第三十五話~女の戦い~
森をドリアードの盟約により閉じたマダンはテトの里で数人の女エルフと毎日を過ごしていた。
何も無いテトの里は毎日が退屈で、唯一の楽しみはドリアードを通じて息子のリッシュの成長を聞く事位であった。
昨日、突如森に現れた人間と戦闘をしたリッシュはテトの里の入り口まで来て、その後、森を出ていった。
理由は分からないが、言うことを聞かなくて好奇心が強い自分の息子らしいとマダンは心の中で微笑ましく思っていた。
が、その後、人間と共に再び森に戻り、森道でなにやらしているらしい。
リッシュ・・・人間を森には入れないで・・・。
マダンは過去の自分の過ちを悔やみながらリッシュの心配をしていた。
バタンッ!!
「マダン!!」
突然マダンの部屋の扉が勢い良く開かれ、里の女エルフが入ってきた。
マダンはビックリして女エルフの顔をジッと見る。
「大変なの!黒い翼を生やした人間が空から里の入り口まで来て・・・。」
女エルフはマダンに用件を言う。
黒い翼を生やした人間?
人間が黒い翼を生やすとしたら、召喚魔法の部分召喚しかない。
部分召喚は高度な魔力コントロールが必要な技術である。
つまりは、腕のたつ召喚魔法使いだと想像できる。
「でも、ドリアードの誘惑は?」
マダンは嫌な予感をしながら聞く。
「女なの。ドリアードの誘惑が効いてない。
しかも、パペットゴーレムを2体を召喚して、サファイア、ルビー、アメジストの3人を相手に優勢なの!!」
パペットゴーレムを使う?
パペットゴーレムは付与魔法で作る魔法生物である。
つまりは召喚魔法と付与魔法、そして風水魔法を使う・・・ルーンマスターである。
しかも、エルフ3人を相手に対等以上に渡り合うなんて・・・かなりの手練れの魔法使いだ。
そんな人間、マダンの知る限り、サリエステールには1人もいない。
昔、マダンが城にいたときの宮廷魔術師だったエドですらエルフ1人で充分対処できる。
「その人間の狙いは何?
そんな力があるなら亜人狩りなんてする必要もないでしょうに!!」
マダンは正体不明の強敵の存在に動揺する。
「マダン・・・あなたを出せと・・・。不思議なの、その人間・・・。」
「不思議?」
「サファイア達より圧倒的に強いのに、致命傷を与えないで、ただ、マダンを出せと主張してるの・・・。」
「だから!!あなた達を倒す気は無いっての!!
マダン・クロセスを出せって言ってるの!!」
綾菜はインプの翼をしまい、3人のエルフの魔法を上手くかわし続けていた。
召喚魔法は魔力の消耗が激しいと言う欠点があるからだ。
戦闘においてはあにゃ、ゆーにゃに魔力を消費した方が賢いのである。
「ゆーにゃ!3人同時に追いかけようとしないで!
1人に絞って!あにゃ!ゆーにゃの護衛をして、2人で1人押さえて!!」
綾菜はあにゃとゆーにゃに指示を出す。
「分かってるでし!でもこいつら動きが早くて、すぐいなくなるでし!」
「綾菜さん!エルフの動きを止めて下さいですわ!」
自由に飛び回れるゆーにゃでも、近付くと消え、別の木の枝に逃げられるエルフを捕らえるのに悪戦苦闘していた。
「くそ・・・。」
綾菜もなかなか捕らえきれないエルフ達に苛立ちを覚え始めていた。
オプティムを召喚する事も出来るが、全ての魔法を使用不可にしたら綾菜1人ではエルフ3人と渡り合える気がしない。
「バクーム!!」
綾菜は地面に向けて強風をぶつけ、その反動で自分を空高くへ浮かび上がらせた。
エルフ達は綾菜を一斉に見上げる。
「太陽の光の力を借りるわ・・・。」
綾菜は空中で太陽に手をかざす。
「シャイン!!」
綾菜が言うと、綾菜を中心にテトの里一帯に一瞬強い光が放たれる。
「くっ!」
突然の強い光で女エルフ達の目が眩む。
「あにゃ!ダグフレア!!」
綾菜が言う。
「ですわ!!」
答えるあにゃ。
「やめるでし!!!」
そして焦るゆーにゃ。
次の瞬間、ゆーにゃを中心に爆発が起こる。
目が見えない状態で爆発音がすれば、嫌でも意識は爆発音に行く。
その隙に綾菜は女エルフ1人の背後をとり、背中に手を当てる。
「クローズ。」
綾菜にクローズを唱えられたエルフは魔腔を強制的に閉じられ、魔法が使えくなる。
バキバキバキバキッ!!
