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リアルファンタジア  作者: なぎゃなぎ
第七章~平和に潜む闇~
54/59

第五十三話~捜索~

綾菜達がグリンクスに到着したのは、ジールド・ルーンを出港してから8日後の事であった。

今回は港町グリトルンに城勤めの騎士達が大勢詰め掛けており、ダレオス一行の護衛に付いた。


「初めまして。私はグリンクス国、国王補佐官を勤めております、シュワルツと申します。

以後、お見知り置きを。」

シュワルツと名乗った男は丁寧にお辞儀をして挨拶をすると、ミラルダの元へ近付き耳打ちをした。

「水口優人と言う男が魔剣のオレイアを打ち負かし、ラファエル家のご令嬢シャルロット様を誘拐したそうです。」


「えっ!?」

思わず声を上げるミラルダ。


「くだらねぇな。

魔剣のオレイアと言えばグリンクス最強の戦士じゃねぇか。

そいつと戦うリスクを負ってまでそのシャルロットとやらを拐う狙いはなんだよ?」

耳打ちを聞いていたシンがシュワルツに聞く。


「えっ、いや・・・あくまで噂・・・と言うかオレイアの証言でして・・・。」

シュワルツがシンに答える。


「シン、口を慎め。国際問題になりかねない。」

ダレオスがシンを嗜める。


「ふん。」

シンは不機嫌そうに息を付き、黙る。

ダレオス達はシュワルツに連れられて王城に入り、そのままイマイチ王に謁見した。

イマイチ王は会議室でダレオス達を待っていた。


「久しいな。ダレオス。」

イマイチは紅茶を一口飲むと立ちあがり、会議室の入口まで歩いて来て挨拶をする。


「久しぶりです。イマイチ陛下。」

ダレオスもイマイチに挨拶をする。


「色々と聞きたい事があるのだが、とりあえずその頬の怪我はどうした?」


「う・・・。」

突然の質問にダレオスが言葉を失う。


「シン顧問と殴り合いの喧嘩をしてました。

喧嘩の原因は優人さんを守るか見捨てるかでしたね。」

ラッカスがダレオスの代わりに返事をした。


「馬鹿!ラッカス、余計な事を言うな!」

ダレオスがラッカスを嗜める。


「グリンクスと戦争するとかしないとかじゃなかったでしたっけ?」

エナがツンとしながら話に入る。


「エナ、勘弁してくれ!」

ダレオスがエナに言う。

それを聞き、イマイチは声をあげて笑って見せた。

予想外のイマイチの反応に、ダレオスだけでは無くシンもラッカスもクレインも、そして、エナも綾菜もスティアナもみなキョトンとする。


「いやな、ジールド・ルーンと戦争になったらヤバいと思ってな。

我が国は国自体に強力な軍事力は無い。

魔法兵もエルンの三賢者には遠く及ばず、白兵戦ならジールド・ルーンの聖騎士団に圧倒されるのは火を見るより明らかだ。

海戦に持ち込んでもフォーランドの海賊艦隊に沈められる。

唯一の飛空兵団も過去にドラグシャーダを潰したジールド・ルーン相手にどこまでやれるか・・・。

金を使って外国の傭兵を雇いたくとも、水口優人絡みとなると頼りのラファエル商会が協力をしないと言ってきてるしな。

お手上げだよ。」


イマイチの発言にシンが満足そうに笑みを浮かべ、口を開く。

「と、言う事は優人を捕らえる意思は無いと言う事ですか?」


「国を守るのが我が役目。

しかし、法を蔑ろには出来ん。

そこでお前達と話がしたかったんだよ。

私としてもな。

とりあえず、席に着いてくれ。」

イマイチが言うと一行は素直に椅子に座った。



「ラファエル商会が協力しないと言うのは、優人がご令嬢を人質にしているからですか?」

ダレオスがイマイチに事情を聞く。


ラファエル商会とはグリンクス国で最も大きな商人組織である。

そこの会長はバルバルト・ラファエル。

そのバルバルトが溺愛している孫がシャルロット・ラファエルである。

そのシャルロットを誘拐し、人質にしてラファエル商会の動きを封じる。

それならば優人が国内最強の戦士、オレイアを討ち取ってでも誘拐した理由として辻褄が合うとダレオスは考えたのだ。


そのダレオスをシンと綾菜が睨み付ける。

その目は『優人がそんな汚い作戦をする訳無いだろ!』と訴えているのが聞かなくても分かる。


「ふむ。結果だけ見るとそう捉えられるのだが、実は時系列的に見ると、それだと話が合わないのだ。

と言うのもな、バルバルトが私に優人は悪人では無いと訴えて来たのは優人がオレイアを倒す前日の話なんだよ。

つまり、バルバルトは優人に脅されて私の所に来た訳では無い。」

イマイチが説明をする。


「それと、水口優人はバルバルト氏を追うようにグリトルンに入ったと報告が上がっています。

