて帰りたいんだがな・・・


大量の紙の山から一枚ずつ見ていると、向かいの席――――ザンヤ先輩を取り囲む女子生徒の群れから「あー!」と大きな声がする。


この声は――――サキだ。


「私これがいい!『みんなで奏でる友情のメロディー』!このテーマに沿って、ザンヤ先輩が舞台でピアノを弾くところとか見てみたい!」


そう言ってホワイトボードに磁石でその紙を貼るサキ。

スローガンなんて正直なんでもいいが・・・何故『みんなで奏でる』なのにザンヤ先輩限定なのか、それはもう『友情のメロディー』じゃなくてお前の自己満足なんじゃないかと・・・。


しかし、ザンヤの囲いは満更でもないようで・・・各々が自分好みのザンヤの姿を想像し、「いいじゃん!」「それにしよう!」と勝手に可決していく。

そして、反感を買いたくない男たちはだんまりを決め込み、誰も反対しようとしない。


――――まあ帰れるならいいか・・・


こうして、文化祭という名義のザンヤ祭が誕生してしまったのだった――――

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