魔法を封じられたエルフは木から落ち、地面に叩きつけられた。
なるほど。
それを見て綾菜はエルフの動きの早さの理由に検討が付いた。
エルフは風の魔法を使って身を軽くし、木の枝を簡単に移動していたのである。
理屈は分かっても魔力の微調整が必要な技術である。
それを全てのエルフが当たり前に使うとは恐れ入る。
綾菜は地面に尻餅を付いているエルフのおでこに人差し指を当てる。
「ごめんね。ストップ!」
綾菜が唱えると女エルフは尻餅を付いたまま体の自由を奪われる。
神経を痺れさせる古代語魔法である。
そして綾菜はショートソードを抜き、動きを封じたエルフの首元に切っ先をつける。
「ルビー!!」
1人の女エルフが仲間の名を呼ぶ。
「戦闘は終わりよ!
私はあなた達を傷つける気は無いの!
マダン・クロセスを呼んで!!」
人質を取っといて良く言う自分に可笑しくなり、思わず苦笑いをする。
黒こげになった、ゆーにゃがふわふわと綾菜の所へ飛んで来る。
「綾菜・・・そのうち、パペットゴーレム保護委員会に訴えるでしからね!」
「そんなもん無いし、言うことを聞かないと魔力あげないからね?」
文句を言うゆーにゃに綾菜は答える。
「ぶ、ブラック召喚士でし・・・。
労働者保護の為の法律は何の意味があるでしか・・・。」
ゆーにゃは地面に膝を突き、ガックリする。
「どこでそんな言葉覚えたんだか・・・。」
犯人は優人だと検討を付けながら綾菜はため息を付く。
「そこまでよ!その人間は私達に危害を加える気が無いと言う言葉を信じましょう。」
このタイミングでもう1人、別の女エルフが現れた。
一目で分かる。
他のエルフとは持ってる雰囲気が違う。
それにどことなくリッシュに似ている。
「マダン・クロセス・・・。」
綾菜はそのエルフの名を口にする。
「いかにも。私がマダンです。あなたは何者ですか?
古代語魔法まで使える、4種の魔法を使うルーンマスターなんてそうはいないと思いますが・・・。」
マダンに言われ、綾菜は姿勢を正し、ジールド・ルーンの国章を見せる。
「初めまして。マダン・クロセス。
私はジールド・ルーンの宮廷魔術師。
真城綾菜と申します。」
「ジールド・ルーンの宮廷魔術師・・・。」
マダンや周りのエルフに緊張が走る。
ジールド・ルーンと言う国はテトのエルフで知らない者は1人もいない。
数十年前、僅か5人で邪龍クラムドを撃ち取った国の名である。
邪龍クラムドは赤竜王アムステルと比べれば圧倒的に劣るドラゴンではあるが、神話の時代に悪魔側に付いたドラゴンの1体である。
その能力はやはり圧倒的で、普通の人間では太刀打ち出来ない。
そのドラゴンをたった5人で倒した国がジールド・ルーン。
ダレオス、シン、クレイン、ラッカス、エアル。
この5人で『五英雄』と呼ばれ、世界では今だに恐れられている。
その国の宮廷魔術師を万が一殺したらテトの里だけでなく、サリエステール国がどうなるか分かったモノではない。
「その、ジールド・ルーンの宮廷魔術師が私に何の御用ですか?」
聞くマダンに綾菜はこれまでの経緯を説明する。
・
・・
・・・
「ふむ・・・。話は分かりました。
ライザックの連中がエルフ討伐隊を編成し、それをあなたの彼氏と我が息子リッシュで迎え撃とうとしているのですね・・・。」
「はい。ですから、援軍に来て欲しいのです。」
「・・・。」
綾菜は何やら考え込むマダンの顔をジッと見る。
「ふむ・・・。申し訳ありませんが援軍は出せませんね。」
少し、時間を開け、マダンが答える。
「何故ですか!?」
ジョセフ国王同様この状況でも戦おうとしないマダンに綾菜は苛立つ。
「戦の無い国を作るためです。」
マダンは迷わず綾菜に答える。
ジョセフと同じ返答に綾菜はガッカリとする。
