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リアルファンタジア  作者: なぎゃなぎ
第七章~平和に潜む闇~
52/59

第五十一話~緊急会議~

「さて・・・と。」

綾菜は優人を見送ると、燃え盛る家をもう一度見て深いため息を付いた。


「おいっ!今の奴、武器を所持していたがどういう事だ?

少し話を伺いたいので、同行願う。」

綾菜は声の主をジロリと睨む。

国内警備隊だ。


「あら?新手のナンパ?

残念だけど、もう少しで新婚になりますの。

他を当たっていただけますか?」

綾菜は上品ぶって右手を口に当てながら国内警備隊に答える。


「武器の所持は法律違反だと言っているんだ。」

国内警備隊は少し苛立って見せた。


「私達のやり取りを聞いてたんでしょ?

ある程度、察しは付きませんか?」

綾菜も空気を読まない国内警備隊に苛立ちを見せる。


「とりあえず、同行しろ!!」

国内警備隊が綾菜に近付いて来た。


「コール、インプウィング。」

その前に綾菜は部分召喚でインプの羽を背中に呼び出し、ミルフィーユを抱き上げて空へ逃れた。


「おまっ!町中での魔法も法律違反だ!!」

国内警備隊が綾菜に怒鳴る。


「なら勝手に捕まえて!」

言い捨てると綾菜はジールド・ルーンのある方向へと飛んでいった。

グリンクスからジールド・ルーンまで、ひたすら飛び続けて丸3日と言った所だろう。

召喚魔法は部分召喚とは言え魔力を消耗する。

それをひたすら使い続けるなんて事は綾菜も経験が無い。


持つかなぁ~・・・。


綾菜はそんな心配をしながら飛び続けていた。


「む~・・・。ママぁ~、私も飛びたい。」

綾菜に抱っこされていたミルフィーユが綾菜に言う。

綾菜は一度止まり、ミルフィーユを離して飛ばせてあげる。


「ミルちゃん、ママ、今急いでるから遊ばないで着いて来てね。」

綾菜は羽をパタパタさせているミルフィーユの頭を撫でながら言う。


「うん!」

ミルフィーユは力強く返事をしてくれた。

ミルフィーユは基本的に良い子である。

性格も穏やか・・・と言うか少しおっとりし過ぎている所も有るが優しい心の持ち主である。

しかし、まだ子どもで時々空気を読んでくれない時がある。

綾菜は一抹の不安を胸にミルフィーユと空を飛び続けた。


空を飛び少ししてからの事だ。

ミルフィーユが不意に後ろを指差して綾菜に言った。


「ママ!!後ろからでっかい鳥さんと人がいっぱい飛んできてるよ!」

ミルフィーユは目をキラキラさせながら興奮気味に綾菜に言う。


「うん。ミルちゃん、スピード上げるよ。」

綾菜は深刻な表情を浮かべながらミルフィーユに答えた。


空を飛ぶ人間はグリンクス自慢の飛行兵団である。

元素魔法に反応し、自由自在に飛び回れる小型の円盤。

スノーボードのように円盤に足を固定させ、乗るだけなので両手の自由も利く。

スピードがさほど出ないのが珠に傷らしい。


問題は鳥の方である。

オウムヶ鳥。

天上界に生息する鳥の中で2番目に巨大な鳥と言われている。

白く美しい翼や七色の尾羽は『空のシルク』と呼ばれており、光沢があって軽く、丈夫な布になる。

嘴には石化の力があり、触れるモノ全てを石させると言う。

その為、食事はヘンルーダと言う石化を解く力を持つ薬草に限られている。

しかし、ヘンルーダは薬草の中でも入手難易度が高く、高額だ。

そのヘンルーダを購入する為にグリンクスで史官した同期が綾菜にはいる。


エルン出身、古代語魔法の第一人者『ミラルダ』

古代語魔法しか扱えないが、その古代語魔法だけならば三賢者にすら匹敵する力を持つ。

その古代語魔法を極める途中で、高知力の獣と会話する術を覚え、ミラルダはオウムヶ鳥を自分のペットにした。

綾菜に取ってミラルダはライバルである。

性格は穏やかで優しく、頭も機転がかなり利くタイプの人間で胸もでかい。

欠点と言えばシリア同様、ルールに厳しい所である。


普段であればミラルダなら話せば分かってくれるだろうが、今回に関しては話が違う。

今、綾菜は絶賛法律違反中である。

追い付かれれば、戦闘になる。

魔法戦ならば良い勝負になるが戦闘に時間をかければ飛行兵団に追い付かれて状況は悪くなる。

今、もっとも会いたく無い人物である。


「そこの召喚師!止まりなさい!

