第六話~儚き思いは灰と散る~
天上界にある国、フォーランドの夜はとても楽しい。
毎晩がお祭りのように盛り上がる闇市は何回行っても飽きることが無い。
活気のある屋台で買ったお菓子を食べながら、道行く人を眺めるだけでもドキドキする。
今夜も虎太郎は絵里よりも早く、約束の場所で待っていてくれた。
絵里は虎太郎の姿が見えると、小走りをして虎太郎に駆け寄った。
「ごめん、待った?」
絵里は小さく息を切らせながら、虎太郎に聞く。
「いや、今来た所じゃき。」
虎太郎は優しく絵里に微笑みかけ、手を差し出す。
絵里は虎太郎の手を繋ぐ。
虎太郎はゆっくりと歩きだす。
なんて事は無い。
普通のデートだ。
しかし、絵里は地上界でもここまで心が高鳴った事は無かった。
人を好きになると言う意味を始めて知ったような気持ちである。
地上界でもカッコイイ男の子に恋心を抱いた事はある。
話が面白くて優しい男の子も中々捨てがたいとも思っていた事もある。
地上界での自分の恋愛は『他の誰か』と比較して、少しでも良質な人が恋愛の対象だった。
女友達が羨ましがるような彼氏を作りたくて、恋をした気になっていた。
でも今は・・・無条件で鈴木虎太郎が好きだ。
虎太郎の笑顔を見るだけで幸せな気持ちになる。
虎太郎の声は一言一言が心に染み渡り、理由は分からないが涙が出そうになる。
ただただ、虎太郎と一緒にいたい・・・。
「今日は何を見るかの?
絵里は風水魔法使いらしいから、魔具屋でも探してみるがか?」
虎太郎は絵里の事を考えて提案してくれた。
「ちょっとぉ~・・・。
らしいってどういう事?風水魔法使いだよ~。」
絵里は虎太郎にじゃれ付きたくて、敢えて言葉のあやを見つけてはツッコミを入れる。
「まだ見習いじゃき。ほんまもんの魔法使いにはほど遠いが。」
真面目な虎太郎は真面目な返事をする。
虎太郎のそんな所にも魅力を感じる。
しかし、今夜はそんな楽しい時間は続かなった。
楽しく話をしていた絵里を突然虎太郎が抱きしめてきたのだ。
絵里は何が起こったのか分からず、虎太郎の腕の中で一人、顔を真っ赤にしてドキドキしていた。
「おまんら・・・何者じゃき?」
虎太郎の低い声がし、絵里は虎太郎の顔を見上げる。
虎太郎の視線の先には3人の男が武器を構えてこちらを見ていた。
虎太郎は敵の不意打ちに気づき、絵里をかばって攻撃を避けていたのだ。
「シュノの奴隷屋を解放したのは貴様だろ?」
ショートソードを構えている男が虎太郎に聞いてきた。
「同じ人なのに、片方は人権が無く、片方は理不尽な事をする。
おかしいとは思わんがか?」
虎太郎はショートソードの男を睨みながら答えた。
虎太郎の瞳には怒りの感情を映し出している。
「と・・・虎?」
絵里は怒る虎太郎が怖くなり、名前を呼ぶ。
虎太郎は、自分の腕の中にいる絵里と目を合わせると、突然顔を真っ赤にして照れ始めた。
「どぁああああ!!
ゆ・・・許しとおせ!!今のは不可抗力じゃ!!」
突然、絵里を離し、尻もちを付きながら虎太郎が謝り始める。
そのリアクションは少し傷つくぞ?
動揺する虎太郎をジト目で睨む絵里。
「死ねや!!」
尻もちを付いている虎太郎に斧を持った男が切りかかる。
虎太郎は身をひるがえし、攻撃を避け、立ち上がる。
「絵里!危ないき、少し離れちょれ。」
虎太郎は埃を手で叩きながら絵里に優しく言う。
「調子乗るなよ、色男さんよ!!」
斧を持った男が虎太郎にもう一度接近し、斧を横に振る。
しかし、虎太郎はその攻撃を後ろに下がって、難なくかわす。
その直後にショートソードの男が虎太郎に突きを打つが、虎太郎は剣の腹を左手で弾き、突きの軌道をずらして攻撃を空ぶらせた。
そのショートソードが邪魔をし、三人目の槍を持った男の追撃は途中で止まる。
その僅かな隙をついて虎太郎はまだ動けずにいる絵里の元へ駆け寄ってきた。
「おまん、腰が抜けちょるがか?」
虎太郎は何事も無かったかのように絵里に話しかけてきた。
この男・・・。
本当に・・・。
絵里は虎太郎の無神経さに少しイラつく。
「抜けてるわよ!普通の人はこんなの怖くて仕方ないの!!
みんながみんな、前衛戦士みたいに強いと思わないで!!」
虎太郎は、絵里の逆切れにきょとんとしている。
まさかここで怒鳴られるとは思ってもいなかったのだろう。
「遊んでんじゃねぇ!!」
ショートソードの男が虎太郎に切りかかる。
キィンッ!!
虎太郎は背中に背負っていた野太刀を抜き、その攻撃を受け止める。
・・・。
しかし、そのまま虎太郎は相手を押し返すでもなく、そのまま黙って受け止めている。
「・・・何やってるの?」
絵里を庇いながらショートソードを受け、そのまま動かない虎太郎に絵里が聞く。
「絵里が立てるまでこのまま待ってようかと・・・。」
全然、苦しそうでもなく、ケロッと答える虎太郎。
「え?」
虎太郎の意外な返答に今度は絵里がきょとんとする。
「力で他人を押さえつけるがは俺の嫌いな上士と変わらんきに。
絵里の前でそんな所を見せちゅうないがじゃ。絵里が走れるようになったら逃げよう。」
虎太郎が困った顔をしながら絵里に答える。
「そ・・・そんな事・・・言ってる場合?」
虎太郎の落ち着きっぷりに絵里もなんか落ち着いて来た。
「言ってる場合じゃき。
俺達、土佐郷士は上士を殺したい位恨んじょるき、一緒にはなりたくないがか。」
虎太郎が答える。
絵里は大きく呼吸をすると、突然立ち上がり、走り出した。
「お・・・おい、立てたがか!!」
絵里の突然のダッシュに虎太郎は面を食らうが、すぐに受け止めていたショートソードを弾き、男を蹴り飛ばして絵里を追いかけた。
「虎!あんた、どこまで強いの!?
完全に優人さんより安定感があるんだけど!!」
絵里に追いつてきた虎太郎に絵里が走りながら聞く。
「実践経験の差じゃ!あの程度の敵は物の数じゃないきに!」
走りながら虎太郎が答える。
後ろを見ると3人は虎太郎を追いかけて来る。
・・・。
どれほど走ったか分からない。
絵里はぜぇぜぇ息を切らせながら、後ろを確認するが、3人はまだ追いかけて来ていた。
「こんなに騒ぎになってるのに、騎士たちは助けに来ないの!?」
走り疲れてきた絵里が愚痴を溢し始める。
「ここは闇市。犯罪ルートの商品の売買をしとるがじゃ。
ここで起こった犯罪やトラブルで騎士を呼んだら、どんなタレコミをされるか分からんきに。
通報は片が付くまで誰もしちゃくれん。」
虎太郎はケロッとした顔で残酷な通告を絵里にした。
絵里は虎太郎の一言で心が折れ、立ち止まった。
「どないしたがじゃ?」
立ち止まる絵里に気付き、虎太郎も止まる。
「もう・・・無理!」
と息を切らせながら言う絵里。
「無理て・・・。」
虎太郎が肩を落としながら絵里に近寄る。
後ろから3人が追いかけて来る。
「無抵抗な人間に理不尽な権利を押し付けるのが上士!
追って来る人間を返り討ちにするのは正義!!
虎、やっちゃいなさい!!」
絵里は追いかけて来る3人を指さし、虎太郎に指示を出す。
「おまっ、何様じゃ!!」
虎太郎は文句を言いながら、抜刀をし、3人に向かって走り出した。
向かって来る虎太郎に先頭を走っていた斧使いが身構える。
「ちぇぇえええええええええ!!」
掛け声と共に虎太郎は野太刀を振り下ろす。
バシュッ!
虎太郎の剣は手加減なく斧の男に襲い掛かり、斧の男は右肩から左腹部へ袈裟に真っ二つに切断され、左半身が吹っ飛んだ。
そして、その奥で構えていたショートソードの男に向けて、虎太郎は切り下げた刀を真横に振る。
キンッ!
