2話
あれからどれだけの時が経っただろうか
1日?1週間?1年?
微睡みの底に沈んでいた。
意識が覚醒した。
目からは様々な色がぼんやりとした輪郭と共に。
耳からはがやがやとした雑音と人の声らしきものが
肌は体が横たわっていることを伝えてきた。
だんだんと意識がはっきりとしてきた。
(ここはどこだ?病院に運ばれたのか?)
辺りを見渡すとベッドの回りには一組の男女がいることがわかる。
男は25才頃だろうか。切れ長の目にカイゼル髭、金髪のイケメンが20世紀前半のヨーロッパにおける高位の軍人が切るような軍服に身を包んでいた。
女は20才にもなっていないのではないかという幼く端正な顔に優しげな微笑みを浮かべていた。こちらも金髪ではあったが男よりも少し色が薄く窓から入ってきている光によって優しく金色に輝いていた。
恐ろしく美しかった。
しかし、なにを喋っているのか全く理解できない。
(医者か?……いや、しかしでかすぎる!巨人の国に来たとでもいうのか!)
人々の大きさに驚き、視線があちこちをむくと自らの手が目に入った。
それは赤子の手であった。
(バカな、俺が赤ん坊になったとでもいうのか)
驚きに声が漏れた。
「おぎゃぁ、おぎゃぁぁぁ」
漏れた声は正しく赤ん坊の泣き声であった。
その泣き声を聞くと女は笑顔を深め俺を抱き上げた。
頭を撫でられ背中をさすられた。
さらに女は乳を出し口もとに差し出してきた。
飲めと言うのだろう。
(お腹はへっている。しかし、これを吸ってもいいものか?仮にも成人していたのだぞ。)
吸わずにいると女は不安そうな顔をしている。
飲まなかったことが心配なようだ。
(心配させている。俺は今赤ん坊だ。飲まなければならないのか。南無三!)
そう心のなかで叫び、乳を一心不乱に飲んだ。
お腹が膨らみ乳から口を離すと背中を叩かれた。
ゲフッ
とゲップがでた。
体が満たされると不思議と心も満たされる。
満足感と満腹感に体を任せていると睡魔が押し寄せてきた。
(もし俺が本当に転生したというのならこの体は赤子、まずはしっかりと栄養と睡眠をとるとするか。
幸いにも親は裕福そうだしな)