ここは魔法禁止区域です!!」

遠くからミラルダの声が聞こえる。

クレアボヤンスと言う、声を大きくさせる魔法を使っている。


「んなの知ってるっての!!

それでも使わなきゃいけない状況だって考えなさいよ!馬鹿!!」

綾菜は文句を言いながらミルフィーユを抱き寄せ、後ろに向けてバクームを放つ。

その強風を使い綾菜は進行方向への速度を上げ、後ろにいる連中は逆風を食らって速度が落ちる。

しかし、それを受けて、オウムヶ鳥は大きく上昇した。


上から回り込む気!?


綾菜は逆に急降下をし、落下の速度を利用して自分の速度を上げ、オウムヶ鳥との距離を稼ごうとする。

しかし、それに気付いたのか、オウムヶ鳥も急降下をしてきた。

同じ急降下ならば体重のあるオウムヶ鳥の方が圧倒的に有利である。


「くっ!」

綾菜は急降下で地面すれすれまで落ち、下に向かってもう一度バクームを放ちその勢いで再び飛び立つ。

しかし、インプの翼でオウムヶ鳥の翼に勝ち目など無い。

綾菜が再び上昇した直後、綾菜とミルフィーユはオウムヶ鳥の大きな翼から巻き起こる強風に煽られ、地面に戻された。



「あれっ!?綾菜?綾菜なの!?」

地面に着地させられた綾菜を見て、ミラルダがオウムヶ鳥の上から呼び掛けて来た。


「ええ。そうよ。だから見逃してくれない?」

綾菜は駄目元でミラルダに言う。


スタッ!

ミラルダはオウムヶ鳥から飛び降りて来て、綾菜を見る。


「久々に会った友達がまさか犯罪中とはね。

見逃したいけど、それは無理な相談ね。

シリアやシノちゃんは?

あの2人がいたら貴女を止めたでしょうに・・・。」

ミラルダが綾菜に聞いてきた。


綾菜は深くため息を付いて、ミラルダに答える。

「シリアはジールド・ルーンの王宮で、シノはエルンのテーベに帰ってるわ。

それより、今、急いでるの。

説教ならジールド・ルーンでシリアにされるから、今は見逃してくれないかしら?」


「それは無理よ。グリンクスで起きた犯罪だもの。

グリンクスの法に乗っ取って裁かさせて貰わないと・・・。」

ミラルダは綾菜に答える。


巨乳は融通が利かないから嫌いだ。(綾菜の偏見と持論)


綾菜は1度深くため息を付くと、抱っこしていたミルフィーユを下ろす。

「ミルちゃん?少し離れてて。

ママ、これから危ない事するからね。」

綾菜はミルフィーユに優しく言う。


「うん!!怪我しないでね。」

ミルフィーユは綾菜に答えると、パタパタと走って岩の後ろに隠れた。


「可愛い・・・。」

ミラルダも可愛いモノに弱すぎる節があるのは綾菜と同じである。

2人して走るミルフィーユの後ろ姿に癒されてしまっていた。



「さて・・・。あの子を隠すと言う事は、やる気と言う事かしら?」

ミラルダが綾菜に聞く。


「急いでるの・・・。悪いけど、飛行兵団が来る前にケリ着けさせて貰うわよ!!」

綾菜は言うと、すぐさま魔法を唱える。

「コール、あにゃ、ゆーにゃ!!」


「呼ばれて出てきたゆーにゃデシ!!」

「あにゃですわ。」

いつものノー天気な2人である。


「おお?これは、倒しがいのある巨乳デシ。」

ゆーにゃが相変わらず下品な事を言うが、ことミラルダに置いてはむしろ頼もしい。


「宿命の対決ですわね・・・。本気で行きますわ。」

あにゃが言う。


いつもは本気じゃないのか?


心の中でツッコミを入れる綾菜だが、今回はそれ所では無い。

「ゆーにゃ、接近戦でミラルダに魔法を使う余裕を与えないで!

あにゃはダグフレアの準備を!!」


「行くデシ!!」

言うとゆーにゃがまっすぐミラルダに向かって飛んでいく。


「マジックシールド!」

ミラルダはすかさず手を前に出し、魔法の盾を出した。


ガンッ!

