第五十六話~フレースヴェルグ討伐戦~
「えっ!?首なしの巨人!?デュラハンなの!?」
突如現れたフレースヴェルグを見上げながら綾菜が言う。
オレイアの死後、急速にどこかへ伸びていった触手がどこからか死体をとりこみ、大きな体を形作った。
所々が燃えている事から恐らく先ほど燃やした遺体を取り込んだのだろうと想像が付く。
「違う。未完全体のフレースヴェルグだ。」
優人が綾菜に答える。
「あのぶってぇ腕はかなり力が有りそうだな。
力技じゃあ歩が悪すぎるか・・・。」
シンがぼやく。
「何とか首の辺りにある魔剣を取り除きたいんだが・・・。」
優人が呟く。
「考える時間はそんなに稼げねぇぞ。」
言うとシンがシールドとソードを身構え、10メートルを越える大きさのフレースヴェルグもどきに立ち向かう。
シンに恐怖と言う言葉は無いのか?
本当に勇敢な戦士の姿に優人は少し感動すらする。
「ぐおおおおおっ!!」
シンが雄叫びをあげ、フレースヴェルグもどきの右足に体当たりをする。
ズズッ・・・。
シンの強烈な体当たりにフレースヴェルグの右足が少し押される。
「ガァアアアア!!」
フレースヴェルグは雄叫びをあげながらシンに大きな腕を振り下ろす。
ガンッ!
シンはフレースヴェルグの一撃に合わせ、シールドを頭の上に構えて防ぐ。
「くっ。」
シンの顔が苦痛に歪む。
「ガアアアア!!」
フレースヴェルグは右腕をどかしながら左腕でシンをはたく。
ドンッ!!
頭の上にシールドを構えていたシンの防御は間に合わない。
シンは左腕の一撃が直撃し、そのまま吹っ飛ばされた。
神殿の壁に激突したシンにフレースヴェルグの追撃は止まらない。
シンのいる壁まで走り込みながら右腕からの一撃を放つフレースヴェルグ。
ドォン!!
フレースヴェルグの一撃はシンに直撃し、シンは壁の中にめり込んだ。
「シン!!」
優人はシンの名を呼びながら走り始める。
「ゆぅ君!!」
それを綾菜が呼び止める。
優人は足を止めて綾菜の顔を見る。
「シンさんはゆぅ君が策を練るために時間を作ってくれてるの!!
無策で動かないで!!」
綾菜の言う事はもっともである。
この一声で優人の頭がまた回り始めた。
「策ならある。とっておきがまだ残ってるんだ・・・。
ただ、その為にはシンをフリーにさせなきゃいけない。」
優人が綾菜に答える。
「とっておき?」
「ああ。まず、今のフレースヴェルグの状況を説明する。
簡単に言うと、奴はまだ完全体じゃない。
顔が無いから視覚も聴覚も持ってないんだ。
だから攻撃を仕掛けてきたシンにしか反応出来てない。」
優人がまず、フレースヴェルグの状況を綾菜達に説明した。
綾菜、ミラルダ、エナ、スティアナは黙って頷く。
「そして、これから俺達がやるのはシンの解放。
その後、時間稼ぎだ。
シンが解放したらすぐにシンを回復させてシンに必殺技を使って貰う。
シンの必殺の一撃ならばフレースヴェルグを打ち取る可能性もあるが、念のため綾菜とミラルダでフレースヴェルグの首部分にある剣を吹っ飛ばす魔法を使ってくれ。」
「その魔法ために私達は距離を置いても良いのかな?」
綾菜が優人に聞く。
「ああ。剣さえもぎ取れれば、その剣の触手を切断しながら封印する手立てを・・・。」
と、言い、優人はエナの顔を見る。
「有りますよ。私の力だったら応急処置程度ですが・・・私が止めてる間にラッカス司祭を呼んできて頂ければ何とかなるはずです。」
エナが優人に答えると、優人は頷き、そしてフレースヴェルグの方を向く。
「3人が魔力ためで動けんとなるとわらわと2人じゃの?行けるか?」
その優人の横にスティアナが立ち、聞いてきた。
「フレースヴェルグは視覚が無い。
攻撃を受けたら攻撃を仕掛けた方向に反応する。
攻撃したらその場を離れるのを怠らなければ何とかなるだろう。
スティル相手に俺が心配するまでも無いだろ?」
優人がスティアナに言うとスティアナは「カカカ!」と声を出して笑って見せた。
「わらわも女子ぞ?男子の優しい言葉でやる気を出すとは考えんのか?」
スティアナが優人に文句を言う。
「頑張ったら、頭撫でてやるよ。」
優人は刀に手をかけながらスティアナに言う。
「そんな真似したらけつに矢を刺してやるがの。」
「じゃあどうしろっつーんだよ!」
優人はスティアナに文句を言うと同時にフレースヴェルグに向かって走り出す。
近すぎるとかわしきれない可能性がある。
優人は最速で抜刀をし、赤いかまいたちをフレースヴェルグに向けて放った。
バシュ!!
優人の放った斬撃はフレースヴェルグの膝の後ろを切り裂いた。
「ガァアアアア!!」
フレースヴェルグは振り返り、優人のいたところめがけて拳を振り下ろす。
しかし、優人は斬撃を放った直後に移動している。
フレースヴェルグの一撃は誰もいない床を破壊した。
「シン!生きてるか!?」
優人はシンを大声で呼ぶ。
ボコンッ!