そして、優人を追い立てる国内警備隊には一切攻撃を仕掛けず、ひたすら逃げ回っていたらしいです。

そんな優人が何故かオレイアの顎を砕き、長屋の住民を1人だけ殺してシャルロット嬢を拐っているんです。」

シュワルツが話に割って入る。


「・・・。」

会議室内が少し静まる。


「ゆぅ君がバルバルトさんを追うようにグリトルンに来たって事は多分バルバルトさんに助けを乞うつもりだったと思います。

そのバルバルトさんの心情が悪くなるシャルロットさんの誘拐ってのが分からなさすぎます。」

と、綾菜。


「戦闘を避け続けてた癖に一般市民1人だけ手に掛け、1番厄介なオレイアとだけ戦ったってのも意味が分からねぇよ。

一般市民なんて尚更逃げ易い相手だし、オレイアの相手なんて優人の気性を考えると何も言われなくても避けるはずだ。」

シンが綾菜の意見に付け足す。


「いずれにせよ、事の真相が何も分からないのだよ。

だから私としては優人殿を1度捕まえて話を聞きたいのだが、うちの国の騎士達では手に負えない様でな・・・。

お主らが来ると聞いて優人殿の捕縛を頼みたいと思っていたのだ。」

イマイチがシンの方を向いて懇願する。

シンは両腕を組んだまま、イマイチの顔をジッと見据えた。


「確かにオレイアまで負かすような男を相手にするならシンさんとか、ガルファン辺りに頼むしか手は有りませんからねぇ~・・・。」

ミラルダが言う。


「優人をぶっ飛ばして取っ捕まえるのは構わねぇが、その後あいつを処刑するとか言い出さねぇだろうな?」

シンがイマイチの顔を見ながら聞く。


「その後、お前らと戦争になるんだろ?

そんなマネは出来んよ。

最悪でも国外追放で留めると約束する。」

イマイチがシンに答える。


「分かった。」

言うとシンは立ち上がった。


ガタッ!

「ぶっ飛ばすのは依頼の範疇外ですからね?必要無いですからね。」

シンに続き、綾菜も立ち上がる。


「久しぶりの狩りだ。腕がなる。」

ダレオスが立ち上がる。


「狩りじゃないからね?」

綾菜がダレオスにツッコむ。


「お前は留守番だろ?」

立ち上がるダレオスをシンが嗜める。


「はぁ?俺も行くよ。」

ダレオスがシンに言う。


「馬鹿言ってんじゃねぇよ。お前は一国の王だろ?

お前の仕事はイマイチ陛下のゴマすりだ。

クレインとラッカスもこの馬鹿見張っとけよ。」

シンが2人にも言う。


「まぁ、優人さん相手に後衛の私達はさほど役に立ちませんしね。

前衛のエナさんと綾菜さんレベルの後衛がいればどうとでもなるでしょう。」

クレインがシンに賛同する。


「後、ミルな。綾菜とミルは優人を釣る餌にもなる。」

シンが言う。


餌・・・。


綾菜が少し引っ掛かる。


「後、一応ミラルダも連れていくが良かろう。

自国内を外国の要人だけで歩かせるなんて考えられんしな。」

言いながらスティアナも立ち上がった。


「お前ら・・・。」

ダレオスがシン、綾菜、エナ、ミラルダ、スティアナ、ミルフィーユを見る。


「諦めろ、ダレオス陛下。

優人の事はわらわ達に任せ、イマイチ陛下と情報のやり取りを頼むぞ。

そうと決まれば早く行こうぞ。」

言うとスティアナは会議室を出た。


ガチャン。

シンは何故か鎧と盾を会議室に置いてスティアナを追う。

それに綾菜達も続いて出て行った。



ドタドタドタ・・・。

6人は急ぎ足で城内の通路を進む。


「シンさんはなんで鎧と盾を?」

綾菜が早歩きをしながらシンに聞く。


「あん?この国は武器禁止だろ?」

シンが綾菜に答える。


「盾と鎧は防具じゃん。

1番持ってちゃいけない剣だけはしっかり腰についてますけど?」

綾菜がシンにツッコむ。


「そうか?盾と鎧には国章が付いてるから持ってちゃいけねぇだろ?」


「えっ?」

シンの言っている意味が綾菜には理解が出来ず、聞き返す。

それを見てスティアナが後ろで笑う。


「つまりじゃな、犯罪を犯したときに足が着きやすくなるものを置いて来たと言う事じゃ。

剣だけ持ってきたと言う事は傷害事件位は起こす気マンマンだと言う事じゃな。

全く・・・どこの山賊じゃ・・・。」

スティアナが言うとシンはニヤリと黙って笑う。


「ええっ!?ちょっと、シンさん?

まさかうちの騎士達を苛めたりしないですよね??」

ミラルダがシンに聞く。


「相手の出方次第だ。邪魔するなら骨の5、6本は諦めろ。」

シンがミラルダに答える。

ミラルダは青ざめながら俯いた。

「そんな事よりスティル、お前の方がおかしくねぇか?

事件を犯した優人はフォーランドの騎士だぞ?

その国の王妃も残って申し開きするべきじゃ無かったのか?