ゆーにゃは力一杯ミラルダのマジックシールドに激突する。

そして、マジックシールドから魔方陣が浮かび上がった。


「あ、あれ?動けないデシ!!」

ゆーにゃがミラルダのマジックシールドから離れる事が出来ず、ジタバタしはじめた。


「魔縛結界。ゆーにゃ君の魔力を縛らせて貰ったわ。

抜け出したければ、綾菜からの魔力供給を断ち切る事ね。」

ミラルダが言う。


「ゆーにゃが魔力ごと縛られちゃったからダクフレアが打てないですわ!!」

あにゃが動揺しながらも、ミラルダに向けてマジックアローを飛ばし始める。

それに対し、ミラルダは自分の周りに青白いオーラを出す。


「魔力障壁。この障壁内に入った魔法はかき消されますよ。」

ミラルダがあにゃに言う。


「くそ・・・始めの雑談中に守備を整えたかぁ~・・・。」

綾菜は悔しそうな顔をし、日之内玄乃青龍を引抜きミラルダを接近戦に持ち込もうとする。

「片手でゆーにゃを止めてたら接近戦は不利ね?」


トシュッ!

綾菜の突きをミラルダはかわし、綾菜から距離を置いて異次元ルームから昆を取り出した。


「魔法使いなのに、肉弾戦に持ち込む判断の早さは流石ね。」

ミラルダも昆を手前に出し、綾菜を迎え撃つ。


ダンッ!

綾菜は青龍を突き出しながらミラルダに接近する。


カンッ。

ミラルダが綾菜の突きを昆で弾く。

綾菜は突きを弾かれたまま青龍を手放し、ミラルダの腹部に手を当てた。


「えっ!?」

ミラルダが呆気に取られる。


「魔力障壁はゼロ距離魔法には対応出来ないでしょ?」

綾菜がニヤリと笑う。


「ディバインヒート!!」

唱えると綾菜の手が真っ赤になり高熱を放つ。

魔力障壁はその壁に触れた魔力をかき消す。

つまり、魔法障壁は自分の体から少し離していないと自分も魔法が使えなくなるのだ。


「ああん!」

綾菜のディバインヒートを食らった衣服は高熱を放ち、ミラルダの体を熱する。

ミラルダは綾菜から距離を置き、着ていた服を脱ぎ捨て、魔法で自分のローブを作成した。


「あ~・・・。マジッククロースかぁ~・・・。」

綾菜がぼやく。


「なんでそうやって品の無い戦術を使うんですか!!」

ミラルダが顔を真っ赤にして綾菜を叱る。


裸にしてしまえば、そろそろやってくる飛行兵団に裸を見られたくないミラルダは「来るな。」と言う。

それが狙いだったのだが、ミラルダはマジッククロースと言う魔法で上手く綾菜の作戦を破った。


「でもさ、この状況でオプティムを呼び出したらどうする?」

綾菜がにんまりと嫌らしい笑みを浮かべる。

ミラルダの顔が青ざめた。


「ミラルダ様!!」

後ろから飛行兵団が追い付いて来て、綾菜をすぐに捕らえた。

ここでは綾菜は抵抗を敢えてしない。

ある程度、鍛えている数人の男相手に下手な抵抗をしても怪我をするだけだし、飛行兵団を万が一傷付けでもしたら罪はより重くなるからである。


「捕獲成功。連行しますか?」

飛行兵団がミラルダに聞くと、ミラルダはばつが悪そうな顔で飛行兵団に答える。


「いいえ。仮釈放致します。」

ミラルダの返答に飛行兵団がどよめく。


「彼女は真城綾菜。ジールド・ルーンの宮廷魔術師です。

その彼女が今、急ぎジールド・ルーンに戻ると言っております。

これを妨げるのは国際問題に発展しかねませんので。」

ミラルダがもっともらしい口実を言う。


分かってるなら最初から逃がしなさいよ!!