壁にめり込んでいたシンはフレースヴェルグの腕がどくと、壁の中から自力で抜け出してきた。
ボロボロ・・・。
壁からシンが出てくると、シンの来ていた鎧が崩れて地面に落ちる。
「聖騎士の盾も鎧もここまで砕かれたのは初めてだが・・・。
生きてるさ。何とかな。」
何故生きてるんだよ・・・。
と一瞬ツッコミたくなったがそんな状況でもない。
とりあえず、優人は少しホッとした顔を見せた。
「話は聞いていた。ドラゴンクラッシュだな?
回復はいらねぇ、次の一手の準備をしろ!
優人、スティル!!30秒だ!持たせろ!!」
言うとシンはロングソード身構え、力を溜め始めた。
ここでスティアナがフレースヴェルグの左腕の肩を狙って弓を射る。
トシュッ!
スティアナの狙い通りに矢はフレースヴェルグの左肩に突き刺さる。
案の定、フレースヴェルグはスティアナのいた所目掛けて攻撃を仕掛けるが、そこにはスティアナはもういない。
左腕の動きが矢のせいで鈍って見える。
つまりは体がでかいだけで人体の構造は似ている。
「スティル!足の付け根を狙ってフレースヴェルグの移動速度も頼む!!」
言うと優人はフレースヴェルグに近付き、動きの鈍い左腕に一撃入れ、そしてすぐに離れた。
優人が斬った場所からは触手のようなものが出ていて血は流れない。
切断系の攻撃は触手によってすぐに治されるようだ。
この触手はフレースヴェルグの体を結び付ける楔のような役割りと体を動かしている筋肉のような物であるとこれで想定できた。
小手先の攻撃ではフレースヴェルグにまともなダメージは与えられない。
連続攻撃を仕掛けたい所だがフレースヴェルグに捕まれば優人やスティアナは一撃で死ぬ。
あれだけ攻撃を食らって生きてるシンが異常過ぎるのだ。
慎重に距離を取りながら、動きながら、フレースヴェルグの意識をこちら側に向けさせる。
これしか、今の優人達に出来る事は無かった。
「さて・・・。ゆぅ君達が頑張ってるうちに私達も魔法の準備をしないとね。
私の爆発系魔法はダグフレアかな?
座標指定が苦手だからあにゃ、ゆーにゃにやらせるけど・・・。」
綾菜がミラルダに言う。
「私もダグフレアですね。
ただ、私も爆発座標が見えないと外しちゃいますので、上空から撃ちます。」
ミラルダは日が登り始めている空を見上げながら綾菜に答える。
「まっ、爆発ならダグフレアか。」
言うと、綾菜はあにゃとゆーにゃを召喚した。
「最近・・・俺を爆破するために呼んでる気がするデシ・・・。」
ゆーにゃが不機嫌そうに現れる。
「ま、まぁ、そもそも2人のパペットゴーレムを作ったのが、座標魔法が苦手だったからって言う理由だし・・・。」
綾菜がゆーにゃに言う。
「ゆーにゃは綾菜の魔力をそのまま座標まで運べるから、仕方ないですわ。」
あにゃが綾菜のフォローをする。
ミラルダはクスッと頬笑むと空に向かって指笛を鳴らした。
少しすると、遠くから「キィッ!」と言う鳥の鳴き声がし、上空に大きな鳥が現れた。
ミラルダの相棒のウエイブである。
そのウエイブを見て優人はギョッとする。
フレースヴェルグは頭が鳥なのだ。
その背には鳥の翼もある。
未完全体のフレースヴェルグの足りない部分を持った巨鳥。
それがウエイブだ。
「綾菜!ミラルダ!!ウエイブを近付けるな!!」
優人は大声で2人に叫んだ。
しかし時遅く、フレースヴェルグの触手はウイングに伸びる。
視界が無いはずのフレースヴェルグなのに、何故かウエイブに対してだけは確実に迷いなく触手は伸びていった。
「キィイイイイッ!!」
ウエイブは自分に絡み付く触手を必死に振りほどこうと暴れている。
「どけぇえええええ!!」
そのタイミングでシンのドラゴンクラッシュの準備が整った。
「シン!!体を!!」
優人はシンに指示を出すがそれも手遅れである。
シンの剣から大きな衝撃波が飛び、フレースヴェルグに直撃する。
その衝撃波は当然、ウエイブも巻き込んだ。
ドォオオオオオオオン!!
凄まじい爆音と共に爆風が入り交じる。
こんな衝撃波をまともに食らって立てる奴なんていない。
吹っ飛ばされながら優人は勝利を確信し、むしろ巻き込まれたウエイブの生存が気になっていた。
ゴォォォォォォ・・・。
凄まじい風は一向に止むことが無く、シンの衝撃波が止んでも吹き荒れていた。
どうしたんだ?
