第五十話~復讐~
翌朝、優人達は冒険酒場で食事を取っていた。
テンボスでもルールはグリンクスの港町グリトルンと同じである。
店員にテーブルまで案内してもらい、メニューを渡され、それを見て注文をする。
日本出身の優人に取っては当たり前の事だったはずだが、他の国の生活に慣れると意外と面倒臭いと感じ始めていた。
元々、優人は食事にこだわりが無い。
そんな優人にとってはグリンクス以外の国で良くやっていた『軽いのを頼む。』と言う注文方法が楽だったのだ。
「・・・。」
面倒臭がりながらも朝食の注文を済ませ、綾菜やミルフィーユといつも通りの会話をしていた優人だが、途中で違和感を感じ、周りに気を配り始めた。
どうやら町の外れの一軒家が火事になっているらしい。
「火事かぁ~・・・。
こんな時間だし、朝食の準備の最中かしらね?」
周りを警戒している優人に綾菜が話かけてきた。
「うん・・・。そうだろうけど・・・すみませ~ん!!」
優人は店員を呼ぶ。
店員は小走りて優人の所へやって来た。
「はい。承ります。」
店員は丁寧にお辞儀をすると紙を取り出した。
「情報が欲しいんですが、この火事はどこで起こってるんですか?」
優人は火事についての情報を店員に聞く。
「はい。町外れの・・・デュークと言う冒険者のお宅ですね。
火事自体は日の登る前に起こっていて・・・。」
ガチャン!!
優人は説明の途中で立ち上がると、デュークの家に向かって走り出した。
「ちょっ!ゆぅ君!!」
綾菜が驚いて立ち上がり、まだ食べてる途中のミルフィーユが食べ物を飲み込むのを待ってから抱き上げる。
「ミルちゃん、ごめんね。後でゆっくり食べよ?」
「うん。」
ミルフィーユは素直に頷く。
「すみません。お会計をお願いします。」
綾菜はミルフィーユに気を使いながら店員に料金を支払い、優人の後を追った。
優人達が到着する頃にはデュークの家全体が火に包まれていた。
デュークの姿は見当たらない。
綾菜が火を消そうと、近くにある温泉の水に風水魔法をかけようとする。
「駄目です!町中での魔法は法律違反です!!」
魔法を使おうとする綾菜の近くにいた国内警備隊が止めに入った。
「ええっ!?でも火事よ!!火を消さないと・・・。」
綾菜が国内警備隊を説得しようとするが国内警備隊は首を縦に振らない。
焦れた綾菜はミルフィーユを下ろし、燃え盛るデュークの家に向かって大声を出す。
「デュークさん!!いたら返事して!!火事よ!!」
しかし、デュークの返事は当然無い。
綾菜は燃え盛る家に飛び込もうとする。
「綾菜!!」
それを優人が止めた。
「どうして止めるの!?デュークさんがいるかも知れないのに!!」
綾菜が優人に怒鳴る。
分かっている。
綾菜は火に飛び込み、国内警備隊の見えない所で魔法を使うつもりである。
命賭けの救出ではない。
「デュークは家にいないよ。」
優人は綾菜に答える。
「えっ?」
優人の返答に思わず綾菜が聞き返した。
「今、家は全体に火が燃え移ってるけど、玄関が既に炭になってる。
デュークの家の台所は玄関から客間を挟んで裏側だった。
それはデュークが俺達に茶を入れる時に向かった方向で想像が出来る。
では放火魔が犯人か?
放火魔なら玄関から火を付けるなんてリスクの高い真似はしない。
家の裏側に向かってばれずらい場所を火元にすると思う。」
優人は自分の推理を綾菜に話す。
「なら、誰が火を?」
綾菜が優人に聞く。
「デューク本人だよ。」
優人が即答した。
「え?なんでそんな事を?」
綾菜の質問に優人は俯いた。
デュークの気持ちが痛い程優人には分かるからである。
それなのに、つい油断してしまった自分を優人は責めながら綾菜の質問に答える。
「自分の・・・帰る場所を無くす為だ。」
「帰る・・・。」
綾菜が優人の言わんとする事を悟ったのか、黙り込んだ。
ずっと闘病生活を送っていた妻、マゼンダ。
別れは確実に、すぐそこまで来ていたのは分かっていた。
覚悟はしていた。
しかし、マゼンダは薬代わりに飲んでいた温泉の水を飲んで急死した。
覚悟はしていても、急過ぎる別れにデュークは辛かったはずである。
それでも、それが天命だと諦めていたのだろう。
しかし、昨日白竜山でそれが人為的に行われた無差別大量殺人のせいだと知ってしまったのだ。
そして、それに使われた毒は、天上界には存在しない薬品で証拠にもならない。
結果、犯人は何のおとがめも無い。
こんな話が割り切れる訳が無い。
ただでさえも愛する妻に先立たれ、生きる事に魅力を感じていないこの時期に、こんな事が分かれば取る行動は一つである。
犯人の可能性の高いフレースヴェルグの暗黒魔法使いどもを1人でも多く殺す事である。
もし、全滅させる事が出来てもグリンクスの法律は殺人を犯したデュークも許さない。
デュークは死ぬ覚悟をしたのだ。
そして、もう戻らないと自分に言い聞かせる為に、思い出の詰まった我が家を自らの手で燃やした。
だから、玄関が火元なのである。
「綾菜・・・刀を返してくれ。」
少し沈黙した後、優人が綾菜に言った。
綾菜は一瞬顔を歪めたが、諦めたかのように微笑み、優人に答える。
「言うと思った・・・。」
答えると綾菜は異次元ルームから優人の刀を取り出し、優人に近付いて行った。
「ありがとう。綾菜はジールド・ルーンに戻っててくれ。」
優人は刀に手を伸ばしながら綾菜に言う。
しかし、綾菜は刀を強く握りしめていて優人に渡してはくれなかった。
「綾菜?」
優人は綾菜の顔を見る。
「この後、すぐにジールド・ルーンには帰る。
だけど、私は陛下に助けを乞いに行くだけだから・・・。
2つ約束して。」
心配そうな綾菜が優人に言う。
「1つ目、フレースヴェルグの暗黒魔法使いは全滅させちゃってかまわないけど、一般人や国内警備隊には絶対に手を出さないで!!
