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六話

五時間目の授業、無事に遅刻することなく教室に戻ったが、五時間目の授業もやはり簡単なこれからやっていく授業の説明だった。

先生の説明の声を聞き流しながら、俺はさっきの屋上での氷桜との会話で分かったことの整理をする。

(人外、か...氷桜以外のはどんなやつなんだろうな)

人外、人間と同じようで異なる存在。

氷桜は変化をしただけだったが、形代をいつの間にか俺のポケットに入れてきたくらいだし、変化ができるだけではないだろう。

狐といえば狐火のイメージがある、もしかしたら火炎放射じみたことも出来るのかもしれない。

まあ火炎放射が出来るかはともかく、氷桜が言うには新入生だけでも氷桜を含めて七人程度は人外がいるらしい。

誰だか知らぬ彼らも氷桜同様に前世の記憶を受け継いでいるのだろうか。

(それに俺が元は人外だったってのもあったな)

氷桜が言うには、俺は前世までは人外だったが、その前世で人化の儀式をして限りなく人間に近くなったと言っていた。

なぜ前世までは人外だったのに、その前世で人化なんてことをしたのだろうか。

それに、人間になると生まれ変わりで記憶が失われると言っていたが、もとが人外のせいなのか完全には失われてない気がする。

初日に氷桜が泣いていたのがやけに心に引っかかったり、形代で手紙が来た時に氷桜が思い浮かんだりしたが、完全に消えているのだとしたらそんなことが起きるだろうか。

(そういえば、お互いに愛称を付けてたって言ってたが氷桜の愛称はなんだったんだろうな、白い狐だから白とかか?)

