第四十六話~アリアンスストーン~
「あ~・・・。う~・・・。」
エルン王都内にある魔法学園寮の1室で優人は座椅子に座り、窓からボーっと外を眺めていた。
外では遠く離れた所で学生が何やら運動をしている。
日の場所を見れば真上。
時間にすれば昼過ぎと言った所だろうか?
優人は今、猛烈に暇していた。
暗黒魔法使い達との戦闘が終結してから3日経った。
クレイは『この国ではもう傭兵として信用されない。』と言い、南方の国へと渡った。
アレスとシリアは孤児となったサナを連れ、ジールド・ルーンに。
リッシュはもう少し世界を見たいと、今度はスールムに行ってしまった。
絵里は引き続きエルンの学園で魔法の勉強に戻った。
今回の一件で絵里は神聖魔法に興味を持ち、近い内にエルザの司祭になるための儀式を行う事になっている。
地上界では『不良』とまで言われていた絵里が天上界では慈愛の女神の司祭になる。
誰も予想しない進路だろうと優人は少し可笑しくも感じていた。
その他、綾菜、ミルフィーユ、優人はと言うと・・・まだエルンにいる。
理由は優人の怪我だった。
いつも通り神聖魔法ですぐに完治するだろうと思っていたのだが、今回はニーナに説教を食らわされた。
説教の内容は大怪我をし過ぎると言った事である。
ニーナの見立てによると優人は天上界に来てわずか1年で3度も生死の境を彷徨うレベルの怪我をしているとの事だった。
1度目はフォーランド。
遠き心の大鐘を鳴らす時。
度重なる麒麟の電撃の直撃を受け続けた時。
2度目はジールド・ルーン。
砦前でのスールム兵8000人を相手にした時。
あの時は本当に死んだらしいが・・・。
そして3度目はここ、エルンでのクレイ戦である。
ジハドの斬撃から飛び降り、全身粉砕骨折である。
神聖魔法は『努力する人間に対する神の慈悲』であり、元来神の気まぐれで起きる『奇跡』を、魔力を使って神に祈る事で引き起こしている『尊い力』である。
それを『起きて当然』かの様に計算に入れる事は神に対する冒涜で許されるものでは無い。
と言うような事をニーナに言われた。
確かに、今回優人は大怪我をしても何とかなると言う算段はしていた。
神聖魔法の回復力ならば生きていれば回復すると計算していたのが、ニーナ達司祭の逆鱗に触れてしまったらしい。
結果。
ある程度骨を付けるまでの治癒で止められ、後は自然治癒するまで何もするなと言う罰を受けることとなったのであった。
その罰の為、優人達は学園の寮を1室借り、そこで治るまで大人しくする事になったのである。
骨は付いているがまだしっかりは治っておらず、少し体を動かすだけで激痛に襲われる。
優人は起きている間はソファーに座りずっと外を眺めるだけの毎日を過ごしていた。
綾菜とミルフィーユは今、商店街に買い物に行っている。
話し相手もおらず、優人は1人でボーっと外で運動をしている学生達を眺めているのだった。
ガチャリ。
少しボーっとしていると、玄関の扉が開く。
優人は嬉しそうに振り向く。
「ぱぱぁー!!」
優人の姿を見付けるとミルフィーユが両手を前に出しながらトタトタと優人に駆け寄ってきた。
右手には最近ミルフィーユがハマっているクレープをしっかり持っている。
「ミルー!!」
優人は座ったまま両腕を広げミルフィーユを受け止める。
これも最近ミルフィーユがハマっている『再会ゴッコ』である。
ベルガモの町の出口で綾菜が優人にやったのを見て真似をしているのだ。
綾菜は玄関でひきつった顔で優人とミルフィーユのやり取りを見ている。
自分のマネをするミルフィーユを可愛いと思う反面、人前で優人に甘えるという黒歴史を再現される綾菜の気持ちは言わなくても分かる。
優人はそんな綾菜の表情も好きで、毎回ミルフィーユの再会ゴッコに付き合ってあげていた。
「あ、そうだ、すぐお昼の用意をするね。」
少しすると綾菜が我に戻り台所へ小走りして異次元ルームから買った食材を取り出し始める。