お前こそどこの山賊だよ?」

シンがスティアナに言い返す。


「カッカッカ!フォーランドはジールド・ルーンの属国じゃ。

属国の罪は親国が果たせば良かろうて。」

スティアナが答える。


「本当にごめんなさい。」

エナがシンに謝る。

それを見てシンが声を出して笑った。


「今頃ダレオスも気付いてハラワタ煮えくり返ってるぞ。

『スティルに売られた』ってな。」

シンに張り合うようにスティアナも大笑いをした。


「本当に大丈夫ですか?この人達を野放しにして・・・。」

ミラルダが綾菜に不安を打ち明ける。


「だからジールド・ルーンで大きな犯罪が起こらないって言ったら信じる?」

綾菜が優しく微笑みながらミラルダに答える。


「罪人にはそれに近い人間をぶつける・・・と言う事かしら。

確かにこの人達に目を付けられたくは無いわね・・・。」

ミラルダが呟いた。


「それよりミラルダ。オレイアとは会えるか?優人を探すヒントが欲しい。」

シンがミラルダに聞く。


「ええ。今、病院にいるので案内します。」



こうして、シン達はミラルダの案内で病院へと向かった。

天上界に病院と言う施設があるのもグリンクスならではである。

他の国であれば教会で治療を行うが、この国は宗教に対して力を入れていないため、民間療法に近い医療を行う施設がある。


オレイアの病室に行くと、顔を白い布でぐるぐる巻きにされている男がベッドで寝ていた。

ミラルダはその男に近付き、声を掛ける。

男はベッドの上で上半身を起こし、紙とペンで文章を書いて見せた。


大罪人の優人を処刑したか?


紙にはそう書かれていた。

ミラルダは首を横に振る。

「本当に優人さんは大罪人だと思いますか?」

ミラルダがオレイアに質問をすると、またオレイアは字を書き出す。


あいつはとても危険な奴だ。

見かけたらとりあえず殺すべきだ。


「エナ。めんどくせぇ。治癒してやってくれ。」

シンがエナに言うとエナは頷き、オレイアの顔に手を当てて神聖魔法を掛けた。



「あっ・・・。」

オレイアの治癒は10分程で終わり、布を取った。


「本当は折れた骨の高速治癒は良くないのですけど、上手く付いたみたいで良かったです。」

エナがニコリをオレイアに頬笑む。

美人のエナが見せる笑みにオレイアが少し照れて見せた。


「お前、優人とやり合ったんだってな?

強かっただろ、あいつは?」

シンがオレイアに聞く。


「強い・・・。どうだろうな?

不意打ちが上手いだけの奴だ。

俺だって不意さえつかれなければあんな奴にやられなかったんだが・・・。」

オレイアがシンに答えた。


「どこで優人とやり合った?」

「一本杉だ。」

「そうか。分かった。有り難うな。」

答えるとシンは病室を出て行った。

それを他の5人も追うように出ていく。


「ちょっと、シンさん!全然情報収集になってないじゃないですか!!」

綾菜がシンに文句を言う。


「情報なら取れたさ。

あいつは顎骨を優人に砕かれている。

不意打ちで真下から顎を砕かれるってどういう状況だ?」

シンが綾菜に聞く。


「相手の懐に潜り込まないと顎の骨を砕くような攻撃なんて出来ませんね・・・。

横からの攻撃なら顎が外れるのが先ですし・・・。」

エナが答える。


「そういう事だ。あいつは優人と真正面からやり合って負けた。

それを不意打ちだの卑怯者だのと触れ回ってるって事だ。」


「それが何の情報になるんですか?」

綾菜が苛立ちながらシンに聞く。


「あいつの優人に関する情報は当てにならないって事がハッキリとしたって事だ。

あいつは噂されるほど強くは無い。

それどころかかなりの小物と見た。

一般人を殺し、シャルロットを誘拐。

それを優人が助けた。

しかし、シャルロットを戻そうにも優人自身が追われているから安全に街に連れ戻せず、シャルロットと共に逃げ回っている。

そういう方が辻褄が合わねぇか、優人の性格を考えると?」

シンの発言に皆がハッとした。


シンは何も考えて無いようで突然核心を付く。

確かにその方が綾菜も合点が行くと思ったのである。


「とりあえず、行き先は一本杉だ。」

シンが言うと、一行は病院を出て、一本杉へと向かった。


綾菜達はオレイアからの情報通り一本杉までやって来た。

シンは一本杉に手を当て、周囲を見渡す。

地形としては一本杉を頂きに緩やかな坂になっていて、その周りは芝生の様な背の低い草が生い茂っている。

遠くにはグリトルンの街並みが見え、その街並みとは反対方向には森が見える。

その森から流れる小川はそのままグリトルンの街並みへと続いていた。


「ここから人目を避けたいなら森へ行くか?

