1 ステータスプレートですって。
今さらだが、俺は元々この世界の住人ではない。正確にいえば、転生者だ。
転生する前はその世界で魔王なんてやっていたが、今はどうでもいいだろう。
元魔王である俺やクラスの連中が召喚されてから十数分後、俺たちは先ほどの女性に王室のような場所に連れてこられていた。
目の前には王様っぽい髭を生やしたおっさんや鎧を着た男たちがいた。
おっさんは俺たちを品定めするように見ている。
「ふむ……よく来てくれた、異世界の勇者よ。わしはこの国の王であるガイアス・サルベルトだわしらはそなたたちを歓迎する」
「ありがとうございます、王様」
そう言ったのは、予想通り神崎だった。
「それで、僕たちは何をすればいいんですか?」
「うむ。実は魔王が復活したようでな。人族側魔族に攻められ滅びそうになっておるのだ。そして、君たちにはその魔王を討伐してほしい」
そう言ってもう一度頭を下げる国王。
普通は自分とは関係ない国を助けるなんてことはしないのだが……
「頭をあげてください、王様。僕たちで良ければ力になりましょう」
そう言ってにっこり笑う神崎。他の連中も神崎の言葉に頷いている。
(……これは魅了されてるっぽいな)
可能性としては先ほどの女性がやったのだろう。俺の幼馴染みは運よくかかっていないみたいだが。
その中で、一人の生徒が手を挙げる。
「あのー、元の世界に帰ることって、出来るんですかー?」
そう言ったのは、ほんわかした雰囲気が特徴的な女生徒だった。名前は確か……木下 綾香、だったか?
「それなら、心配しなくてもよい。魔王を倒しさえすれば、責任もってわしらが帰そう」
国王がそう言うと、他の生徒は安堵した表情を見せた。
* * *
国王との謁見が終わった後、俺たちは鎧を着た人に連れられて広場に来ていた。
「俺はこの国の騎士団長、ロベルト・ルナクスだ。みんなにはまずこれを受け取ってほしい」
そう言って、俺たち全員に白いプレートのようなものと針が配られる。
「全員もらったか?そのプレートはステータスプレートと呼ばれるもので、文字通り自分のステータスを客観的に見ることができるものだ。
そのプレートに血を一滴垂らせば、所持者を登録することができる。その後はステータスオープンと言えば、いつでも自分のステータスを見ることが出来る。それと、身分証明書でもあるから絶対になくすなよ」
団長にそう言われ、クラスの連中は顔をしかめながら針を指先に刺し、プレートに血をつける。俺も、皆と同じようにプレートに血をつけた。
すると、プレートに文字が浮き出てきた。
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名前:小鳥遊 忍
年齢:17歳
性別:男
レベル:1
職業:魔王
筋力:250
体力:250
魔力:25000
耐性:250
魔耐:600
俊敏:250
魔法:異世界魔法
スキル:異能、異世界言語
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「だいたい、レベル1の平均は100だ。勇者様方なら、二倍三倍はいっているだろうがな。それと、ステータスはこちらに報告してくれ。訓練内容を人によって変えなければならないからな」
……うん、完全にアウトだな。
とりあえず俺は、ステータスプレートの表記を異能を使って変更する。
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名前:小鳥遊 忍
年齢:17歳
性別:男
レベル:1
職業:魔王(魔法使い)
筋力:500
体力:500
魔力:25000(750)
耐性:500
魔耐:750
俊敏:500
魔法:異世界魔法(影魔法、風魔法適正)
スキル:異能、異世界言語(鑑定、状態異常無効、異世界言語)
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これで大丈夫だろ。
「ねえ、亮君と忍君はどうだった?」
そう言って瑞希が俺と亮に話しかけてくる。
「俺は魔法使いだ。ほら」
そう言って俺は、自分のステータスプレートを瑞希に見せる。
「私はね、治癒士だったよ」
そう言って俺に見せたステータスプレートには、こう書かれていた。
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名前:西園寺 瑞希
年齢:17歳
性別:女
レベル:1
職業:治癒士
筋力:400
体力:470
魔力:850
耐性:400
魔耐:800
俊敏:400
魔法:回復魔法、光魔法適正
スキル:高速魔力回復、言語理解
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へえ、なかなかすごいな。
ふと、亮の方を見るとステータスプレートを見て固まっていた。
「亮、お前はどうだっ……」
そう言いながら亮のステータスを見たとき、俺は固まった。
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名前:神無月 亮
年齢:17歳
性別:男
レベル:1
職業:付与士
筋力:150
体力:130
魔力:230
耐性:140
魔耐:100
俊敏:100
魔法:付与魔法
スキル:アイテムボックス、異世界言語
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(ステータスがかなり低いな。ただ、付与魔法はなかなかいいと思うが)
瑞希もこの結果を見て驚いた表情をしている。
団長の方をちらりと見ると、神崎が丁度報告をしにいくところだった。
「……ほお、勇者か。かなり珍しい職業だし、スキルや魔法も強力なものが多い。頼もしい限りだな」
「いやー、あはは……」
団長にそう言われ、神崎は照れたような表情をしている。
その後も、クラスの連中はステータスプレートを団長に見せに行く。
とりあえず、俺も自分のステータスプレートを団長に持っていった。
「魔法使いか。しかも、影魔法とは珍しい魔法を持っているな。君にも期待してるぞ」
「ありがとうございます」
俺はステータスプレートを団長から返してもらい、俺は先ほどいた場所に戻ってくる。
俺が戻ってくると亮はため息をつきながら、瑞希と一緒に団長のところに歩いていく。
団長は今まで規格外なステータスを見ていたからか、嬉しそうにしている。魔王討伐の可能性が上がって嬉しいのだろう。
団長は、亮のステータスプレートを見たところで表情が固まった。
「なんだ、このステータスは……ほとんど平均で魔力が若干高いが、それ以外は普通。職業は珍しい付与術士だが……」
そう言って微妙な表情をする団長。
「……はっきりいって、非戦闘職でレベルは上がりづらいし戦闘でもあまり役に立たないな」
団長の言葉を聞いて亮の目が死んでいる。その様子を見て、普段亮を嫌っている男子が食いつく。
「おいおい、マジかよー」
「神無月、お前、そんなんでどうやって戦うんだよ」
「完全にお荷物じゃねえか」
そう言ってニヤニヤと亮にからみだす男子生徒三名。名前は知らないからモブABCでいいか。
次々と笑い出す男子生徒を、隣にいる瑞希は冷たい目線で見ている。
俺はこれからの幼馴染みの前途多難さを考え、人知れずため息をつくのだった。