罪が重くなると、いくらダレオス陛下でも庇いきれなくなるかも知れないから。
後・・・できればフレースヴェルグの暗黒魔法使い達の犯行の証拠も見つけ出して!!」
「分かった。暗黒魔法使いどもを全滅させて証拠を見つけたら、ひたすら逃亡する。」
優人は答える。
「2つ目、あのクレイ君すらも倒したゆぅ君がそう簡単にやられるなんて思ってないけど・・・ゆぅ君は純粋な悪に対しては弱いから。
理由を持たない悪もいる・・・今回、もし青酸カリを作った地上界人にあった時、躊躇わずに殺して。
多分、そいつは愉快犯だから。そいつの話には耳を傾けないで。」
綾菜の読みは優人と同じだ。
毒を作り、不特定多数の被害者を作る。
天上界にしがらみを持たない地上界の人間がこんな事をするのに理由は恐らく無い。
強いて言うならば、青酸カリの作り方をネット等で調べ、知識は有るが材料と費用がない人間が、フレースヴェルグの暗黒魔法使い達と言う犯罪組織の力を借りて作成し、その薬品を試しに使ってみたかった。
犯行の動機はそんな所だろうと優人も予想している。
「分かった。そうする。」
優人が綾菜に答えると、綾菜は握っていた刀を離した。
優人は綾菜から受け取った刀、日之内玄乃鳳凰を左の腰に差し、鞘に付いている緋を右の帯に巻き付ける。
緋の巻き方にも居合いの作法がある。
緋は帯の下から通し、帯を縛るように輪っかを作り、先端部分を蝶々結びのように丸めて輪っかに入れる。
そして、最後に緋の下部分を引っ張ってくくりつける。
こうすると、緋は解き易く取れずらい。
優人は刀を腰に付けると思わず安心する。
廃刀令で刀を奪われた武士達の気持ちが今さらながら分かった気がした。
その後、優人は綾菜と別れると冒険酒場へ行き、フレースヴェルグの暗黒魔法使い達のアジトを聞いて、そこへ向かった。
・
・・
・・・
優人達と別れた後、デュークは1人で自分の家に戻り、玄関奥にあるリビングの椅子に腰掛け、おもむろに天井を見上げた。
デューク以外誰もいない部屋は静まり返り、静寂がデュークを包み込む。
デュークは瞳を閉じて物思いに更ける。
一昔前ならば、今頃はマゼンダの作る料理の香りがデュークを優しく包み込み、食器の当たる音がカチャカチャと楽しい気持ちにさせた。
料理が終わると、マゼンダはすぐには食器を片付けず、テーブルに肘をついて少しデュークととりとめもない雑談をする。
そんなマゼンダの顔を見ているのがデュークは幸せだった。
しかし、そんな普通の夫婦の、普通の毎日はある日、突然の愛妻の病気により打ち砕かれた。
当時、グリンクス国内警備隊で働いていたデュークはその給料だけでは追い付かない額の治療法をマゼンダに施し、足りない分を補うために外国で冒険者を始めた。
それでも足りず足の付きづらい海賊の国、フォーランドで山賊を始めた。
しかし、そんな矢先に優人達と出会った。
自暴自棄になり、このまま落ちる所まで落ちてしまおうと思っていたデュークに優人は生きろと言い、絵里がマゼンダが助かる道を提示してくれた。
もう一度やり直そうとグリンクスに戻り、マゼンダと供に生活を再開するも、癒しの力があるはずの温泉の水を飲んでの突然の別れ。
それが運命だと割り切ろうとしていたら、それが毒殺だったと分かってしまった。
デュークは閉じていた瞳を開け、天井を再び見上げる。
部屋はいつの間にか日が落ち、自分の心を映し出すかのように真っ暗になっていた。
部屋の暗闇はより一層、孤独感を強くする。
この家にマゼンダは、もう、いない。
愛する人を殺めた罪人を裁く法律もないこの国では、デュークは泣き寝入るしか無い。
こんな理不尽が許されるのだろうか?
