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リアルファンタジア  作者: なぎゃなぎ
第六章~白と黒の戦い~
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第四十三話~波状攻撃~

ラウリィはボンネットが作り出したスケルトン達を浄化しながら徐々に後方に下がるボンネットを追い掛けていた。

造り出したスケルトンの数は最早1000体近い。

スケルトンを造り出す為の骨の欠片も残りが少なくなり、ボンネット自身の魔力も底が見え始めていた。

「はぁ・・・はぁ・・・。」

息を切らせ始めるボンネット。


「どうした?俺を消耗させるのが狙いだったんじゃないのか?」

ラウリィは長めの自分のロッドで余裕そうにトントンと軽く自分の肩を叩いて余裕を見せる。


「化け物め・・・。」

ボンネットは息を切らせながらラウリィを睨む。

普通の司祭ならば浄化の魔法はせいぜい1日で50体の死後者の浄化が出来れば優秀である。

ラウリィは1人でその何倍ものスケルトンを浄化し、未だに余裕の表情を浮かべているのだ。

1000体近くのスケルトンを呼び出したボンネットも異常であるがそれすらもかすれる程の力をラウリィが持っていた。


「お前の作戦はこれで終わりか?

ならば、そろそろお前も浄化して終わりにしてるが、どうする?」

ラウリィがボンネットに聞く。


「クックック・・・。

私も浄化か・・・。

出来るかな?」

言うとボンネットが手を上げた。

すると、木陰から数人の傭兵達が姿を現した。

ラウリィは表情を変えること無く、目だけを動かして、傭兵達を確認する。


今さら傭兵?


ラウリィはまだ体力も魔力も余裕がある。

ここで傭兵が来たところで戦況はさほど変わらない。


「暗黒魔法使いは万能なんですよ。

魔界のイフリートの支配下にある魔獣も呼び出せると言うことは知っていましたか?」

言ってボンネットはニヤリと笑って見せる。


「コール、オプティム!!」

ボンネットがオプティムを召喚した。


「ふははははっ!!

この森の中の数ヵ所にオプティムを召喚してやったぞ!!

魔法の使えない魔法使い殿はこの状況をどう乗り切りますか?」

オプティムを召喚し、傭兵にラウリィを取り囲ませ、ボンネットは高らかに笑い声を上げた。


「これが狙いか・・・。

使い古された下らん手だな。」

ラウリィがため息混じりに言う。


「使い古されると言う事はそれだけ有効なんですよ。

例え三賢者でも魔法が使えないとただのゴタク野郎ですよね?」

ボンネットが勝ち誇ったようにラウリィに言う。


「雑魚が・・・。」

ラウリィは手に元素魔法を込めて肉体強化をする。


「さぁ、傭兵達よ!!

ラウリィに小細工を使う暇を与えるな!

さっさと止めをさせ!!!」

ボンネットが指示を出すと傭兵達が一斉にラウリィに襲い掛かる。


ドスッ!

しかし、ラウリィは傭兵を無視して近くにある木に強化した腕を突き刺した。

腕の筋肉は魔力で強化しているが、強化されていない腕の皮膚は剥がれ、血が刺した木の幹から少し溢れている。


「木よ、敵を殲滅しろ!!」

ラウリィは木の内部に直接魔力を注ぎ、命令をする。


ドスドスドス!!

ラウリィに魔力を込められた木は根を伸ばし、尖った根で傭兵達を突き刺し、傭兵達を全滅させた。

そして、地面の根を他の木に絡ませ、他の木にも魔力を送り近隣の木々を使い、オプティムを発見。

そして、木に攻撃をさせる。

オプティム達は軽い木の攻撃で魔界へと逃げ帰る。


「な、何!?」

木を使ったラウリィの対処にボンネットは動揺をする。


「ネタ切れだな?もう終われ。」

ラウリィはボンネットに言うと木に突き刺していない左手をボンネットに向ける。


「神の雷!!!」

言うとラウリィの左手から白い稲妻が真っ直ぐとボンネットに向かって飛ぶ。

最初に打った神の雷程の規模は無いが、直撃したボンネットは断末魔の悲鳴を上げる間も無く消滅した。


スボッ。

ボンネットが消えたのを確認し、ラウリィは木に刺していた右腕を引き抜いた。

皮膚の破けた腕からは血がしたたり落ちている。


「ふぅ・・・。」

ラウリィは大きなため息を付くと、左手を右手に添え、癒しの魔法を使う。

ラウリィは綺麗に治った右手を動かして確認をする。


「さて、アレスと優人は元気にやっているかな・・・。

魔法兵まで使って勝手なことしやがって・・・。」

ラウリィはぶつくさと文句を言いながら優人達のいるでだろう戦場へ歩き出そうとした。

しかし、この時初めて足が動かない事にラウリィは気付いた。


「ちっ・・・。呪縛結界か・・・。」


ボンッ!!

