オーダー・プロフェッション
――――あぁ、彼か・・・・彼はまぁ・・・・ダメだったよ。
そう言ったあいつは――――いつも冷静で、平然で・・・・そして格好良かった。
あいつは――俺の人生の橋のようなものだった。
あいつがいなければ俺という人生はなかったかもしれない――まあ、関係ないかもしれないがな。
――――思えば、結局・・・・あいつには勝てなかったな。
あいつは俺を助けることがなかった。
逆に、俺もあいつを助けることはなかった。
――――というか、助ける必要がないほど、あいつは完璧だったんだ。
だからこそそんな人生に憧れ、そんな人間性に憧れ、そんなあいつに憧れたんだ。
――――さて、あいつの名前・・・・なんて言ったかな。
◇◇◇
「だからな?俺はあの後、そのザンヤってやつに刺されてだな・・・・」
座りながら聞く金髪の少女――――マリーに、自分たちの今までの経緯を教える。
しかし、マリーは返事をするものの、その意識は別のところ――――フロワの方へと、ずっと視線を向けていた。
「・・・・マリー、さっきも言ったが・・・・あれは雪ではない。似た別人だ、いいな?」
「分かってますわ!あれは似た別人・・・・でも姿は雪さんですわ!」
そう言うと、マリーは飛びつくようにフロワを抱きしめる。
「ちょ、ちょっと!や、やめてください・・・・!」
「会いたかったですわ!雪さん!また三人でゲームでもしますわ!」
「だからな・・・・いや、もうこれ以上言ってもダメか・・・・」
「ちょっとラブさん!諦めないで下さいよ!」
一心不乱にフロワに夢中なマリーを止めることはできず・・・・。
苦悶な表情をしながら耐えるフロワを、眺めることしかできなかった。
◇◇◇
「・・・・とりあえず、今はこの世界がどんな世界かを確かめる必要がある。だから、まずは規則を犯さないためにも、俺たちの名前は口に出さないようにしよう。異世界人だとバレる可能性があるからな」
「はい!分かりました!」
「・・・・それにしても、この世界・・・・どこかで見たことがありますわ」
マリーは、ざっと周りを見渡してそういう。
「・・・・奇遇だな、俺も見たことがある」
その視界に映るのは、削られた岩、根元が見えない木、そして天空から流れ落ちる滝だ。
所々、物理法則に反しているこの世界だが、特徴的なのは――――、
「この地面から天に向かって飛んでいく、まるで宝石のようなデザインの石――――いや、グラフィックと言ったらいいか・・・・こんなものがあるゲーム、どっかで見たよな?」
「えぇ・・・・間違いなく、この世界はオーダー・プロフェッションの世界ですわ」
「おーだー、ぷろふぇっしょん?なんですかそれ?」
「オーダー・プロフェッション、日本で初めて開発されたVRMMORPGゲームだ。ま、簡単に言えば、まるで現実世界のように遊ぶことが出来るゲームってことだな。ただし、死んでもOK殺してもOKのとんでも世界だがな」
「・・・・それだけ聞くと・・・・何か危険な感じしかしないんですが・・・・」
「いや、実際は超安全なゲームだ。プレイヤー同士の承認がない限り殺し合いはできないし、さらにプレイ中は脈拍とかも全部図ってくれていて、一定の基準を満たすと自動的にゲームは終了する。だから精神的にも大丈夫だし、これによる事故は起こっていない――――ただ、俺たちの場合は、そうもいかないかもしれないがな・・・・」
「今このオーダー・プロフェッションの世界で遊んでいるプレイヤーは安全かもしれない・・・・けど、私たちのような、ゲーム自体に入り込んでしまったプレイヤーは、ゲームを終えることができない・・・・死んだら、本当のゲームオーバーかもしれませんわ」
そう付け加えるように説明するマリーは、「でも――」と、後に続けて――――、
「安心しますわ!ここには最強のゲーマー、ショウがいますわ!」
「だからマリー、なるべく名前は口に出さないように・・・・って、俺も言ってるか・・・・」
注意をするつもりが、思い切り特大ブーメランを投げてしまった自分を恥じながら・・・・それでもと、マリーに注意をする。
「ショウ・・・・って、ラブさんのことですよね?そんなに強いんですか?」
「そりゃあもう!何と言ってもショウは――――」
まるで自分のことのように自慢をするマリー、その熱にフロワは「あはは」と言いながら引いていて・・・・。
「・・・・ま、この世界がそのオーダー・プロフェッションのゲームの世界だと決まったわけでもないしな。とりあえず宿でも探しに行くか・・・・状況を整理したいところでもあるし・・・・」
「そうですね!そうしましょう!じゃあ私は先に行ってますよ!」
「あ、ちょっと――――」
マリーから逃げたいのか、フロワは率先して自分から先頭へと行き、歩き始める。
途中で逃げられたマリーは、しくしくと悲しみながらこちらへと寄り添って・・・・、
「私、雪さんに嫌われていますわ・・・・」
「そんなことはないと思うが・・・・それに、あいつは雪じゃなくてフロワだ。少し落ち着いたらどうだ?」
「そうですわね・・・・でも――――本当に、似てますわ・・・・」
「・・・・そうだな」
先頭を歩くフロワを見ながら、お互いに雪を思い出す。
背丈、顔、感情の起伏――――フロワは、所々雪に似ている。
それも、まるで同一人物かのように。
「・・・・それより、お前はいいのか?あの森のやつらのことは――――」
「・・・・大丈夫ですわ、きっと――あの子たちは、私がいなくてもやっていけるはずですわ。それに――今はショウたちとの久々の出会いに、嬉しい気持ちでいっぱいですわ!」
いつもの笑顔で、それは文化祭の日のあの頃とも変わらない笑顔で――――マリーは、本当にうれしそうにそういう。
「・・・・そうか・・・・じゃ、今は盛大に楽しまなくちゃな」
「・・・・はい!ですわ!」
マリーは元気に返事をすると、ニコニコとした表情をこちらへ向ける。
「二人とも!早くしないと置いていきますよ!」
「おっと、フロワさんがお怒りだ、ほら行くぞ」
「行きますわ!」
急かすフロワに、二人は駆け足で近づく。
ここが本当にオーダー・プロフェッションの世界なら、宿はここを真っすぐ行った町の中――――さて、どうなることか・・・・。