デュークはゆっくりと立ち上がるとタンスを開け、中にしまっていたグレートソードを取り出した。
冒険者になった時から幾度となく死線を乗り越えてきた相棒。
「相棒・・・。国が裁かぬからば俺がやるしか無いよな?」
デュークはグレートソードに話し掛けた。
分かっている。
グリンクスで殺人と認められればデュークが捕まる。
証拠にならない毒ならばいくらでも言い逃れは出来るが、剣で人を斬れば証拠になる。
フレースヴェルグの暗黒魔法使いを裁いた後、デュークはグリンクスに追われる事になる。
しかし、デュークの気持ちを無視するグリンクスと言う国もデュークからすれば同罪なのかも知れない。
全員、殺してやる。
デュークの瞳が怪しく光った。
デュークはグレートソードを背負うと、台所へ行き、松明に火を灯す。
マゼンダとの思い出を1つ1つ思い出し、噛み締めながら自分の家の中を見て回り、玄関から外に出、そして自分の家に振り返る。
俺が進むは修羅の道。
行けば戻れぬ地獄への一方通行。
戻る場所も、拠り所ももはやらいらない。
デュークは持っていた松明を玄関に投げ込んだ。
パチッ、パチッ。
燃え始めた玄関を眺めながらデュークは内に秘めていた己の怒りと殺意の存在に改めて気付かされた。
フレースヴェルグ・・・絶対に許さねぇ!
デュークはグレートソードを背にフレースヴェルグの暗黒魔法使いのアジトへと歩いて行った。
まだ日が登り始める前の事である。
昔、優人も明け方の奇襲をデュークに仕掛けて来た。
この時間帯の奇襲は確かに厄介だった。
夜は警戒心が強まるが、明け方はどうしても大半は寝入り、緊急事態に対して反応が遅れる。
眠気が邪魔をして判断力も鈍る。
フレースヴェルグのアジトには見張りが2人、酒を飲んでいた。
「おい。」
デュークは酔っぱらっている2人に声を掛ける。
「なんだ、お前?ここがどこだか分かってるのか?
フレースヴェルグ様信仰の暗黒魔法使い様の神殿だぞ?
帰れ、帰れ!!」
酔っぱらった門番の1人が力なく手を振り、デュークを追っ払おうとする。
デュークは背中に背負ったグレートソードに手を掛けると、一気に引抜き、そのまま門番の1人を叩き斬る。
ドガァ!!
グレートソードは日本刀のような切れ味は無い。
グレートソードに叩かれた門番は吹っ飛び、壁に激突して息絶える。
グレートソードの当たった箇所は粉砕骨折に近い位粉々に砕かれ、壁に激突した衝撃で全身が持ってかれる。
壁には門番の血が飛び散り、無惨な事になっていた。
一瞬で錆びた鉄のような臭いが周りを覆う。
「ひっ!!て、敵襲だ!!」
もう1人の門番が声になら無い声で叫ぶ。
ドゴォ!!
デュークに背を向け、逃げ出そうとした門番を後ろから斬り下げる。
門番は頭をかち割られ、大量の血を吹き出して倒れた。
まだ生暖かい血がデュークの顔につく。
デュークは返り血を手で拭う。
この門番の体温の残る血。
今の今まで生きて、酒を飲んでいた人間の血。
それが一太刀でただの肉片へと変わる。
マゼンダも、こいつらも同じ人間で、同じ肉の塊になった。
「辛くは無かろう?お前らが散々してきた事だ。」
デュークは倒れた門番にそうポツリと言う。
石畳の先にある建物から数人の人間がこちらへ向かって来るのが見える。
全てが敵。
全てが憎むべき存在。
「かかってこい!!1人残らず殺してやる!!」
デュークはグレートソードを肩に掛け、走って来るフレースヴェルグ信者を待った。
やって来たのは3人。
皆ショートソードだ。
グレートソードに対し、有利なのは小回りと攻撃速度。
しかし、間合いの長さと言う絶望的な不利がある。
デュークはニヤリと笑うとグレートソードを両手で持ち、1人に襲いかかる。
「う、うわぁ!!」
デュークに狙われた男はショートソードの切っ先をデュークに向けて逃げ腰になっている。
ドシュッ!!
しかし、圧倒的に長い間合いを持つグレートソードにそんな事をしても何の意味も成さない。
デュークのグレートソードがその男を問答無用で叩き斬った。
辺り一面に血が飛び散る。
それに怯むショートソードを持つもう1人を、グレートソードを斬り下ろした状態から薙ぎ払って叩き斬る。
ボキボキボキッ!