しかし、お嬢様を連れてサバイバル生活なんて出来るだろうか?」

シンが一本杉から見える光景を見ながら疑問を口にする。


「その前に、なんでこの周辺は整備されてるのに、あそこに森があるのかを知りたいわ。」

綾菜がミラルダに言う。


「この一本杉は公園です。

奥の森にいる兎や狼狩りに行く貴族がここを歩きながらアウトドアを楽しむんです。」

ミラルダが嫌そうに綾菜に答える。


ミラルダは綾菜と同類で可愛いモノに目がない。

その趣味の延長か、動物愛護の精神も持ち合わせている。

それがこうじて巨鳥のオウムヶ鳥をペットに持つ。

そんなミラルダが遊びで兎や狼を狩る貴族を良く思うはずは無いのである。

綾菜はミラルダの話を聞き、顎に手を当てて少し考える。


「趣味で狩りに使う森なら、中に休む小屋とかも有るんじゃない?」

地上界の日本でもゴルフ場等のアウトドア施設には品の良い休憩所が良くある。

ならばグリンクスでも有る可能性が高い。


「有りますね。今はシーズンでは無いですし、もしかしたらどこかの小屋にいるのかも・・・。案内しましょうか?」

ミラルダが綾菜に答えた。


「もう1つ。優人がここで戦ったのはいつの話だ?」

と、シン。


「確か、3日前位みたいです。」

ミラルダが報告書を見ながら答える。


「3日・・・か。その間に国内警備隊は小屋を調べてないのか?」

シンがつっこんだ質問を投げ掛ける。


3日前にここで戦闘をしたならオレイアの敗北が知れ渡ったのは翌日。

つまり、一昨日の話である。

その時にここまでの推理はやって当たり前である。

遅くてもその翌日、昨日の時点で小屋の捜索までは行うのはジールド・ルーンでは当然であった。


「はい・・・。捜索していますね・・・。

『人がいた形跡はあったが、発見には至らず。』との事です。」

ミラルダが報告書を見ながらシンに答えた。


「さて・・・その人がいた形跡のある小屋を確認するのがセオリーではあるが・・・いない所へ行っても意味が無い。

しかし、小屋を利用したならこの森のどこかに優人とシャルロットがいると見て間違い無い。

ならばどこにいるか?

サバイバル担当のスティルならどう考える?」

シンがスティアナに話を振る。


「ふむ・・・。」

聞かれたスティアナは森の方を眺めながら少し考える仕草を見せ、そして答えた。

「生きるためと考えるなら川辺に潜むの。

水も有るし魚も捕れる。

もっとも、川魚はあまりオススメは出来んが・・・。」

スティアナがシンに答える。


「よし。じゃあ川辺を調べよう。

焚き火の跡が見付かれば小屋に行くより良い情報が手に入る。」

言うと、シン達は一本杉から川辺まで歩いて行き、森へと入って行った。


「しかし、今更だが何故フレースヴェルグの連中なんかと関わりを持ったんだ?