綾菜は心の中でツッコミを入れるがここは黙っていた。

「しかし、法律違反は法律違反です。

私が彼女をジールド・ルーンまでお送り致しますので、その旨をイマイチ陛下にお伝え頂けませんか?」

ミラルダが飛行兵団に言うと飛行兵団は綾菜から渋々手を離し、王都へと戻って行った。



「ありがとう。ミラルダ。」

綾菜は起きあがり、押さえられていた手首をクイクイっと動かしながらミラルダに礼を言う。


ミラルダは綾菜のディバインヒートの効果が切れたのを確認し、服を着始める。

「一応、今回は私の負けですしね。

それに部分召喚とは言え、召喚魔法を使い続けるなんて無理がありますよ。」


「本当。そこは助かるわ。」

綾菜がミラルダに答え、そしてミルフィーユを呼ぶ。

ミルフィーユはテクテクと歩いて綾菜の所まで来た。


「ウエイブ!」

ミラルダは上空を飛んでいるオウムヶ鳥を呼ぶ。

するとオウムヶ鳥は降りてきてミラルダと綾菜、ミルフィーユを乗せてジールド・ルーンへ飛びだった。



「うわ~・・・。」

オウムヶ鳥のウエイブの背中は大きく、3人が乗っても問題ない広さである。

大きな翼はその分速度も早く、みるみる内に視界が変わる。

ミルフィーユは快適な空の旅に思わず声を出していた。


「ミルちゃん、落ちないでね。」

綾菜がミルフィーユに注意を促す。


「はぁい。」

ミルフィーユは元気に答える。


「ミルちゃんの、右手に着いてるアンクレット・・・ホワイトドラゴンかしら?」

ミラルダがミルフィーユの腕輪に気付き、綾菜に聞く。


綾菜は顎に指を当て、考えながら説明をする。

「ん~・・・。確信は無いけど、白竜山で白竜を名乗る子猫から貰ったみたい。

多分、白竜の子どもかなって思うけど、白竜山に白竜以外で契約召喚出来る存在っているの?」


「いないわ。白竜のシブーストかな?

6年位前に産まれた毛並みが普通と違う子がいるから。

白竜なのに気が荒い子みたいだけど、意気投合したなら流石赤竜王アムステルの子ね。」


ミラルダは流石だと綾菜は思う。

ミルフィーユを一目見て赤竜の亜人だと認識し、その上であまり警戒をしていなかった。

ミルフィーユは赤竜だが性格は温厚だとすぐに判断したのだろう。

白竜の情報もしっかり持っていたし、エルンの魔法学園時代の優等生っぷりは今も健在だ。


「・・・て事は、テンボスの白竜山で何かあったのね?

数ヶ月前の大量殺人事件に関係しているなら情報が欲しいわ。」

ミラルダが綾菜に話の核心を突く。

綾菜は思わず苦笑いを浮かべながら白竜山であった事をミラルダに話す。


「化学薬品・・・。人が作った毒を温泉に流して毒が効力を持ち続けるって言うのがにわかに信じられないわね。

そもそも、白竜山の源泉には癒しの力もあるのよ?