吹っ飛ばされた優人は体制を整えながら、フレースヴェルグの方を見る。
そこには、鳥の顔と翼を生やした8メートル程位の巨人が立っていた。
羽はウエイブの体から生えている。
まだダウロ・エシの絵画にあったフレースヴェルグにはなってはいないが・・・。
「嘘だろ・・・。」
優人はつい言葉が溢れた。
「フレースヴェルグが・・・、復活・・・したの?」
綾菜も顔を青ざめている。
「ウエイブ・・・。」
ミラルダがフレースヴェルグに飲み込まれた相棒の名を呼ぶ。
「くそ・・・、風が強すぎて上手く動けねぇが、まだ終わらねぇか・・・。」
シンがロングソードを身構える。
フレースヴェルグもシンを睨み付けていた。
「待って!!一時撤退しましょう!!」
まだやる気満々のシンにミラルダが叫ぶ。
「無理だ!!
ここをどこだと思ってる!!
王都でどこに撤退すんだ!?」
シンがミラルダに怒鳴り返す。
確かに、ここはグリンクスの王都『グリトルン』にあるフレースヴェルグ教団の神殿だった場所である。
ここで優人達が撤退をすればフレースヴェルグは街を襲う。
しかし、フレースヴェルグに違和感もある。
首が無かった時より少し体が小さくなっているのだ。
何故少し小さくなったのか?
その理由に勝機がまだ有るような気がする。
しかし考える時間は無く、フレースヴェルグはシン目掛けて拳を振り上げた。
シンもその攻撃に備えて身構えようとする。
・・・はずが、そのまま無防備でフレースヴェルグの一撃を食らい、吹っ飛ばされた。
えっ!?
シンらしくないミスに優人が唖然とする。
「ミラルダ!!」
遠くで綾菜がミラルダに怒鳴っていた。
フレースヴェルグは吹っ飛ばされて倒れているシンに追撃をしようと走り出していた。
「ダメなの・・・。ウエイブを・・・傷付けないで!!」
ミラルダが怒鳴る綾菜に答えた。
ミラルダがシンの動きを封じたのか?
ミラルダを説得すべきか、シンの援護に入るべきか、優人は自分の行動をどうするべきか迷っていた。
「グエェェェェ!!」
フレースヴェルグの強烈な一撃がシンに直撃をする。
シンは未だに体を動かす事が出来ず、無防備な状態で攻撃を食らっていた。
盾も鎧もない。
普通の人間ならとっくに死んでいるはずの攻撃である。
優人はミラルダを綾菜に任せ、シンの援護にまわる事にした。
フレースヴェルグとの距離を一気に詰め、得意の抜刀術で急所を斬る。
しかし、近付く優人に無数の触手が襲い掛かってきた。
バシュッ!
バシュ!!
優人は襲い掛かってくる触手を刀で斬り、その攻撃を防ぐ。
優人得意の突進も抜刀術もさせて貰えない。
「シン!!生きてるか!」
優人は触手を捌きながらシンに呼び掛けるが返事は無い。
遠くからスティアナがフレースヴェルグの目を狙って弓を射る。
エナが聖なる魔法を剣に込め、フレースヴェルグに斬りかかろうとしているがやはり触手に阻まれてシンに近付けない。
フレースヴェルグは床に倒れていたシンに拳を振り下ろし、そのままシンごと床に拳をグリグリと擦り付けていた。
状況は最悪だ。
唯一、フレースヴェルグを抑えられるシンが無抵抗にやられ続け、優人、エナは助けに入る事も出来ない。
スティアナの弓は上手く当たるが火力が全く足りていない。
誰もがこの絶望的な状況を悟り始めていた。
その時である。
どこからともなく飛んできた1本の槍がフレースヴェルグの右腕を吹き飛ばしたのである。
「ぐおぉぉぉぉお!!」
フレースヴェルグは雄叫びを上げ、槍を投げた主を探しているのか、周りをキョロキョロとしていた。
「良いザマじゃねぇか、シン。
こんな状況で1人でおネンネか?」
声のした方を見ると、そこにはダレオスが立っていた。
左右にはクレインとラッカスもいる。
「未完全とは言え悪魔相手に司祭無しで立ち向かうなんて無茶し過ぎですよ。」
ラッカスがシンを嗜める。
ボコンッ!
埋もれた床の中からシンが上半身を起こした。
まだ動けるのか・・・。
シンのタフネスっぷりに優人はもう呆れるしか無かった。
「援護に来るのがおせぇんだよ。
危うく死ぬ所だったろ~が。」
シンがダレオス達に文句を言う。
「それもやむを得まい。
俺達の仕事は外交だ。
国や国民を守るのが貴様の仕事なのだろう?」
ダレオスがシンに言い返す。
「ペッ!」
シンは起き上がりながら口の中に溜まった血を吐き出した。
「じゃあ、仕事放棄か?馬鹿陛下?」
シンはまだ減らず口をダレオスに吐く。
「貴様の息子とシリアが少し早めに到着してな・・・外交は奴等に任せて来た。
全く休んで無い2人に留守を任せ、俺達が戦場に出る。
効率性を重視したまでだ。」
ダレオスがシンに言うと、シンは満足そうに口元を一瞬緩め、そして今度は優人達に指示を出してきた。
「エナ!俺の回復を頼む!!
綾菜、優人!ミラルダの馬鹿を黙らせろ!!