「何か手伝うか?」
優人は綾菜に聞く。
「大丈夫。ミルちゃんといちゃついてて。」
綾菜も優人に皮肉で答える。
ミルフィーユは優人の太股の上に座り、大好きなクレープを食べ始める。
そして優人の顔を見上げ、優人に食べかけのクレープを差し出してくる。
可愛い仕草だし、大好きなクレープを分けてくれるミルフィーユの優しさだ。
しかし優人は甘いのがさほど好きではなく、食べかけを食べるのはあまり好きでは無い。
優人からすれば迷惑極まりない事だが、ミルフィーユの優しさを踏みにじりたくない一心で優人はクレープを少しだけ頬張る。
「しかし、やっぱり司祭って制約とか面倒臭いよなぁ~・・・。」
優人は思わず愚痴を溢した。
「いや?ニーナさんのあの説教は口実だと思うよ?」
優人の愚痴に綾菜が料理をしながら答えた。
「んっ?口実?」
「うん。風水魔法の回復は自然の性格属性を利用して治癒するから問題無いけど、神聖魔法の治癒は体内に魔力を注ぎ込むからね・・・。
回復としては優秀だけど、やり過ぎると何か不具合が有るんじゃないかな?」
「不具合?」
血液でもそうだが、自分の元来持つ血液より他人の血液の方が多くなると問題が生じると聞いた事がある。
魔力にしても同じ何かがあるのかも知れないのかな?
優人はとりあえず納得する。
「まぁ、堂々とゆっくり休めるチャンスなんだからゆっくりしましょ。
もう少ししたら歩く位出来るでしょ?
私もミルも、ゆぅ君とのデート待ち中なんだからね?」
昼飯を持ってきた綾菜がテーブルに置きながら優人に言う。
「モテルオトコハツライナー・・・。」
優人はわざとらしく棒読みで答えると、昼飯を食べ始めた。
綾菜もクスクスと笑いながらミルフィーユをテーブルに座らせ、一緒にご飯を食べ始める。
食事を終える頃に、ニーナとラウリィが優人を訪ねてきた。
綾菜は2人を出迎え、食事を片付けたテーブルに座らせ、紅茶を出した。
「まだ、暗黒魔法使い討伐の礼を言ってないと思ってな。」
紅茶を一口飲むとラウリィが話を切り出した。
「礼を?三賢者が2人揃ってそれだけのために来たなんて恐縮しますな。」
優人は遠回しに別に用事があるなら言えと答える。
その優人の返答の意図を察したのか、ラウリィは苦笑いをしながら紅茶の入ったカップをテーブルに置いた。
「察しの良いお前だ。
王都襲撃なんて大事件にも関わらず、三賢者が揃わない事に違和感を感じてはいないか?」
ラウリィが優人に変な質問をしてきた。
そういう言い回しをすると言う事は元来ならばこういう時は三賢者は揃う事が出来るのだろう。
優人は黙ってラウリィをジッと見詰め、話の続きを待つ。
「実はな、三賢者の1人、エドガーと言う1番優秀な魔法使いは遠くの国に出張中なんだ。」
このラウリィの話し方が優人は気になった。
この話し方に対する優人の次の返答は「どこへ出張ですか?」の一択である。
この言い回しをするという事はラウリィは『今エドガーはどこいるかを強調して言いたい』のだ。
「どこへ?」
優人はあえてラウリィの希望通りの質問を返す。
「アニマライズだ。
赤竜王アムステルに会いに行っている。」
ラウリィの返答に綾菜の顔色が変わる。
しかし、優人はある程度は予想していたので顔色を変えはしなかった。
「その理由が今日俺に会いに来た事にどう繋がるのか、そこが知りたいですね。」
回りくどい言い方をするラウリィに優人が本題に入るよう促す。
ラウリィは苦笑いを浮かべながら優人を見た。
「お前・・・、察しが良すぎて可愛くないって良く言われないか?」
「愛嬌担当は綾菜とミルで間に合ってるから問題ありません。」
ラウリィの皮肉に優人が答える。
ラウリィは大きく、息を吸い込むと、意を決し、話し出した。
「地上界で何か異変は起きてないかを聞きたかったんだ。
天候でも天災でも構わない。
何か気になる事はないか?」
異変?