骨が砕ける感触がグレートソードを持つデュークの義手を通じて感じる。
この感触。
この臭い。
この風景。
まるで地獄のような状況にデュークは居心地の良さを感じ始めていた。
憎しみ、怨み、怒り、そして喪失感。
今の自分を投影しているかのように思える。
グサッ!
残ったショートソードの男がデュークを背中から突き刺して来た。
刺された背中から血が流れてくる。
しかし、やはり逃げ腰での攻撃である。
しかも、背中と言っても端の部位。
怯えが優先されていて殺す意識の無い攻撃。
かすり傷程度だ。
デュークは怒りで顔を歪める。
「やる気がねぇなら剣なぞ持つな!!」
デュークは体を翻して、その勢いでグレートソードを最後の1人に力一杯ぶつける。
その男は吹っ飛び、アジトの壁に激突して、まるでトマトのように潰れた。
「ふぅ・・・。」
敵の姿が無くなるのと、デュークは深くため息を付いてアジトの入口へ歩き出した。
バタンッ!
デュークがアジトに向かって歩いていると、突然アジトの玄関にある両開きの扉が開かれた。
そして5人、槍を身構えた男が立っている。
「やっとやる気を出してきたか?」
デュークはニヤリと微笑むと、グレートソードを隠し下段に構え、走り出した。
ヒュン!
すると、突然、弓矢がデュークの頬をかすめる。
デュークは立ち止まり、矢の飛んで来た方を確認する。
アジト2階のバルコニーで5人がボウガンをデュークに向けていた。
「・・・。」
バルコニーのボウガン部隊を睨み付けるデューク。
ドスッ!
ドスッドスッ!!
不意に体に激痛が走る。
左肩、左下腹部、右あばら骨部分に槍部隊の槍が貫かれたのだ。
「ぐっ・・・。」
思わず、声をあげたデュークの口から血が溢れて来た。
「くそ・・・たれがぁ!!」
デュークは右手に持っていたグレートソードを雑に振り払う。
ドコォ!
槍部隊の3人はデュークが動き出した事にヒビって槍を離して一斉に逃げようとするが、1番右にいた男にグレートソードの刃が当たる。
プシュー!!
右下腹部から左肩にかけて当たったグレートソードの犠牲者はそこから音を出して血を吹き出し、仰向けに地面に倒れた。
ズシャ。
デュークはグレートソードを地面に突き刺し、右の義手で左肩に刺さったままの槍に手を掛け、強引に引き抜く。
デュークの肩からも大量の血が吹き出るが、デュークは気にせず、抜いた槍を右肩の上に持ち変えると、バルコニーにボウガン部隊の1人に投げ付けた。
ドシュッ!
デュークの投げた槍はボウガンの1人の顔面に突き刺さる。
ボウガンの男は槍の勢いに押され、そのまま仰向けに倒れた。
デュークは今度は両手をクロスさせ、右手で左下腹部の槍を、左手で右あばら骨部分の槍を引き抜く。
そして、同じようにバルコニーのボウガンに1本投げ付けた。
ドシュッ!
槍はボウガンの心臓を貫き、絶命させた。
「うわぁああ~!」
それを見たボウガンの残り3人は悲鳴をあげて、バルコニーから部屋へと逃れた。
それを見ていた槍を離した2人も玄関に逃れようとする。
「させるかよ!!」
デュークは槍をもう1本、玄関に向かって走る男達に投げ付ける。
ドシュッ!
その槍は男を1人捕らえ、貫かれた男はうつ伏せに倒れた。
「チッ!」
デュークは舌打ちをすると、再びグレートソードを引抜き、玄関に走っているもう1人を追いかける。
「うぉおおお!」
そんなデュークに槍を持った男2人が同時に迎え撃って来た。
キィン!
デュークは槍を1本かわし、もう1本はグレートソードで弾く。
そして、槍を弾くために振り上げたグレートソードを槍を持つ男目掛けて振り下ろす。
ボキン!
グレートソードは重量が大人1人分以上ある。
それを行き追い付けて振り下ろす。
それは例え片手であっても破壊力は抜群だ。
槍の男の左肩を捕らえたグレートソードは容易に男の鎖骨をへし折る。
デュークは鎖骨部分で止まったグレートソードを左手に持ち変えると右手で刃を押し込む。
ボキボキボキ!!
デュークに押されたグレートソードの刃は骨を砕き、肉と皮を引き裂きながら右下腹部まで到達する。
デュークは男が絶命したのを確認すると蹴り飛ばし、グレートソードを引き抜いた。
あまりの壮絶な状況にもう1人の槍の男は完全に腰が引けている。
「はぁ、はぁ・・・。」
刺された3ヶ所が高熱を発し、今にも燃え上がりそうな位熱い。
血も大量に流し、気を抜くと意識が無くなりそうである。
体中に付いている返り血も、もはやどれが自分の血かも分からない。
「おいっ!」
バルコニーの方からデュークを呼ぶ声がする。
「うん?」
デュークはバルコニーを見る。
トシュッ!