ショートソードの男は虎太郎の野太刀をショートソードで受け止めようとするが、野太刀はショートソードごと男を真っ二つに切り裂く。
受け太刀すら許さない虎太郎の攻撃は最後に槍使い目掛けて放たれる。
槍使いは虎太郎に合わせて槍を突こうとするが、虎太郎はその槍を紙一重でかわし、そのまま心臓を貫く。
恐らく、一瞬の出来事だった。
一度瞬きをした瞬間で、今まで元気に追いかけてきた3人がただの肉片と化した。
パチンッ。
虎太郎は血ぶりをすると野太刀を背中の鞘に納め、絵里の元へ歩いて戻ってきた。
「瞬殺じゃん・・・。」
絵里の元へ歩いてくる虎太郎に絵里は力なく言う。
「こんなの数に入らん言うたじゃろ?怖い思いさせて悪かった。」
虎太郎が相変わらずケロッとした顔で絵里に答える。
「ぷっ!」
絵里は何がおかしいのか分からないが、つい笑いが吹き出した。
それに釣られ、虎太郎も吹き出す。
「ここを離れよう。」
少し一緒に笑い合った後、虎太郎が絵里をこの場から離れるよう促す。
絵里は虎太郎に促されるまま、一緒にその場を立ち去る。
ふと後ろを見ると黒いローブの男がどこからか現れ、遺体を消して立ち去っていた。
・
・・
・・・
絵里が虎太郎と闇市でデートをしている間、優人とデュークはヘルガラントのカウンターでガラントと酒を飲んでいた。
「最近、お前さんは暇そうだな?娘はデートに明け暮れてるし・・・。」
ガラントがコップを拭きながら優人に話しかける。
「槍が完成するまではやる事が特に無くてな・・・。
デュークはグリンクスだっけ?戻らなくて良いのか?」
優人は何故か王都に着いても一緒にいてくれるデュークの心配をする。
もう一人の連れだったヘストスは王都に着くや否や「一発当てる!」と言い、パーティーを抜けたきり、何の連絡も寄こしてこない。
「ああ、俺も行きたいのだが、港から船が出てないらしい。
フォーランド政府が反乱軍を逃がさないようにしてるらしいな。」
デュークがビールを飲みながら優人に答えた。
右手の義手の扱いにはかなり慣れたようで、ビールを溢すことなく上手く口に運んでいる。
「フォーランドは元々は海賊の国だからな。
犯罪者を外に出して悪名を広めたくないらしい。
それとは別の話だが、国際手配の掛かっている暗黒魔法使いがこの国に潜伏しているって噂があって、その真相を確かめるためにジールド・ルーンのシンって言う化け物がこの国に向かってるらしいがな。」と、ガラント。
ジールド・ルーンは、このフォーランドを戦争で敗して親国になった国らしい。
世界最強の陸軍と呼ばれているジールド・ルーン聖騎士団と言う組織を持っていて、この国で出会ったエナと言う騎士もその聖騎士団に所属している。
「シン?」
優人は初めて聞く名を聞き返す。
「ああ、シンだ。
とてつもない怪力とタフネスさを持った男で、聖騎士団の団長を務めている。
この国の敗戦はそのシンって男を陸にあげちまった事だって言われているよ。
陸戦であいつを倒すなら千人単位の手練れで構成された部隊を用意しろとすら言われている。」
ガラントがシンについて説明をしてくれた。
噂話には尾ひれが付き物だが・・・。
流石にとんでもない尾ひれが付いていると優人は鼻で笑った。
どんなに強くても一人で千人なんてあり得ない。
地上界でも優れた戦士を「一騎当千の兵」と例える事はあるが、それはあくまで並外れた戦闘力を持つ人間を指す慣用句のようなものである。
もっとも、そこまで言われると言う事はかなりの戦闘力はあると見て間違いは無いと思うが・・・。
「シンを出す?国際手配のその暗黒魔法使いってそんなにやばい奴なのか?」
デュークの表情が曇る。
「ああ・・・。
なんでも悪魔、イフリート信仰の暗黒魔法使いで破壊願望の強い奴らしい。
名前まで知らされていねぇが、スールムと戦争中にも関わらず、シンをこちらに送ってくるとはかなりやばいんだろうな・・・。」
ガラントがデュークに答えた。
スールム・・・。
どうやらジールド・ルーンと言う国はスールムと言う国と戦争をしていると言う事は分かった。
戦争中に主戦力のはずの人間を前線から外してまで、何とかしなくてはいけない相手とするとかなりやばいレベルの犯罪者が今この国にいる。
確か・・・。
カルマって言う暗黒魔法使いもイフリート信仰だった気がするが・・・。
優人の中に一抹の不安が浮かんだ。
バタンッ!
突然酒場の扉が開かれ、絵里と虎太郎が酒場に入ってきた。
その瞬間、血の匂いが優人の鼻に付き、優人は反射的に立ち上がった。
「虎!女連れで人を斬ったのか!!」
優人の剣幕に二人がビクッと体を震わせた。
虎太郎は幕末の人間で生きている訳が無い。
しかし、今、この世に存在している。
暗黒魔法使いは死者を扱う魔法を扱う・・・。
情報はこれだけだ。
しかし、優人は虎太郎と暗黒魔法使いの繋がりを疑わざるを得ない心境にまでなっていた。
「優人さんだって私の前で人を斬った事あるじゃん!!」
少し、沈黙した後、絵里が優人に言い返してきた。
「いや、絵里。理由は何であれ、人を斬るがは褒められた事じゃないき。
命の判定は本来、人が出来るもんじゃないがじゃ。俺が悪い。」
虎太郎が優人に噛みつく絵里を宥める。
虎太郎の言葉を聞き、優人はハッとする。
虎太郎自身は好青年である事は優人はとうの昔に知っている。
素直で誠実、真面目で一本気な青年だ。
良い子だと思っている絵里でさえもったいないと思うくらい真っすぐな男である。
絵里は少し不満そうに虎太郎を睨むと今度は優人の方を見る。
「優人さん・・・。
今回、虎は私を連れて逃げようとしてくれたの。
でも・・・敵がしつこくて、私がもう斬ってってお願いして・・・。」
絵里が申し訳なさそうに優人に事情を話しだす。
「いや・・・。俺の方こそ悪怒鳴って悪かった。
虎が無意味に人を殺めるような人間じゃない事は知っていた。
俺も無駄に神経質になってるのかも知れないな・・・。」
少し冷静になり、優人も虎太郎と絵里に詫びを入れる。
「神経質?」
虎太郎が優人に聞き返す。
「ああ・・・。どうも、この国の治安は凄く悪いらしくてな・・・。
悪いが、当分の間は夜の外出は避けてくれないかな?」
優人が虎太郎と絵里に言うと、絵里が嫌そうな顔をするが、虎太郎が直ぐに納得してくれ、絵里を説得をしてくた。
「じゃあ、そろそろ俺は帰るの。」
虎太郎は絵里の興奮が収まるまで優人達と軽く雑談をしながら待ち、絵里が落ち着くのを確認すると、酒場を出て行った。
「・・・。」
優人は黙って虎太郎の背中を眺めていた。
「親心ってのは難儀なものだな。
絵里の応援をしたいが、状況を考慮に入れると虎を信用しきれないと言った所か・・・。」
デュークが優人に話しかける。
「虎は良い子だもん・・・。」
不満げな絵里が呟く。
「それは分かっている・・・今何が起こってるのか見当が付かないだけなんだ・・・。
明日、もう一度、カルマに会いに行ってくる。」と、優人。
「俺も付き合おう。」
デュークが優人に言った。
・
・・
・・・
夜も更けこみ、静かになった夜を虎太郎は一人、家に向かってとぼとぼ歩いていた。
優人から今のフォーランドの事情を少し聞いた。
イフリート信仰の暗黒魔法使い・・・。
国際手配犯・・・。
あくまで噂言で名前までは知れ回っていないらしいが、恐らくそれはカルマの事だと虎太郎は感じていた。
カルマは最近、亜人狩りや山賊を虎太郎に大量に狩らせ、その遺体を回収している。
亜人狩りは亜人を捕獲し、奴隷として売り飛ばしている連中で、悪の権化。
山賊は道行く罪のない人を襲い、金品を強奪している犯罪者の集団。
虎太郎からすれば斬って当然の相手だ。
斬り捨てる事に躊躇いなどない。
カルマの遺体回収は国の仕事を減らすためだと聞かされてきた。
そこに疑問を持った事は無かったのだが、優人の話を聞き、カルマの狙いが他にあると感じ始めたのだ。
「鈴木虎太郎。」
突然呼び止められ、虎太郎は足を止めて後ろを振り向いた。
そこには全身鎧を見にまとった、見覚えのある男が木槌を身構えながら立っていた。
「おまんは、郊外の森で絵里と一緒にいた・・・。」
虎太郎は全身鎧の男に聞く。
「ヘストスだ。シュノの奴隷屋を解放したのは貴様だろ?
