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雷と兎と 【改訂版】  作者: 雪沫 コウ
雷と兎とサバイバル?
11/13

雷と兎と 11

 


 シルの元へいくと、風の魔法で濡れた手足を乾かしていた。


「へぇー、便利だな」


  ドライヤーみたい、でも風が冷たいし、微風だし……寒そう。

  どうせなら、もっと風を強く、暖かいものにならないのかな?

  そうだな、全身モフモフなシルには、ドライヤーの吹き出し口をもっと大きくして、風力も強くして少し熱い位の風が出るといいのに。もちろん乾きすぎる前に止まって、最後は少し冷風になってから止まる方が髪にはいいんだっけ。

  でも風魔法だけだと温風は出ないのかな?火魔法を少し混ぜられればいいのに。

  雷魔法も樹魔法も二つの魔法を掛け合わせた派生魔法だから、出来そうなものだけどな。


  たとえば、水気を乾かすための魔法だから、


「乾燥」


  させる魔法とか。



「え?」


「……え?」


  シルの驚いた声に顔を上げると、そのシルの頭上に浮かんでいたのは風の輪だった。想像していたよりも綺麗な乾燥の魔法に、私も驚きの声が出た。


  直径30センチ位の薄い橙色の風の輪が、地面に水平に浮かんで温風を吹き出していた。

  化学実験の空気砲と言えば分かりやすいか?あれに色をつけて可視化できる様にしたものだ。どうやって固定されているのかわからないが、シルの上60センチくらい離れて浮かんでいる。離れていかないのはなんでだろう。

  風は上から下に降りてくるし、シルのいる位置にちょうど良い心地の温風が当たっていた。

  しばし浮かんでいたが、シルの体がふわふわに乾いた途端に乾燥の魔法は消えた。


  完璧だわ!!


「シル、触らせて!ーーーあ、マール、これは魔法の検証だからね」


  思わずモフモフの誘惑にかられて言ってしまったが、横からのマールのジト目に言い訳を捻り出す。

  やっぱり、さっきのモフモフの主張に呆れられたかな?

  再度、念話でも魔法の実験で、結果を確認するためだと主張しておいた。



  ーーこの真っ白いフワフワには逆らえない!


「うーん、柔らかい!モフモフで気持ちいいわ」


  昨日は泉に突き落として放置してしまったが、自分で乾かしたのだろう。今朝は毛皮がペタンコになっていた。この乾燥魔法にはフワフワにさせるための魔法も入っているのか?


  耳も良いわー、短い毛が手に優しい。

  シルが逃れようしているのはわかる。分かるけどお腹のあたりを抱きしめて、もうちょっとだけ。

  首筋を掻いてやると、身震いして抵抗が弱まった。

  頰も柔らかく、グニグニとマッサージして、頭の天辺、耳の間も撫でる。


  うーん、自分の顔がにやけているのはわかるが、止まらない。


『華!ソレ、離せ』


  マールの言葉に我に返り、表情を戻して力を抜くと、シルは力が抜けたのか座り込んでしまった。

  慌てて支えるが、シルはぼんやりしている。


『あれ?撫ですぎた?』


  マールに聞くと、


『途中、魔力、手から出てた』


  魔力?手からパワー?魔力…………もしかしてリラックスさせる成分とか、分泌されてる?



  っは!!これで、マールも気持ちよくさせられる?


『華、また出てる!…………何で、来る?なんか、嫌だ!コッチ、来るな!』


『マールも、ね?』


  逃げられる捕まえなきゃ!と思った時、横にそびえる大樹から長い蔦が伸び、マールをつかまえる。


『ーー凄いわ。想像したら、出来ちゃった』


  樹魔法の使い方、難しい手順などを悩まず、こうしたいと考えただけで使えてしまった。

  両手に纏わせた魔力でマールを抱えると、マールは抵抗を止めた。

  撫でていると気持ちよさそうに目を細め、力が抜けて体を預けてきた。

 

  満足するまでモフモフして、マールが膝に乗って寝った頃、シルが復活した。

 

「何をした?」


  シルは警戒しながら、座った私の側まで来る。私の手が届かない距離を保って。


  何って言われても、欲望に忠実にモフモフしただけなんだけどな。

  ああ、手に魔力を纏わせることができる様にはなったけど?


「 あっ、ギフトが増えてる!」


  また勝手に見たのか。


「〈魔手の力〉って何だ?獣限定って?」



  ギフト〈魔手の力(獣限定)〉


  えーと、ハンドのパワーってことね。もしかして獣類に対して気持ちよく、モフモフマッサージ出来るってことかな?


  なんて素敵なギフトかしら。

  あれ?シルの膝下が土で汚れている。白いから目立つね。


「シルの、膝下が汚れちゃったね。払うからコッチに来て」


「自分で出来る」


「出来るだろうけど、綺麗な白い毛並みを整えたい!」


  つい欲望が口からペロッと。


  俯いたシルは乱暴に毛についた草を払う。


「………………………綺麗、なんかじゃない。俺だけ、こんな変な毛色で……すぐ汚れるし、目立つから嫌なんだ。もっと暗い色なら、狩りも探索も上手くいくはずなのに!」


  急に怒り出したシル。何か、地雷を踏んでしまったか。

  ーーーーでも、私も譲れない。


「綺麗な色なのに、勿体無い。ーー色が白いからといって狩りが上手くできないなんて事は、無いでしょう」


「森の中では目立って隠れきれないんだ!周りは濃い赤や黄色、茶色の体毛なのに、俺だけ、薄い色で……風魔法もそんなに上手く無いし、この色では上手く使える魔法も無いって言われたんだ!」


  瞳の色は青味がかった緑色。少し水色にも見える白い体毛。

  世界樹の記憶では、シルの色は確かにあまり記録にないがーーー


「シルは、氷って知ってる?」


  しばらく話を聞いているとシルの周りは水系統の魔法はあまり使われていない様なのだ。

  東南諸国の挨拶なら知っているって言っていたし、結構南の出身なのか?

  この世界は南に行くほど暑くなり、砂漠が広がっているのだが、そちら出身ならば氷や雪を知らなくてもしょうがないのかな?

  水魔法に適正があれば青色を持っているから、瞳が青緑色のシルなら、水の魔法使えるのではないかな。


「氷?」


  やはり知らないのか。北の方まで世界を移動する職業や、余程勉強好きな人以外知られていないようだ。

 前の世界のテレビのように様々な映像を見ることも出来ないからね。


「水の温度が下がって、凍ると氷。水が固体になった物。熱いものを冷たく冷やしたり出来るもの」


「井戸の水は冷たいが、凍る?氷?見た事ないぞ」


  どう説明すればいいんだ?

  あ、私が魔法で作れないのかな?

  マールを膝に乗せているため動けないので、薪の側に置いた荷物を持って来てもらって、水筒からコップに水を入れる。


  コップの水を、とにかく冷たく氷になれと念じる。


「ーーーーーーダメだ。無理みたい」


  私には氷魔法の適性はなかったようだ。





読んでいただきありがとうございます。

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