「ぐおぉぉ・・・。」
デュークがバルコニーを見上げたタイミングでボウガンの矢が飛んできて、デュークの左目を貫いた。
デュークは右手で左目のボウガンの矢を引抜き、よろめいた。
「今だ!!突撃しろ!!」
バルコニーの上から激が飛ぶと、建物の脇から3人が姿を現し、持っていた槍をデュークに向けて突進してきた。
「くっ・・・。」
デュークはグレートソードを右手に持ち変え、向かってくる3人を迎え撃つ。
スバッ!
1人目の槍の男を斬り上げるデューク。
切り上げられた男の足は宙に浮くが吹っ飛ばなかった。
「んっ!?」
槍の男はグレートソードにしがみ付いていた。
ドスッ!
その隙に槍が1本、デュークの脇腹に突き刺さった。
刺した男はすぐに槍を離し、腰を抜かしていた。
「ぐっ・・・。」
デュークは思わず、グレートソードを握る手が緩んでしまった。
ドサッ・・・。
グレートソードにしがみついていた男はグレートソードと一緒に地面に落ちる。
そのショックで刃が食い込み、腕が切断された。
ドスッ!
ドスッ!!
次の瞬間、デュークの体にまた槍が突き刺さる。
「ぐおぉおおおおお!!」
デュークに槍を突き刺した男2人はデュークを刺したままそのまま押し込んできた。
ドンッ!
デュークは刺したまま押され、アジトの脇に植えられていた木にぶつかる。
デュークはダラリと手を垂らすが倒れる事は無い。
デュークを貫いた槍が木に刺さり、デュークの体を支えてしまっているのだ。
「はははははっ!まだ生きてるのか?
化け物みてぇなやつだな!!」
木にもたれ掛かっているデュークに大声を出して笑う男が近付いて来た。
さっき、バルコニーの上からデュークを呼んだ男である。
その横には槍を持った男が2人。
腰を抜かしている男が1人。
遠くに槍を持った男が1人いる。
後、ボウガンが3人残っていたな・・・。
デュークはもう体が動かない。
まるで自分の体が石になったかとすら感じる。
今まで自分の中に渦巻いていた怒りや憎しみと言った感情は無くなり、何故か穏やかな気持ちになっていた。
デュークは大笑いをする男を残った右目で力無く見る。
「人間ってのは不思議だな。
簡単に死ぬと思えば異様にしぶとい。
しかし、しぶとい奴は殺しがいがあるよね?」
軽薄に笑うこの男が毒を作った犯人だろうか?
しかし、今のデュークはそれすらもどうでも良く感じた。
デュークはそっと瞳を閉じた。
ガチャ。
カランカラン。
ドスッ!ドスッ!ドスッ!
暗闇の中、周りで音が聞こえるが興味が無い。
デュークはそのまま深い眠りに落ちた。
そして、次に意識が戻ると雑音が無くなり、身体中の痛みも無くなっていた。
不思議に思い、デュークは閉じた瞳を再び開ける。
何故かデュークは明るい日差しの差す花畑にいた。
優人に斬られた右腕も、さっき潰された左目も治っている。
散々浴びた返り血も傷も綺麗に無くなり、着ていた服も何故かグリンクスの国内警備隊の制服だった。
夢・・・か?
デュークは周りをキョロキョロしながら花畑を歩く。
「デューク。」
不意に後ろから聞き覚えのある懐かしい声が聞こえた。
振り向くと、そこには白いワンピースと麦わら帽子を被ったマゼンダが優しく微笑みかけていた。
「マゼンダ・・・。どうして・・・。」
どうして死んだはずのマゼンダがいるのか、その疑問を投げ掛けようと思ったデュークだったが、それが野暮な質問だと気付いて止めた。
デュークはゆっくりとマゼンダに近付くとマゼンダの細い腰に手を回し、抱き寄せた。
何年ぶりだろうか?
こうやって妻を抱き締めるのは。
手から伝わるマゼンダの温もり。
マゼンダの香り。
ずっと、デュークが取り戻したかった全てが今、ここに戻ってきた。
「デューク、ごめんね。
辛い思いばかりさせて・・・。」
マゼンダはデュークの胸におでこをつけ、詫びを入れる。
デュークはより強くマゼンダを抱き締め、瞳から溢れる涙を見せまいした。
「構わない。大した事じゃない。
しかし、あっちに残して来た心優しい友に面倒事を残して来てしまった。」
デュークは今、恐らくテンボスの宿で寝ているだろう優人に思いを馳せる。
優人は人の気持ちを大切にしてくれる奴だ。
自分の死を知って黙ってるような男ではない。
「それは、彼に酷い事をしたね?
だけど、彼に任せましょ?