次のタイミングで乾いた爆発音と共にラウリィの左肩が弾けた。


「くっ・・・。」

不意の痛みに顔を歪めるラウリィ。

傷口に右手を添え、治癒をしようとするが魔法が使えなくなっている。


魔力縛り・・・。


呪縛結界とは相手の動きに制限を付ける結界である。

ラウリィは足を固定され、魔法の使用も今回の呪縛結界により制限されたのである。


ブォン。

鈍い音と共にラウリィの足元から黒い魔方陣が姿を現す。

これが呪縛結界の元である。


「流石は三賢者ラウリィ。

身動きが取れなくても魔法抵抗力もかなりお高いようですね?」

木の影から黒づくめのローブに身をまとった若めの男が現れた。


「爆発魔法のレイフか・・・。」

その男の姿を見て、ラウリィが名を呼ぶ。


「良くご存知で。光栄ですな。」

レイフと呼ばれた男がラウリィに答える。


「一つの町を爆発させといて良く言えるな。

有名な指名手配犯が・・・。」

ラウリィが憎たらしそうにレイフに言う。


「フフフ・・・。

そんな私の爆発魔法を魔法抵抗力だけでかわしたのだから大したモノですよ。

本当は心臓を爆発させたはずですからね。」

レイフがラウリィに言う。

つまり、心臓を狙ったがラウリィの魔法抵抗により的をずらされ、左肩が弾けたと言う事である。

しかし、それも長続きはしない。

ラウリィに直接魔法を使っても抵抗は出来るが、ラウリィの周りはレイフの思い通り爆発する。

抵抗し、急所を外してもダメージは蓄積される。

つまりこのままの状態ではジリ貧である。


呪縛結界から逃れるには結界が何を縛っているかを見破り、縛られている物を切り捨てなければいけない。

足を縛っているなら足を切断する。

腕を縛っているなら腕を切断すると言うように・・・。

厄介なのは血で縛られる事だが、今回は血では無い。

呪縛結界は外に出ている物を縛る魔法だからである。

今ラウリィは、呪縛結界以降に食らった肩の傷以外、傷が無いからである。


魔法まで封じられているから魔力縛りなのだろう。

魔力縛りならば魔腔を閉じれば良い。

簡単な話だが魔腔を閉じれば魔法抵抗が無くなる。

レイフの隙を伺う必要がある。


「ちっ・・・。」

ラウリィが舌打ちをする。


「さて、ラウリィ、爆発ショーといきますか!!」

レイフが嬉しそうに言い、ラウリィを指差した。


ボンッ!!

今度は爆発音と共に右腕の皮膚が弾けた。


「くっ!?」

痛みにラウリィが顔を歪める。


ボンッ!

ボンッ!!

ボンッ!!!

レイフは何度も爆発魔法を放ち、その度にラウリィの体の一部が爆発して血が飛び散る。


「はぁ・・・はぁ・・・。」

身体中を爆発させられ、血まみれで痛みを耐え続けているラウリィ。


このままじゃあ、力尽きるのも時間の問題か・・・。


痛みで気を失いそうな中、ラウリィはいかにレイフの目を眩ませるかを考えていた。

「なかなか下手くそだな?

所詮悪魔の力だけで強くなった気になってる馬鹿な連中だけの事はある。」

ラウリィはニヤリと笑い、レイフに言う。


「何?」

ただでさえも命中通り心臓が爆発しない事に苛立ち始めていたレイフがあからさまに機嫌悪そうにラウリィに反応した。


「気付けよ。貴様ら暗黒魔法使いは他人の魂を使ってイフリートの力を借りてるだけの屑どもだって事にな。

自分の力で何もしちゃいない。

能力もお粗末なもんじゃないか?

身動きが取れない俺の心臓一つ狙えないなんてな?」

ラウリィは挑発を続けた。

しかし、レイフは何故かここで笑ってみせた。

「良いだろう。そんなに死にたいなら心臓爆発に拘らず、下敷きにでもしてやるよ!!!」

レイフがラウリィを刺していた指を周りの木々に向け、次々と爆発をさせ始めた。


来た!!


