欠落した過程 9
「・・・・さて、僕の名前・・・・しっかり覚えてくれたかな?』
ゆっくりと上げた手を下ろし、そう言うのはメモル――――、
「嫌でも・・・・覚えたくなるな・・・・」
その男に、そう返すラブ――――、
こいつ・・・・一体何をしているんだ?瞬きをする間もなくこんなことをして、さらに不老不死である現最強を殺して――――訳がわからない・・・・それ以前に、こいつの目的すらも分からない。
「そんなに考えすぎるなよ、仕方がない。これは理解できないことなんだ。妥協して――――諦めようぜ?』
「・・・・仕方がない・・・・ねぇ・・・・」
――――またこの言葉か・・・・まったく、どいつもこいつも「仕方がない」と、「しょうがない」とあきらめて・・・・
仕方がないなんて言うのは自分から逃げているだけだ、「仕方がない」そういうことにしておけば自分が楽だから・・・・「仕方がない」と言えば、自分が罪を背負わずに済むから――――そんなものは、過去に自分のやったことを無視しているのと同じだ。
世の中は必然的にできている。自分が過去に何かをしたから、それが繋がりに繋がって今に至るわけだ。
そして、過去に自分が何かをしたからこそ、今に後悔して「仕方がない」なんて言葉を使うのだ。どうしようもなかったと、しょうがなかったと・・・・過去に別のことをしていれば、必ず避けられたにも関わらずだ。
つまり――――仕方がないなんて言葉は、自分の非を認めたくないやつの言い訳でしかない。
こんなことを言えば必ず否定をされるだろう。逆上する者も出るだろう。
だがそれでも、自分はそう思っている。だから――――、
「「仕方がない」なんて言葉はクソくらえだ――――」
「・・・・あぁ、君なら――――そういうと思ったよ、けど・・・・これに至っては本当に仕方がないんだ、だからさ、ほら、妥協して――――妥協したことすらも気づかないほど妥協して・・・・大人になろうぜ?』
メモルは「はぁ・・・・」とため息をついてそう言う。
「妥協すれば楽になれるぜ?地位、生活、環境、貯金、容姿、性格、家族、友人、時代・・・・全部、仕方がないことと決めつけてしまえば楽になれる・・・・だって、僕たちはそうでしか在ることが出来ないんだから、これは仕方がないことなんだ、郷に入っては郷に従えっていうだろう?周りを変えようとするなよ――自分が、変わるんだよ。それが、大人になるということだ』
「・・・・はっ、そんなものが大人だって言うのなら――――俺は、子供のままで十分だ」
そう言ってメモルの方を睨みつける・・・・しかし、そんな目線を逸らすことなく、真っ向から真摯に受け止めようと目を合わせるメモルに、やはり何か気迫のようなものを感じて――――、
「あのぉ・・・・」
恐る恐ると手を上げ、もじもじと口を開くのは、ずっと2人の会話を静かに聞いていたハル――――。
「とりあえずぅ・・・・何が起こっているのか説明を――――」
「・・・・お前、こんなところにいたのか』
ハルの言葉を遮り、メモルはボソリとそういう。
その言葉に、ハルは「ふぇ?」と、間抜けな声を出して――――、
「・・・・ガッハ!ゲェホ・・・・!ガ・・・・!」
「!?」
突如、ハルの顔から血の気の色がなくなっていく。
ハルは喉元を抑え、とても苦しそうに咳き込みながら、舌を出して膝から崩れ落ちていく。
「うーん・・・・やっぱりダメっぽいな、まあいっか。じゃ――――さっさと死んでくれ』
――――パタリと、ハルは床にうつぶせになる。
舌を出しながら、だらしなく床にうつぶせになるハルの姿は・・・・ハッキリ言って、死体にしか見えなかった。
・・・・いや、おそらくこれは・・・・死んでいるのだろう。
「お前・・・・何を・・・・」
「だから言ってるだろう?事実だけが残る――――その子が死んだという事実だけを残した』
――――意味が分からない。
――――意図が読めない。
・・・・そもそも、こいつに心と呼べるものがあるのか――――それほど、心理が読めない。
「・・・・ま、こいつがここに居たのは驚きだったな・・・・どおりで見えにくいわけだ、いやぁでも意味はなかったな』
「・・・・何が目的なんだ?」
「・・・・目的ねぇ・・・・主人公の育成?』
「・・・・意味が分からない・・・・」
「仕方がないね』
――――ダメだ、これ以上こいつとは会話をしたくない。
別にハルが殺されたことに腹が立っているわけではない。仕方がないと言われて嫌悪感を抱いたわけではない。ただ――――、
・・・・何を考えているのか分からない。だからこそ、気持ち悪い。こんなのは初めてだ。
人が何を考えているのが分からないだけで――――こんなにも怖いものなのか。
「・・・・さて、いい感じに僕の印象も残せたことだろう。そろそろ僕も――――お暇させてもらおうかな』
「!・・・・まて、まだ聞きたいことが――――」
「ごめんごめん、でも時間だから――――ま、おまけはしといてあげるからさ』
そう言うと、メモルはギュッと手を握って――――、
「じゃ――――また』
――――そのまま、メモルは光に包まれ・・・・その場から、姿が無くなっていた。
「・・・・ん?あれぇ?・・・・私、何をしていたんでしょうかぁ」
「・・・・ハル・・・・」
むくりとハルが起き上がり、周りをキョロキョロと見渡して状況を把握しようとしている。
――――ハルは生きていた・・・・?いやしかし・・・・あれはどこからどうみても――――いや、それよりも今は・・・・、
ポケットからスマホを取り出し、通知を確認する。
――――やはり、現最強の死亡通知・・・・次の世界にも行ける・・・・ということは、本当に死んだのか・・・・。
スマホをポケットにしまい、ハルの方をもう一度見る。
ハルは「どうしてこんなに部屋が汚れているんですかぁ?!」と、自分の主が死んだことにすら気づいていない様子だ。
・・・・メモルか・・・・。
頭の中でメモルの言葉が何度も繰り返し再生される。
「僕と君との出会いは劇的でなきゃあいけないんだ』
・・・・という事は、最初から俺に会いに来る予定だったってことか・・・・ますます分からない。
「じゃ――――また』
・・・・「また」か、確かに――――あいつとはもう一度会う気がする。
何故だかは分からないし、根拠なしにそう考えてしまうのは自分らしくない。だが――――、
どうしても、そう思わずにはいられない。