4 人の悪意は恐ろしいんですって
(とりあえず、あの像のステータスの確認をしておくか。もしかしたら勝てるかもしれないし)
俺はそう考え、目の前の像に向かって真理眼を発動する。
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種族名:ガーディアンゴーレム
名前:ヨトゥン
レベル:64
筋力:10315
体力:12462
魔力:9283
耐性:14121
魔耐:13621
俊敏:4219
魔法:
スキル:自動回復、豪腕、鉄壁
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ステータス的に俺以外勝てないな、これ。魔法を使わないのは救いだが。
「全員慌てるな!幸い相手はそこまで早くない!冷静に対処すれば逃げきれるはずだ!」
お、さすが団長。自分と相手との力量差にちゃんと気づいてるな。
団長の言葉を聞いて、ようやく全員が冷静さを取り戻す。
「魔法職は魔法で牽制しながら逃げろ!リオン、ユリス、アルク、ケリン!生徒たちにあいつがいかないように結界を張るぞ!」
「「「「はい!」」」」
団長に言われ、魔法職はヨトゥンに向かって魔法を打ちながら魔法陣に向かって走る。騎士の人たちは、ヨトゥンが剣を振り上げたところで結界を張って攻撃を防いでいる。
怪我人の傷を治し終わった瑞希や、俺のとなりにいた亮も、俺と一緒に魔法陣に向かって走っていく。
どうやら俺たちは、魔法陣からかなり遠いところにいるようだ。
「なんとか、逃げられ、そうだな」
亮が若干息切れしながら、俺と瑞希に話しかけてくる。
「うん。この調子なら、みんな逃げられるね」
「だといいけどな……」
俺がそう言うと同時に、それが合図であったかのようにヨトゥンの腕が輝き始める。
(あれは……スキルにあった豪腕か?)
次の瞬間、ヨトゥンが腕を降り下ろすとガラスが割れるような音と共に結界が砕け散った。
結界を張っていた騎士たちは、その衝撃で吹っ飛ばされる。
まだ二割ほど残っていた生徒たちはそれを見て、我先にといった様子で魔法陣に集まっていく。
神崎がなにか言っているが、周りの声に掻き消されて全く聞こえない。
「――どけっ!」
「きゃあっ!」
突然の悲鳴にそちらを見れば、先程瑞希が治した男子生徒が瑞希を突き飛ばしているところだった。
突然の不意打ちだったせいか、瑞希はバランスを崩してこけてしまう。
「――っ!」
それを見た俺たちは来た道を戻り瑞希を助け起こす。
「大丈夫か、瑞希」
「うん。ありがとう亮君、忍君」
先程瑞希を突き飛ばしたやつは許せないが、今は逃げるのが先決だ。
周りには、俺たち以外の生徒はほとんどいない。
「亮、今から俺に付与魔法をかけてくれないか?肉体強化をありったけ」
「あ、ああ」
俺の言葉にうなずいた亮は、俺に肉体強化の付与魔法をかける。魔力を大量に使ったせいか、若干息を切らしながら俺に質問する。
「で、今からどうするんだ?」
「こうする」
そう言うと同時に、俺は影を操って二人を抱えあげた。
「わっ!」「きゃっ!」
「しっかり捕まってろよ」
俺の言葉に二人が何か反応する前に、俺はその場から走り出した。
さすが付与魔法。身体能力が段違いだな。
一分もかけることなく魔方陣の近くまでたどり着く。音でこちらに気づいたのか、ヨトゥンがこちらに向かって剣を降り下ろしてきた。
「っ!しの――」
「大丈夫だ」
亮の切羽詰まった声が聞こえるが、俺はそのまま魔方陣に向かって走り続ける。ヨトゥンが降り下ろした剣は俺たちに当たらず、地面に突き刺さった。
「え」
ちらりと亮を見ると、ポカンとした表情で剣を見つめている。瑞希の方はというと、キョトンとした表情で剣を見ていた。
少しして魔方陣についた俺は二人を下ろし、影を引っ込める。俺たちでどうやら全員のようだ。
「全員集まったな!今から魔方陣を発動させるから絶対に魔方陣から出るなよ!」
俺たちが来たのを見て、団長が声を張り上げる。それを聞いて全員が頷く。
魔方陣が光りだし、全員が安堵の表情を浮かべる。あと少しで助かるのだから誰だって安心するだろう。
なんとなく亮の方を見れば、丁度モブAに突き飛ばされるようにして魔方陣の外に出るところだった。
「は?」
まさか突き飛ばされるとは思っていなかったのか、亮はバランスを崩して倒れてしまう。誰も亮が魔方陣から出てしまっていることには気づいていないようだ。
残り時間的にも、魔方陣に連れ戻すのは無理だろう。――しょうがない、か。
瑞希が少し心配だが……まあ、大丈夫だろう。一応、勇者こと神崎もいることだし。
魔方陣が発動する直前、俺は魔方陣の外に一歩踏み出した。