そう、氷桜は生まれ変わる度に名前が変わるから、お互いに愛称をつけてその愛称で呼びあっていたと言っていた。

俺が紅なら氷桜はどんな愛称がつけられていたのかが気になる。

白い狐で白かとも思うが、それだと人外の俺は紅の狐になりそうだ。

また今度機会があったら聞いてみてもいいかもしれない。

そんなことを考えながらふと顔をあげると、こちらを見ている響と目が合う。

響が後ろを向いていることに疑問を感じ、周りを見回すといつの間にか先生の説明は終わっていたらしい。

まだ時間的には五時間目の途中だが、既に先生はおらず、休み時間に近い状態となっていた。

知らず知らずのうちに考え事に没頭しすぎてしまったようだ。

「もしかしてもう五時間目は実質終わってたりするのか?」

「ああ、だいたい五分くらい前か?今日は初日だから説明だけで終了するとかなんとか言って授業は終わったぞ」

見るからに五時間目は終わった様子ではあるが、一応の確認のため響に聞くと、やはり授業は終わっていたようだ。

説明だけなのでさほど問題は無いが、先生の話は全く聞いていなかった。

「その様子だと全く授業を聞かずに考え事に没頭していたみたいだな、刀夜くんよ」

「ああ、お恥ずかしながらも考え事に集中し過ぎて先生の話は全く聞いていなかったさ、響くん」

分かっててやっているのだろう、からかう感じの響のノリに合わせて言葉を返す。

響はそれを聞いて満足したように頷くとニヤッと笑った。

「それで、なんか悩み事でもあったのか?」

「ん?いや、特にそういうわけではないが、なんでだ?」

「結構がっつり考え込んでるように見えたからな」

「ああ、まあ大したことじゃないさ、輪廻転生ってどんなもんなんだろうなって思ってな」

俺がそう言うと、一瞬響が目を細めたように見えた。

だが、次の瞬間にはいつもと変わらぬ飄々とした感じだったので、目を細めたように見えたのも気のせいなのかもしれない。

「へえ、刀夜は輪廻転生とかそういうのを信じる口か?」

「ん?あー、まあありそうだなとは思うけどな」

「ほほー、なるほどねえ」

響はそう言うとニヤニヤと笑っている。

だが、やはりバカにしている感じがあまりせず、ニヤニヤと笑っている割に嫌味な印象を与えないのは響のいいところだろう。

そんなことを考えていると、五時間目の終わりのチャイムが鳴った。

「お、今五時間目の終わりだな」

「ああ、そうみたいだな、まあ刀夜には五時間目はあってないようなものだったみたいだけど」

「それは言うな」

その後、話はくだらない雑談へとシフトし、雑談は先生が来てHRが始まるまで続いた。


帰りのHRが終わり、放課後になったので俺は帰り支度を手早く済ませると教室を出る。

そして、そのままさっさと帰ろうと下駄箱の方へ向かおうとしたその時だった。

「氷桜さん!?大丈夫!?」

突然、廊下の先で女子生徒が大きな声でそう言ったのが聞こえてくる。

もしかしてまた誰かが唐突に失神したのかと思ったが、今、女子生徒は氷桜(・・)とそう呼んでいた。

氷桜の身になにかがあった、そう思うと同時、自然と俺の体が動き、声の聞こえた方へと走り出す。

おそらく氷桜が倒れているか何かあったのだろう、人だかりが出来ていたのを押し分けて進んでいくと、確かにそこに氷桜がいた。

氷桜はその場に膝をついており、片手で胸を抑え、片手を地面について顔を苦痛で歪めている。

お昼に屋上で話した時の氷桜には特に具合が悪そうな様子はなかった。

それゆえに何があったかは分からないが、尋常ならざる状態なのは明らかだ。

俺は氷桜の元に声をかけながら駆け寄る。

「氷桜!大丈夫か!?」

声をかけた時、僅かに氷桜の肩が跳ねたように見えたが、返事とかそういうのはない。

俺はそのまま氷桜のそばまでいって膝をつくと、氷桜の肩にそっと手を乗せる。

理由は分からないが、氷桜が無理をしている、そんな気がした。

俺が肩に手を置いた直後、こわばっていた氷桜の体から力が抜けた感じがする。

「べ......に...」

氷桜は、今にも消えそうな弱々しい声でそう呟くと、気絶したのだろう、氷桜の全身から力が抜けた。

「っと」

そのまま地面に倒れ込みそうになった氷桜を支えると、校内の地図を頭に思い浮かべる。

(とりあえず保健室に連れていくのが無難だろうな)

俺は、頭の中で保健室の場所を確認すると氷桜をお姫様抱っこの形で持ち上げた。

「俺はこいつを保健室まで運ぶ、悪いが邪魔だから道を開けてくれ」

いまだに人だかり氷桜と俺を中心にぐるっと取り囲むように見ている人だかりに対して俺はそう声をかける。

強引に押し通ってもいいのだが、それだと氷桜の体に余計な負担がかかるためできれば避けたい。

幸いにも周りの奴らもこの状態でただ突っ立っているほど愚かではなかったようで、俺がそう言うと即座に道を開けてくれる。

氷桜を揺らしすぎないように気をつけつつ、足早に進んでいくと、丁度教室から出たところなのだろう、教室の前に響がいた。

響は俺の顔を、そして氷桜のことを見ると、なにかに気づいたような顔をし、それから険しい顔をする。

その様子に疑問を感じたが、今はそんな場合ではない、保健室に急ごうと足早に響の横を通り過ぎようとした。

その時、

「そこから先は覚悟しておけ、これはそういう呪い(・・)だ」

響が俺だけに聞こえる程度の声量でそう言ったのが聞こえてきた。

「覚悟...?呪い...?」

なにかを知ってそうな響のその言葉に、俺は思わず足を止めて響の顔を見る。

だが響は、

「俺から言えるのはそれだけだ。さ、早くいけ、そいつを保健室に連れてくんだろ?」

そう言って下駄箱の方へと歩いて行ってしまう。

響の言う覚悟と呪いというのが気になったが、確かに今は保健室に氷桜を連れていくのが先だ。

俺は再び保健室へと急いだ。

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