その力は毒も浄化するのになぜ、その化学薬品の毒素は消えなかったのかしら?」

ミラルダの疑問に綾菜は上手い返事は見付からない。

「おそらく、優人ならばその理屈の説明が出来ると思う。」と綾菜はミラルダに答えた。



綾菜達がジールド・ルーンに着いたのはミラルダとの戦闘からわずか2日後であった。

途中で食事を取ったりもしたにも関わらず、こんなに早く着くのには綾菜もびっくりした。

オウムヶ鳥の凄さを心の底から痛感した。


ジールド・ルーンの王宮の中庭に突然オウムヶ鳥で降りたのだが、その時のダレオス達の落ち付きようには逆にミラルダが驚かされていた。

クレインが一言、「あっ、綾菜さんだ。」と言った途端にダレオスもシンもラッカスも「あっ、綾菜か。」で納得してしまったのである。

よっぽど綾菜はジールド・ルーンで悪さをしているのだなとミラルダは笑いを堪えていた。



ダレオス達はミラルダに気付くとすぐに会議室に人を集め、会議を始めた。


ジールド・ルーン国王『ダレオス』

ジールド・ルーン聖騎士団顧問『シン』

ジールド・ルーン宮廷魔術師『クレイン』

ジールド・ルーン王宮司祭『ラッカス』

ジールド・ルーン聖騎士団団長『アレス』

ジールド・ルーン上級騎士団団長『クルーガー』

ジールド・ルーンレンジャー部隊隊長『ガルーダ』

ジールド・ルーン宮廷魔術師『綾菜』

ジールド・ルーン宮廷司祭『シリア』

少し離れた所には、

フォーランド王妃『スティアナ』

フォーランド近衛騎士団長『エナ』

までいる。

そうそうたる顔触れに流石のグリンクス宮廷魔術師のミラルダも気後れをする。


「さて・・・新聞で話は聞いている。

ナイトオブフォーランドでありながら我が国の新たな英雄、優人がグリンクスにおいてフレースヴェルグの信者達を大量に斬ったとの事だ。

その報告の為、我が国の宮廷魔術師である真城綾菜がグリンクスの法を犯し、今ここに至る。

まずは国を代表し、詫びを申し上げる。

申し訳無かった。」

ダレオスはゆっくりと立ち上がり、深くミラルダに頭を下げた。


「い、いえ、事情が事情なので、それはもう良いです。

魔法禁止区域での魔法の使用については・・・ですけど・・・。」

ミラルダはダレオスに答える。


「優人のフレースヴェルグの信者斬りについても咎められる無いじゃろ?

暗黒魔法使いどもはどうせロクな事せぬしな。」

ミラルダにスティアナが言う。

それに対し、ミラルダは顔をしかめる。


「いいえ、我が国は犯した罪は裁きますが、まだ犯していない罪は裁きません。

フレースヴェルグが例え悪魔だとしても信仰する事は罪とはしていません。

彼らを斬ったと言う事は一般国民を斬った事と同じです。」

ミラルダは凛としてスティアナに答える。


「しかし、悪魔信仰により、沢山の人に被害が及びます。

無駄に魂のやり取りも行われるでしょうし、それを見逃すのは神の意思に反します。」

シリアがミラルダに言う。


「グリンクスは神の教えを法にはしていません。

シリア司祭の発言はジハドの思考に偏り過ぎてます。」

ミラルダがシリアに返す。


「化学薬品による大量殺人の件は?

それはフレースヴェルグの信者達の仕業だとほぼ決まってるでしょ?」

綾菜がミラルダに聞く。


「綾菜、化学薬品に関してはそもそも何なのかさっぱり分からないの。

治癒の魔法すら効かないその存在を理由にフレースヴェルグの信者達を断罪は出来ません。」

ミラルダが綾菜に答えた。


ガタンッ!

「面倒臭ぇな!!」

シンが突然立ち上がった。


「どうしましたか?シン。」

ラッカスがシンに聞く。


「そもそも聞くが、優人が悪党だと思うか?」

シンが会議室の人間に聞く。

誰も返事をしない。


「だったら答えは簡単だろうが!

分らず屋のグリンクスなんてぶっ潰して、優人を救い出しゃ良いんだろ?」

シンがミラルダを睨みながら言う。


「滅多な事を言うな!!」

ダレオスがシンを嗜める。


「あん?滅多な事?てめぇは仲間をまた見捨てるってのか!?

優人がこの国で何をしてくれたか分かっててそんな冷てぇ事を言ってのか!?」

シンの『また』と言う言葉にはエアルの事が含まれている。

それを言われたらダレオスも黙ってはいられない。


ガタンッ!

ダレオスも立ち上がり、シンの胸ぐらを掴んだ。

「俺は国を守る為に最善を尽くしてるだけだ!!

仲間を見殺しにして平気な訳が無いだろうが!!

貴様こそ、立場を考えろ!!

俺達の発言、判断が国を動かすんだよ!!」

胸ぐらを掴むダレオスを睨み付けるシン。


ドンッ!

次の瞬間、鈍い音と共にダレオスが会議のテーブルの上に倒れこんだ。

シンの拳がダレオスの顔面に入ったのだ。


「国を守るだぁ?仲間1人救えねぇ奴が何を偉そうにほざいてやがる!?

優人は感情に任せて暴れる奴じゃねぇ!

あいつがやったならフレースヴェルグの連中が何かしてるに決まってるだろ!!

ぬるい事言ってんじゃねぇ!!」


ドンッ!

また鈍い音がし、今度はシンが吹っ飛んだ。


「感情に身を任せて国を犠牲にするのが正義じゃねぇだろうが!!

俺達は力がある国なんだ!!

国民も何もかも守る事を優先に判断しろ!!

グリンクスと戦争なんてしてみろ!!

世界を巻き込むぞ!!」


ドンッ!