「地上界には、奴隷制度がありません。いいえ。奴隷制度が全廃止になりました・・・。」
「何?」
奴隷制度が無くなったと言う話にマダンが食い付く。
「元々、奴隷制度はあったんですが、世界で力を持つ国の王が奴隷解放宣言をしたんです!!」
「力を持つ国の王が言うならば無くなるでしょう。」
マダンはガッカリしたように綾菜に答える。
「いいえ。戦争が起こりました。
その戦争でその王が勝ち、そして奴隷制度が無くなったんです!!」
「戦争・・・。」
マダンがあからさまに嫌な顔をする。
「これは・・・私の彼氏の言葉ですけど・・・。
革命を成就させるには戦闘はしなければならないんです。
何故なら、世界のルールは偉い誰かが得する為の物だから。
それがどんなに理不尽なルールであったとしても、それを無くすと偉い誰かが不利益を被るから、直す為に戦わなければいけなくなる。
それでもやらなきゃ、今後の数十年の間に戦死者を越す数の不幸が起きるから!!」
綾菜は戦う意味をマダンに必死に説く。
・・・。
「だから、平和の為に戦うんです!!」
綾菜少し、間を置いて、マダンに言う。
「しかし、ジョセフとの約束が・・・。」
マダンの発言に綾菜はマダンの人間性では無く、女としての欠点に気付いた。
「マダン・・・。あなた、人間の男を知らないですね?」
「うん?」
マダンは綾菜が突然話を変えて来たことに耳を傾ける。
「世の中の男は色んな男がいますけど、根本を言うと、みんな同じなんです。」
「同じ?そんな訳無いでしょ?ジョセフもソールもエドも全然違う人よ。」
マダンは綾菜に言い返す。
「いいえ。同じです。違うのは価値観や表現の仕方だけです。」
綾菜はマダンの言い返す言葉をバッサリと切り捨てる。
「じゃあ、何なのよ?その根本ってのは?」
マダンは少しふて腐れたように綾菜に聞く。
「バカでスケベでカッコつけです!!」
綾菜は自信満々に速答する。
その返事にマダンが動揺する。
「ジョ・・・ジョセフはバカじゃないし、スケベでもありません!!」
「いいえ。バカでスケベよ。なんでリッシュ君が産まれたの?」
綾菜の質問にマダンの顔が赤くなる。
思った通り・・・と言うか予想以上にマダンは純情なのだと思い、綾菜は少しマダンが可愛く見えてきた。
「でも・・・バカじゃないし・・・。」
「バカじゃない?このままほっとけば、ここが戦場になるのも想像できてないじゃない?」
「・・・。」
綾菜の言葉にマダンが黙る。
そんなマダンに綾菜がトドメの言葉を放つ。
「そんなバカでスケベでカッコつけだから、男はカッコイイと私は思ってます。
だから、良い女は男の一歩後ろで暴走を止めて酷い過ちを犯さないようにしてあげるのが役割なんです!
今回、ジョセフの平和バカ暴走を止めるのは彼女であるあなたの役割じゃないのですか?」
「う、うむ。確かに・・・。そういう事だったのか・・・。」
マダンが綾菜の言葉に納得をし始めた。
そんなマダンを見て、綾菜はほっと一息付く。
「ところで師匠。あなたの、その、師匠の彼氏はカッコイイのですか?」
マダンが話を変えてきた。
師匠?
綾菜は変な呼ばれ方に違和感を覚えるが、とりあえず、マダンの質問に答える事にした。
「カッコイイですよ。バカでお節介で今も貴女の息子と無茶な戦いをしようとしています。
だから私は彼氏を守るためにこうやって動いているのですから。」
「なるほど!それが彼氏を持つ彼女の役割って事ですね!?」
「う、うん。」
あまりにも簡単に話を飲み込むマダンに逆に綾菜が気圧される。
「分かりました!まずは師匠の彼氏を見に行きましょう!」
うん?
綾菜は何か目的が変わってしまった事に今更気が付く。
「里のエルフ達!これから師匠の彼氏に会いに行きます!!