もう、貴方は休むべきだから。」
マゼンダがデュークに優しく言う。
デュークは黙ってマゼンダを抱き締め、強く心の中で誓う。
もう、2度とこの手を離さない。
今度こそずっと守り続けると・・・。
花畑に咲く花は風に吹かれて緩やかに揺れる。
暖かい日差しの中、デュークはずっとマゼンダを抱き締めていた。
・
・・
・・・
「はぁはぁはぁ・・・。」
優人がフレースヴェルグの暗黒魔法使いのアジトに着いた時は日が登り始めていた。
時間にして午前8時。
門には人がおらず、壁に寄りかかって息絶えている人間の姿があった。
壁にはべっとりと血が付いている。
門をくぐるとそこはまるで地獄絵図のようになっていた。
そこら中に飛び散っている肉片。
芝生には大量の血がかかっており、芝生の緑が見えない状態である。
戦闘の壮絶さが伺える。
アジトの中から戦闘の音が聞こえない。
これだけの惨状にも関わらず、入口の扉も閉まっている事から戦闘は終了している事が予想出来る。
「デューク・・・。」
優人は悪い予感が一瞬よぎったが、それを振り払い、一応庭に転がっている肉片の中にデュークがいないか探す。
「!?」
優人はデュークを探し始めるが、すぐに木に寄りかかり立ったまま事切れているデュークを見つけ、青ざめた。
デュークに近付くと、デュークの体に槍が3本刺さっていて、その槍がデュークと木をくくりつけていた。
右腕の義手が乱暴に外され、地面に放り投げられている。
優人は義手を拾うと、デュークの元へ行き、デュークの遺体に義手をもう1度着けてあげた。
デュークの義手は所々に蹴られたり、踏まれたりした形跡がある。
体にも槍以外にも体の至るところに刺し傷があった。
ここまでやる必要がどこにある!
優人はフレースヴェルグの連中に嫌悪感を覚えながら、デュークに刺さった槍を引抜き抜く。
そしてデュークを横にし、目を閉じて手を合わせた。
ペシッ!
優人は目を開けると、突然デュークに軽くビンタをしてから立ち上がった。
「幸せそうな顔をしやがって・・・。
あの世でマゼンダさんに会えたのか?
ここは戦場、弔う事はしてやれないが悪く思うなよ。
せめて、お前とマゼンダさんが末長く幸せにいられるよう祈っといてやるよ。」
言うと、優人はデュークに背を向け、アジトの入口へと歩いて行った。
デュークは敵討ちも、マゼンダの無念を晴らす事も望んではいないだろう。
デュークは、優人にはこれ以上フレースヴェルグには近付かず、綾菜と幸せに暮らす事を望んでいるはずだ。
しかし、その願いを聞き届けるつもりは優人には無い。
デュークの敵討ちでも、マゼンダの無念を晴らす為でも無い。
心無い悪人どもに友達を傷付けられて、ムカついたからぶっ飛ばすだけである。
「もう・・・、許せねぇよ。」
優人はアジトの扉をゆっくりと開ける。
アジトの中は入ってすぐに通路になっていた。
その通路の奥に扉があり、その扉の奥から笑い声が聞こえてきた。
あの惨状の直後に笑ってるのか!?
片付けもしないで!?
優人はフレースヴェルグの信者達の常識観念に一瞬呆気に取られたが、すぐに気を取り直して扉を開けた。
部屋には8人の男がいた。
男達は優人を見るや否や壁に立て掛けてある武器を手に取り身構える。
「てめぇ・・・、何者だ?」
槍を手にした男が優人に聞いて来た。
優人は8人の得物を確認する。
槍が4人。
ボウガンが3人。
ナイフが1人。
「まぁ、待て。敵とは限らないだろ?
グリンクスの国内警備隊の関係者か?
もしそうなら外を片付けてくれ。
大剣を持った暴漢に襲われてあの惨状なんだよ。」
ナイフを持った男が優人に言ってきた。
「そうか・・・。なら、少しこのアジトも捜査させてくれないか?
暴漢がいきなり乗り込んで来たのにも理由が有るかも知れない。」
優人はナイフの男に答える。
すると、一瞬だがナイフの男が狼狽える仕草を見せた。
「それは困る。俺達は突然襲ってきた暴漢を返り討ちにしただけだ。
正当防衛だろ?」
ナイフの男が優人に答えてきた。
正当防衛。
日本で悪党どもが時々堂々と主張してくる言葉だ。
恐らく、ナイフの男が地上界出身の人間だろう。
しかしこの男に知性を全く感じられない。
本当に専門知識をもった科学者ではない気がする。
恐らく、ネット辺りで科学薬品の作り方を調べ、作ったのだろう。
「過剰防衛と言う言葉を知ってるか?
外を見てきたが、あそこまでやる必要は無いと思うが。
怪しい奴の家宅捜査は常套手段だろ?」
優人はナイフの男に答える。
「くっ・・・。」
悔しそうにナイフの男が優人を睨み付ける。
「ふざけるな。貴様、国内警備隊では無いだろ?何しに来た?」
槍の男が優人に聞いて来た。
「お前らをぶっ飛ばしに来たんだよ。」
言うと、優人は刀に手を掛けボウガンの男に斬りかかった。
バシュ!