毒を温泉に流して村人を無差別に殺したなら国内警備隊を動かせば良いだろうに・・・。

それで国内警備隊が動かねぇならグリンクスの問題だ。

わざわざ法まで犯してこんな事しなくても良いと思うんだがな。」

森を歩きながらシンがぼやく。


「あれっ?言ってませんでしたっけ?」

シンのぼやきに綾菜が反応する。


「んっ?何だよ?あいつの動機が別に有るのか?」

シンが綾菜に聞く。


「ええ。そのフレースヴェルグ教団が撒いた毒を飲んで、ゆぅ君の友達の奥さんが亡くなったんです。

それを知ったゆぅ君の友達が1人でフレースヴェルグ教団のアジトに殴り込みに行ったから、ゆぅ君は後を追ったんです。」

綾菜の説明を聞き、スティアナが満足そうにニヤケる。


「その、優人の友達は・・・もう死んでるな・・・。」

シンがポツリと呟く。


「そう・・・ですね。」

綾菜が答える。


もし生きていればデュークも共犯で追われるか、捕まるかしているはずである。

しかし、話に今まで上がって来ていないと言う事が死を物語っていた。


「あいつ・・・その友達の為に大量殺人をしたんだな・・・。

相変わらず頭がキレる癖に馬鹿な奴だ・・・本当にエアルに似てやがる。」

シンが言う。


「お父様に?どういう事ですか?」

シンの発言に食い付いたのはエナ。


「ん?エアルはなぁ・・・優人みたいに色んな事を考えて戦闘をするタイプの男だ。

相手の動きから何を狙ってるかとか予測して、逆手を取るのが上手い奴だったんだよ。

あいつの機転でジールド・ルーンは何度も救われている。

下手に頭がキレる分、他人の痛みや都合まで理解しちまう。

ついでに優しいから敵であっても助けようとか考えちまう馬鹿な面もあったんだよ。

鬼になりきれないんだな。

人としては優れているが、戦士としては甘過ぎる。

それが俺達の親友、優人やエアルだ。」

シンの話にエナも満足そうに頷き、納得した。



川辺から森に入り小1時間程歩くと、スティアナが突然何かを見つけ、小走りをし、しゃがんだ。


「どうした、スティル?」

後から追ってきたシンがスティアナに聞く。


「ビンゴじゃ。ここで血を洗った形跡があるの。」

スティアナが川辺の砂利に少し残っていた血を指差した。


「乾き具合から見て、最近だな。」

シンが答える。


「こっちには焚き火の跡も有ります!!」

エナが川から少し離れた森の中で焚き火の跡も発見した。


「残ってる血の量からして軽症だな。

その川辺からワザワザ少し離れた所で休む所を見ると警戒心の強さが伺える。

優人だと思うか?」

シンが綾菜に聞く。


「ええ・・・。多分ゆぅ君ですね・・・。」

と、綾菜。


「しかし、良くこんな小さな血の跡に気付いたな?」

と、シン。


「匂いじゃ。僅かじゃが森とは違う、鉄の匂いがしたのじゃ。

もっとも、焚き火の匂いがあったから注意していただけじゃがの。」

スティアナがどや顔をしながらシンに答える。


「シンさん、こっちに早く来て下さい!」

焚き火を見付けたエナがシンを呼ぶ。

シンは歩きながら、焚き火跡へと向かい、その光景を見て険しい表情を浮かべた。

焚き火跡周辺の草が激しく踏み潰されていたのである。


「ここで戦闘をしたのか?誰と?」

シンが疑問を投げ掛けた。


「血の跡も遺体も見当たらないので、優人さんは逃げたとは思いますが・・・。」

と、エナ。


「うむ・・・。問題は誰と戦闘をしたか・・・だな。」

と、シン。


「国内警備隊だったら報告が上がると思いますが、まだ上がって無いと言う事は今日の事ですかね・・・。」

ミラルダが報告書を見ながら呟く。


「いや。今日じゃねぇ。昨日の話だ。

水で消した形跡は無いのに焚き火に熱が全く無い。」

と、シン。


焚き火は水で急激に冷やして消さないと余熱は意外と長く残る。

その余熱を全く感じないと言う事は1日は経過していると言う事が予想出来る。


「つまり、国内警備隊や私達以外にもゆぅ君を追っている人間がいるって事か・・・。

フレースヴェルグ教団かな?」

と、綾菜。


「可能性はあるな。鎧と盾を置いてきて正解だったな。」

と、シン。


シュンッ!!

その時だった。

突然、ボウガンの矢がシン目掛けて飛んできた。


パシッ。

シンはそれを難なく手で掴み、すぐに矢を持ち変えて飛んできた方向に投げた。

ドスッ!!

シンの投げた矢は木に音を立てて突き刺さる。


ギィィィ・・・。

そして、矢の刺さった木が倒れかかり、横の木に寄り掛かる形で止まった。


「ぐわぁぁああ!」

突然倒れかけた木から人影が落ち、悲鳴が聞こえる。

シン、エナ、綾菜、ミラルダがその人影まで駆け寄る。

そこには尻餅を付いている国内警備隊の男がいた。


「国内警備隊か?不意討ちとは中々おもしれぇ事をするじゃねぇか?」

シンが指をポキポキ鳴らしながら国内警備隊に近寄る。


「ちょ、ちょっと待って下さい!!」

それをミラルダが止める。


「なんだよ?仕掛けて来たのはそっちだぞ?」

シンがミラルダに言う。


「分かってます。本当に申し訳有りませんでした。

しかし、ここは私に任せて下さい!!」

ミラルダが必死にシンを止める。

シンはミラルダの剣幕に押しきられ、ため息を付くと一歩後ろへ下がった。

ミラルダも一息ため息を付き、シンに会釈をすると国内警備隊の男の方を振り向いた。


「私は宮廷魔術師のミラルダです。

貴方は国内警備隊ですよね?

突然の攻撃の理由は何ですか?」


カチャッ。

話し掛けるミラルダに向けて、国内警備隊がボウガンを構えた。


「えっ!?」

突然の事にミラルダの反応が遅れる。


ガンッ!

しかし、次の瞬間、シンがボウガンを掴み取り、国内警備隊の頭を強く殴り飛ばした。

国内警備隊の男は泡を吹いてうつ伏せに倒れる。


「やべぇ・・・やり過ぎたか?」

シンが呟く。


「ちょ、どうするんですか!?」

ミラルダがシンに食って掛かる。

そんなミラルダにシンは1度ため息を付いて答えた。


「安心しろ。けっこうな数の『お仲間』に囲まれてるよ。」

と、シン。


「えっ・・・。」

ミラルダが周りを見渡すと、ゾロゾロと10人程度の国内警備隊のかっこうをした男達が姿を表した。


「これは、どういう事ですか!!!」

ミラルダが国内警備隊を叱る。

国内警備隊は黙ってボウガンをシン、ミラルダ、綾菜、エナに向ける。


「おい、宮廷魔術師。最近、行方不明になった国内警備隊がいるとかと言う報告は上がってねぇか?」

シンが国内警備隊を睨みながらミラルダに聞く。


「そんな報告来てませんが・・・何を考えているのですか?」

ミラルダがシンに答える。


「国内警備隊を倒して、その装備を調達する。

そうすれば武器を持ってても怪しまれねぇんだろ?」

と、シン。


「・・・田舎の国内警備隊なら・・・報告が遅れる事も・・・。」

ミラルダが俯きながら答える。

それを聞き、シンが口元を緩めた。


「文句を言いたきゃ、後で聞く!!」

言うとシンは国内警備隊の1人に飛び掛かった。

国内警備隊の男はすぐにシンに反応し、ショートソードで応戦しようとする。

しかしシンはショートソードを自分のロングソードで弾き、一気に距離を詰めて左手で相手の首を掴み、持ち上げる。


「ぐわぁぁぁ・・・。」

シンに首を捕まれた男はショートソードを離し、両手でシンの手を振りほどこうとする。


「ショートソードを離したのは正解だ。

両手で体を支えねぇと首が締まって死ぬからな。」

シンは男に言うと、別の方向にいる男目掛けて投げ飛ばした。


ドンッ!