興味の有るものは付いて来て下さい!!」
言うと、マダンは1人でそそくさとテトの里を出て行こうとした。
「ちょ、ちょっと!!」
それを綾菜が走って追う。
その後に里の女エルフ達が数人追い掛けて来ていた。
「ちょっと!マダン、そっちじゃないわよ!!」
テトの里を出たマダンは何故か森道を街とは逆方向に歩き始めていた。
「ええ。でも、確認しなきゃいけない事が増えたの。
師匠の里への到着もそうだけど、昨日今日でこの森は色々起きすぎてる。」
マダンは歩みを止めることなく、綾菜に返事をした。
「色々?」
綾菜は眉をひそめる。
「ええ。師匠達が来た神殿にまた突然人が現れたってドリアードが騒いでるの。」
綾菜達が来た神殿とは、おそらくはシエラの高速移動の到着地点の事である。
そこに人がまた来た?
つまり、可能性としてすぐに浮かぶのは神隠し子である。
しかし、昨日今日で連続して同じ場所に神隠し子が降りるなど聞いたことが無い。
「二日連続で神隠し子が来るなんて、有り得るの?」
綾菜はマダンに聞く。
「私も聞いた事がないの。
しかも奧に住んでる男エルフ達も活発に森を動き始めている。
良く分からない事だらけだから、目で確認しなきゃ大事になってからじゃ遅いから。」
「なるほど・・・。」
綾菜はマダンに従う。
その後ろを数人の女エルフ達が木の枝を伝いながら付いてきていた。
「マダン!!」
少し森を奧に向けて歩いていると突然男の声がした。
綾菜が周りを警戒していると、少し離れた木から男のエルフが1人、木から飛び降りてきた。
「あら?シュワイス、久しぶりじゃない!里長は?」
マダンがそのエルフの男に気さくに返事をする。
「里長は奧里に残っている。それより、リッシュを知らないか?
昨日、リッシュと一緒に奧里を出ていったグリルだけが戻ってきたんだが・・・。」
そのシュワイスと呼ばれた男はどうやらリッシュを探していたようだった。
「リッシュなら森の入口付近で師匠の彼氏と何かしてるよ。」
「師匠?彼氏?マダン、今何が起こっている?」
シュワイスがマダンに詰め寄る。
マダンは少し困った表情を見せるが今までの経緯をシュワイスに説明し始めた。
優人達がこの国に突然現れ、リッシュ達森の警備隊を返り討ちにしたこと。
その後、リッシュは1人で街に攻めようとし、途中で優人達とまた遭遇した事。
そして、街の襲撃中に優人に止められ街への襲撃を止め、ライザックと森の防衛戦に臨もうとしている事。
そして、ジョセフに嫁入りに行くつもりである事までを話していた。
嫁入り?
綾菜はマダンの説明の中で変な用語が出た事が少し気になった。
しかし、シュワイスは防衛戦の重要性に気付いてくれたようなので少しホッとする。
「そのライザックのエルフ討伐隊の戦力は?そいつらは全滅させるんだよな?」
シュワイスがマダンに聞く。
「いや、それより、ジョセフを驚かせてやりたいんだけど、何か良い方法はないかな?」とマダン。
・・・。
マダンとシュワイスの会話は中々噛み合わない。
「はぁ・・・。」
綾菜は2人のやり取りをため息を付きながら聞く。
エルフって、マイペースなんだな・・・。
「それより、神隠し子達が気になるわ。
マダン、シュワイスもまずは神隠し子達を見に行きましょう!」
綾菜はこの永遠に噛み合う事の無いと思われるやり取りに終止符を強引に打ち、終わらせる。
こうして、女エルフとシュワイスは共に森の奥へと進む。
少し進むと森の奥からこちら側へと歩いている人影が綾菜の視界に入り込んできた。
1人はローブを来た、大人の女性。
もう1つの人影は翼のはえた子ども程の大きさの影である。
・
・・
・・・。
「ミルちゃん!?」
お互いの距離が縮まった所で思わず綾菜が翼のはえた子の名前を呼ぶ。
すると、小さな影は少し綾菜を見つめ、そして、翼を使って綾菜に向かって飛んできた。
「ママぁ~!!」
綾菜の胸に飛び付くと同時にミルフィーユは泣き出した。
考えて見れば、いつもミルフィーユを置いて動き回っている。
良い子で我慢強いミルフィーユも流石に限界だったのだろう。
綾菜もミルフィーユを強く抱き返す。
「ごめんね、ミルちゃん!!」
ミルフィーユは綾菜の胸に顔を埋め、必死に泣き止もうと頑張っていた。
「ごめん、綾菜さん。流石にミルフィーユが可哀想だったもんで、連れてきちゃった。」