お前の首を取れば大金が手に入るんだとよ。」
ヘストスは不敵な笑顔を虎太郎に見せてきた。
虎太郎はそんなヘストスを見て、一度深くため息を付いた。
「悪いが、今日は見逃してくれんがか?人を殺しとうないがじゃ。」
先ほど優人に怒鳴られ、人を斬る事に疑問を持ち始めた虎太郎はヘストスに答える。
「見逃せんな。貴様を殺せば一気に大金持ちになるんでな。
戦いたくないなら黙って殺されろ。」
言うとヘストスは木槌を振り上げ虎太郎に襲い掛かってきた。
優人さん、すまん。
虎太郎は心の中で優人に詫びを入れると、背中の野太刀を抜刀しながら、ヘストスを鎧ごと真っ二つに切り裂いた。
袈裟に斬られたヘストスの体は吹っ飛び、一瞬でただの肉片になる。
もう・・・カルマさんに人を殺めた事は伝えん方が良いな・・・。
そう思った虎太郎はヘストスの右胸に付いているシルフの瞳を外すと、黙ってその場を立ち去った。
・
・・
・・・
翌朝、優人とデュークは二人でカルマの家に事情を聞きに酒場を出て行った。
賑わう大通りを少し進み、脇にある小道に入り、また少し進む。
何故か、その小道で人だかりができていた。
優人達は人だかりを掻き分け、中心に向かう。
人らしきものが倒れている。
近づいて見ると人の下半身らしきモノが倒れている。
少し離れた所に上半身が転がっていた。
大柄な男が金属鎧ごと右の肩から左脇腹にかけて真っ二つに斬れていた。
「なんだ。こりゃ?どうやったらこんな死に方・・・。」
デュークが近づき、遺体の顔を確認した途端動きが止まった。
「どうした?」
と聞く優人も旋律が走る。
ここに倒れている遺体は・・・ヘストスだ。
ヘストスは強くはないが弱くもない。
それが問答無用で一刀の元に真っ二つにされている。
鎧と体の切り口も綺麗である。
「優人・・・お前、これできるか?」
デュークが鎧に目をやりながら優人に聞く。
「人体だけなら出来るが、金属鎧をこんな斬り方・・・不可能だ・・・。
切れ味の良い武器と・・・かなりの技術と腕力が必要だ。」
優人がデュークに答える。
「だな・・・。」
デュークが優人に答える。
「・・・と言う事は犯人は貴方方ではありませんね・・・。」
後ろから女の声がする。
振り向くまでも無く、声の主は誰だか検討は付くが、優人とデュークは振り向き、声の主を確認する。
エナである。
「ああ・・・こんな技術は無いよ。」
優人がエナに答える。
「金属ごと斬るなんて、例の奴隷屋解放と犯人は同じですかね・・・。」
エナが優人に聞いてきた。
「いや・・・どうだろう・・・。
奴隷屋解放事件の時は斬られたと思われる奴隷屋の主人の遺体が消えていたのに、今回は消えていない。
同一犯ならば、なぜ今回は遺体処理を怠ったのかと言う疑問が残る。」
優人が自分の見解をエナに話す。
「本当に・・・今、この国で何が起こっているのでしょうか・・・。」
エナがヘストスの遺体を眺めながら優人に聞いてくる。
「・・・。」
優人はエナの問いかけに答えられないでいた。
考えたくは無いが、どうしても優人の脳裏には虎太郎が浮かぶ。
虎太郎の一撃必殺の剣技であれば可能だからである。
始めて会った夜、虎太郎は大木すらもまっぷたつに斬っていたのだ。
しかし、確証は無い。
虎太郎の人間性を考慮に入れても虎太郎が犯人だとは思えない。
しかし、こんな芸当が出来る人間がそんなにいるとも思えない。
虎太郎は二重人格者なのだろうか?
虎太郎・・・お前なのか?
優人は悲痛な思いでヘストスの遺体を眺める。
「これから、カルマと言う暗黒魔法使いの所へ行こうと思っていたのですが、一緒に来ますか?」
デュークがエナに聞く。
「暗黒魔法使い?」
エナの表情があからさまに曇る。
「世界手配に掛けられている暗黒魔法使いの噂を聞きましてね。
何か知っていないか聞こうと思いまして。」
優人がエナに説明をする。
「それは・・・リスクが高く、成果は低そうですね・・・。」
エナが優人に答える。
「ん?それはどういう事ですか?」
優人がエナが意図する事を聞く。
「暗黒魔法使いは横のつながりが薄いので、そのカルマと言う人が国際手配犯の情報を持っている保証がありません。
もし、情報を持っていたとしても、知らないと言われたらそこまでです。
私たちが疑っていると言う事だけ知られるだけですから・・・。」
優人はエナの答えに納得させられる。
結局、優人とデュークはカルマと会う事を止め、酒場に戻ることにした。
その夜、優人は槍の受け取りがあり、フーガの所へ行かなければならなかったのだが、少し時間を遅らせ、絵里が起きて来るのを待つ事にした。
絵里の顔を一目見て安心したかったのだ。
少しすると絵里が部屋から降りてきて、優人に気が付いた。
「あっ!優人さん。久しぶり。」
絵里は陽気に優人に話しかける。
いつも通りの笑顔でちょっと安心する。
「おう。絵里。昨日も会ったがな。」
優人は絵里に答える。
「そうだった!虎を怒るとかダメだからね!!」
絵里は昨日の事を思い出し、少しむくれる。
「そいつは悪かったな。
それより、今夜、俺はフーガの所へ槍を取りに行くんだけど、絵里はどうする?」
優人が絵里に聞く。
「私はここで虎を待ってるよ。
優人さんに言われた通り、酒場の外には出ないと思う。」
絵里は少し照れながら優人に答える。
「恋は順調だな?」と、優人。
「えっへへ~・・・。」
絵里は頭を掻きながら照れる仕草をする。
「優人、約束の時間だ。そろそろ行くか。」
デュークが絵里と優人の間に割って入ってきた。
「ああ。行こう。」
言うと優人とデュークは酒場を出て行った。
「本当の事、なんで言わないんだ?
ヘストスをあんな斬り方出来るのは虎以外見当が付かない。
あいつの生きていた時代を考えても暗黒魔法使いと関係がある可能性も高い。」
酒場を出ると、デュークが優人に話しかける。
「虎がヘストスを殺したかもしれないなんて言えるか・・・。」
優人がデュークに答える。
「お前のなり父心か。優しさが仇にならなければ良いが・・・。」
デュークが優人に言う。
「不安にさせるなよ・・・。」
嫌な予感がだんだん大きくなる。
優人は言いしれぬ不安を胸に闇市でフーガから槍を受け取る。
仕上がりは上々だ。
とても扱いやすい槍が完成していた。
お礼を言い、店を後にする。
ドーン!!
優人達がフーガの店を出ると同時位のタイミング大きな音がした。
「なんだ!?」
優人が周囲を警戒すると、地面から人の形をした黒い影が這い出てきた。
「ゾンビか・・・。」
デュークが影を見ながら言う。
「ゾンビ!?」
優人が聞き返した。
確かに地面から出た人影はところどころ腐っていたり、体中を糸で繋げていたりしている。
パッと見、動きは遅い。
ドスッ!
優人が動くより先にデュークがグレートソードでゾンビを一体叩き斬った。
ゾンビは力なく吹っ飛ばされ、地面に倒れるがゆっくりとまた立ち上がった。
「優人、ゾンビは魔力供給を絶たれるまで動き続ける。
無力化させる為には、術者を倒すか、手足を切断するしかない。」
デュークが優人に言う。
「分かった!」
答えると優人は刀の柄に手を置き、ゾンビに向かって走っていく。
バシュッ!
優人はゾンビの両足を抜刀術で切断する。
ドサッ。
両足を斬られたゾンビは地面に落ち、地面を這いつくばりながら優人に近付こうとしている。
「優人、ヘルガラントへ行け。
こいつらを一々相手していたらキリがない。」
デュークがグレートソードを身構えながら優人に言う。
「分かった。助かる!!」
言うと、優人は納刀し、ヘルガラントへ駆け出した。
途中、何度かゾンビと遭遇するが、足を切断し、動きを封じながら優人はヘルガラントへ向かう。
ヘルガラントの前で、見覚えのある銀色の甲冑を着た女性の戦士がガラントと話をしていた。
「エナ?どうした?こんな所で?」
優人はエナに声を掛ける。
「あ。優人さん・・・。
街で突然ゾンビの集団が出現しまして・・・。
今、王宮の騎士たちで対処していますが、追いつかなくて・・・。」
エナが狼狽しながら優人に説明をする。
「ゾンビは突然街中で発生したのか?他に情報は!?」
優人はエナに状況を聞く。
「どうやら街中に無規則にゾンビが発生しているようです。
ゾンビは行方不明になっていた遺体が使われている事が分かっています。
第三勢力の噂が本当だったと言う事がこんな形で判明するなんて・・・。」
エナが申し訳なさそうに優人に言う。
「それより、大変だ!
虎がさっき来て、絵里に酒場を出るなとだけ言い残して街に出て行って、それを絵里が追いかけて行っちまった!」
ガラントが優人に緊急事態の報告をする。
「絵里が!?やはり虎が何か関係してたのか!?」
優人がガラントに聞く。
「そいつは分からねぇが悪い予感しかしねぇ!早く絵里を探してやらなきゃやべえぞ!!」
ガラントが優人に言う。
「絵里はどこへ行ったか分からないか!?」
優人はガラントに聞く。
「すまないがそいつは見当が付かない。」
とガラント。
「く・・・。」
手の打ちようが無く、優人は少し状況を整理する。
突然街の中に不規則に出現したゾンビの群れ。
ゾンビは術者を殺さないと動き続ける・・・。
動きが鈍く、戦闘としてはそんなに戦力にはならないが、しぶとさで足止めする事は出来る。
足止めが必要な理由とは何か?
第三勢力の総攻撃のタイミングで一早く絵里に外に出るなと言ってきた虎太郎は恐らく第三勢力の関係者。
虎太郎や第三勢力の狙いはなんだろうか・・・?
王宮の騎士たちは・・・街に繰り出してゾンビ討伐をしている・・・!?
王都に不特定にゾンビを出し、騎士が出払ったタイミングで王妃の首をとる。
第三勢力の狙いは国取りか!?