シンが投げ飛ばした先には男が3人いた。

全員吹っ飛ばされ、地面に倒れ混む。


トシュ!トシュ!トシュ!

遠くからスティアナが弓を放ち、ドンドン国内警備隊が倒れて行く。



「こ、こんなに早く不意の出来事に対応が取れるの・・・。」

ミラルダは縛り付けられた10人の国内警備隊を見渡しながら呟いた。


「いやいや・・・古代語魔法は便利だな。

ロープを魔法で作れるなんてよ。」

シンは縛り付けられた10人を眺めながらミラルダに答える。


「ふん・・・少なくともシンは熟練の騎士でわらわは元海賊ぞ?

こんなの日常茶飯事じゃ。」

スティアナがミラルダに言う。


戦闘開始直後、シン達が敵方向に向かって走った時にスティアナはミルフィーユを連れて逆に敵から離れ、弓を用意した。

シンが接近戦を始めたら、シンとは逆方向にいた敵の右肩を狙ってスティアナは弓を放ちまくったのである。

結果、国内警備隊の男達は武器を上手く扱えなくなり、後はエナが完全に無力化させた。

そして、その後にミラルダと綾菜がマジックロープで国内警備隊を縛り付けたのである。


「そんな事より川まで行って、水を汲んできてくれ。

その後、ミラルダ、綾菜、エナ、ミルは少しここから離れろ。

警戒を怠るなよ。」

と、シン。


「?」

シンの指示に4人は戸惑う。


「これから拷問をするのじゃ。

お主らにはちと過激じゃろうからの。

シンなりの気遣いじゃ。」

スティアナが言うと、4人は素直に指示に従った。



「ぎゃああああ!!」

少し離れた所で綾菜達は男の悲鳴を聞いていた。

ミラルダは両耳を抑えてうずくまり、ミルフィーユは綾菜にしがみついている。

エナは両腕を組ながらシンとスティアナのいる方向を不機嫌そうに眺めていた。


「全く・・・。拷問なんて趣味が悪い・・・。」

エナがポツリと文句を言う。


「本当に災難なのは拷問にあってる男達だよねぇ~・・・。

グリンクスの国内警備隊辺りが敵だと思って、たかを括ってたらまさかジールド・ルーン最強の男と出くわすなんて・・・。

さっさと吐いちゃえば良いのに・・・。」

綾菜がミルフィーユの頭を撫でながら言う。


「グリンクスでは拷問も犯罪です!

人の尊厳を無視するような事・・・。」

ミラルダが涙目になりながら綾菜に言う。


「残念ながら、拷問になる前に吐いちゃったぞ?」

その会話に入ってきたのはムカデや変な昆虫を両手に持っているスティアナだった。


「えっ?でも、まだ悲鳴が・・・。」

ミラルダがスティアナに聞く。


「ああ、あれは釣りじゃ。

か弱いシャルロットを連れての逃亡をしている優人の行動パターンとして、大きな悲鳴が聞こえたりしたらどうすると思う?」

と、スティアナが聞く。


「見回りに来るわね・・・。」

綾菜が答える。


シャルロットはアウトドアすら出来ないお嬢様である。

当然戦闘の経験も無いし、運動能力も低い。

そんなシャルロットを連れての逃亡は優人もかなり神経を使い、警戒をしていると言う事は予想出来る。

警戒心が強いと言う事は異常事態に敏感である。

そんな優人の耳に悲鳴が聞こえればその原因を突き止め無くては気が済まない。

それを利用して、優人を誘き寄せるつもりなのである。


「そう言う事じゃ。警戒している優人を見付けるのは至難の技。

そこでじゃ、綾菜とミルの出番じゃの。

拷問している男を見に来た優人の視界にお主らの姿が映れば自ら姿を見せるじゃろ?

と、言う訳で拷問は終わりじゃ!

やつらに悲鳴だけ出してもらっとるだけじゃからこっちへ来てくれ。」

スティアナが綾菜達に言う。


「その前にスティル・・・その虫を何に使うつもりだったの?」

エナが顔を青ざめながらスティアナに聞くと、スティアナはニヤリと微笑み、エナに答える。


「知りたいか?」


「いや・・・。嫌な予感しかしないから止めとく。」

と、エナが答える。



シンと合流するとシンは両腕を組ながら男達を見ていた。

「声がちいせぇ!!拷問を再開するぞ!!」

シンが男達に激を飛ばす。


「ぎゃああああ!!」

「うわぁあああ!!」

シンに激を飛ばされた男達は必死に声を上げる。


「シンさん、こいつらは何者だったの?」

綾菜がシンに近付き聞く。


「あん?こいつら、小指の骨1本へし折ったら全部吐きやがったよ。」

シンが答える。


「いや、何者だったの?」

綾菜が聞き返す。


「あん?何だって?」

シンが聞き返す。


「だから!何者だったの!!」

綾菜が苛立ち、シンに聞く。


「ちょっと待ってろ。」

シンは綾菜に言うと、男達の方を向いた。

「えめぇらうるせぇ!!少し黙れ!!」


えぇぇぇぇ・・・。


シンに怒鳴られた男達はすぐに黙った。


「で、なんだ?」

シンが綾菜に聞き直す。


「だから、何者だったの?」

綾菜が聞く。


「ああ。フレースヴェルグの連中だ。

優人に重要事項を知られたらしい。」

シンが答える。


「だから口止めにゆぅ君を抹殺するつもりだったと?

