なう・ろーでぃんぐ
「それでですねぇ~?なんかぁ、私の体が急に熱くなってぇ」
「おう・・・・」
「それでぇ、なんか頭の中も真っ白になっちゃってですねぇ?」
「・・・・おう」
「なんだろうこれぇ、とても気持ちいいなぁって思ってたらぁ・・・・私、死んでたみたいなんですよぉ!」
「そうだな・・・・で、その話――――何回するんだ?」
ハルの話を聞きながら、再び長い階段を下りていく。
現最強もなんだかんだ倒し――――いや、正確には殺されたわけだが・・・・まぁ、それは置いておくとして。
そんなわけで、今はフロワと合流するべく、長い階段を下り帰る途中だ。
「これがですねぇ、起きたら主様まで死んじゃっててぇ・・・・」
「だからその話は聞いたし、俺はその場にいたから知ってるよ!それに、その主様が死んだのはお前が一度死ぬまえだ」
「あれぇ?そうでしたっけぇ・・・・」
ハルは斜め左を見ながら、思い出すような素振りをする。
しかし、やはり納得はいかないらしく、「それでですねぇ」と、また話を始める気だ。
「・・・・つか、主様が死んだのにあっさりしてるな、一応お前らの王だろ?」
「そうですねぇ・・・・けど、私は神とかそういうの信じない性格なのでぇ」
「神?今は宗教の話なんてしてないぞ」
「あれぇ?ラブさんは読んでたじゃないですかぁ・・・・ほら、あの本。あれって主様の本ですよぉ」
「本?」
ハルの言う通り、俺は確かに檻の中で本を読んでいた。
それはここの世界の言語を理解するためだ、そのためにフロワに本を持ってきてもらっていたし、暇さえあればずっと解読に専念していた。
フロワは毎日本を持ってきてくれていたため、大量に読んでいたが、内容はほとんど――――、
「・・・・神話とか宗教とかの・・・・」
「そうそう、それですよぉ!」
どうやら本の内容が当たっていたらしく、ハルは目を輝かせて人差し指をこちらに向ける。
思えば、絵本などの内容――――ところどころ改変されてはいるものの、確かに似ている。現最強から見せられた記憶に。
「・・・・なるほどな、不老不死であるあいつを神として崇めてるってわけか・・・・あいつのやったことを見ていたやつが、それを神話とし、伝承している。それも、絵本とかにして子供にまで分かりやすいように・・・・」
「そうなんですよぉ!と、いうわけで・・・・私は神とか信じない性格なので、主様が殺されようと関係ないのですよぉ」
「・・・・いや、まあ確かにあいつは神ではないが・・・・それでも同族が死んでんだからもうちょっと動揺しても・・・・」
――――いや、それは自分が言えたことではないか・・・・今はエルフになったとはいえ、もともと人間であるあいつの死んだところをみても、なんの動揺もしなかったんだから――――。
・・・・それに、ヒイラギの時もそうだ。あいつ倒すのに、一切の躊躇もなく剣を突き刺した・・・・まったく、ハルのことを言えたものではない。
「・・・・そろそろ下に到着するな」
気づけば、もう下に続く階段は終わりに差し掛かっていた。
完全に下りきる前に歩みを止め、ハルの方向へと向く。
「ハル、そろそろ他のエルフどもが起きている頃合いだと思うんだが・・・・混乱を招きたくない、俺がお前と一緒にいることを知られる前に、どうにかフロワと合流して外へ――――」
「いや、その必要はない」
「!?」
ハルに説明をしていると、突如後ろから声がする。
どこかで聞いた声だ、それはとても印象深い声だ。
何しろそいつは――――自分のことを殴りつけた相手だからだ。
「・・・・リン!」
「やぁ囚人、久々だな」
リンは壁に体をもたれかけて、腕を組みながら目線だけをこちらに向ける。
それにしても落ち着いている。普通ならば、こんな状況を見て真っ先に襲い掛かってきそうなものだが――――、
「・・・・囚人、貴様・・・・今とても失礼なことを考えていないか?」
「・・・・まあ、襲い掛かってこないのか程度には」
「・・・・そうか、まあそう思われても仕方あるまい」
やはりいつもより落ち着いた様子で、リンはさらりと言葉を受け流す。
「安心しろ、事情は全て――――妹から聞いた」
「・・・・ども」
リンの横から、ひょっこりと顔を出して照れくさそうにしているその少女――――。
「ルリ・・・・!」
「・・・・えっと、その・・・・妹の世話をいくつかしてくれたそうではないか・・・・その・・・・お前の仲間が・・・・そう!お前の仲間がだ」
リンは少し照れくさそうに・・・・しかし申し訳なさそうに、言葉を探しながら話す。
「・・・・その、感謝・・・・している。こうして妹とちゃんと話すのも久々でな・・・・お前たちが合わせてくれなければ、一生このままだったのかもしれない・・・・ずっと、喧嘩したままで、寂しく・・・・」
「・・・・礼は本人に言ってくれよ、フロワっていうんだ・・・・お前らの言葉は通じないが・・・・まあ通訳ぐらいならしてやるからよ」
「そうか・・・・ではそうするとしよう」
「・・・・ま、こっちも迷惑はかけたしな・・・・知らなかったとはいえ、仲間があんたを殺しかけた・・・・その点に関しては謝りたいと思う。すまない」
「いや、それこそ感謝するべきだ。それで姉妹の愛を思い出したのだからな、一度死にかけて・・・・逆に良かったのだ」
――――文字通り、リンは頭を冷やしたらしく、妹との関係は完全とは言えなくとも、修復したみたいだ。
「・・・・それで、「必要はない」ってどういうことだ?」
「あぁ、そのことなんだが・・・・ルリから話を聞いてな、お前らのことを手助けしてほしいっていうものだから・・・・妹の久々の頼みだ、聞かないわけにもいくまい。あの者たちには事情を説明して、各々の持ち場に戻ってもらったよ・・・・まあ、元から負けたら持ち場に戻るように言われていたようだ、すんなり聞いてくれた」
「・・・・なるほどな、じゃあすんなりと下には行けるわけだ・・・・じゃ、あとはフロワの回収だな」
「あぁ、それと――――主様は上か?あの方にも事情を説明しようかと思っているのだが――――」
「・・・・そのことなんだが」
言葉に詰まる。
どう説明すればよいだろうか、あまり刺激を与えないように、それでいて反感は買わないように。
嘘を混ぜてもいい、しかしハルには気づかれない程度に・・・・何か言われたら面倒だ。
リンは、不思議そうな顔をしてこちらの顔を覗き込んでいる。
「・・・・あのな、お前らの主様は――――」