「エナ、王宮だ!!急ぐぞ!!」
言うと優人は王宮に向けて走り始めた。
「ええ!ちょ・・・ちょっと!!」
エナは優人を追いかける。
「王宮って・・・。王妃の首をいきなり狙いますか?普通?」
エナが走りながら優人に聞く。
「王宮にゾンビの出現は?」
優人はエナに聞く。
「・・・今の所報告はあがっていません!」
エナが答える。
「だったらほぼ確実だ。
ゾンビを街で暴れさせ、騎士を王宮から離れさせ、手薄になった王宮で王妃の首を取る。
城攻略の定石だよ。」
優人は走りながらエナに説明をする。
優人は脚力があり、エナは騎士で体力がある。
王宮の目の前で絵里に追いついたが、そこで絵里と優人達を切り裂くように、ゾンビの群れが突然湧き出す。
「わざとらしいな・・・俺と絵里を会わせたくないのか?」
焦れている優人はすぐに柄に手を置く。
「余計な詮索は後。まずはこいつらを片付けましょう。」
エナはスッとショートソードを抜いた。
・
・・
・・・
王宮の中は戦場痕が一切なく綺麗なままだった。
綺麗な絨毯。
きらびやかな装飾のされた壁。絵画。
本来であればゆっくり眺めて歩きたいところだが今の絵里にはそんな余裕がなかった。
虎太郎を追う事で頭がいっぱいなのである。
虎太郎は今日、急に用事が出来たと言って来た。
「今夜は危険じゃき、表に出るな。」
そう言って、虎太郎は王宮に走り出した。
絵里の心配をしていた虎太郎の顔はいつになく思いつめた顔をしていた。
あんなに強い虎があそこまで思いつめるなんて・・・。
絵里はなんとかして虎太郎を助け出したかったのである。
玉座に着くと、虎太郎が玉座に座っている黒ずくめのローブを羽織った男と対峙していた。
野太刀を抜き、身構えている。
殺気が部屋の中を充満してるかのように張りつめている。
「どういうつもりだ?虎太郎?」
黒づくめの男が玉座に座りながら虎太郎に話掛けてきた。
「俺は、理不尽な法体制が気に入らんと言うたがじゃ!!
それを増長させるような事をして金を稼ぐ亜人狩りが許せんと言うただけじゃ!!
この国や国民を巻き込むがはやめい言うちょる!!」
虎太郎が黒づくめの男に怒鳴るが黒づくめの男は口を緩ませ、虎太郎をあざ笑うかのように眺めていた。
「虎!!」
絵里が大声で虎太郎を呼ぶ。
虎太郎は絵里の声に気付き、顔を真っ青にする。
「絵里?なぜ来たがじゃ!?酒場から出るな言うたじゃろ!?」
虎太郎が構えを解き、絵里に気を取られる。
「あんたの・・・あんたの言葉が訛りすぎて意味が分からないのよ!!」
絵里が虎太郎に怒鳴り返す。
「言うとる場合か?」
虎太郎が呆気に取られながら絵里に言う。
「言うとる場合!虎一人に無理させて隠れてなんていられないもん!!」
絵里は怒りながら虎太郎の横まで歩いて来た。
絵里と虎太郎のやり取りを聞き、黒づくめの男は満足そうに立ち上がった。
「風水魔術師絵里。私は優秀なリッチが欲しいのですよ。
少女の怒り、失望、悲しみは我が主、イフリートの喜びとなり、憎しみが大きければ大きいほどリッチとなった時の魔力量は大きくなります。」
カルマはニヤニヤしながら絵里に言う。
「何が言いたいの?」
絵里はカルマから気持ち悪い空気を感じ取り、不快な気持ちになっていた。
「黒魔術の知識はおありですか?」と、聞くカルマに「ないわ。興味もない。」と絵里が即答する。
「まぁ・・・聞いて下さい。
リッチになっても成長は出来るんです。
ですから、魔訣さえ開いていれば魔法を使うリッチを作る事が出来るんです。
恨みが強ければより強い魔力を持って私の右腕にもなり得ます。
虎太郎は残念ながら剣士としては優秀ですが魔訣を開いていない為、いつまでたってもただの剣士なんですよ・・・。
もっとも、虎太郎はリッチでは無くただのゾンビですがね。」
カルマが絵里に機嫌が良さそうにリッチへの勧誘をしてくる。
虎太郎がゾンビ?
「何が言いたいの?気持ち悪い。」
絵里はカルマの発言をまともに聞き入れるのを止め、優人が来るまでの時間稼ぎをしようと考えていた。
「単刀直入に言います。
あなたをこれからリッチにし、私の奴隷として永遠に着き従ってもらいます。」
「断るわ。」
言うカルマに即答で答える絵里。
「リッチとは怨霊が具現化した存在。
それに肉体も付け加えた存在をノーライフキングと言います。
貴女の場合、肉体も綺麗ですし、少し手間が掛かりますが、ノーライフキングにして差し上げましょう。
ノーライフキングも、生前の、死の直前の感情によって魔力の量が変わって来るんです。
怒り、失望、悲しみ、憎しみ。
そういった感情が大きければ大きいほど素晴らしいノーライフキングが生まれるんですが・・・今は怒りの感情が大きいようですね。
・・・それに失望と憎しみもトッピングしてみましょう。」と、カルマ。
「え?」
絵里が聞き返す。
黒づくめの男は手をグッと強く握りしめた。
「ぐっ、ぐぐぐ・・・。」
虎太郎が突然心臓を押さえ、苦しみだす。
「虎!!」
絵里が虎太郎に駆け寄る。
しかし、虎太郎は絵里を遠くへ投げ飛ばし、野太刀を拾うと、カルマに向かって斬りかかる。
「ちぇええええええええ!!」
ズバッ!
虎太郎の野太刀はカルマの体を捉え、真っ二つに切り裂く。
真っ二つに切り裂かれたカルマの体は灰になり、宙を舞って一か所に戻る。
そして、灰は人の形を作り、カルマに戻る。
「フフフ・・・。
虎太郎、君の斬撃では私を仕留める事は出来ませんよ。
まぁ、もし、私を仕留めたとしても、魔力供給が途絶えた時点で、あなたは死にますしね。
私を殺すと貴方も死んで、貴方に恋心を持っている娘が絶望しますが、大丈夫ですか?」
カルマは楽しそうに笑いながら虎太郎を挑発し、再び手を強く握り締める。
「ぐ・・・。」
虎太郎が再び苦しみ始めた。
「虎!!」
絵里は虎太郎の名前を呼ぶと、カルマを睨み付け、魔力を溜める。
風は目に見えず、常に生物と共にある。
呼吸する事で命を育ませ、吹き荒れる事で全てを薙ぎ飛ばす。
そして、強く鋭く吹く風は切り裂く力・・・。
「エアカッター!!」
絵里は風の力を借り、手からかまいたちを作り出し、カルマに向けて飛ばす。
カルマは右腕を前に出し、何やら魔力を放出させる。
パァンッ
すると絵里の魔法が音を立ててかき消される。
「えっ・・・。」
魔法をかき消されるなんて思ってもいなかった絵里がまさかの事に青ざめる。
そんな絵里を見てカルマが微笑む。
「感じる・・・感じるぞ!!
怒りが絶望に変わりましたね!!」
興奮気味にカルマが手を振り上げ、魔力を溜める。
手からは黒い炎が現れ、その炎が絵里に向かって放たれる。
ダンッ!
虎太郎が、ダッシュで絵里を抱え、黒い炎から絵里を助けた。
「と・・・虎・・・ありがとう。」
絵里は虎太郎に礼を言うが、虎太郎がまた絵里を突き飛ばした。
突き飛ばされ、地面に尻もちを付く絵里。
「良いから逃げろ!!カルマは俺達で遊んじょるんじゃ!!
ジワジワ苦しめて良質のノーライフキングにしようとしちょるが!!」
虎太郎が絵里に怒鳴る。
「と・・・虎・・・。」
いつも優しい虎太郎に怒鳴られ、絵里の瞳に涙がこぼれ出した。
逃げたくない・・・。
逃げれば虎太郎が殺される。
でも・・・いても虎太郎がもっと苦しむ。
こんな状況を作り出しているカルマが憎い。
虎太郎をゾンビにしたカルマが憎い。
こんな時に助けに来てくれない優人が憎い。
無能な国が憎い。
こんな運命にした神が憎い。
・・・こんな時に役に立てない自分が憎い。
絵里の小さな体は、怒りと悲しみの感情で埋め尽くされ、プルプルと震えだす。
そんな絵里の元に虎太郎は駆け寄って来て、絵里の頭を軽くポンっと叩き、絵里の涙を拭う。
「絵里・・・大好きじゃ。頼むき・・・逃げてくれ・・・。」
虎太郎は痛みに耐えながら必死に笑顔を絵里に見せようとする。
「虎・・・逃げよ?」
絵里は精一杯の抵抗をしようとする。
「それは・・・だ・・・。」
パァン・・・。
虎太郎は言葉を話し終わる前に乾いた音と共に灰となり消えて行った・・・。
元虎太郎だった灰は空中を漂い、無造作に絵里に降りかかる・・・。
「と・・・虎・・・いやぁああああああああ!!」
絵里の悲鳴が王宮内に響き渡る。
「はははははっ!!
苦しかろう?辛かろう?
私を恨むが良い!!
怒るが良い!!
悲しむが良い!!
全てがお前の力になるのだ!!
足りなければゾンビにお前を犯させてから殺してやろう!!
失意の淵に全てを奪われて死ねば良い!!」
カルマが手を上げると、床から10体のゾンビが絵里を囲むように出現する。
絵里は虎太郎の灰にまみれ、カルマの言葉も耳に入らくなっていた。
体中が痺れていて思うように動かない。
頭も働かない・・・。
今自分が何故ここにいるのかさえもあいまいになってきた。
もう・・・どうでもいいや・・・。
救いようのない喪失感の中、絵里は考える事を止める事にした。
ビュン!!