ラウリィは血まみれの右手を自分の背中に当てる。


「クローズ。」

古代語魔法のクローズ。

これは対象の魔腔を強制的に閉じさせ、魔力の放出を根元から止める魔法である。


ピクン。

ラウリィの足が動く。

ラウリィは急いで魔法陣から抜け出す。


「馬鹿め!!クローズをすれば魔腔は閉じたままだろ!!

心臓を爆発させてやる!!」

抜け出したラウリィを再びレイフが指差す。


「バクーム!!!」

ラウリィはロッドを力一杯振り、風水魔法の強風魔法のバクームを放った。


ドーン!!


「何っ!?」

油断していたレイフは突然のバクームの直撃を受けて吹っ飛ばされた。


「お前・・・。魔腔は・・・?」

レイフが起き上がりながらラウリィに聞く。


「このロッドは俺の魔力を貯める事が出来るんだよ。」

言いながらラウリィはロッドを自分の背中に当てる。


「オープン。」

そして、自分の魔腔を開き、爆発した自分の体を治す。


「く、くそ・・・。」

傷が癒えるラウリィを見て、勝ち目が無いと悟ったのかレイフが地面を叩いて悔しがる。


「どの道、重罪を犯しているお前を逃がす気もない。

悪魔に魂を売った事を後悔しながら地獄へいけ。」

ラウリィはレイフに向かってゆっくりと歩いて近付き、ロッドを振り上げた。


「ホーリープレス。」

言うとロッドが白く光る。

そのロッドをレイフに叩き付けた。


ドーーーーン。

ロッドがレイフに当たると、そこを中心にレイフごと地面を押し潰した。


「ふぅ・・・。確か、ボンネットが6000万。レイフが5000万の賞金首だったな・・・。

俺が賞金稼ぎだったらこれで隠居して悠々自適に暮らせるじゃねぇか・・・。」

ラウリィが息を整えながら愚痴を溢す。


スタッ!

スタッ!!

そして、次の瞬間、今度は2人の暗黒魔法使いが姿を現した。


「・・・。」

ラウリィは現れた2人を睨んだ。


「かなり疲労の色が伺えますね、三賢者殿?

そろそろ諦めますか?」

暗黒魔法使いの1人がラウリィに問い掛けてきた。


「お前らは後何人いるんだ?」

ラウリィは率直な疑問をぶつける。


「その問いに答えると思いますか?

後何人いるか分からないまま、ゴールの見えない戦闘を続けると言う精神的な負担も狙っているんですから。」

暗黒魔法使いが答える。


「ちっ・・・。」

ラウリィはそっぽを向いて舌打ちをする。


状況的に今、ラウリィはかなり追い詰められていた。

暗黒魔法使いのサリエルの所在が掴めない。

恐らくは神殿に乗り込まれている。

戦闘のプロであるクレイとジャックは今どうなっているのか・・・。

優人とアレスはある程度名の有る戦士だと言うのは知っているが、どう戦況を押さえているのか?

本来ならばラウリィは正門前の本陣から動くべきでは無かったと言う事は自覚している。

まんまと敵の術中にはまり、そして『時間』と言う面でラウリィは追い詰められているのであった。

ラウリィは手に持つロッドを強く握り締め、暗黒魔法使いに答える。


「ゴールならあるさ。

貴様らが何人いようと所詮は脱落者達の集まり。

俺が言いたいのは貴様らにくれてやる時間が勿体ないと言う事だ。」

ラウリィはロッドの先端を暗黒魔法使い2人に向け、魔力を溜める。


「んっ?」

暗黒魔法使いがラウリィのかまえに反応した直後ロッドの先端から白い雷がほどばしる。


「神の雷!!!」


ドーーーーン!!!