優人は少し考えながらラウリィの質問に答え始める。
「俺の住んでる日本の気候はここ10年近く、異常気象は当たり前で・・・逆に異常じゃない気象の1年ってのを聞きませんね・・・。
異様に暑い夏や急な冷夏だったり・・・。冬も暖かいと思えば大雪が降ってみたり・・・。
東西で大地震なんかもありましたね・・・。」
「地震?」
ラウリィが変な所に食い付いた。
「地震なんて天上界でもあるんじゃないですか?」
優人はラウリィに逆に聞く。
「いや。天上界で起こる地震は大地の精霊や神の怒りで起こる。
地上界にはそんな力を持つ存在がいないはずだからあり得ないだろ?」
ラウリィが優人に言い返す。
そのラウリィの発言を聞き、優人は天上界は科学的な概念がないと思い地震の原因についての説明を始めた。
「地表の底にプレートと言うものがあって、そのプレートが急に動くと地震が起きるんです。」
「プレート?」
「はい。地表は一つではなく、複数の地表を重ねるような形で地上を形成しているんです。
その地表を『プレート』といっています。
そのプレートはお互いに圧力を加え合い、時々その圧力が限界に達すると元に戻ろうとします。
その時に地面が大きく揺れる現象を『地震』というんです。」
「・・・成る程・・・そんな痕跡が地上界には残っているのか・・・。」
優人の説明を理解したのかしてないのか、ラウリィの反応は何故か優人の思っていたものとは違っていた。
優人が眉を潜めていると今度はラウリィが優人に説明を始めた。
「泥遊びで玉を作った事はあるか?」
「泥?やった事有りますけど・・・それが何か?」
優人は突然の変な話に混乱しながら答えた。
「始め作った泥玉は綺麗な玉になるが、その玉を半分取って残りの半分で無理矢理玉を作ろうとすると、ヒビだらけの玉にならないか?
それがプレートかも知れんと言ったらどう思う?」
ラウリィの話を聞き、優人はギョッとする。
「地上界は・・・1回分裂してるんですか!?」
予想はしていた。
時々それをほのめかす話を天上界に来てから耳にする事はあった。
大地の神ガイアが神器『フジ』を使い、地上界と天上界を分けたという話しはこの世界の通説である。
「ああ。その別れた玉が天上界だ。
地上界の人間が行き来出来ないように別の次元にな。
神隠しや死なないとここに地上界の人間が来る事は出来ない。」
「・・・。」
ここまでの話を聞き、優人は少し黙って話を整理する。
地上界の異変を聞きに来たラウリィ。
赤竜王アムステルに危険を犯してまで会いに行っているエドガーと言う三賢者。
天上界と地上界は元々1つで分裂している。
・・・。
「1つ聞きたいのですが、エドガーと言う男は何故アムステルに会いに?」
優人はラウリィに聞く。
「もう検討はついてるだろ?
天上界も地上界も異変が起き始めている。
今の世界の形では世界に限界が来ているんだ。」
「つまり、天上界と地上界を元に戻すと考えている?」
「それが判断出来ないから天上界と地上界が1つだった頃を知っている古代獣に話を聞きに行っている。」
ラウリィの話を聞き優人は頷いた。
そんな優人を少し眺めるとラウリィは黙って立ち上がった。
「地上界の事情はある程度把握した。
まだ、俺達もお前達も動く時期ではない。
今は出来ることをお互いにやろう。邪魔をした。」
言うとラウリィは玄関へと歩いて行く。
それを追うようにニーナも優人達に会釈をし、小走りしていった。
優人は2人の出ていった玄関を眺めながら言い知れぬ不安を抱き始めていた。
ラウリィ達の訪問から3日。
優人の怪我の具合はかなり良くなり、少しなら歩けるようになっていた。
優人はずっと待っててくれた綾菜とミルフィーユを連れて王都へと出た。
「でも、粉砕骨折なのに回復が異様に早かったね?」
久しぶりの優人とのデートで浮かれてる気持ちを隠すように綾菜が優人に聞いてきた。
「ああ。絵里が風水魔法で応急処置してくれてたし、クレイの血の超回復の効果も残ってたんだと思う。
後、ニーナさんもある程度の回復はしてくれてたしね。」
「ふーん・・・。
でもさっ、骨折って地上界だと固定するじゃん?
