本物の盗賊
ジメジメとした湿り気のある空間――――その空間は、先が見えないほど続き、そして暗かった。
しかし、そんな空間――――道ともいえるその場所には、赤く目を光らせた生物が住んでいる。
蝙蝠のような形をした生物、犬のような狼のような生物、形容しがたい――――スライムのような生物。
そんな生物の巣食う道を、颯爽と駆け抜ける――――。
「マリーさん!そっちにモンスター漏らしました!」
銀の髪をなびかせながら――――フロワは後ろに向かってそう叫ぶ。
気づけば、その横を大きな獣が横切っている。
獣は一直線に、金髪の少女・・・・マリーの元へと駆ける――――!
「分かりましたわ!≪火球≫!」
マリーが銃を向け、そう唱えると――――その先から、まるで弾丸のように火の玉が射出される。
それは駆けてくる獣の鼻先に当たると、風船玉のようにはじけ、飛び散る。
「ぎゃぉおん!」
叫ぶ獣の声は、この空間の壁という壁に反射して、鋭く鼓膜に突き刺さる。
その最期の声ともいえる叫びが終わらぬうちに、その獣に手のひらをかざすと――――、
「≪奪取≫!」
そう叫ぶ。
手のひらは青白く光り始め、一つの球体のような形になる。
それを掴み取るように握りしめると、そこには牙のようなものが手の中にあった。
それを腰に付けた布巾着に入れると、≪『猛狂獣の牙』を入手しました≫と、左端にログが表示される。
「ふぅ・・・・これで何階層目でしたっけ?」
「確か、68ですわ!70階層まであとちょっとですわ!」
「じゃあ、あとちょっとですね!」
前を向くと、そんな会話をしている少女――――フロワとマリー。
俺たちは今、現最強を確認するために、ダンジョンを上っている最中だ。
「そういえば!ラブさん!そっちの調子はどうですか?」
「おう、順調に集まってるぞ。とりあえず、宿に3日は泊まれそうだ」
「おぉ!なかなかいいですね!」
先頭にいたフロワがこちらに振り向き、集めた素材を確認する。
ダンジョンは10階層ごとにワープできる中間地点があり、俺たちは50階層から上ってきた。
ここまでに来る間の18層、モンスターを倒し続けたおかげで経験値も素材も充実している。今の素材の量ならば、全部売ったとして、宿を一晩と良い装備を全員分買うぐらいの金額はあるだろう。
「私もレベルが上がって、使える技も増えてきましたし、そろそろ1人で戦える頃合いですかね」
「油断するなよ、お前のレベルじゃまだまだ40階層あたりが限界だ。下手にこの世界で死んだら、リスポーンできないかもしれないんだからな?」
「わ、分かってますよ・・・・ていうか、なんで私のレベルがわかるんですか」
「使ってる技を見れば、どこまでレベルが上がったのかぐらいは分かる」
「・・・・なんか気持ち悪いですね」
「酷い言い草だな!」
サラリと毒を吐くフロワにツッコミをいれながら、自分のレベルも確認しておく。
――――さすが盗賊、やはりレベルの上りが早い。
「・・・・あと、二人とも。ここからはできるだけ名前を呼ばないようにな、今まで出会った人間はNPCだけだったからよかったが、70階層からはこの世界の現最強がいる。異世界人だと思われたら終わりだからな」
「はい!ですわ!」
「分かりました!」
二人の了解した顔をしっかりと確認し、次の階層への階段を見る。
その階段は異様な雰囲気を出しながら、無言の圧をこちらにかけてきていた。