フレースヴェルグは俺達で抑える!!」
シンがそう言うと、優人は一度深く頷き、綾菜とミラルダの元へ走っていった。
優人が綾菜の元へ行くと、綾菜とミラルダがお互いに武器を構えて睨み合っていた。
優人の姿を見ると、ミラルダは一瞬ホッとした表情を見せたのを優人は見逃さなかった。
「ゆぅ君、シンさんの方はどお?」
綾菜がミラルダから目をそらさずに優人に聞いてきた。
「ああ・・・ダレオス陛下達の援軍も来たし、体も動くみたいだ。
ミラルダはシンに何をしたんだ?」
優人が綾菜に聞く。
「魔縛結界。シンさんの魔力を縛って体の動きを封じる魔法よ。
ゆぅ君も気を付けて。
ミラルダは古代語魔法の第1人者。
古代語魔法は神話の時代の言葉に魔力を込めて奇跡を引き起こす魔法だから、攻撃のバリエーションもかなり有るわ。」
「・・・そうか。」
優人は返事をしながらミラルダの方を向く。
ミラルダの心情が優人の戦意をどうしても向上させない。
真面目で、仕事熱心なミラルダ。
国民被害を最小限に留めたいと、今回の侵入作戦を提案してきた優しいミラルダ。
ウエイブを殺させない為に、ここで敵にまわる愛情の深いミラルダ。
そして、仲間であるはずのシンの動きを封じ、今は旧友である綾菜と武器を構えて睨み合うミラルダ。
今、この中で1番辛い思いをしているのはミラルダである事は想像が付く。
自分でもどうすれば良いか、答えは見付からないで悩みながら戦っているはずだ。
「ミラルダ・・・死者も多数出ている戦いにおいて全ての望みを叶える事は出来ない。
それでも、ミラルダはこの状況で何を望んでいる?」
優人は優しくミラルダに聞く。
「ウエイブを・・・助ける!!」
ミラルダは優人に即答をする。
「ならば、ここで戦闘を乱すのはむしろ逆効果だと思わないか?」
と、優人。
「撤退をすれば良いじゃない!
作戦を練り直して、ウエイブを助ける方法を探させて!!」
ミラルダが興奮気味に優人に訴えるが優人は首を横に振る。
「それは、グリンクスの国民も守れないし、ウエイブも手遅れになる可能性の方が高い。
フレースヴェルグは触手を使い、獲物を吸収して自分の力にする悪魔だ。
時間が経てば経つ程、ウエイブの体力は奪われ、そのうち完全にフレースヴェルグの一部になる。
もし、ウエイブを救う手が有るならば、少しでも早くウエイブとフレースヴェルグを切り離す事だ。」
優人の問い掛けにミラルダは首を横に振る。
「ダメ・・・ウエイブを傷付けないで・・・。」
涙目のミラルダが震える声で優人に訴える。
ミラルダは馬鹿では無い。
優人が今言った言葉を信じていないのだろう。
もうウエイブは救えない。
何故ならば、フレースヴェルグが視力を手に入れたのは確実だからである。
ウエイブの視力を手に入れると言う事は、触手は脳にまで到達していると予想出来る。
脳にまで入り込んだ触手を脳を傷付けずに切り離すなんて、地上界の名医と言われる医者ですら出来るか怪しい。
ウエイブは、『死』しか道は無い。
優人はスッと刀を抜いた。
その優人の行動にミラルダの表情が強張る。
この状況で優人が来た時、ミラルダは一瞬ホッとした表情を見せた。
その理由はおおかた察しが付く。
ミラルダはウエイブを守りたいが、綾菜を傷付けたくない。
葛藤に苦しんでいる中で、優人が綾菜の援護に来た。
ミラルダには確実に勝ち目は無くなり、ここで自分が殺される結果になる。
ウエイブを傷付けず、国民への被害もシン達に任せられる。
死ぬことで、ここでの反逆による免責は問われないで済む。
葛藤の末、『自分の死』に逃げる。
悲しく、無責任な判断だ。
「綾菜。ミルの魔力コントロール練習の時にやってたやつ・・・ミラルダに使えるのかな?」
優人は綾菜に聞く。
「ええ、隙さえあれば出来るわ。」
と、綾菜。
「分かった。」
言うと、優人は刀を抜いたまま一歩前に出た。
その優人を見て、綾菜は安心した顔をした。
それは優人が峰打ちでミラルダを倒そうとしている事に気付いたからである。
綾菜は地上界の道場で優人の稽古中、優人の師匠とお茶をしながら居合・・・と言うか、抜刀術について聞かされている。
刀の反りは相手を斬るのに適しているから反っているだけでは無い。
刀が反っている為、術者の体の動きに合わせた刀身の動きを実現させ、抜刀術をより効果的にさせる為でもある。
しかし、峰打ちをする場合、優人は逆反りの状態で抜刀する事になる。
その逆反りの抜刀と言うのは実は凄まじく難易度が高く、効果も一気に落ちる。
そう言う理由で優人は峰打ちをするから抜刀術を使わない。
優人が刀を抜くのを見て、綾菜はそれを悟ったのである。
「ミラルダは優しくて、責任感の強い女性だと思っていたよ。
そして、その優しさに気遣いが足りてないのが残念だ。」
優人は抜いた刀を鞘に合わせ、いつも抜刀する時と同じ体制になる。
「気遣い・・・?」
優人の攻撃体制に顔を強張らせながら、ミラルダが優人に聞く。
「友を殺める綾菜の痛み、仲間に裏切られたシンの痛みを考えて貰いたかった!!」
優人の一言にミラルダの顔から血の気がひく。
自分がしようとしている事の重みに気が付いたのだろう。
その瞬間を優人は見逃さない。
ダンッ!
