本物の盗賊
「へあっ!はぁ!」
70階層目――――今までの階層とは違い、魔物も一段と強くなっているこの場所・・・・だが、その男は物怖じせず、剣を振り回し、魔物をなぎ倒していく。
「あいつが桃木 明日香か、スマホにも報告が来ているし、現最強で間違いないな」
「男の人だったんですね・・・・名前から女の人だと思ってましたよ」
「ゲームで偽名を使う方は結構いますわ、あの人もそうなのかもしれませんわ」
岩陰から顔を出しながら、バレないように小声で会話をする。
フロワはすこし驚きながら、マリーは冷静に分析しながら、各々別の反応をしながらその男――――アスカを見る。
「それにしても凄い腕ですわ、確実に魔物の急所を刺し、一撃の仕留めていっている・・・・ポイントの数値も、この腕なら納得ですわ」
「そうだな・・・・魔物の攻撃パターンから武器の射程距離と能力、全てを把握したうえでそれに瞬時に対応できるだけの判断力・・・・戦うことになるなら、かなり厳しくなりそうだ」
ジッと見るこちらにも気づかず、アスカは魔物を切り続ける。
しかし、大量にいた魔物はどこか・・・・すでに残り2体になっていた。
「・・・・って、あの武器――――!ショウの武器じゃありません?!」
マリーはアスカの手に持つ武器を指さし、そう言う。
確かに、あの武器は自分の使っている武器と全く同じだ。それも、剣士専用の超レア武器――――手に入れるにも、かなり困難した覚えのある武器だ。
「・・・・あいつも手に入れていた・・・・って可能性もあるが、データを盗られたってのも無くはないな。だがどうやって・・・・?能力か?」
「・・・・!移動するみたいですね、私たちも動きますか?」
どうやらアスカは魔物を完璧に狩り終えたらしく、武器をしまって動き始める。
「そうだな・・・・どうせなら能力も確認しておきたい、焦らずゆっくりと後を付けよう」
そう言って、移動するために腰を上げると――――、
「ねぇ、何してんの?」
「!?」
後ろから、気配も感じずに声をかけられる。
少し低めの、まるで舐めるような癖のある声。
聞き覚えのある声だ。何度も聞いた、幼少期の時に――――、
「ミロ・・・・?」
ゆっくりと、恐る恐る後ろを振り向く。
そこに立っていたのは、青い髪色をした背丈の高い男――――、
「やあ、ショウ――――久しぶりだね」
「な、なんでお前がここにいる・・・・?!」
――――聞き間違いじゃない
そう理解した瞬間に、息を呑む。呼吸が一瞬止まる。
驚きと動揺で脈が早くなっているのが分かる。
「お前だなんて、随分汚い言葉を使うようになったじゃないか。誰の影響だい?やっぱり――あの女のせいかな?」
「うるせぇよ・・・・」
――――挑発に呑まれるな、冷静になれ。感情的になったら負けだ。
だが――――何故だ?何故ここにミロがいる・・・・?
