欠落した過程 8
――――?!なんだ?いきなり何かが降ってきて・・・・槍?それより現最強は――――
「僕と君との出会いは劇的でなきゃあいけないんだ』
「!?」
「仕方がない、こうして伏線でも作っておかなければ・・・・あいつらは満足しないもんでね』
「・・・・な・・・・なんなんだお前は・・・・?!」
いつからそこにいたのか、現最強に突き刺さっている槍の上に座り、唐突にそう話始める男――――
「なんなんだとはなんなんだ、それぐらい異世界チーレムものの主人公なら理解しておくれよ・・・・困ってしまうだろう?』
「困る・・・・?困ってんのはこっちだよ、どうやってここに来て、どうやってそいつを――――現最強を殺した!?」
――――現最強の死、それはポケットに入れておいたスマホの通知から明らかだった。
異世界人だとバレないように音は切ってある・・・・しかし振動から、通知時に来るその震えとタイミングから、現最強の死を告げるための通知だということは明らかだった。
だからこそ、意味が分からない。
――――不老不死であるはずの現最強を、たかが槍を突き刺した程度で殺せたのかが。
「どうやって、どうして、どうかして・・・・違う。そうじゃない。――――「事実」だけなんだ。過程とか、経緯とか、道筋だとか顛末だとか――――そうじゃあないんだ、「事実」だけが残る。それが僕だ』
「・・・・何をいってるんだ・・・・」
「仕方がない、そのことが君に理解できないのは仕方がないんだ。だって――――僕ですら、どうやって彼女が死んだのか分からないんだから』
そう言って、男は槍の上からヒョイっと飛び降りると――――、
「さて――――【回収】に【破棄】に、【洗脳】に【創造】に・・・・【熟練】そして【飛翔】か・・・・いいじゃあないか、最高だ。丁度良く主人公になっている』
「お前はさっきから何を言っているんだ・・・・!それに――何故、この力のことを知っている・・・・!?」
こちらをまじまじと見つめながら、力のことを・・・・さらに言えば、自分が今まで手に入れてきた能力のことを、一言一句間違えずに話すその男は、明らかに何かを知っていることが分かる。
――――ただ、その何かは分からない。
何故この力のことを知っているのか、そして何故自分の能力をここまで的確に言い当てることができるのかはさっぱりだ。
「だから――――何故、じゃないんだよ・・・・過程なんてないんだ、知っているから知っている。そういうことなんだ、仕方がないんだ』
1+1=2ではなく、1+1=1+1だと言うように。
答えはすでに出ているとでも言うかのように、その男はあっさりと、淡々とした口調でそう言う。
――――ハッキリ言って、気持ちが悪い。
気味が悪い、理解が出来ない。
人をここまで嫌悪するのは久々だ、いや――――初めてともいえる。
どちらにせよ、ここまで嫌悪感を抱くのは・・・・後にも先にも、こいつが最初で最後だ。
「・・・・さっきから「仕方がない」だとか、俺の嫌いな言葉を言ってきて・・・・さらには自分のことは一切明かさないなんて、少しばかり性質が悪いと思うんだが?」
「そうだねぇ・・・・確かに僕のことをまったく明かさないなんていうのは・・・・作品上の都合にも、伏線的な意味合いでも問題がある――――よし、分かった。名前は明かすことにしよう』
男は右腕を天に掲げ、ニヤッと気味悪い笑みを浮かべると――――、
「僕の名前はメモル――――――ちゃあんと、覚えておくれよ?』
――――刹那、部屋中が真っ赤に染められる。
・・・・正確には、赤い文字で部屋中が真っ赤に染まったのだ。
そこには、日本語で『メモル』と――――、乱雑に、丁寧に、繊細に、無茶苦茶に、適当に、様々な書き方で、ビッシリと書かれていた。