そこに一筋の白く光る槍が飛んでくる。
槍に振れると同時にゾンビは一瞬で消える。
「優人・・・さん・・・。」
絵里は何も考えず、何気なく優人の名を呼ぶ。
見なくても分かる。
絶対に助けに来てくれる人だから・・・。
優人は歩きながら絵里に近づき、絵里の頭をポンっと叩く。
「やはりあなたですか?初めて会った時から嫌な予感がしていましたよ。」
カルマが優人に言う。
「カルマ・・・お前、むかつくな。」
絵里の頭から手を離し、優人もカルマを睨み付けた。
優人は天上界に来てから天上界の人間に悪意を感じたことは一度も無かった。
一番タチが悪いと思ったのは一緒に天上界に来た田中や伊藤。
しかしあの二人にも言い分はあるし、気持ちは分からなくも無いと思っていた。
デュークには心の底から同情の気持ちを持ったし、山賊達にも生きる為という大義名分はある。
しかし、このカルマはどうだろう・・・。
いたづらに人の心を弄び、傷つく人間を見て大声で笑う。
人として、心の底からむかつくと感じた。
王座は静まり返っている。
カルマは、にやにやとやらしい顔を優人に向けている。
絵里は元、虎太郎であった灰にまみれ、そのまましゃがみこんでいる。
表情は虎太郎が灰になる瞬間のまま硬直していたが、目からは遠くからでも見える位涙を流していた。
体がブルブルと震えている。
今の絵里の心理状況は、優人には容易に想像出来る。
優人も突然綾菜の位牌の前に座らされた時に経験しているからである。
頭が真っ白になり、何も考えられなくなる。
『死』って概念が分からなくなる。
・・・と言うか分かっているが、分からなくなろうとしている状態とでも言うのであろうか?
全身の力は入らず、苦しみが全身を覆う感覚に陥る。
息を吸う事も吐く事も出来ない。
後からやってきたエナは絵里の背中をさすっている。
優人は黙って歩きだし、自分が投げた槍を取る。
「お前は、何が狙いなんだ?」
優人は槍を肩に掛け、カルマに問う。
「俺は亜人を奴隷にしていた人間どもに復讐をしたいだけだ。
人間全てを殺し、ゾンビ奴隷にしてな。
そして俺が死霊国家の王になる。」
カルマは答える。
「悲しい王だな。」と答える優人に「貴様と問答する気は無い。」とカルマが答える。
カルマは両手を自分の胸の前で合わせた。
何らかの魔法を使う気だ。
優人はダッシュして抜刀をする。
ビュン!
優人の刀が空を斬る。
カルマの姿が消えた。
「ん?」
優人が振り向くと、さっきまで優人がいた場所にカルマがいた。
「高速移動の魔法だ。
私はもともとコウモリの亜人だったんだよ。
死んで自らを自らの魔法でノーライフキングにした。
これが吸血鬼の本質なのだろうね。
魔力は膨大にあり、コウモリの特性で超音波で敵の動きが分かる。
お前は私に触れる事すら出来ないと言う事だ。」
カルマが余裕の表情を浮かべながら優人に言う。
「関係ない。当たるまでやってやるよ。」
優人が刀を構える。
「待って!!」
エナが優人に駆け寄ってきた。
「なんだよ?」
突然話しかけてきたエナの方を優人は向く。
「暗黒魔法使いって自分の生命力か、殺された他人の魂をエネルギー変換させるの・・・。
ノーライフキングで生命力が無いあいつは、他人の魂を使って魔法を使ってる。
戦闘が長引けば長引くほどたくさんの魂が消滅するの。」と、エナ。
「消滅するとどうなる?」
優人が聞く。
「転生ができなくなるわ。
悪魔の食事にされて、完全に世界から抹消されるから。」
エナが真顔で優人に答えた。
優人はそんなの関係ないと言いかけたが、虎太郎の事を思い出す。
今さっき死んだので、虎太郎の魂もあいつの魔法の源になりかねない。
亜人狩りや虎太郎が殺した山賊の魂も全てカルマの気持ち一つで悪魔の餌になる。
人質のようなものだ。
暗黒魔術師・・・本当に下種な魔術師だと実感する。
「じゃあどうする?何か策はあるのか?」
優人は苛立ちを抑え込みながらエナに聞く。
「一瞬なら・・・あいつの動きを止める事が出来るわ。」
エナは自信が無さそうに答えた。
「上等だ。それで片づける。」
優人が答える。
優人が答えるとエナは目を閉じ祈りを始める。
神聖魔法を使うつもりだ。
実は先ほど優人はエナの神聖魔法を見た。
宮殿に入る前、ゾンビの群れに襲われた時、エナが優人の武器に『聖なる力』を付与してくれた。
これにより、ゾンビやリッチと言った、死後者に分類されている敵を強制的に浄化する事が出来たのである。
エナは祈りが終わると両手を上にあげる。
「ホーリーライト。」
エナの上げた手から白い球が現れ光を放つ。
「ぐ・・・。」
光が現れた瞬間、カルマが一瞬よろけた。
「今よ!!
この光は目に入った死後者全員の視力と行動を強制的に奪います!!
広範囲に聞く反面、効果は薄いから気を付けて下さい!!」
ザシュ!
エナが優人に言う前に優人はカルマの顔が引きつった瞬間にすでに動いており、エナが指示するときにはカルマの下半身と上半身が二つに分かれていた。
一度死んでるだけあってカルマの体から流れる血は止まっている。
上半身と下半身の切り口からはどろっとした血液がこぼれていた。
優人は納刀し、カルマの上半身の方に歩いて行く。
残心・・・。
武道、武術に身を置くものならば一度は聞いたことがある言葉である。
敵を倒した直後、油断すると手痛い反撃を食らう事がある。
倒した直後は油断せず、相手の息の根が止まった事を確認する必要があるのだ。
優人が近づくと、カルマの目がぎょろっと開き、優人を睨んだ。
優人は咄嗟にカルマから距離を取り、刀を身構える。
「ふっふっふ・・・良かったな?これでお前は英雄だ。」
カルマは真っ二つになった上半身で普通に話しかけて来た。
「何?」
優人は警戒を解かず、カルマの言葉に耳を傾ける。
「優人さん!!」
エナが突然優人に叫ぶ。
「ん?」
優人はエナの方を向く。
体が・・・動かない・・・!?
まさかの事態に優人が焦る。
カルマの方を向くと、斬ったカルマの上半身が宙に浮いている。
「ふははははっは!!
ノーライフキングとは、死後者の王と言う意味だぞ?
そんな簡単に仕留められると思ったのか?
まさか、聖騎士が本当に聖騎士だったとは恐れいったがな。」
カルマがエナを睨む。
「ジールド・ルーンは至高神ジハドの加護を受けた国。
聖騎士は全員、ジハドの司祭です!!」
言うと、エナはショート・ソードを抜き、カルマの上半身に斬りかかる。
キィン!
カルマが右腕を手前に出すと透明な膜が現れ、それに捕まったエナの突進は、金属音と共に止まる。
「くっ・・・。」
身動きが取れないエナがカルマを睨む。
「私を追って、シンがこっちに向かっているらしいですね?舐められたモノです。
300年以上事件を起こし続けているこの私をたった一人の戦士に任せるとは・・・。」
カルマがエナに言う。
「シン団長が来たら貴方なんて相手にならないわ。」
エナがカルマに言い返す。
「貴女のゾンビが相手でもシン団長には歯が立ちませんかね?」
カルマが不敵に笑う。
「不埒な!!私はジハドに祈りを捧げている聖騎士ですよ!!」
エナの顔が青ざめる。
「ジハドの聖騎士が我がイフリートのゾンビに成り下がるなんて、最高ではないですか!!」
カルマが興奮気味にエナに近づき、エナの頬を撫でる。
エナの顔が苦痛に歪む。
バシュッ!!
エナに気が取られ、優人の体を押さえていた魔力が弱まった。
その隙に優人が抜刀し、カルマの首を跳ねた。
カルマは虎太郎のように灰になり、宙を舞い始める。
「あっ・・・。」
カルマの魔力が切れ、エナの体も動くようになる。
宙を舞う灰は少し離れた所で一か所に集まり、人の形を成す。
そして、人の形はカルマへと戻った。
「まだ、優人さんの魔縛結界は解いて無いはずですが・・・?」
カルマが優人に聞いて来た。
「知らねぇよ。それより、戦闘中に少し油断し過ぎじゃねぇのか?」
優人がカルマに言う。
「優人さん・・・。」
エナが優人に近づき耳打ちをしてきた。
「死後者ってのはどうやれば倒せるんだ?キリが無いぞ・・・。」
優人も小さな声でエナに聞く。
「ノーライフキングは何度でも灰から復活します。灰を神の力で浄化しなければ・・・。」
エナが答える。
「じゃあ、もう一回あいつを灰にすれば良いのか?」
優人がエナに聞くが、エナは首を横に振る。
「私はピュリフィケーションは使えません。」
「じゃあどうする?」と、優人。
「ジールド・ルーンからシンさんが向かっているみたいです。
死後者退治と言う事はラッカス司祭も来てくれるはずですから・・・。」
「待てるか!!」
エナが答えるのを待たず、優人は刀の柄を持ちながら、カルマに突進する。
「!?」
優人の突然の突進に反応が追い付かず、カルマは一太刀で真っ二つに切り裂かれ、灰になる。
カルマの灰はまた遠く離れた所で一か所に集まり始めた。
優人は、その灰の所まで駆け寄り、灰の中に手を入れ、そのまま手を止めた。
「グフッ!!」
灰が集まり、人の形になると同時にカルマが血を吹き出し、また灰に戻った。
灰になったカルマは優人の腕を巻き込みながら人体化したのである。
当然、生き返ったと同時に体の中に優人の腕を含む事になる。
体の中に大人の腕程の異物があれば正常に戻れる訳が無い。
死後者と言えど、体は生者に近い規則に乗っ取っていると言う証拠である。
「優人さん!!なんて無茶を!!」
エナが怒りながら優人に駆け寄ってくる。
「無茶?」
優人が聞き返す。
「ノーライフキングはエナジードレインと言って、触れた者の魔力を吸うんです!!」
エナが優人に説明をする。
なるほど、道理で何か疲れた感覚がした訳だ・・・。
「しかし・・・どうしたものか・・・。斬っても斬っても終わらない。
常にあいつの心臓部に異物でも突っ込んでやれればな・・・。」
優人がエナに言う。
「あ・・・。では・・・。」
言いながらエナが右腕のガンドレットを外した。
「ガンドレット?」
優人がエナの行動にツッコミを入れる。
「ジハドの加護を受けた鎧の一部です。これを一度埋め込めば・・・。」
エナが優人に提案をする。
ふむ・・・。
確かにカルマを殺すとカルマの服も灰になっている。
灰になった時に体と接触していた無機物は体の一部として記憶すると言う仕組みなのだろうか?