ロッドの先端から放たれた白い雷は暗黒魔法使い2人を一瞬で呑みこみ、そしてその遥か先にまでいたゾンビや敵の傭兵、暗黒騎士の生き残りまでをも巻き込んだ。


「あ・・・。」

雷が消え、焼け焦げた地面を見ながらラウリィが気の抜けた声を出した。

「あの2人の名前すら確認し忘れたな。」

言うと、ラウリィはロッドを肩に掛け、本陣に戻り始める。


まさか、幹部の殆どを1人で倒すとは恐れいります。


歩くラウリィの頭に声が響き渡る。


テレパシーか・・・。


ラウリィは立ち止まり、目を閉じる。

「イビル・センス。」

小さな声で魔法を唱えた。


イビル・センスとは悪意を持つ人間を判別させる魔法である。

暗黒魔法は悪魔の力を借りてその力を使う。

そこにはどうしても悪意が存在するからである。


数は1人。距離は西に100歩って所か・・・。


ラウリィは相手の居場所をしっかりと把握した時点でテレパシーに答える。

「何者だ?何処にいる?」


それはお教え出来ません。

それを教えるならば身を隠し、テレパシーを使う意味が有りませんからね。


「それはごもっともだな。では質問を変えよう。

何のようだ?」

ラウリィは素直に質問を変えた。


少しお話をしたいと思いましてね・・・。

今回は逃げたイフリート様の生け贄の身代りにイフリート教団最高責任者サリエル様が選ばれてしまった為、大事になりましてね。

イフリート信仰の暗黒魔法使いの中でも選りすぐりの実力者が揃っていたのです。

その殆どをまさか1人で片付けてしまうとは・・・。

流石は魔法大国三賢者の一角を担うだけの事はあります。


「・・・。」

ラウリィは暗黒魔法使いの発言に黙る。

この暗黒魔法使いは自分に勝ち目が無いと悟った上でラウリィに話し掛けてきている。

しかし、敗北宣言をするならば身を隠してテレパシーを使う意味が分からない。

何かを仕掛けてくるつもりだろう。


しかし、これ程までの力を持っていながらエルンでは4番手。

残念です。

1番の力を持つ、エルオ導師はこんな騒ぎになっているのに城に籠って知らんぷり。

2番手の三賢者、エドガーさんは相変わらずの風来坊の女好きで、どこにいるかも分からない。

3番手のニーナさんはエルザの神殿で生け贄のお守りですか・・・。

エルンの幹部は何を考えいるのでしょうか?

もう1人、まともな方がいれば貴方も少しは楽が出来たでしょうに・・・。


「ふん・・・。」

暗黒魔法使いの話をラウリィは鼻で笑う。

暗黒魔法使いの使う手口の一つ、イビル・ウィスプである。

その名の通り悪魔の囁き。

言葉に魔力を込め、相手の悪意を焚き付けて、悪に身を落とさせる魔法である。


「4番手か・・・。ニーナよりは上だと思われていると思っていたが、判断は間違っていないな。

ニーナは慈愛の女神エルザの最高司祭だから戦闘に参加しようとしないだけで、実際はかなりやるからな。」

ラウリィはテレパシーに答える。


そうでしょうね。

しかし、貴方なら簡単だと思いますよ。

イフリート様の力を借りればケチな神より力を与えくれますからね。

ニーナやエドガーだけじゃなく、あのエルオすらをも凌駕する力が貴方にはあると思います。



やはり、悪魔堕ち狙いか・・・。


暗黒魔法使いの発言にラウリィはとりあえずホッとし、ロッドの先端に魔力を溜める。


貴方も私達の同胞になり、頭の可笑しいエルン幹部達を根絶やしにしてやりましょう!!


ラウリィの考えに気付かず、勝手に魔法に掛かったと勘違いしたのか暗黒魔法使いが調子に乗っているかのように声を弾ませる。


「一つ、教えてやろう。

エルオ導師は魔法の父とすら呼ばれる人間で、エドガーは生まれついての天才だ。

ニーナは真面目に勉強をし続け、持ち前の優しい性格は女神エルザだけでなく人を惹き付ける。」


んっ?


暗黒魔法使いがここに来て異変に気付く。

「俺の存在の意義は、凡人でも努力次第であの化け物どもと横並びに立てると言う生き証拠だ!!!」


な・・・、効いて無かったのか!?