優人は一気に加速を付けてミラルダに向かって突進をする。
その優人に気付き、身構えようとするミラルダだったが、本気で突進する優人に間合いを合わせるのは経験豊富な前衛でも難しい。
バンッ!!
次の瞬間、優人は刀を真横に振り、ミラルダのあばら骨を峰打ちで砕く。
「はぁっ!」
ミラルダは息を吐く。
シュル。
優人は刀を地面に刺し、痛みで体をくの字に曲げるミラルダの後ろに回り込みなが、刀と袴を結ぶ緋を解きながら鞘を帯から抜く。
クルンッ。
そして、緋をミラルダの首に巻き付け、一瞬力を入れて絞め、直ぐに力を緩めた。
「うっ・・・。」
ミラルダが小さく声を上げ、そして腰から倒れそうになる。
そのミラルダの腰に腕を当て、優人はゆっくりとミラルダを地面に寝かせた。
「・・・殺したの?」
綾菜が優人に恐る恐る聞いてきた。
「いいや。気絶だよ。
中学校の時にクラスメートが一瞬力を込めて首を絞めたら、首を絞められたクラスメートが気を失って、救急車を呼ぶような大騒ぎになった事があってね。
それをミラルダにした。
あばらが数本折れてるだろうけど、それだけだよ。
今の内にミラルダの魔腔を閉じてくれ。」
優人が答えると綾菜は優しくミラルダの背中に手を当て、「クローズ」と唱えた。
「よしっ!」
声を上げ、優人は立ち上がる。
しかし、綾菜は座ったまま、ミラルダの顔を眺めていた。
「・・・綾菜は、ここでミラルダを抑えててくれ。
ウエイブは・・・多分救えないから・・・。」
優人はウエイブを救う術が無い事に後ろめたさを感じているのか、フレースヴェルグの方を見ながら綾菜に言う。
「うん・・・ありがとう、ゆぅ君・・・。」
綾菜は優人に答えると、ミラルダを強く抱きしめた。
優人は鞘を帯に差し、緋を結ぶと、地面に刺した刀を抜き、袴の裾で泥を拭く。
油も少し落ちたな・・・。
抜刀時、少し気を付けないと・・・。
そう考えながら刀を鞘に納め、フレースヴェルグの元へ走り出した。
・
・・
・・・
綾菜とミラルダの所まで走っていく優人の背中を五英雄と、エナ、スティアナは少し見送り、フレースヴェルグに視線を戻した。
「ホーリーフィールド!」
突然、ラッカスが両手を地面に付け、魔法を唱える。
すると、ラッカスを中心に、地面が白く広がっていき、フレースヴェルグの立つ地面まで広がる。
「グッ・・・。」
フレースヴェルグが小さく声を上げた。
「シン、ダレオス!
フレースヴェルグの足をホーリーフィールドで封じました!」
ラッカスが2人に言う。
「エナ!シンをフレースヴェルグの攻撃範囲外まで連れて行け!」
ダレオスがエナとシンの所まで走って近づき、さっき投げた槍を引抜きながらエナに指示をだす。
エナは1度頷くと、シンの腕を肩に掛け、ゆっくりとフレースヴェルグから離れ始めた。
フレースヴェルグは目の前で槍を構えて睨み付けているダレオスに標的を移し、左拳を振り上げた。
「ふんっ!」
ダレオスは不適に笑うと、フレースヴェルグの拳に合わせて槍の突きを放つ。
ガンッ!
ダレオスの槍とフレースヴェルグの拳がぶつかり合うと、周辺に衝撃波が飛ぶ。
「ぐっ!」
フレースヴェルグの拳と槍がぶつかった瞬間、打ち負けると判断したダレオスは素早く横にかわす。
ドォォオンッ!
激しい地鳴りと共にフレースヴェルグの拳は地面にぶつかる。
「ダレオスが打ち負けた!?」
クレインがダレオスがかわした事に驚きの声を上げた。
「破壊力が半端ねぇな。
良くあの脳筋馬鹿は持ちこたえたもんだ。」
ダレオスがフレースヴェルグの感想を口にする。
「ダレオス陛下・・・大丈夫でしょうか・・・。
シンお義父様ですら苦戦していたのに・・・。」
エナがシンに治癒の魔法を施しながら不安を口にする。
シンは「ふっ。」と軽く鼻で笑う。
「ダレオスは王と言う立場で本陣にこもってたからな。
前線で戦う俺の方が戦闘で有名になっているが、攻撃力だけならば俺よりあいつの方が上だ。
力を一点に集約させた攻撃が得意なんだよ。」
「でも、今、打ち負けてましたよ?」
と、エナ。
「相手は魔神だ。無理も無かろう。
出来る限り早く体力を回復させて、俺も戦線復帰しなきゃな。」
シンは明るくエナに答えた。
ドォオオオンッ!