優人の刀はボウガンの男の首の大動脈をバッサリと斬った。
バシュー!!
大動脈から大量の血が吹き出す。
その血の吹き出し方に他の人間が気を取られる。
トシュッ!
優人はもう1人のボウガンの心臓を一突きし、距離を置く。
ブシュー!!
音を出して心臓から出血する。
大動脈にしろ心臓にしろ、必要以上に派手に血が吹き出す。
吹き出す血は目眩ましになると踏んだ優人はあえてこうした。
敵が仲間がやられた気付いたのは2人目が倒れた時だった。
ドシュ!
優人は躊躇わずボウガンの横にいた槍使いの首に刀を突き刺し、横に振り払う。
今度は血の勢いで首が吹っ飛ぶ。
「てめぇ!いい加減にしやがれ!!」
ボウガンの最後の1人が優人目掛けてボウガンを放つ。
しかし、優人はそれをかわし、身を翻して優人の後ろにいた槍の男を横振りに斬り裂く。
上半身と下半身が真っ二つになった槍の男が倒れた。
「ふぅ・・・。」
大量の血で床が真っ赤になっている中、返り血を浴びていない優人は残りの槍の男2人とボウガン1人、ナイフの男1人を睨む。
「一瞬で戦力半減だな?」
優人が言葉を出すと、4人がビクンと体を震わせた。
室内で槍は突き以外の攻撃手段が殆どない。
ボウガンも1発避ければ次を撃つ前に切り捨てれば良い。
強いて言うならナイフが1番厄介だが、ナイフの殺傷力も日本刀と比べればおもちゃみたいなものだ。
戦力半減と言っても元々、この部屋の中で戦力と言えるモノなど存在しないが・・・。
「ふ・・・、ふざけるな!!
お前、こんな事をして無事で済むと思うなよ!?
ここはフレースヴェルグ信者の支部だが、こんな事をしたら本部が動く!!
グリンクスの国内警備隊もお前を捕まえるだろうよ!!」
ナイフの男が優人に怒鳴る。
しかし、完全に怯えきっていて、虚勢にしか見えない。
優人は深くため息を付いて、ナイフの男に答える。
「俺はついこないだエルンでイフリートの暗黒魔法使いの組織と戦った。
元を辿るとフォーランドからの因縁だったがな。
フレースヴェルグでも何でも今更ヒビリはしないさ。」
優人は1歩、フレースヴェルグの組織の連中に近付く。
「ひぃっ!」
ナイフの男が腰を抜かし、床に尻餅を付いた。
「この!!」
その瞬間、槍の男が優人に突進をしてきて、ボウガンの男が矢の準備に取りかかる。
バシュ!
優人は槍の突きをかわし、懐に入りながら抜刀して胴を真っ二つに斬り、抜いた刀でボウガンの男まで距離を一気に詰めて喉を突き、そこからボウガンを持つ右腕を斬り捨てた。
バタッ!
バタッ!
2人はほぼ同時に床に倒れた。
パチンッ。
そして、優人は再び納刀をする。
「それと・・・家宅捜査の話をしたら表情が曇ったな?
外部に知れては困る物がこのアジトのどこかに有るんじゃないのかな?
それをグリンクスの国内警備隊に提出すれば立場が変わる気もするがどうだろうか?」
優人はナイフの男に聞く。
ナイフの男は優人の話を聞きながら青ざめていた。
「お・・・お前、まさか、8000人斬りの優人・・・か?」
ナイフの男が優人に聞いて来た。
「実際はやってはいないが良くそう言われる。」
優人はナイフの男に答える。
それを聞いていた残った槍の男も青ざめていた。
「か、勝てる訳無いだろ・・・英雄じゃねぇか・・・。」
ナイフの男が小さな声で呟く。
「鮮やかな訳だ。そりゃ、瞬殺されるわ・・・。」
槍の男も納得した様子だ。
「さて、どうする?黙ってアジトの捜索をさせて、ヤバい証拠を渡すか?
まだ戦って死ぬか?」
優人は2人に聞く。
「アレを渡したら俺達はどうせ本部に殺されるんだよ・・・。」
言うと槍の男が身構え、優人に突進してきた。
室内で槍は突きしか攻撃手段がない。
払い等の技は壁が邪魔をする。
それをかわす方も逃げ場が少なくなるが、ほぼ素人の槍なんて今の優人は簡単に見切れる。
最悪でも、刀で一度弾いてしまえば切り返せない槍の懐に入るなんて造作も無い。
優人は槍をかわし、抜刀して、胴を真っ二つにした。
パチンッ。
そして、また納刀する。
「あんたはどうする?どう転んでも死しか無さそうだけど?」
優人はナイフの男に近付きながら尋ねた。
「ま、待ってくれ!!俺はフレースヴェルグの信者に脅されてたんだ!!