「ホーリーアロー!!!」

ラウリィは先ほど調べた悪意の出所に向けてロッドの先端から聖なる矢を放つ。

その矢は躊躇うこと無く真っ直ぐ暗黒魔法使いの心臓に突き刺さり、その動きを止める。


ジャリ・・・。

ラウリィは地面に尻餅を付いている暗黒魔法使いの所まで歩いて行く。


「き、貴様はエルンの幹部に不満は無いのか!?」

暗黒魔法使いはラウリィに聞く。


「あるさ。

エルオ導師は何かあればすぐにエドガーを頼るし、エドガーの馬鹿は難易度の高い仕事でも簡単に終わらせやがる。

ニーナは時代や時勢を気にせずいつまでも平和ボケしてる。

腹が立つが、腹が立つのはそいつらを俺は好ましく思っているからだ。

好きだから理想を押し付けたくなるし、それにそぐわないから腹が立つ。

そして・・・好きだからやつらの力になりたいと思ってしまう自分が何より腹立たしい。

それが人の業だ。

それから逃げる貴様ら悪魔の手先には分からんだろうがな。」

ラウリィは身動きが取れない暗黒魔法使いのおでこに人差し指を当てる。


「消えてなくなれ。

ピュリフィケーション。」

ラウリィは浄化の魔法を暗黒魔法使いに使う。

暗黒魔法使いの体は白く輝き、そしてその姿を消滅させた。

ラウリィは周りを少し警戒するが、敵の近づく気配は感じられない。


ドス。

ラウリィは近くにあった木に立ったまま寄り掛り瞳を閉じた。


・・

・・・


「おい!エドガー!!せっかく戻ってきたのに何処に行くつもりだ!!」

エルンの王城の通路を歩くエドガーをラウリィが呼び止めた。

エドガーはゆっくりと振り向き、ラウリィに答える。

「ちょっとアニマライズに用事が出来た。」


「アニマライズ!?

アムステルの領内じゃないか!?

死にたいのか?」

ラウリィはエドガーに言う。


「そのアムステルに用が有るんだ。」

「アムステルに?こないだ産まれた赤竜の亜人の件か?」

「ああ。30年ほど前に青竜の血を色濃く持って産まれた子どもから始まり、緑竜の子ども、白竜の子どもも産まれた。

500年に1度産まれるかどうかの竜族の子どもが30年の間に4体も産まれる異常事態が起こっている。」

エドガーがラウリィに答える。


「ならば、エルンにいる赤竜の亜人の子の親を尋ねれば良いだろう?」

ラウリィの提案にエドガーは首を横に振る。


「エルンの赤竜の親はまだ1000年程度しか生きていない若い竜だ。

世界の事情なんて知る訳がない。」

エドガーがラウリィに答える。


「アムステルが手に負えるのか?エルオ導師も行くのか?」

「エルオ導師がアムステルに直接会ったら大問題だよ。今度はジハドが黙っていない。」

エドガーは笑いながらラウリィに答えると突然、真顔になる。

「しかし、問題がある。」


「何だよ?」

ラウリィが聞く。


「アニマライズってリザードマンしかいないんだよな?

俺・・・鱗って抱き心地が想像出来ないんだよな。

やっぱ人間の肌が良いと思うんだが、どう思う?」

エドガーの悩みを聞き、ラウリィは肩の力が抜ける。


「取り敢えず、死んでこい。」

ラウリィの返答にエドガーがガッカリしながら歩き出したが、また立ち止まってラウリィの方を振り向いた。


「今、この国で魔法の勉強をしているノディーの美女の事を知ってるか?」


「真城綾菜だろ?5年かそこらで風水魔法と古代語魔法の称号を獲得したやつだ。

あいつが何かあるのか?」


「ああ。そうだ。恐らくあの娘は近い未来に大きな何かを巻き起こす。

気を回してやってくれ。

俺が戻るまでお前がエルンを守っててくれよな。」

エドガーがラウリィに言う。


「大きな何か?」


「ああ。何だか分からないが・・・。

貧乳ブームとかでは無いと思う。」

エドガーの返答にラウリィの力がまた抜ける。


「取り敢えず、真面目に死ね。」

ラウリィが答えるとエドガーは笑いながらアニマライズへ向かって行った。


「エルンは任せろ。」

歩くエドガーの背中にラウリィは大声で答えた。

エドガーは振り向く事無く、手を振りラウリィに答えた。



あれから5年・・・。

綾菜は優人と出会い、赤竜の子どもの母親をしている。

運命とは面白いものだとラウリィは思っている。

エドガーはまだ戻っていないので、ラウリィの仕事もまだ終わらない。


絶対に負けないカリスマ性を維持するのは難しい・・・。


「アレス、優人・・・魔法兵団。

済まないが少し休んでから助けに行く。」

ラウリィは木にもたれながらゆっくりと腰を落とし、そして深い眠りに付いた。


エドガー・・・早く帰ってこい。

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