フレースヴェルグは再び左腕を振り上げ、ダレオス目掛けて振り下ろす。
しかし、ダレオスはそれを難なくかわす。
力があって、一撃がでかくても、右腕は吹っ飛んで失い、両足はラッカスの魔法で封じられている。
今、フレースヴェルグの武器は左腕と触手しかない。
強く吹き荒れる風が正直邪魔ではあるが、歴戦の戦士であるダレオスには大した問題では無い。
触手も、纏まれば大きな体のウエイブですら捕らえる力を発揮するが、それも単品であればダレオスに取って脅威と言う程では無い。
ダレオスはフレースヴェルグの左腕1本に気を付ければ良いのだ。
しかも、フレースヴェルグの拳は一発一発が大振りで攻撃の軌道が簡単に分かる。
攻撃をかわすだけならばこれ程与しやすい相手はいない。
しかし、かわし続けているだけでは埒が明かない。
ダレオスはフレースヴェルグの動向から意識を外さずに周囲の状況を確認する。
遠くで優人と綾菜がミラルダと言い争っているようだ。
こっちは死闘の最中なのに呑気なものだ。
エナはシンの治癒に手間取っている。
聖騎士の中でも治癒魔法が得意なエナが苦戦している。
シンはかなりの無理をしていたのだろう。
本当にもう少し遅れていたら死んでいたのかも知れない。
ラッカスは地面に手を当て、ひたすら魔力を注いでいる。
ホーリーフィールドはかなりの広範囲に使っている。
長期戦にしてしまえば、今度はラッカスの命が危ない。
クレインは何やら魔力を溜めている。
フレースヴェルグの隙を付いて一気に状況を引っくり返す策があれば良いが・・・。
スティアナは弓を構え、フレースヴェルグとダレオスの間に狙いを定めている。
いざと言うときにフレースヴェルグの左腕を打ち、ダレオスへのダメージを軽減させるのが狙いだろう。
弓の名手と言えど、矢で与えるダメージには限界がある。
ザッ・・・。
ダレオスはもう一度フレースヴェルグに視線を戻した。
「さて、フレースヴェルグよ。
お前に言葉は通じるのか?」
ダレオスはフレースヴェルグに声を掛ける。
「グエェェェッ!!」
フレースヴェルグはダレオスの問い掛けに一切の反応を見せず、ただ、立ち止まったダレオスに一撃を与えようと左腕を振り上げて来た。
ドォンッ!
しかし、フレースヴェルグの単調な攻撃なぞダレオスに取っては恐れるにも足らない。
ダレオスはフレースヴェルグの攻撃をバックステップでかわす。
「ダレオス!フレースヴェルグに大した知能は有りません!
神話においても魔神でありながら神々に相手にもされていないのは、何も考えていなかったからです!
説得なんて無意味です!!」
ラッカスがダレオスを嗜める。
「説得なんざ考えてねぇよ!!
言葉が分からねぇなら、大声で作戦を言えるだろうが!!」
ダレオスがラッカスに怒鳴り返す。
攻撃はかわせるが、接近して攻撃を当てるのは危険がある。
ダレオスは早くケリを付けたいが、付けられないこの状況に苛立っている自分にラッカスに怒鳴る事で初めて気が付いた。
どうせ攻撃は当たらない。
冷静にならなければ見える物も見えはしない。
ダレオスは深呼吸をした。
時間があればもう1発フレースヴェルグの右腕を吹っ飛ばした技を放てる。
しかし、自分以外にフレースヴェルグの気を引ける戦力は現状いない。
優人が戻るまで待つか?
優人は後どれくらいで戻れる?
焦れってぇ・・・。
生死の境目とも言える戦場に迷いを持ち込む奴なんか、さっさと殺しちまえ!
ダレオスは賢王として世界的には評価を受けてはいるが、実は賢王と呼ばれるに相応しく無い人間だと自分で自覚している。
ダレオスは五英雄の中で最も短気で喧嘩っ早い性格なのだ。
シンも短気な事はあるが、その本質はダレオスとは程遠い。
シンの短気は侠気の一部のようなモノである。
考えるのが嫌いで、直情的、直感的に見て判断したがる結果、短気なのである。
ダレオスの短気は結果を急ぐ短気である。
周りを急かし、自分も急ぐ。
最も、ラッカスの魔力の心配をしなければならない今は、この短気は良い方向に進んでいるとは思うが・・・。
「グエェェェッ!」
突然、フレースヴェルグが攻撃を止め、バタバタと大きな翼を動かし始めた。
「なんだ!?」
ダレオスは思わず疑問を口に出した。
ラッカスもクレインもフレースヴェルグが何をしようとしているのか分からなそうであった。
「スティル!!フレースヴェルグの翼の付け根を狙え!
片側だけでも構わない!!」
突然、遠くから走ってきた優人がスティアナに指示を出した。
「分かったが、この風じゃあ矢は届かんぞ!」
スティアナが優人に答える。
「牽制で良い!
