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旅はまだ始まったばかり

ポンチョを身にまとい、男はポケットからスマホを出す。

スマホは何度もビーという音を鳴らし、目的地に着いたと教えてくれている。

スマホの画面を見ると『移動』という、ボタンのような形をしたものが画面に表示されている。


――――フロワの遺体・・・あの場所に残してきてしまったが・・・


少し申し訳なさのようなものが残りながらも、仕方がないと割り切り、次の世界へ向かう準備をする。

――――思えば、いろいろなことがあった。

たった二日だ。しかし、その内容はとても濃いものとなったはずだ。

たった一日で信頼できる仲間ができた。そして、たった一日でその仲間を失った。

たった一日で勇者にあった。そして、たった一日で勇者を倒した。

そして――――


ポンチョの中に着ている服を見て、思う。

たった一日で――――どれだけ助けてもらえたか。


イシュタルを頭に思い浮かべて、決心する。

『もうここには帰って来るな。どうか辛いことがないように――――』


「・・・よし、行くか」


スマホに表示されている移動のボタンを押すと、瞬間的にラブの体は光で包まれる。その光に身を任せるようにゆっくりとラブは目をつむる――――


***


風を体で受ける感覚。手も足も力を抜いて、まるで水中にいる気分に――――


「・・・待てよ?」


目を開けると、そこは空中だった。

ラブの体は自由落下を始め、地面に向かって落ちていく。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!またかよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


地面とぶつかる直前――――体はふわりと浮き上がり、ゆっくりと地面に落ちる。


「・・・これ毎回はきついが・・・」


ピロンとスマホの通知音がなり、ポケットから出して確認すると、そこには次の目標が書いてあった。


・・・本当に、人使いの粗いやつ・・・


内心で愚痴りながら、ポケットにスマホを戻す。

「はぁ~~~」と、長いため息をつきながら目をつむって寝ころんだままでいると――――


「ラブさん、大丈夫ですか?」


上から自分のことをラブと呼ぶ声が聞こえ、驚き目を開けると――――

そこには、見おぼえのある姿――――しかし、確かに死んだはずのフロワの姿が――――


「・・・なんで・・・ここに・・・?」


「・・・生き返っちゃいました!」


フロワはニッと笑って自分に向かってピースをする。

『生き返った』・・・?何を言っているんだ。

ふと疑問が浮かぶもハッとして理解する。


「・・・まさか」


「そのまさかです。神様に会って色々聞いてきましたよ、勇者のこととかこの世界のこととか・・・ラブさんのこととか」


「・・・そうか、じゃあ聞いてきたんだな。俺が()()()()だってこと」


「まあ、ラブさんにとっては私のほうが異世界人ですけどね」


自分のことを聞いたというところに、どこか照れくさいものを感じながらも、やはり疑問がひとつ生じる。


「・・・でも、なんでお前がここにいるんだ?ここはお前の世界じゃないはずだが」


「・・・私、『生き返らせてほしい』って願ったんじゃないんです。『ラブさんと旅がしたい』って願ったんですよ」


フロワは顔の前で指を組み、恥ずかしがりながらそう言う。

しかし、わざわざこんな旅をしなくても――――


「ラブさんと一緒がいいんです!あなたと旅がしたいんです!だから・・・連れて行ってくれますか?」


「――――」


自分と旅がしたい。

なんでも願いが叶う中でそれを選んだのか――――

ラブはニッと笑うと、『連れて行ってくれるか?』という問いに答える。


「当たり前だ!一生かけても付いて来い!」


当然――――YESに決まっている。

そこまでした少女に――――自分に付いていくといった少女に――――自分がNOと答える権限なんてない。


「――――はい!」


少女は驚いた顔をしながらも、笑顔で嬉しさを表しながら――――


「・・・そういえば」


ふとフロワが何かを思い出したようにこちらに尋ねる。


「元から術式なしで魔法が使えるのは分かるんですが、何故成功すると思っていたんですか?術式ありならわかりますが、あんな繊細なドームなんて作れたのは奇跡に近いですよ」


「・・・いや、絶対作れたさ」


――――そう、フロワの話したことが本当ならば作れて当然のはずなのだ。


「フロワは、兄に魔法とか教わってたんだろ?なら、その時に学んだのは術式なしでの魔法だったはずだ」


「・・・でも洗脳で記憶改変されているなら意味ないんじゃ?」


「いや、だから実験したんだよ。術式なしで魔法を使わせたろ?」


フロワは宿での作戦会議のときにやらされたのを思い出してうなづく。


「あれは、無意識に術式なしでの魔法の使い方を覚えていたからだ。そうじゃなかったらあの時、魔法を使えなかったはずだからな」


人間の脳は優秀だ。なかにも、小脳というのは無意識の部分を記憶する。

簡単に言えば、自転車を一回乗れてしまうといつでも乗れるあの現象だ。


「無意識に魔法が使えるなら、今まで覚えてきたことも無意識で覚えているはずだからな、あの時点ですべて解決してたんだよ」


ただ――――柊の仲間が敵対するところは考えていなかったがな――――

自分の爪の甘さによりフロワを死なせてしまったことを悔やみ申し訳なさを感じていると


「なに落ち込んでるんですか!次のことを考えましょ!私はいるんですから!」


それを察したらしく、フロワはこちらを励ましてくれる。

「死んでもここにいるならいいじゃないか」と――――


――――死なせたことで落ち込んでるのに、死んだ奴から励まされることほど気分が晴れるものはないな。


思わずその可笑しさに吹いて笑ってしまう。しかし――――それが安心する。


「そうだな、いこう!次に!」


「はい!」


次の相手――――この世界(ゲーム)を壊すようなチーターを倒しに――――

これにて一章は完結となります。

二章目もすぐに投稿する予定なのでお楽しみに!

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