小走りしながらローブの女性が綾菜に話し掛けてきた。
「ううん。ありがとう、シエラ。
でも、あなたは神隠し子達を連れてエルンに戻ったんじゃなかったっけ?」
ミルフィーユを撫でながら綾菜が小走りしてきた女性に聞く。
「う、うん。そのつもりだったんだけど、さすがにみっとも無さすぎるかなって思って・・・。
エルオ導師はあなた方から何かを学ばせようとしてる訳みたいだし・・・。」
シエラが鼻の頭をかきながら、ばつが悪そうに答える。
「そっか・・・。でもありがとう。色んな意味で助かったわ。」
照れるシエラに綾菜が答える。
「色んな意味?」
「うん。母親として、またミルちゃんを泣かしちゃった事。」
綾菜は明るく振舞っているが前回のツアイアル山の麓の村についでまたミルフィーユを置いてきてしまった事を深く反省していた。
これ以上は母親としてミルフィーユを置いて旅は出来ないと言う覚悟する位に・・・。
「をい・・・。もしかして・・・赤竜か・・・?」
シュワイスがミルフィーユを見て話し掛けてきた。
「ええ。赤竜の亜人よ。可愛いでしょ?」
綾菜はミルフィーユをシュワイスに見せながら言う。
「ん?」
ミルフィーユもシュワイスの顔を涙で濡れた顔で見つめる。
「これはこれは・・・可愛いわねぇ~・・・。」
マダンがミルフィーユの可愛らしさにやられ、ミルフィーユの頭を撫で始める。
「赤竜と言う事は・・・赤竜王アムステル様の血をひいてると言う事だぞ・・・。
そんな、何故、人間などを親と呼び、慕っているのだ・・・。
と言うか、母親は誰だ?どの赤竜がこの子を産んだ!?」
シュワイスが言う。
「そんなの知らないわよ。
私がミルちゃんと会ったのはジールド・ルーンだけど、亜人狩りに捕まったのはエルンだったみたいだし・・・。」
綾菜がふて腐れながらシュワイスに答える。
「エルン・・・エルンってことは荒野に住む赤竜フィラルム様か・・・。」
シュワイスが呟く。
「フィラルムは確か、オウレ様の護衛をアムステル様に言い付けられた赤竜よね?
オウレ様も今はエルンにいるって事?」
マダンがシュワイスに聞く。
「分からん。しかし、フィラルム様がエルンにいると言う事はオウレ様も・・・。」
「そう・・・。」
マダンとシュワイスの会話が噛み合っている。
しかし、それ以上にエルフ達が異様に赤竜について詳しい事に綾菜は少し驚いた。
「あなた方とアムステルは何か関係があるのかしら?」
綾菜は素朴に思った事を2人に聞く。
「いや。我々サリエステールのエルフはオウレ様によって生まれただけだ。
もっとも、神話の時代にジハドとやりあったオリジナルエルフは里長だけで、その次の代であるエンシェントエルフは私とマダンとエドガーという風来坊だけだがな。
それ以降の代のエルフはオウレ様の加護が弱まっていて、能力が低い。
それで質問の返答だが、オウレ様は命の源を造り出す古代獣。
それに対し、竜族は破壊を象徴とする古代獣。
2体の古代獣は太古の昔より深い繋がりがあるのだ。
生み出すオウレ様と破壊するアムステル様。
各々が世界においてとても重要な役割を持っている。」
シュワイスが綾菜に答える。
「破壊や殺戮も重要なの?」
綾菜はシュワイスの返答に食い付く。
「ああ。破壊は大切だ。
世界に破滅が存在しなければ命ばかりが蔓延し、世界が飽和状態になる。
植物で言う間引きと同じだ。」
シュワイスが綾菜に答える。
間引き・・・。
植物を育てる際、土の栄養を取り合わないようにする為、いくつかの苗を取り除くと言う作業の事である。
命の間引きとはそういう事なのだろうと綾菜は受け止める。
「なんか・・・嫌だな・・・。」
綾菜が俯きながら呟く。
「師匠。世の中は綺麗事だけではやっていけないのは事実なの。そこは目を瞑って。」
マダンが綾菜に言う。
綾菜は黙って頷く。
「それより、神隠し子の正体が分かったら今度は森の入口へ行かねば!!
ライザックとの決戦が待っている!!」
シュワイスが話を変えてきた。
「その必要は無い。今夜はテトで寝て、明日入口で迎え撃つ。」
マダンがシュワイスに答えた。
「えっ?どうして?」
綾菜がマダンに聞く。
「シルフの話だと、ライザックの出撃は明日になるみたい。
今日、師匠の彼氏とリッシュと合流すれば、我々も森で待機する事になる。
それでは疲れが貯まるでしょ?