足を引きちぎって空に逃げるつもりだ!!」
優人がスティアナに言う。
ふと、フレースヴェルグの足を見ると、フレースヴェルグの足の皮膚が引き裂かれ始めていた。
「ヤバい!」
ダレオスは急いで槍を持ち変え、フレースヴェルグの翼の付け根目掛けて槍を投げた。
槍はフレースヴェルグの左の翼の付け根に突き刺さり、翼の動きを止める。
「おせぇぞ、優人!!」
ダレオスが優人に文句を言う。
「待たせて悪かった。
ダレオス、さっきの右腕を吹っ飛ばした技はもう1発打てるか!?」
走り込んで来た優人は刀に手をかけながらダレオスに尋ねる。
「槍があれば、もう1発ならいけるが、翼を吹っ飛ばすのか?」
ダレオスが優人に聞く。
「いいや、喉元を吹っ飛ばしてくれ!
そこにフレースヴェルグの本体とも言える魔剣がある。
そいつをフレースヴェルグから切り離すんだ!」
「解った!」
ダレオスが力強く応えた。
「ラッカス司祭、魔剣の封印的な事は出来ますか!?」
優人は次にラッカスに聞く。
「お任せ下さい。
本体を封印するのは悪魔戦闘の基本です。」
と、ラッカス。
「その為の準備を私がしているんです。」
と、クレインがラッカスに続いて答えてきた。
「優人、技には溜めがいる。稼げるか?」
ダレオスが優人に聞いてきた。
「やるしか無いだろ?」
走って来た優人はダレオスの横で立ち止まり、刀に手をかけたまま、答える。
その会話を少し離れていた所で聞いていたシンも立ち上がる。
「シンお義父様、まだ治癒が終わってません!」
動こうとするシンをエナが止める。
「作戦失敗は死を意味する。
ここで動かねぇで全滅しちまったら俺は地獄で後悔し続ける事になるからな。
多少、体が不調でもやらせてくれや。」
シンは自分の体を押さえようとしているエナの頭に優しく手を添えると、ゆっくりと自分の体からエナを離し、優人とダレオスの元まで歩いて行った。
「俺と優人でフレースヴェルグを食い止める。
ダレオス、しくじるなよ。」
シンがダレオスに言う。
「誰にモノ言ってるんだ、死に損ないが。
お前こそ無理して死ぬんじゃねぇぞ。」
ダレオスがシンに答える。
「ふっ。隠居したら俺らでジールド・ルーン国内を旅して回るんだろ?
まだ、くたばれねぇな。」
シンがニヤリと笑いながらダレオスに答えた。
「これからが正念場です!
3人とも、気を付けて下さい!!」
ラッカスが優人達に激を飛ばしてきた。
「いくぞっ!」
ダレオスが大きな声を上げた。
「ふん・・・!」
ダレオスはとどめの一撃を放つ為に力を溜め始める。
ドォオオオオン!!
そのダレオスにフレースヴェルグの一撃が飛んでくる。
ダレオスはそれをかわす。
「くそっ!優人、シン!
フレースヴェルグの気を引いてくれ!
距離を置けば置くほど攻撃力が落ちる!」
ダレオスが優人とシンに恫喝する。
「ダレオス!
フレースヴェルグの真後ろに回れ!
足はラッカスが止めてるから、そこが死角で安全だ!」
優人は向かってくる触手を捌きながらダレオスに言う。
フレースヴェルグの目はウエイブである。
ウエイブは鳥で目が横に付いてる。
目が横に付いてる動物はほぼ360度見る事が出来るので死角は少ない。
しかし、そんな動物でも自分の体を透き通して見る事は出来ない。
でかい図体のフレースヴェルグは大きい分だけ死角がある。
弱点はその大きな体なのである。
優人は隙を付いて、触手を掻い潜り、フレースヴェルグ本体に近付いて、フレースヴェルグの左腕に斬りかかる。
ブシュー!
優人の刀はフレースヴェルグの左腕に当たるが、抜刀術でも無く、バランスを崩した状態での一撃だったので浅い。
ドンッ!
次の瞬間、優人の脇腹に一際太い触手が直撃する。
ドンッ!
優人は吹っ飛ばされて壁に激突した。
「か・・・かはっ!」
優人は一瞬呼吸が出来なくなり、苦しむ。
あばらが数本持ってかれた。
優人は立ち上がりながら自分の体の状態を確認する。
足にも痛みがあるし、激突した背中もズキズキと痛む。
「優人さん!」
エナが優人も元まで走ってきて治癒の魔法を施してくれる。
「エナ、足を頼む!
上半身の痛みなら堪えて戦える!」
優人はエナに頼むとエナは不安そうな顔をしながら優人の足を重点的に魔法を施してくれた。
優人はダレオスがフレースヴェルグの真後ろに回り、溜めを始めているのを確認し、一瞬ホッとした。
「ぬぉおおおおお!」
次の瞬間、シンがフレースヴェルグの胴体目掛けて体当たりをしていた。
「グエェェェッ!」
シンの体当たりが胴体に当たったフレースヴェルグは声を上げながら体を震わせ、シンを吹っ飛ばす。
吹っ飛ばされたシンは地面に着地したが、そのシン目掛けてフレースヴェルグが左腕を振り下ろす。
ガンッ!