試す価値はある。
もう一度優人がカルマを殺し、復活するタイミングでエナがカルマの体内にガンドレットを埋め込む。
無限に一人で蘇生と死滅を繰り返す。
地獄のような倒し方だが、それも自業自得だろう。
優人はもう一度柄に手を掛ける。
「ホーリーライト!」
エナがもう一度目くらましの魔法を放つ。
そのタイミングで優人も走り出す。
しかし、ホーリーライトも優人の突進も一度見ているカルマは、優人が間合いに入る前に高速移動を使い、優人の間合いから逃れた。
優人とエナから距離を取った場所でカルマが魔法の詠唱を行うと、黒い炎がカルマの手のひらに現れた。
「地獄の炎・・・。
優人さんその炎は触れれば、触れた者の魂を燃料に燃え続ける炎です!!
完全に避けて下さい!!」
エナが優人に言う。
カルマが優人に手を向け、黒い炎を飛ばす。
優人はその炎をかわし、一気にカルマと距離を詰めるが、カルマは高速移動でまた優人から距離を置く。
「逃げるのは予測済みだよ!!」
優人は背中に背負っていた槍に持ち替え、カルマに向けて投げる。
優人の投げた槍はカルマの心臓を貫く。
「ぐっ・・・。」
優人の槍を食らったカルマはまた灰になる。
「エナ!!」
優人が言うとエナは灰の動きを注意深く見、灰の集まる所を見定めると、そこに走っていく。
灰が集まり、人の形を成していく。
その人の形の心臓部にガンドレットを当て、心臓部に固定させる。
「かっ・・・。」
復活すると同時にガンドレットともどもカルマは灰になる。
そしてまた離れた所で灰は集まり、そして勝手に苦しみ、灰になった。
しかし、今度は灰は一か所に集まらず、宙を漂い続けていた。
やってくれましたね・・・。
一定時間以上私の魔力供給が途絶えるとせっかく作った可愛いゾンビ達もただの死体になってしまうんですよ・・・。
カルマの声が優人の頭に入ってきた。
どこぞの女神を名乗る痛い女と同じ、テレパシーだ。
「良い事じゃないか?お前も成仏しろよ。」
優人がカルマに言う。
成仏?
復活が出来ないだけで、私の憎しみが消える事はありません。
ここは引かせていただきます。
貴方は、これで国を救った英雄になるでしょう。
しかし、我ら亜人からすれば人間に復讐する私を止めた極悪人です。
貴方は善人では無い。悪人だ。
これで我ら亜人の未来は断たれたのですから・・・。
「知るかよ・・・。
剣術を道場で教わる時に、『斬る間合いは斬られる間合いと知れ。』と最初に教わる。
簡単に要約すると『殺される覚悟の無いやつは人を殺すな。』って事だ。
暴力反対と言いながら暴力で解決することの説得力の無さ。滑稽さが分かるか?
お前の正義も同じだよ。奴隷反対と言いながら奴隷を作ろうとする。
薄っぺらい。ガキの戯言を聞いてるみたいだ。」
優人はカルマに言い返すがカルマは何も答えず、灰は何処かへ消えて行った・・・。
優人は地面に落ちている槍を拾い、槍を確認する。
ガンドレットはカルマの体の一部として常に心臓にあり続けるのに、この槍は灰にはなっていない。
ノーライフキングの復活の条件がイマイチ納得出来ないが、倒せたのは間違いない。
優人は深く息を吸うと、絵里の方を見る。
絵里はまだ黙って震えていた。
優人は絵里の方へ歩いて行き、絵里の右肩を左手で抑えると、右手で強めに絵里の背中を叩く。
「かはっ。」
絵里が少しむせる。
「絵里。声を出せ!!」
優人が絵里の耳元で大声を出す。
「う・・・うわぁあああああああん!!」
絵里は、今まで出したくても出なかった分の声を一気に出すかのように大声で泣き出す。
そんな絵里を優人は力強く抱きしめる。
綾菜の時、こうしてくれる人は誰もいなかった。
優人は位牌の前で呆然と一人でいた。
綾菜の両親が病名や症状の説明をしてくれていたが耳に入らなかった。
そっとして置こうと言う言葉だけ残し優人を一人にした。
何時間綾菜の位牌を見つめていたか分からない。
どうやって綾菜の家から自分の家に戻ったかも記憶にない。
ただ、部屋にあった綾菜の使っていた枕に顔をうずめ、1人で声を殺して泣いていた。
これで絵里の心は救われるとは思わない。
これから絵里は優人が経験した、地獄の底のような毎日を過ごすのかも知れない。
救ってやりたいが方法が分からない。
虎も絵里も・・・救いたかった・・・。
優人は自分の非力さを痛感しながら、絵里をひたすら抱きしめていた。
それから1日が過ぎた。
あの後、絵里は熱を出した。
ヘルガラントまで連れて行くのも酷なので王宮の客間を一室貸してもらう事になった。
王都ではカルマの死により、魔力供給が途絶えたゾンビ達がつぎつぎに灰になり、消えて行ったと言う。
負傷者は数人いたものの、デュークとガラントが良い働きをし、さほど被害は大きくならなかったそうだ。
絵里の体調不良をデュークに伝えると、デュークはヘファイストスの世話等をヘルガラントにてすると引き受けてくれた。
優人は王宮に戻り、絵里の看病をしていた。
看病と言っても優人は何も出来ないので寝てる絵里の横に座っているだけだが・・・。
昨日からほとんど寝ていないので、絵里の寝るベッドの横の椅子に座り、優人もうとうとしている。
コンコンコン
優しく扉を叩く音がする。
「どうぞ。」
優人が声を抑えめに返事をすると、エナが部屋に入ってきた。
「優人さん。スティアナ王妃が優人さんに称号を授与したいとおっしゃっています。
これから王の間に来れますか?」
と、エナ。
今日は鎧を着けておらず、町娘のような恰好をしている。
元から美形の顔をしているが、質素な服を着るとその品の高さがなおさら際立つ。
「称号?あまり興味はないが・・・。」
優人が答えた。
「国を救ってくれた恩人です。
何もしなければ国の面子に関わります。
受け取って下さい。」
エナが優しい口調で優人に言う。
別に国の事を考えてやった事ではないのだが、ここで断ればエナも困ると思う。
優人は個人的にエナが嫌いでは無い。
優人はすっと立ち上がり、エナと部屋を出ようとする。
「優人さん。」
部屋を出ようとする優人に絵里が声を掛ける。
「絵里。気が付いたのか?」
優人は出来る限り優しく、落ち着かせるように気を使いながら絵里に話しかける。
「うん・・・。」
焦点が定まっていないのか、絵里はボーっと天上を見ていた。
「どうした?」
優人は絵里に聞く。
「優人さんの言う事、聞かなくてごめんなさい。」
絵里が優人に突然謝ってきた。
「何の事だっけ?」
優人は何の事か分からず、絵里に聞く。
「優人さん、昨日私に酒場を出るなって言ってた。
何か気づいてて、私を守ろうとしてくれてたんでしょ?虎みたいに・・・。」
絵里が上半身を起こし、優人に聞いて来た。
昨日の事・・・。
嫌な予感はしていたが、全てが分かったのは虎太郎が死ぬ間際だった。
優人は気づくのが遅れた事を絵里に詫びたいと思っていたが、絵里が先に謝ってきたので言葉を失っていた。
「でも、私、後悔はしてないよ。虎の最期に立ち会えたんだから。
大好きって言って貰えたし・・・。」
言う絵里の瞳から涙がこぼれ出す。
「そうか。お前は強い子だよ。」
良い言葉が思い浮かばず、優人はパッと出た言葉をそのまま口にした。
「称号。受け取って来るの?」
少し乱れた呼吸を整え、絵里が話を変える。
「ああ。すぐ戻るから寝てろ。」
優人が絵里に言う。
「うん。そうする。」
優人とエナは絵里が布団に潜るのを確認して部屋を出る。
王の間に着くと、体の小さな女性が、昨晩カルマの座っていた椅子に座っていた。
この国の王は女性だと言うのは聞いていたが見るのは初めてだ。
思ったよりも小柄で利発そうな感じがする。
「エナ、ご苦労じゃった。お主が優人と言うのか?
思ったより華奢じゃの?」
王妃が優人を見て、楽しそうに言ってきた。
あんたも小さいがな。
優人は心の中で突っ込む。
「それより、昨日はどちらへ?