ならばいっそ、里でゆっくり休んで明日、全力で迎え撃てば良い。
それに、ジョセフに久しぶりに会うわけだし・・・。」
そこまで聞いてマダンの本音を綾菜は理解した。
シルフとは風の精霊である。
マダンは国内のシルフと会話が出来る能力もあるようで、ライザックの作戦も全て聞こえていたようだ。
まぁ・・・。
大好きな彼氏に会うときは少しでも良い状態の自分でいたいと思うのは良くある女心だし・・・。
それに明日の戦闘ならば、焦る必要もない・・・か。
綾菜はマダンに従い、再びテトの里へと戻る。
男エルフ達はドリアードの魅了にやられるので、テトの里の近くで体を休める事にし、一夜を明けることにした。
翌日。
綾菜はイラつきながらマダンを待っていた。
今度はマダンはドレスを選び始めたのである。
「マダン!やっぱり紫のこのドレスが良いんじゃない?大人っぽさが重要よ!!」
「やっぱり森のエルフなんだから緑のドレスでしょ?」
女エルフ達もマダンのドレス選びに時間を掛けている。
「ねぇ!戦うんだよ!!」
綾菜は痺れを切らせて女エルフ達に言うと女エルフ達は黙り、綾菜を見た。
「そうでした・・・。さすが師匠!含蓄があるお言葉です!!」
マダンが綾菜に目を輝かせて答える。
うん?
なんだこの物わかりの良さは・・・。
不安げにマダンを見返す綾菜から振り向き、マダンが女エルフ達に声を掛ける。
「みんな!聞いた!!ドレス選びは女の戦いなのよ!!」
違う違う違う違う!!!!
綾菜は全身の力が抜けた。
・
・・
・・・
「ふむ・・・中々選び出すときりが無いわね・・・。」
マダンもドレスを見ながら悩む。
綾菜はそんな呑気なマダン達を見ながら自分と重ねる。
綾菜自信も優人が砦に助けに来てくれた時、多少なりともマダンと同じ事は考えた。
優人と会うのに余計な雑念を持ちたくなく、『見捨てろ』と言うクルーガーを見捨てずに残った事がある。
無理だよね。そこを我慢しろなんて・・・。
綾菜はマダンを見ながら諦め、「ごめん、ゆぅ君。」と呟くと、立ち上がってドレスを選ぶマダンの所へ歩いて行った。
「マダン!!嫁入りに行く女のドレスなんて決まってるの!!純白よ!!」
綾菜は白いドレスを取り上げ、マダンに見せる。
「白!?そんな、何も染めてないつまらない色なんて着てジョセフに会えないわよ!!」
マダンが綾菜に文句を言う。
そんなマダンに綾菜がわざとらしくため息を付く。
「今、あなたが言ったじゃない・・・何色にも染められていないの。
つまり、白いドレスにはあなたの色に染めてって言うメッセージが含まれているのよ!!
それが地上界の白いドレスの意味!!」
綾菜が断言すると、マダンや他の女エルフ達が顔を赤らめる。
「な、なんていじらしい事を地上界の女達は考えているの!!
私が男だったら思わず抱き締めちゃうわ!」
マダンが興奮ぎみに言う。
「う、うん・・・。」
興奮ぎみのマダンに少し綾菜はひきながら答える。
しかし、早くマダンを外に出したい綾菜の提案はここでは止まらない。
急いで白いヴェールを用意して、マダンに渡す。
「これは?」
マダンが綾菜に聞く。
「これを付けて顔を隠すの。
そして、このヴェールを開けるのはジョセフ王の仕事。」
綾菜はマダンに答える。
「それには、どういう意味が?」
「1番可愛い私を、1番最初にあなたが見てね。って意味。」
綾菜が答える。
それに女エルフ達も悶える。
「地上界の女達はなんて、エロくていじらしいマネをするのかしら!!」
「いゃ~!!恥ずかしすぎる!!」
「結婚してみたい!!」
興奮している女エルフ達を見ながら綾菜は、やはり少しひく。
地上界の結婚ってこうだよね?
間違ってないよね?
この反応見てるとちょっと不安になる・・・。
こうして、衣装が決まり、マダン達はテトの里を後にした。
この時、優人とリッシュは第3陣と交戦中だった・・・。




