3 ダンジョントラップですって。
現在、俺たちは騎士の人たちに連れられ、“リールス迷宮”の入り口の前に来ていた。
迷宮の入り口は俺が予想していたものとは違い、入場ゲートのようなものや受付窓口まであった。
受付窓口があるのは、そこでステータスプレートをチェックして出入りする人数を記録し、迷宮で何人死んだか分かるようにするためだそうだ。
他にも、露天や換金所のような場所もある。人もかなり来ていて、まるでお祭りのようだ。
ちなみに、この“リールス迷宮”はまだ踏破されておらず、四十八層辺りまでしか踏破されていないらしい。浅いところは比較的弱い魔物が出るので迷宮初心者には人気なのだとか。
生徒たちは、周りの様子をキョロキョロと見ながら騎士の人たちの後ろをついて歩いていった。
* * *
迷宮の中は外とは違い、薄ぼんやりと光っていて静かだった。
(俺が作った迷宮や、俺の知っている迷宮との違いはあまりないな)
もしかしたら違う場所もあるのかもしれないが、この迷宮は俺の知っている迷宮とそこまで違いはないようだ。
しばらく全員で歩いていると、前方から角の生えた白いウサギが何体か現れた。
俺は、そのウサギに向かって自分の異能である真理眼を発動する。
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種族名:ホーンラビット
レベル:5
筋力:420
体力:340
魔力:250
耐性:230
魔耐:230
俊敏:570
魔法:
スキル:
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(んー、あんまり強くないな……)
この程度なら俺の魔法で一発だろ。
「全員あの見かけに騙されるなよ。あれは“ホーンラビット”と言って、この迷宮の上層ではそこそこ強い魔物だ!素早い動きと小さい体で攻撃が当たりづらく、角の攻撃も厄介だ!しっかり見極めて攻撃するんだぞ!」
団長がそう言うと、ホーンラビットは俺たちに近づき、先ほどまでのゆっくりな動きから急に速くなって頭の角をこちらに向けて突進してきた。
前衛にいた盾職は盾を構え、ホーンラビットを受け止める。止まったホーンラビットに向かって、神崎や戦士職のやつらが仕留めていく。
俺や魔法職のやつらは、少し離れているホーンラビットに向かって魔法を詠唱する。
「「「「炎よ、我に力を、ファイヤーボール!」」」」
「「「「風よ、我に力を、ウインドカッター」」」」
詠唱が終わると同時に、ホーンラビットたちに俺たちの魔法がぶつかる。俺の場合は威力をけっこう抑えてやっている。そもそも詠唱すら必要ないし、本気でやったらたぶん前のやつらにも当たるからな。
ホーンラビットたちは、断末魔をあげながら、どんどん倒れていく。だいたいの女子生徒はそれを見て悲しそうな表情をしていた。
「よし、全部倒したようだな。次の魔物もすぐ現れるだろうから、気を引き締めろよ!」
その後も、俺たちは順調に魔物を倒していった。
魔物が強くなってきたからか、徐々に怪我をする人が増えはじめて瑞希たち治癒士は忙しそうだ。
亮は魔法職のやつらや戦士職のやつらに付与魔法をかけている。その効果の高さを感じて、みんな驚いていた。モブ三人は亮を憎々しげに見ているが。
「全員聞け!次からはまだ誰も踏破していない階層だ!どういった階層か分かっていないから、気を抜くんじゃないぞ!」
『はい!』
もうそんなところまで来たのか。早いな。
その後も魔物の強さはあまり変わらず、俺たちは奥へと進んでいった。
(うー、もう帰っちゃダメかな……)
だいぶ進んだし、眠いから帰りたいんだけど……
「ん?あれは……」
団長がなにかを見てポツリと呟く。団長の見ている方を見ると、綺麗な青い水晶のようなものが壁から生えていた。
だいたい手のひらぐらいの大きさで、ぼんやりと光っている。
「わー」
「綺麗……」
「見たことのない鉱石だな。まだ発見されていないものか?」
団長がそう言ったところで、飛び出していく影があった。
「だったら俺たちでこの鉱石を持って帰ろうぜ!」
そう言って走り出したのはモブAだった。団長が焦ったようにモブAを止めるが、無視してモブAは鉱石に近づいていく。
俺は何とはなしに鉱石を真理眼で見たところで顔を青ざめた。
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名称:転移鉱石
説明:この鉱石に触れると、周囲50m内の魔物以外の生物を下層に転移させる。
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俺がそれを見て何かを言う前にモブAが鉱石に触れ、周り50mに魔方陣が広がった。
「っ!全員、逃げ――」
団長がそう言いきる前に魔方陣が輝き、生徒全員が真っ白な光に包まれる。
光が収まり、目を開けて周囲を見ると見知らぬ場所に来ていた。
俺たちが転移した場所はどうやら、石で出来た部屋のようだ。右側には魔方陣があり、左側には下へと続く階段がある。魔方陣の横には、剣を持った巨大な像が立っていた。
「全員、あの魔方陣に向かって走れ!速く!」
団長が大声で指示を出したところで、生徒たちははっとして右側にある魔方陣に向かって走り出した。
それと同時に、魔方陣の横にいた巨大な像が動き出した。
生徒はまだ像が動いているのには気づいていないようだ。
「おーい、魔方陣に近づいたら危ないぞー」
「へ?」
俺の声が聞こえたのか、生徒たちが止まる。
その瞬間、像が剣を降り下ろした。止まっていたこともあり、魔方陣に一番近かった生徒は直撃こそしてないが、そこそこの大きさの岩が飛んできて吹っ飛ばされる。
ふっとんだ生徒は口から血を流し、右足は変な方向を向いていた。
「き、きゃあぁぁぁあ!!」
「わぁぁぁああ!!」
今までそんな大怪我をしている人が出てきていなかったからか、生徒全員が混乱状態に陥る。瑞希は怪我をした生徒に近づいていき、治癒魔法を唱えていた。
(まさに完全にオワタ、って状態だな)
俺は全員が慌てるなか、ひとり冷静にその様子を眺めていた。