ご無事で何よりですが、王宮に暴漢の侵入を許してしまう警備体制は今後、課題にした方が良いかと・・・。」
優人は苦言を申し立てる。
「そこは・・・問題無いと言うか・・・問題外と言うか・・・。」
優人の苦言に何故かエナが申し訳なさそうに優人に答えようとしてきた。
「問題外?」
優人はエナに聞く。
「街に出とった。ゾンビ狩りじゃの。」
王妃はニコニコしながら優人に言う。
「はぁ!?」
信じられない王妃の発言につい優人が聞き返す。
「スティルは王宮にいろって言っても聞かないんですよぉ~・・・。」
エナが両手で顔を覆いながら優人に話す。
「かっかっか!!海賊の娘に常識なぞあるものか!!」
そんなエナを見て高笑いをする王妃。
そう言えば、この国は元海賊の国だった・・・。
そこの王妃と言う事は海賊の娘だ。
だから優人が王宮へ行くと言った時にエナが驚いていたのか・・・。
国盗りを目論んだカルマも王妃がこんなんだとは思いもしなかったんだな・・・。
「心中お察しいたします。」
優人がエナに言う。
「改めて紹介しよう。わらわはスティアナ。
世界を股に掛ける最大規模の元海賊団団長、ジークフリードを父に持つ。
得意の武具は弓系じゃの。側近にはスティルと呼ばせておる。お主もそう呼ぶが良い。」
スティアナが自己紹介をしてきた。
「初めまして。スティル。俺は優人。
神隠し子で今、旅を始めたばかりだ。
称号をくれると言う事だけど、どんな称号なのかな?」
絵里が気になる優人は話を早く切り上げようと思い、本題を切り出す。
「ふむ。そうじゃの・・・。」と、スティアナ。
今回の件で優人が受けた称号は『ナイト オブ フォーランド』と言う。
フォーランドにおける騎士の最上級の称号らしい。
この称号を持つ者はフォーランド内の全ての宿泊施設、公共機関の利用が無料になる。
また、これは優人に関してのみの特例だが、どこに行くにも自由であると言う事だ。
元来、フォーランドの騎士はフォーランドに滞在しておくものだが、優人は綾菜を探す目的があると言う事情がある。
その為、どこにでも好きに行っても良いと言う事に決まったとの事だ。
また、シルフの瞳に追加能力を付け、優人の受けた依頼はスティアナにも分かるようになった。
これにより、優人がどこにいても酒場に行けばだいたいの居場所が分かるらしい。
そして、この称号獲得により優人に国籍も出来た事になる。
優人に何かあった時の身柄受け取りがここフォーランドになったのだ。
また、絵里にも『自由宮廷魔術師』と言う称号が与えられる。
条件は優人と同じである。
優人が称号を受け取り、絵里の部屋に戻ると、絵里は布団の中で起きていた。
「お前、大丈夫か?」
優人は絵里の体の心配をする。
「いっぱい寝たから寝付けないの。体は怠いけど。」
絵里は健気に微笑んで見せる。
「そか。」
優人も少しでも元気に振る舞い、絵里のベッドの横の椅子に腰かける。
「ねぇ、優人さん。」
座る優人に絵里が話しかけてきた。
「ん?」
優人は何気なく返事をする。
「幕末の話、聞きたい。虎の生きた土佐とか・・・。」
絵里が目を輝かせながら優人に頼んで来た。
「中学校の授業でやったろ?」と、優人。
今、虎太郎の話をするのは絵里に良くない気が優人はしている。
「ああいう上辺だけのじゃないやつ。
例えば、私、大政奉還の話を優人さんが虎に話した時、何故虎があんなにはしゃいだのか分からなかったの。
大政奉還って幕府が政治を朝廷に返したんでしょ?虎には関係ないじゃん?」
絵里は上半身を起こしながら、優人に言う。
「なるほどな。
それを知るには、関ヶ原の戦いの話と、土佐藩の身分制度と郷士の立ち位置を知る必要があるな。」
なんだかんだで優人は頼み込んでくる絵里には敵わない。
優人は絵里に答える。
「それを知りたい。」
目を輝かせる絵里に優人は「分かった。」と答え、話を始める。
優人は絵里に関ヶ原の戦いの発端を説明し、負けた西軍の末路と勝った東軍の支配の話。
江戸幕府と幕藩体制の始まりの説明をしてから土佐の身分制度の厳しさ、そこから生まれた虎太郎たち郷士の積年の恨みの話を聞かせた。
そして幕末の混乱。
虎太郎が神隠しにあった頃に起こった、長州藩の御所焼き討ちと薩摩の対応の話等を聞かせる。
そして、最後は虎太郎と同じように土佐で苦しめられてきた土佐脱藩浪士2人が大政奉還の立役者になったと言う話。
同郷の仲間の活躍に興奮するのはスポーツで自分の国の応援をするのに近い感情ではないかと優人は思う。
優人は説明に熱を持つが、気付けば絵里はすやすやと寝ていた。
そういえばこいつ・・・前に学校の授業を子守唄とか言ってたな・・・。
優人は一度ため息を着き、絵里の横の椅子で眠りに着いた。
翌朝、優人は椅子の上で目が覚める。
絵里はまだベッドですやすや寝息を立てている。
昨日の話はどこまで聞いてたのかな?
続きを聞かせろと言われた時に話が被ってもつまらないので優人は少し気になっていた。
・・・と言ってもそもそも優人の話がつまらないから寝てしまったのだろうから関係ないが・・・。
優人は絵里を寝かしたままヘルガラントへデュークとヘファイストスの様子を見に行く。
ヘルガラントに入ると、カウンターでデュークと、エナ、スティアナが話をしながら食事をしていた。
「やはり、飯は庶民のものに限るのぉー。
宮廷の食事は品が良すぎて食った気がせぇへん。」
少しなまりのある話し方でヘルガラントの朝食を褒めているのがスティアナである。
スティアナは王妃と言う割にはかなりがさつだ。
長く伸びた髪はぼさぼさで伸ばしっぱなし。
話し方もエナのように気を使った話し方をせずにほぼすべての発言がど直球である。
逆に表裏が無く、優人は人間的にはかなり信用はできると思っている。
「そいつはうちの飯が下品だって言ってるのか?」
褒め言葉に皮肉を返すのはヘルガラントの店主、ガラント。
「ふぇっふぇ。上品な食事が主に作れるかの?」
ガラントの皮肉に皮肉で答えるスティアナ。
この2人は昔馴染みなのだろうか?
「作る気ねぇよ。」
つっけんどんに返すガラント。
「作れんのじゃろ?」
懲りずにまだ挑発を続けるスティアナ。
「今後てめぇが来たら綺麗な平皿にちょっとづつしか食いもん盛り付けねぇからな。」
我慢の限界が来たのか、ガラントがスティアナに言い返す。
「その分安くせぇよ。」
スティアナは怒るガラントに楽しそうに答える。
「王族がケチな事言うな。」
ガラントがグラスを拭きながら言う。
ガラントとスティアナはどうやら昔馴染みのようだ。
意外な2人の会話に少し驚くが、優人も会話に割って入る。
「朝からすっ飛ばしてるな?王妃も王宮より酒場派なんですね?」
優人が声を掛けるとスティアナは振り向く。
「おお!優人ではないか?ちこうよれ。つか王妃とか呼ぶな。
わらわもお主をナイトオブフォーランドと呼ぶぞ?」
「悪かったスティル。称号で呼ぶのは勘弁してくれ。」
優人はスティアナの横に腰かけながら話す。
「おい。優人。称号獲得おめでとうな。ほれ、朝食。」
ガラントが優人に食事を出してくれた。
優人は食事を食べ始める。
「お前・・・このままフォーランドに留まるんじゃないのか?」
ガラントが食事を食べている優人に話しかけてきた。
「ああ。昔死別した彼女を探す旅を続けたいんだ。
絵里も地上界に戻してやりたい。」
優人は食事をしながらガラントに答える。
「当てはあるのか?」と、ガラント。
「まったく。」と、優人。
「お主。少し冷静に考えるが良いぞ?」
スティアナが優人とガラントの会話に割って入る。
「ん?」
優人はスティアナに聞き返す。
「地上界がどうなのかは良く知らんが、天上界の世界は途方もなく広いぞ?
どこにいるかも知らん女を当てもなく探すなんて、見つかる可能性は無いようなもんじゃ。
そもそもこのフォーランド国内の人間は全員確認したか?」
スティアナの言葉に優人の動きが止まる。
地上界の、例え国内だけと絞ったとしても特定の一人を見つけ出すのはかなり至難の業である。
しかも、今回はいるかも分からない一人を探すことになる。
気が長いとかと言うレベルの話ではない。
優人は正直見つからない事も覚悟している。
可能性は低くても、綾菜がいるかも知れない世界は綾菜がいない世界よりは魅力的である。
この世界で綾菜を探すと言うのは半ば死ぬまでの時間稼ぎ位のつもりである。
しかし、そんな本音を口には出したくない。
かと言って適当な返事をすれば本音がバレると優人は思い、言葉が詰まった。
「あ・・・優人さん?
でも、可能性はあるかも知れないじゃないですか。」
エナが必死にフォローを入れようとしてくれる。
「エナよ。勇気づけるのが必ず優しいとは限らんぞ。
無茶なのは早めに止めさせるのも優しさじゃ。
時が経てば経つほど諦めがつかなくなるのじゃからな。」
スティアナがエナを窘める。
スティアナは中々にカンの鋭い女だと思う。
地上界で死んだ綾菜を諦めきれず、ダラダラと引きずった挙句が今の優人なのだ。
言うなれば、もはや手遅れな所まで時間が経っている。
「でも・・・。」
エナがスティアナの言葉に困惑する。
「フォーランドの神器があるじゃねぇか?」
そこに助け船を出したのはガラント。
「ガラントさん!それは単なる伝説の話です!!