重要事項って何だろ?」

と、綾菜。


「テンボスのアジトにあった何からしいが、こいつら下っぱには聞かされて無いらしいな。

で、混乱に乗じてこいつらはテンボスの国内警備隊を殺して、装備を奪ったみたいだな。」

シンが答える。


「重要事項・・・。多分毒の事なんだろうな・・・。

証拠になるものをゆぅ君が持ってるんだ?」

と、綾菜。


「そう言うこった。

つかてめぇら何サボってんだ!!

声出せ!!」

シンが男達をまた怒鳴る。


「ぎゃああああ!!」

男達はシンに怒鳴られ、また叫びだした。


「きゃああああ!!」

何故か男達の真似をしてミルフィーユも声を出し始める。


「おっ?中々やるじゃねぇか?」

シンがミルフィーユを誉める。


「ミルちゃんは良いんだよ?」

綾菜がミルフィーユに言う。

しかし、なんか楽しくなってるミルフィーユは嬉しそうに悲鳴を上げて、シンをチラチラ見る。


「ぐぅわわわわわわ!!!!」

シンもミルフィーユに張り合って大声を上げる。


「あははははっ!ぎゃああああ!!!」

ミルフィーユは笑いながらシンに張り合う。


「意味が分からない。」

エナが異様な光景を見て呟いた。

・・

・・・


ザシュッ!

木の上から降りた優人は周囲を警戒していた。


オレイアとの戦闘後、少し落ち着く為に森の中の小屋で1晩シャルロットを休ませ、翌朝早い段階で川まで行って魚を捕った。

ここの川では運良く鮎が数匹釣れたので優人は焚き火を起こし、鮎の内臓を取って丸焼きにして、シャルロットに食べさせた。

本当ならば塩付けにしてからの丸焼きがかなり旨いのだがここには調味料が無い。

味の薄い朝食を取ると、優人は再び川へと行き、水を汲む。

鮎が釣れたと言う事はこの川には毒は流されていない。

川で顔を洗うと再び焚き火へ戻り、少し休む。


ちょうどそこへ国内警備隊が数人やって来た。

優人はシャルロットを森へ逃がし、国内警備隊の攻撃をかわしながらシャルロットの保護を依頼しようとしたが、国内警備隊の態度が少しおかしい事に気が付いた。

『テンボスのアジトで盗んだ証拠を寄越せ。』と言ってきたのである。

その国内警備隊の言葉でこいつらの正体はフレースヴェルグの人間であると判断した優人はシャルロットを引き渡すのを止め、国内警備隊を撒いて、撤退をした。


その後、優人は森の奥までシャルロットと入り、常に周囲の警戒をしている。

ほんの僅かな木々の揺らぎにも意識を研ぎ澄ましている。


今、自分は国内警備隊とフレースヴェルグ教団に追われている。

しかも、野宿に不向きなシャルロットまで連れて。

状況は最悪だ。

本当ならば街に戻ってバルバルトに保護してもらいたいのに・・・。


「ねぇ、優人さん。こんな生活、いつまでするのですか?」

木から降りてきた優人にシャルロットが尋ねてきた。

シャルロットの着ていた綺麗なドレスは泥で汚れ、逃走中に木の枝で引っ掛けて所々破れている。

優人は申し訳無いと言う気持ちになりながらも、シャルロットに心配をかけさせまいと優しく笑顔を作り、答える。


「一旦街まで戻りたいね。

せめてバルバルトさんにシャルだけでも保護して貰わないと・・・。

何か連絡手段があれば良いんだけど、今は思い浮かばないんだ。

逆にシャルは良い案があったりするかな?」

優人の質問にシャルロットは俯き、黙る。


優人は少し考え、また口を開く。

「一旦、森の入口の方まで戻ろう。

人との遭遇を避けたいから、ゆっくり進むけど・・・。」

言うと優人は歩き始める。


「優人さんは・・・。」

シャルロットが何かを言い掛けた。

優人は立ち止まり、シャルロットの方を振り向いた。

「優人さんは強いのに、何故そんなに戦いを避けるのですか?

さっきのフレースヴェルグの連中も返り討ちにしちゃえば良いし、国内警備隊も話を聞かないならやっつけちゃえば良いのに・・・。

こんな大変な思いをしてまで逃げ回る意味が分からない。」

シャルロットの質問に、優人は少し戸惑う。


シャルロットはグリンクスへ向かう船の上で会った時、亜人よりも自分の方が上だと主張してみせた。

猫のミィを捕まえた綾菜を誉めていた。

あの時の態度から、優人はシャルロットは『力』に執着を持っていると感じている。


「シャルは、強ければ何をしても良いと思ってるのかな?」

優人はシャルロットの中に潜む闇が少し気になっていたのである。


「良いに決まってます。結局、強い人こそ正義じゃないですか?