ギブスとか着けて。
天上界だと着けなくても大丈夫な理由ってなんだろね?」
綾菜の素朴な質問に優人は答える。
「地上界でも動かなくて良いならギブスを着けないのがここ最近の骨折の治し方なんだよ。
逆にギブスのせいで変な付き方する事もあるみたいだし。」
「そうなんだ?医療も日々進化してる・・・のかな?」
「間違った発見や解釈は一旦後退させるかも知れないけど、それも含めて進化はしていってるんだよ。」
優人は体の具合を確認しながら綾菜に愛想笑いをする。
「あっ!クレープのお姉ちゃんだ!!」
突然、ミルフィーユが指差して声を出した。
ミルフィーユの指差した方向にはクレープの屋台があり、そこにポニーテールの似合う爽やかな女の子がクレープを焼いていた。
「ミルはあたかも偶然見掛けたみたいに言ってるけど、あそこにいつもクレープ屋あるよな?」
優人は1人でクレープ屋に駆け寄って行くミルフィーユの後ろ姿を見ながら綾菜に聞く。
「ハハハ・・・。ミルちゃんにとってはいつも新鮮なんだよ。」
綾菜の乾いた笑いを見て、ほぼ毎日このパターンでクレープを買わされいると優人は想像が付いた。
「こんにちわ!」
クレープの屋台のカウンターに身長が届かないミルフィーユは屋台の横に回り、クレープ屋の女の子に深くお辞儀をしながら挨拶をしていた。
女の子もクレープを焼く手を止めて、ミルフィーユにお辞儀をしながら返事を返す。
「こんにちわ、ミルちゃん。
今日はパパも一緒なんだね?」
「うん!」
「もう~・・・。相変わらず可愛いなぁ~・・・。パリパリ食べる?」
クレープ屋の女の子はどうやらミルフィーユにメロメロにされているようだった。
「いつもすみません。
じゃあ、今日もクレープとアイスティーを2つお願いします。」
綾菜が小走りしながらクレープ屋の女の子に話し掛ける。
「あっ、いえいえ。パリパリは余って捨てちゃう分ですから。」
綾菜に気付き、クレープ屋の女の子は仕事モードに戻る。
外交的で色んなものに興味を持つ子と、そのフォローをする母親。
地上界でも良く見る光景だったが、その子がミルフィーユで母親が綾菜だと言うだけで何故か幸せな気分になる。
優人は綾菜の後をゆっくりと歩きながらクレープ屋に近付いて行く。
「後、その・・・たい焼きも1つ下さい。」
優人はパリパリと聞いて、もしかしたらクレープだけでなくたい焼きもあると予想し、屋台の奥にあるのを確認してから注文した。
「あ、はい。甲羅焼きですね?