優人さんは分別が無いんですから変な事言わないで下さい!!」
エナが立ち上がりガラントに文句を言う。
分別が無い・・・。
カルマ戦の時にカルマの灰の中に腕を突っ込んだ事をエナは言っているのだろう。
それにしても根に持ち過ぎだ!!
「伝説は意味なく出来たりはしねぇ。ある可能性もある。」
ガラントがエナに言い返す。
「ない可能性もあります。」と、エナ。
「だったら証明するしかねぇだろ?」
ガラントが挑発するようにエナに言う。
「無いと言う証明は出来ません。」
エナがガラントを睨み付け、本気で言う。
「エナよ?無いと言う証明はそれを必要とする人間が諦めた時に決まる。
そいつが納得するまで止まれねぇよ。それが人の心だ。」
ガラントはいかにも冒険者らしい名言を返す。
「神器って何?」
優人は2人の喧嘩を止める為に、ガラントに話を振る。
「フォーランドの大森林地帯に『遠き心の大鐘』って言う神器があるって伝説だ。
この神器は相手を思って鳴らすとその相手に鐘の音が届くって言う神器だ。
場所も時間も関係ねぇ。ただ、相手に鐘の音が届くだけだから、鐘の音の意味を考えてくれるかはその人次第だがな。」
ガラントが無責任な事を言う。
相手を思って鳴らす鐘・・・。
優人は地上界で綾菜と鳴らしたことがある。
それは相手に音を届けるのではなく、相手の幸せを願うものだったが・・・。
東京湾に浮かぶ小さな島で優人は綾菜にプロポーズをした。
優人の生まれた県。
綾菜の生まれ、育った都。
2人が出会った県。
全てが一望できるそこで将来の約束をしようと思った。
そこには『幸せの鐘』というのが置いてあり、プロポーズの後に2人で鳴らした。
その時、音が思ってたよりもでかくて恥ずかしかったのを覚えている。
「鐘・・・か。良いな。」
優人は遠き心の大鐘に興味を持った。
「ちょっと!!大森林地帯はフォーランド国内で一番危険な地域よ!?
ひたすら無規則に落雷があって、神獣『麒麟』もいるとかって噂なの。
雷とその雷の塊みたいな神獣が相手なのになんとかなると思ってるの?」
エナが必死に優人を説得しようとする。
「別に戦わないし。鐘見つけて鳴らすだけだし。
運が良ければ行けるでしょ?」
優人がシレっと答える。
「落雷の雨の中を何日も歩くのよ?」
と、エナ。
「当たらなければ良くない?」
優人が答える。
「それが無理だって話をしてるんです!!」
エナが必死に優人を止めようとするが、優人はもう止まる意志はない。
行く以外の選択肢が頭の中に無いのである。
2人の間に今度はスティアナが割って入る。
「ふむ。ちょうど良い話じゃの。遠き心の大鐘は国宝でもでる。
それが伝説で見た者がおらんというのは、国の威信にも関わると思うの。
そこでどうじゃ、ナイトオブフォーランド。お主に遠き心の大鐘の捜索を依頼する。」
「ん?そんなもん言われなくても行くぞ、俺は。」
優人は何故か倒置法を使って答えた。
「相分かった。しかし問題があるの・・・。
ナイトオブフォーランドが国務を実行するにあたり、地理が分かる者がおらん。
一人優秀な騎士を知ってはおるのだが・・・。」
そう言ってスティアナはエナの顔をチラッと見る。
なるほど。
スティアナの狙いが読めた。
遠き心の大鐘捜索にエナを行かせるつもりである。
この王妃は本当に人情のある人だ。
優人はスティアナ王妃が王として少し好きになった。
「ちょっ・・・分かりましたよ!!行きますよ!!」
エナが怒り気味に優人の同行に賛成してくれる。
「おお。それは良かった。エナよ。
亜人狩りや第三勢力により国は被害を受けておるが、立て直しはわしらに任せて、全力で優人を援護するのじゃ。
必要装備等も国の経費で出す。いくらかけてでも万全の状態で臨んでくれ。」
スティアナがエナに正式に触れを出した。
「はい。」
諦めたエナは開き直ったのか、凛とした態度で返事をした。
「そして優人よ。デュークと言う元山賊と馬車も王宮に移動させい。
お主らはもはや国賓じゃ。こんな品のない酒場においとく訳にいかん。」
スティアナがガラントを見ながら言う。
「下品で悪かったな。」
ガラントがスティアナにボソッと文句を言う。
そして優人はデュークと馬車を王宮に移動させる。
デュークはグリンクスに行きたかったらしいが、今の絵里をほっておくわけにも行かないので、優人が戻るまで王宮で絵里の面倒を見てくれることになった。
本当にデュークは良い人だと優人は思う。
一通りの移動が済み、優人は絵里に挨拶に行く。
「絵里。ちょっと遠くまで鐘を鳴らしに行ってくる。」
「鐘?そんなもん鳴らしてどうするの?」
絵里は明るく優人に答える。
心配を掛けまいと健気な振る舞いだ。
14歳でこういう気遣いが出来るのは立派だと感心する。
「昔死別した彼女に聞こえるかもしれないんだ。
絵里も連れて行きたかったけど、まずは養生しなきゃな。」
言う優人に、絵里は少し寂しそうな顔をするが、すぐに笑顔に戻す。
「優人さん・・・彼女さん死別してたの!?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
優人はてっきり絵里に話したと思っていたが、話していなかったようである。
「まぁ・・・今更細かい事は気にはしないけど・・・。無理はしないでね?」
と、絵里。
いつもの絵里ならばもっとぐちぐち言って来るだろうがまだ本調子ではないのだろう。
何とかしてあげたいが今はそっとしておくのが良いのだろう。
「安心しろ。今回はエナもいるから。なんか機嫌悪いけど・・・。」
しかめっ面を見せる優人に、絵里は「ははは」と声を出して笑う。
エナの機嫌が悪い理由に検討が付くのであろう。
優人が絵里の元気そうな顔に安心して部屋を出ようとすると、絵里が優人を呼び止めた。
「優人さん。この刀も持って行ってもらえないかな?」
絵里はベッドの横に立てかけてあった虎太郎の刀を指差した。
「そいつは虎の形見だろ?お前が持ってろよ。」優人が答える。
「虎が言ってたの。私に武器を持たせたくないって。
だから、刀を大切に使ってくれる優人さんが持ってるのが一番だと思うんだ。」
と、絵里が言う。
虎太郎の気持ちは分からないでもない。
優人も恐らく同じことを絵里に・・・綾菜に望むだろうと思う。
優人は虎太郎の刀、『一虎』を手にする。
ずっしりと重たい。
そもそも野太刀とは、斬馬刀と同格と言われるほどでかい幅広の刀である。
馬を斬る為の刀が斬馬刀で、騎乗しなら斬る刀が野太刀であると優人は認識している。
虎太郎の使う薩摩示現流は一撃必殺の流派だから扱えるだろうが、優人の細かい斬り返しを使う戦術には向かない。
体の負担の方が大きいのである。
こんな刀、幕末でも持ち歩く人間はそうはいないと優人は思う。
そう考えると虎太郎は優人同様かなりおかしなポリシーを持っていたと感じる。
優人も槍剣二刀流などと変な戦闘方法を実践しようと試行錯誤しているからだ。
この話を絵里にしようか一瞬悩んだが、まだ時期ではないと思い、留まる。
「絵里。虎、借りて行くぞ。俺が使うがお前の刀だ。」
言うと優人は一虎を背負い絵里の部屋を出て行った。
その後、優人はエナと合流する。
エナは教会で神に遠出の挨拶をしていたようである。
この世界の宗教は地上界とは少し違う。
神官は週に1回、必ず神に祈りを捧げ、自分の魔力を神に与えるらしい。
そして、その恩恵として神聖魔法の力を借りるのである。
今回のような遠出で、魔力供給が出来ない時は、1度教会にて神に慈悲を請うのがルールであるらしい。
優人は神官には絶対になれないと思った。
そんなまめではない自身がある。
二人はまず、装飾品店行った。
優人はアクセリーの類はあまり付けないのだが、宝石に色んな魔力が付与できると言う事でエナは優人を装飾品の店に案内したのだ。
ここで『風の首飾り』と『耐雷の腕輪』と言う装飾品を買ってもらった。
風邪の首飾りは自身の周りに風が舞い回避率を高める装飾らしい。
接近戦ではあまり意味が無いが、遠距離の攻撃には有効に働く。
これがあればただの弓矢程度なら何もしなくても当たらないようである。
関所攻めの時に欲しかったと少し後悔する。
耐雷の腕輪は文字通り雷に対するダメージをかなり軽減する腕輪らしい。
もっとも軽減するだけで強すぎる落雷レベルの電撃は痛いでは済まされないので安心しすぎない事。
後、雷による熱や火事には意味が無いので気を付ける事を忠告される。
ここに来て優人の装備はかなり充実してきたと感じる。
武器は居合刀とメシュール銀のショートスピア。
それと虎太郎の使っていた野太刀『一虎』。
これは絵里が優人に使ってくれと渡してくれたので、予備装備として背負っている。
防具は居合袴に具足。フード付きマントと耐雷の腕輪と風の首飾りである。
準備が終わり、二人は大森林地帯へと歩み出した。