あんたも地上界からの・・・神隠し子なら分かるだろ!?
右も左も分からない天上界に突然飛ばされて、頼る人もいなかったんだ!」
「・・・。」
ナイフの男の命乞いを聞き、優人はフォーランドの田中を思い出した。
確かに天上界に来た地上界の人間が生きるには選択肢がかなり少ない。
優人のように元々剣術をやってる人間なんてそうはいない。
運良く案内係に救われるか、誰かに守って貰うかを初めはしなければいけないだろう。
この男はその『誰か』がフレースヴェルグの暗黒魔法使いの一団だっただけなのかも知れない。
「それでもお前がやったのは犯罪だ。
フレースヴェルグの組織が何を企んでるか知らないが、国内警備隊に証拠を提出して牢にぶちこまれる位は諦めるんだな。」
言うと優人はナイフの男の肘を持ち上げ、立たせようとした。
グサッ。
その瞬間、優人の下腹部に激痛が走り、優人はナイフの男から離れ、腹部を押さえた。
押さえた手にはドロッとした感触がある。
腹を刺されたのだ。
「く、くははははっ!!
バッカじゃねぇの!?流石英雄殿はお優しいですな!!」
優人を刺したナイフの男がナイフを手に持ちながら大笑いをした。
「お前・・・、脅されてたんじゃ・・・。」
「脅されてた?違うね。
俺がフレースヴェルグの連中を利用してやったんだよ!!
地上界で見た青酸カリの作り方を実践してみたかったんだ。
そして、その効果もな!
フレースヴェルグの連中が協力してくれたから利用しただけだよ。
これから沢山青酸カリを作ってグリンクス中の水に混ぜてやるんだ!!
馬鹿だぜ、人間はよぉ。
自分の理解を超えた物は認識出来ないんだな?
おかげで俺はこんなに殺してるのに無罪だ。」
言ってナイフの男が高笑いをした。
綾菜に釘を刺されていた。
悪党だから躊躇わず殺してくれと・・・。
なのに、つい同情をしてしまった。
「なるほど、それが国内警備隊にバレたらまずい証拠か?
青酸カリ自体じゃなく、計画書とかがあるのかな?」
優人は腹を押さえながらナイフの男に聞く。
実は腹部の傷はそんなに深くは無い。
実践経験が無いからナイフの男は勝手に勝った気でいるようだが・・・。
しかも、優人にはまだクレイの血の効果があるのか、腹部は既に血が止まっていた。
しかし、優人はまだ立てない振りをし、相手を油断させて情報収集をする。
「ああ、グリンクス転覆計画だ。
国内の水に青酸カリを混ぜまくり、下手に水が飲めない状況にしてからフレースヴェルグの組織が挙兵。
イマイチ王の首をあっさりと取る計画だ。
世界が驚くだろうな。
俺はその立役者の1人になるんだよ!!」
ナイフの男は調子に乗ってペラペラとしゃべりまくる。
「そんな事、成功すると思ってるのか?」
「するさ。化学薬品は天上界ではどんなに使ってもバレない。
現にテンボスで死者が出てるのに未だに原因すら分かって無いじゃないか?
こんなに大事になってるのに分からねぇんだ、馬鹿ばっかでやり易いよな?」
ナイフの男は再び大笑いをする。
「ああ、後な、本当はお前はいつか殺すつもりだったんだ。
フォーランドで英雄と呼ばれ始めた時からな。
地上界出身で有名になる奴らは片っ端から消すつもりだった。
他にも、エルンのルーンマスター、真城綾菜。
グリンクスの機械技師、有馬哲也。
大商人、野崎太郎とかな。
1番厄介そうなお前を先に殺れて良かったよ。」
そこまでナイフの男が話すと、優人はクククと笑い始めた。
「何がおかしい!!」
ナイフの男が笑う優人に怒鳴る。
優人はスッと立ちあがりナイフの男を睨み付けた。
「俺が先で良かったと思ってな。
お前みたいなカスと綾菜を会わせたくも無いから、安心したんだよ。」
優人はゆっくりとナイフの男に近付く。
「なっ!?ちょっと待て!!」
ナイフの男がまた焦り始める。
「残念ながら待つ気は無い。
お前の戯れ言も聞く耳を持たない。」
優人は刀に手を掛ける。
「金ならやる!助けてくれ!!」
バシュ!
優人は問答無用でナイフの男の首を斬り飛ばした。
バタンッ。
音を立て、ナイフの男は床に倒れた。
優人はナイフの男を少し見下す。
「人を殺めるならば殺められる覚悟をするのが道理。
加害者は被害者の気持ちを考える必要があるもんだ。
人を殺した時点でお前も殺される覚悟はしとくべきだったな。」
言って、優人はクスリと笑う。
被害者の気持ちを考えるならば犯罪なんてそもそも発生しないと言う皮肉に自分で気付いたからであった。