今度はシンが、そしてまたダレオスが。

会議室内で2人の大男の殴り合いが続いた。


「止めなさい!シン!ダレオス!!」

ラッカスが2人の間に入って止めようとするが2人は止まらない。

ついにはミルフィーユが綾菜にしがみついて声を殺して泣き始めた。


「2人とも止めて!!」

2人を止めたのはエナだ。

ダレオスとシンは殴り合うのを止め、エナを見る。

「今、ここで喧嘩してても何も始まらないじゃない。

まずはグリンクスに行ってイマイチ陛下に申し開きをして、優人さんと会って事情を聞くのが先決じゃないの!?

2人ともしっかりしてよ!!」


「あ・・・。」

ダレオスとシンはエナに言われ、優先事項に今さらながから気付く。


「そうと決まれば時間が惜しい!

スティル、お前の所の船なら機動力も高い。

すぐに出港出来るか!?」

ダレオスがスティアナに聞く。


「当たり前じゃ。すぐに船を出そう。」

スティアナが立ち上り、ダレオスに答える。


「よしっ、では五英雄は共にグリンクスに行く。

アレス、クルーガー、ガルーダ、シリア、暫し国を任せる。

ミラルダ殿も船にご同行下さい。」

ダレオスが急いで全員に指示をだした。



会議が終わると船はわずか30分足らずで出港出来た。


「ところでさぁ、スティル?」

甲板で海を眺めているスティアナに綾菜が声を掛ける。


「なんじゃ、綾菜。」

スティアナは海を眺めたまま綾菜に返事をする。


「どうして貴女はジールド・ルーンにいたの?」

「うっ・・・あ、あれじゃ、優人がやらかしたと聞いてじゃな・・・。」


「ゆぅ君がやらかしてからまだ2日か3日よ?

フォーランドからジールド・ルーンまで7日は掛かるんでしょ?

おかしいじゃない?」

綾菜がスティアナに突っ込む。


「スティルは公務に飽きるとすぐに出掛けたがるんです。

多分1年の5分の1もフォーランドにいませんよ。

綾菜さんからも何とか言ってやって下さいよ。」

エナが後ろから話に割って入ってきた。


「城勤めは苦手じゃぁ~・・・。」

スティアナは項垂れながら答える。


「全くだ。城なんてつまらねぇ。男は戦場か酒場にいる生きもんだろ?」

そこにやって来たのは顔を激しく腫れ上がらせてるシン。


「シンお義父様の言い分も極端過ぎます。どこの山賊ですか?」

エナがシンに説教をする。

シンはばつが悪そうに自分頭を掻く。


「・・・それよりその顔の腫れ・・・ラッカスさんは治療してくれないんですか?」

綾菜がシンに聞く。


「ああ、これな?

ラッカスの野郎・・・『一々あなた方の喧嘩で負った傷の手当てをする程、ジハドの加護は安くありません。』とか言って治してくれねぇんだよ。

これからイマイチ陛下に会うっつ~のによぉ~・・・。」

シンが綾菜達に愚痴を溢す。


「まぁ・・・、自業自得ね。

つかミラルダの前でグリンクスを潰すとか問題発言ですからね?」

綾菜がシンに言う。


「けど、もしイマイチ陛下が優人を処刑したらやるだろ?」

シンが悪い笑みを綾菜に見せる。


「そりゃあ・・・そうなったら絶対に許しませんけど・・・。」

綾菜がシンに答える。


「失った命は戻らねぇ。だったら失う前にこちらの意志は見せとかなきゃな。

優人を死なせたら戦争。

そうなりゃグリンクスも優人を殺るなら覚悟する必要が出てくる。

簡単には手出し出来ないだろうよ。」

シンが綾菜に言う。


「そうだとしてもお前のやり方は過激過ぎるんだよ。どこの山賊だ?」

そのシンにツッコミを入れるのはやはり頬を派手に腫らしているダレオス。

横にはミラルダとクレインもいた。


「お前がチンタラやってるからだろ。」

シンがダレオスに言い返す。


「2人とも、こんな所で喧嘩は止めて下さいね。

あなた方の喧嘩はほっとくと死人が出そうで恐いんですから。」

クレインが2人がヒートアップする前に嗜める。


「しかし、グリンクスの国内警備隊は優秀です。

優人さんが無事かどうか・・・。」

ミラルダがソワソワしながら言う。


「それは大丈夫だろ?

優人がそう簡単に捕まる訳が無い。

あいつは頭の回転が早い。

戦闘より逃げ回る方が多分得意そうだしな。」

シンが笑いながらミラルダに言う。


「そうだと良いのですが・・・。」

ミラルダはまだ見えぬグリンクスの地を眺めながら物思いに更けていた。

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