かしこまりました!!」
女の子は元気に返事をすると、たい焼きのような甲羅焼きとやらも作り始めた。
「・・・。」
優人はクレープ屋の屋台を見ながら一つ、疑問が産まれた。
調理に使う道具が日本の物に似ているのだ。
「この、クレープや甲羅焼きはお嬢さんが考えたんですか?」と、優人。
女の子は笑いながら優人に答える。
「いいえ。私はただの時間給です。
この屋台はハタシャチョーと言う方が作りました。」
「ハタシャチョー?ハタ社長かな?」
優人が女の子に聞き返す。
「はい。ハタシャチョーです。」
「ねぇ、綾菜?天上界に会社って概念は無いのかな?」
女の子の返事の仕方の違和感で優人は、社長と言う役職をこの子は知らないと悟ったのだ。
「うん。会社って概念は多分無いね。
グリンクスって言う国にはあるみたいだけど基本的に仕事って個人でやってると思う。」
「ふぅん・・・。」
優人は甲羅焼きを食べながら綾菜の返事に相づちを打つ。
クレープ屋で軽くおやつタイムを終わらせると、優人達はエルザの神殿を見に行った。
エルザの神殿は既に瓦礫は取り除かれてはいるが、建て直しには至っていなかった。
それでも、お祈りをしたいと言う信者の為に木で小さな掘っ立て小屋を作り、そこを祭壇にしていた。
「ニーナさん、こんにちわ。」
掘っ立て小屋の神殿に入り、優人はそこにいたニーナに挨拶をする。
「あら、優人さん?こんにちわ。
もう怪我の具合は良くなったのですか?」
ニーナは優しく優人に微笑みながら挨拶を返してくれた。
「ええ。完治とは言えませんが、散歩位なら何とか出来る感じですかね?」
優人は正直にニーナに答える。
「それは良かったです。」
ニーナはニコリと微笑み返すと、表情を曇らせながら木の神殿内を見渡した。
「だけど、この掘っ立て小屋じゃあ、優人さんと綾菜さんの挙式をあげるには寂しすぎますよね・・・。」
ニーナの発言に思わず優人は顔を赤らめた。
綾菜も少し照れた様子である。
考えてみれば、プロポーズまでは終わっていたが、その先、つまり結婚について考える余裕が無かったのである。
しかし、この機会を逃すとまた事件に巻き込まれて話は先伸ばしになる。
タイミング的にはここでやってしまうのがベストだと優人は考えたが、結婚指輪もまだ無いと言う状況に今更ながら気付く。
「あの・・・。ニーナさん。
天上界では結婚指輪に使うお勧めの石とか有りますかね?」
どうせ揃えるなら最高のモノを用意したい。
優人は慈愛の女神エルザお勧めの石で結婚指輪を作りたいと考えた。
「えっ?そうねぇ・・・。
白竜山のアリアンスストーンなんてどおかしら?」
「アリアンスストーン?」
「ええ。神話では戦場に赴くジハドにエルザが1つの石を2つに割ってその1つをジハドに、もう1つをエルザが持つ事でどんなに離れていても心が通じあったとされている石です。
あなた方にはちょうど良いかなと思いますけど。」
「ロマンチックね。
でも白竜山って名前がちょっと気になるんですが・・・。」
今度は綾菜が話に入ってきた。
その綾菜の質問にニーナはクスリと笑い、答える。
「白竜山には確かに白竜が済んでます。
しかし、白竜はエルザの神獣で無益な戦いは好みません。
アリアンスストーンも偶然その山にあるだけで神器でも何でもありません。
遠き心の大鐘の時みたいに戦闘になる事も無いと思いますわ。」
ニーナの話を聞き、綾菜の表情に安堵の色が伺える。
「その白竜山はどこにあるんですか?」
と、優人。
「白竜山はグリンクスにあります。
ある意味、1番厄介な場所かも知れませんけど・・・。」
ニーナがばつが悪そうに答える。
「んっ?グリンクスって平和で経済的にも発展してる国じゃなかったっけ?
なんで厄介なの?」
優人が素朴な疑問を口にすると、今度は綾菜が優人に話し掛ける。
「例えば、日本に今の私やゆぅ君が行ったらどうなると思う?」
日本に?
「・・・。」
優人は少し考えてハッとする。
「銃刀法違反・・・。不法滞在・・・。
えっ!?そういう事なの?」
「不法滞在についてはフォーランドはちょっと問題ありそうだけど、エルンなりジールド・ルーンなりの名前を借りれば問題無いかな。
銃刀法違反が大問題だね。」
「・・・。」
天上界に来て1年。
常に武器は肌身離さず生きてきた優人。
今更、武器を持たずに天上界を歩くなんてちょっと恐い気すらする。
「けど・・・。それでも行きたいな。」
優人が答えると、綾菜は力強く頷く。
「分かった。じゃあ、グリンクスの港を降りるときにゆぅ君の刀と槍は私の異次元ルームにしまうね。」
綾菜の提案に今度は優人が頷いた。




