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七話

「ん...む...」

折り悪く保健室に先生がいなかったため、勝手にベットを使わせてもらい氷桜を寝かせていたのだが、どうやら氷桜が目を覚ましたようだ。

まだ意識がハッキリしていないのか、どこか虚ろな目で周りを見回していたが、徐々に意識がハッキリしてきたらしい。

しばらく俺の顔をじっと見ていたが、やはりまだ頭が混乱しているようで、ちょっと顔を赤くして慌て始めた。

「え...?え...!?紅!?」

「おう、自覚はないがまあ紅だぞ」

そんな会話のようなことをしていると、ようやく先刻のことを思い出したようだ。

「あ、そっか、私廊下で...ごにょごにょ...」

最後の方は声が小さくてよく聞き取れなかったが、氷桜はそう言って顔の赤みが増す。

まあなんにせよある程度は落ち着きを取り戻したようなので、何があったのかを聞いてみることにした。

「それで、氷桜が倒れるまでに何があったんだ?心臓のあたりを押さえて苦しそうな顔をしてたが」

「えっと...それは...あの...えーっと...」

俺の問いかけに答えにくいのか、氷桜は微妙に目をそらしながら口をもごもごと動かしている。

「また答えにくいことなら無理に答えなくてもいいぞ?心配ではあるが、無理に聞き出すことでもないしな」

俺がそういうと、まだしばらく迷ったように目をさまよわせていたが、やがて目を閉じると大きく深呼吸をした。

そして、深呼吸を終えて目を開けた時、氷桜の瞳には迷いの色はなく、なにかの決意をしたような目をしている。

「ほんとは、こういうのを話しちゃうとちょっと色々ずるい気がするから、どう転んでも最後まで隠し通そうと思ってたんだけどね」

氷桜はちょっと困ったような、申し訳なさそうな、そんな表情でそう前置きをして話を始めた。

「私たち人外には、ううん、私たち女の(・・)人外にはね、一つの呪いがあるの」

「呪い...?」

そういえば、響も廊下で会った時に呪いがどうとか言っていた。

ということは、やはり響はこの状況について何かを知っていたのだろう。

だが、今はそれよりも氷桜の話を聞く方が先だ。

「私たち女の人外にはね、人間の男に恋をしてはいけないっていう呪いがかけられてるの」

「人間の男に恋をしてはいけない...つまり、それって...」

「うん、私は人間になった今の紅のことも大好きなの、紅、ううん、緋桜くんさえよかったら緋桜くんと恋人になりたいって思うくらいに。でも、今の緋桜くんは人間でしょ?だから呪いが発動しちゃったの。あ、でも勘違いしないでね?私は緋桜くんが人間になってることを責める気持ちはないから」

「そ、その呪いってのはどういうものなんだ?」

最悪の予感が首をもたげ、声が震えそうになるのを感じながら俺は氷桜に質問した。

この嫌な予感が外れてくれることを願いながら。

だけど、現実はいつだって非情なもので、

「死をもたらす呪い、徐々に体を蝕んでいって最終的には死んじゃうの」

「っ...!」

最悪の予感は当たっていた。

つまり、このままいくと氷桜は遠からず死んでしまうことになる。

「な、なんで...前世までの記憶もなくて、人間になってる俺なんかを...」

そう、俺のことを好いていなければ、氷桜が命の危険に晒されることはなかったはずなのだ。

そんな俺の問いに、氷桜は困ったように笑って言った。

「だって、記憶がなくたってやっぱり紅は紅だったし、それに本当に好きだったら人間か人外かなんて些細なこと、でしょ?」

つまり、氷桜は呪いで苦しむのを承知で、覚悟の上で俺を、今の俺を好きだと言ってくれているのだ。

「その、呪いを...止める方法あるのか...?」

縋るような思いで俺は氷桜にそう尋ねる。

すると、氷桜は俺の問いに頷きを返した。

「うん、方法は三つあるよ。一つ目は私が緋桜くんのことを心の底から好きじゃなくなること、でもこれはまず無理だね。二つ目は、私が人化の儀式をして人間になること、でもこれはできればやりたくないかな。そして最後の一つが...」

氷桜は、そこで再び躊躇うような素振りを見せた。

「最後の一つの、方法は...?」

もしかすると非常に厳しいものなのだろうか、そんなことを考えながら俺は緋桜に続きを促す。

氷桜は、まだしばらく迷っていたが、黙っていても無駄だと思ったのだろうか、俺の顔をじっと見て口を開く。

「最後のひとつ、三つ目の方法は、緋桜くんが人外に戻る《・・・・・》こと」

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