シンは両腕を交差させながら、フレースヴェルグの攻撃を受け止めた。
「ぐっ・・・。
これが最後の力比べだ・・・。」
シンが口元を緩め、フレースヴェルグに言う。
「よしっ!溜まった!!」
シンがフレースヴェルグと力比べをしている間にダレオスの攻撃準備が整った。
この瞬間、優人は配置のミスに気が付いた。
前方にいるシンと力比べをしているフレースヴェルグは前かがみになっている。
真後ろにいるダレオスからフレースヴェルグの喉元目掛けての攻撃が不可能なのである。
「シン!フレースヴェルグを仰け反らせろ!」
ダレオスがシンに言う。
「無茶・・・言うな・・・。
止めるのがやっとだ・・・。」
シンが力を抜かないよう、踏ん張りながら答える。
「くそっ!」
治癒を受けている途中の優人が立ち上がる。
「ちょっ、優人さん!」
エナが優人を止めようと声を張るが優人はそれを無視してシンとフレースヴェルグの間に駆け始めた。
「ミッションドライヴ、5速!!」
優人は筋を痛める覚悟でいきなり5速でダッシュをし、フレースヴェルグの左腕の肘の下に潜り込み、峰打ちで刀を振り上げてた。
普通の人間であれば、肘を強打すれば腕が痺れ、力が抜けるがフレースヴェルグはどうなるか分からない。
しかし、それでも下から上へ力を加える事でシンの負担は削れる。
その読みは正しく、フレースヴェルグの力が一瞬緩んだ。
「ぬおおおおお!!」
シンはその一瞬を見逃さず、一気にフレースヴェルグを押し返した。
体が開くフレースヴェルグ。
優人はフレースヴェルグに一撃を入れると、すぐに納刀し、そして離れがら抜刀をする。
優人が抜刀した刀身から赤いかまいたちが開いたフレースヴェルグの胸に直撃し、胸に切傷を与えた。
「ナイスだ優人!!」
フレースヴェルグを押し返したシンは右拳に力を溜め、気の塊の様なモノを優人が斬ったフレースヴェルグの胸目掛けて放つ。
ドォンッ!!
シンの一撃でフレースヴェルグの上半身が完全に仰け反った。
「今だ!ダレオス!!」
優人とシンが同時にダレオスに言う。
「くたばれぇ~!!」
怒鳴り声と同時にダレオスが槍を投げつける。
フレースヴェルグの喉元が膨れ上がり、そして、ブチャと言う音と共にダレオスの槍が突き抜けて行った。
そして、その槍の後に、魔剣フレースヴェルグが宙に現れる。
「クレイン!ラッカス!!」
剣を目視したダレオスが2人に声を掛ける。
「行きますよ!ポイントカッター!!」
クレインが魔法を唱えると、魔剣の回りを囲むようにかまいたちが現れ、魔剣から伸びようとする触手を切り裂き始めた。
「ホーリーシーリング!!」
ラッカスが両腕を上下に広げると、魔剣を中心に上下に白い光が現れる。
そして、ラッカスが腕を閉じようとすれば、その白い光も閉じていく。
「ぐっ・・・。」
しかし、途中で両腕を閉じようととするラッカスの動きが止まる。
「・・・どうした!?」
シンが横にいる優人に聞いてきた。
「恐らく、ラッカスの両腕が重なったときに魔法は成立し、魔剣を封印するんだろう。
しかし、魔剣がそれを抵抗しているんだろうな。」
優人がシンに説明をする。
「まずそうだな。ラッカスが踏ん張っても、あれ以上手を近付けなさそうだ。
優人、もう一仕事だ。ラッカスの下の手をやれ。」
言うと、シンがラッカスに向かって走り始めた。
シンがやろうとしている事は想像が付く。
優人がラッカスの下の腕を。
シンがラッカスの上の腕を。
それぞれ押して無理矢理両手を合わさせると言うのだろう。
優人はシンの後を追いかけた。
バシンッ!!
そして、次の瞬間、シンが上から、優人が下からラッカスの手を殴り付けた。
「うぐぅ!!」
突然の出来事でラッカスが声を上げた。
バチンッ!!
そして、強引にラッカスの上下の腕が合わさると、魔剣が大きな音を上げて白い光に上下から抑え付けられ、そして、地面に音を立てて落ちた。
魔剣は真っ白な剣の形をした物体になり、静かにその場に転がっている。
「終わった・・・のか?」
シンがラッカスに聞く。
痛みでうずくまっていたラッカスが疲れた笑顔を見せながらシンと優人に言う。
「酷いですよ。私の両手の骨が折れましたよ?」
そのラッカスの表情を見て、自分達が勝利した事を実感し、全身の力が抜けた。
「終わったぁ~!」
言うと、優人はその場で大の字に横たわる。
「命と比べりゃぁ、骨なんざ安いもんだろ?」
シンも座り込みながらラッカスに答える。
「本当にダメかと思いましたよ。」
クレインがラッカスに言う。
「みんなボロボロだな?1人除いてだが・・・。」
ダレオスが優人達の元まで歩いて来て話し掛けてきた。
「えっ?でも、私も出来る事はしましたよ?」
クレインが怯えながらダレオスに言う。
「うるせぇ!てめぇも骨の5、6本へし折ってやる!!」
襲い掛かるダレオスに捕まり、クレインが揉みくちゃにされる。
「ダレオス、止めてください!!」
クレインがダレオスに捕まり、ジタバタしている。
それをシンとラッカスが声を出して笑いながら見ていた。