歴史の話を聞いてみても、戦争に勝った国が正しく、負けた国が悪人のように記録に残されてます。」

シャルロットが優人の問い掛けに答えた。


勝てば官軍。負ければ賊軍。


日本でもそんな言葉が存在する。

シャルロットの言っている事はそう言う事なのだろう。


「昔、私は数人の亜人に襲われた事が有ります。

あいつらは、運動神経が高くて、強くて、私は怯えながら逃げていましたが、あいつらはそんな私を笑いながら追い掛け回しました。

最終的に国内警備隊の人が助けに来てくれて、亜人達を殲滅してくれましたが・・・。

私は弱いからあいつらの遊びで追い掛け回され、国内警備隊は強いから亜人達を殲滅させた。

強くなければ何も出来ない。

それが世の中じゃないんですか?

だから優人さんは強くなったんじゃないんですか?」


「ふむ・・・。」

優人は近くにあった切り株に腰掛け、シャルロットの言葉を真剣に聞き、なんて答えるべきか本気で悩んだ。

シャルロットの主張は間違っているとは思わない。

しかし、偏り過ぎている。


「まず、1つ。気に入らない人間を片っ端から斬り捨てて行くと、最終的には自分しか残らないって言うのは分かるかな?

どんなに仲が良い人でも喧嘩をしたり、苛つく事はあるでしょ?」

優人はシャルロットの偏った考え方の危険性を伝えようと思い、1つ1つ潰していこうと思った。


「そこまで、極端な話はしてません!」

シャルロットは顔を真っ赤にして優人に言い返す。


「父親にこっぴどく叱られて、殺してやりたいとか思った経験は無いのかな?」

優人はシャルロットに返す。


シャルロットは優人の質問に黙る。

大抵の人間は過去に1度は思う事である。

逆にそんな経験の無い人の方が珍しい。


「けど、あれはお父様が・・・。」

シャルロットは何やら言い訳をしようとする。

しかし、今大切なのは父親が何をしたかではなく、シャルロットがその時どう思ったかである。


「シャルが悪い訳じゃない。

無論、シャルの父親が悪いとは言わない。

思考能力がある人間同士が一緒に暮らすんだから、あって当然の事だと思うよ。

けどな、力で人を押さえ付けようとすれば反発されるのが当然の流れだ。」

優人がシャルロットに言ったのは反抗期の娘とそれを理解しようとしない父親のやり取りを指す。


一方的に怒鳴り付け、子どもの主張を全く聞かない父親。

優人の父親も似たようなモノだった。


「優人さんはどうすれば良いと思ってるの?

聞き分けの無いお父様をぶっ飛ばせれば済む話じゃないの?」

シャルロットが優人に聞いてきた。


「うん。その選択の行き着く先が殺人だろうね。

良いかい、シャル?

人を抑え付ける武器や方法は沢山ある。

金を払い、操る方法。

権力を使い、抑え付ける方法。

武力を使い、負かす方法。

けどね、俺はどれも本当の強さだとは思ってない。」

と、優人。


「どうして?今優人さんが言ったのが人を動かす手段じゃない?」

シャルロットが聞いて来る。


「うん。表向きはね。

けど、今俺が言ったやり方は人の行動、表面しか操れないんだ。

心までは抑えられない。

裏では悪口を言ってたり、時には反逆を企てるかも知れない。

俺はそんな曖昧な強さに興味は無いな。」

と、優人。


「じゃあ、強いって何なんですか!?

人をどうやって動かすんですか!!」

シャルロットが苛立ちながら優人に聞く。

優人は立ち上りながらシャルロットに答える。


「逆に聞くが、今、何故俺はシャルを守りながら逃走生活をしていると思う?

俺はシャルを守るに当たって金を貰ってるか?誰かに指図されてるか?シャルにぶっ飛ばされたか?」

優人の返答にシャルロットは再び黙る。


「大切なのは『心』と『知識』なんだ。

俺は長屋でシャルが助けに来てくれた事が嬉しかった。

その恩に報いたいと言う『心』に動かされてる。

なんで亜人が昔、シャルを襲ったか考えた事はあるか?

肉食の獣はじゃれると言う習性がある。

遊びながら狩りを覚えると言う習性だ。

腹が減ってなければ本気で殺したりはしない。

逃げなければ追い掛けて来ない。

隠れて身を潜めれば簡単に逃げ切れるんだ。

その『知識』があれば怖い思いもさほどしなかったかも知れない。

俺は武力より、権力より、金より・・・心と知識を持つ人間が強いと思うよ。」

優人の言葉を聞き、シャルロットは黙って頷く。


優人はシャルロットのまだ腑に落ちない表情を見て、もう少し話すべきか悩んだが、あまりしつこくしても逆効果だと思い、森の入口へ進む事にした。

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