「ラ、ラブさん・・・・この人は?」
恐る恐る耳うちで聞くフロワに目線を向けると、目が合い、若干落ち着きを取り戻す。
一拍間を置いた後、マリーの方を向く――――マリーは、武器を持っている腕を反対の手で握って、歯を噛み締めていた。
「・・・・宇津々 味呂、俺の世界での知り合いだよ・・・・」
「知り合い?酷いな、昔はミロお兄ちゃんって言ってなついていたのに・・・・やっぱり反抗期に入った子供はダメだな、思考能力は低下し、自分の好きな物しか目に入らなくなる・・・・なにより、可愛くない。だから嫌いだ」
「・・・・お前のおかげで反抗期なんて言えるものはなかったよ、反抗する隙すら与えなかったくせに」
「可愛くないな、ショウ・・・・やはりお前は毒されているんだよ、あの女にさ」
そう言いながら、ミロ兄は前髪をねじねじといじり始める。
そして、何かを思い出したかのようにチッと舌打ちをすると、近くにあった小石を蹴飛ばす。
「・・・・っ!とにかく、お二方に何があったかは知りませんが、今は険悪なムードにしている暇はありません!ミロさんには申し訳ありませんが、お話なら後にしてもらえますか?」
そう言ったのはフロワ、フロワは俺とミロの間に入ると、腕を横に振りはらいそう言う。
ミロはそんなフロワを見ると、驚いたような顔をしてニヤリと笑った。
「!・・・・へぇ、君も君で久しぶりじゃないか・・・・それにしても、挨拶もなしだなんて・・・・やっぱり可愛くないなぁ君は」
「・・・・?何を言っているんですか?あなたは」
「?・・・・忘れているのか?いや、そんなはずもない・・・・というか、君はそもそも――――」
ミロがフロワに指を指し、何かを言いかけたところで、それを防ぐように再びフロワの前に立つ。
「ミロ――――とりあえず俺たちは急いでいるんだ。フロワの言う通り、話は後にしてもらえるか?」
「フロワ・・・・?・・・・そうか、その子はフロワと言うのか・・・・フフッ、面白いじゃないか・・・・その子が今の――――君の御世話役、ということだ」
「・・・・・・」
お互いに黙りながら――――ジッと睨みつけ合う。
不思議な時間が流れるのを感じながら、しばらくすると――――、
「あ、ミロさん!やっと見つけましたよ・・・・早く行きましょ?」
「!?」
後ろからそう呼びかける声が聞こえ、バッと後ろを振り向く。
そこには、剣を背中にかけ、右手を上げながらこちらに駆けてくる現最強――――桃木 明日香の姿が見えた。
「ミロさんはすぐどこかへ行くんですから――――って、あれ?この方々は?」
アスカは俺たちの前で止まると、不思議そうな顔でミロを見る。
「やあアスカくん、わざわざ僕を探してくれるのはありがたいんだけど・・・・ちょっとKYだ、空気が読めていない」
「す、すいません・・・・俺、またなんかやっちゃったみたいで・・・・」
「いや、いいさ・・・・こんな険悪なムードを壊せるのも、君みたいなKYの特権だ。誇って良いよ」
そう言いながら、ミロはスタスタとアスカのほうへと歩き始め、そのまま奥へと通り過ぎる。
アスカはそんなミロに、「よく分かりませんが、ありがとうございます・・・・」と、ぺこぺこと頭を下げながら後に続き――――、
マリーは近づくミロを避けるように横へ飛ぶと、チラリと横目でこちらを見る。
「・・・・おい、どこへ行くんだよ」
去っていくミロを呼び止めると、ミロは立ち止まってこちらを見る。
「どこって・・・・攻略だよ、この階層のボスを倒しに行くんだ」
「ボスの攻略・・・・?そいつの、アスカのプレイスキルなら90階層目のボスだって倒せるだろ、わざわざそんなこと――――」
「おいおいショウ、君はいつからバカになってしまったんだ?たかが90階層目のボスを倒せたぐらいで満足するなよ――――俺は今育成をしているんだ、このゲームの絶対王者となる人物をね・・・・」
そういうと、ミロはアスカの方を見てニコリと笑みを浮かべる。
アスカは話が理解できていないようで、頭の上に疑問符を浮かべていた。
「君も、仲間の育成はちゃんとすることだよ・・・・手遅れにならないうちにね」
ミロは捨て台詞にそういうと、また歩き始める。
そのまま後を続くアスカと共に、ミロたちの姿は徐々に暗闇の中に溶け込んで見えなくなっていった。
「・・・・・・」
「・・・・ショウ・・・・」
「・・・・一旦、帰るぞ」
心細そうに自分の名前を呟くマリーに答え、ミロたちの過ぎ去っていった方向とは真逆の方向に歩く。
「ちょ、ちょっと!」
フロワの呼ぶ声も無視をして、そのまま歩き続ける。
その二人の行方を、マリーはジッと見つめて・・・・ただ落ち着きを取り戻すだけに、自分の片腕を握りしめていた。