第三十四話~防衛戦~
サリエステールの街から街道に出て数キロ進むと、広大な森に辿り着く。
森道の横の広さは3メートルほどで、道から逸れると森の木々が所狭しと生い茂る。
この地形を考えると、一気に大多数で乗り込むのは得策とは思えない。
そこで、亜人狩り組織ライザックのエルフ討伐部隊は総勢100人を10人単位の小隊に分け、波状で攻め込む作戦を立てた。
その作戦はまんざら的はずれではないと優人も考えていた。
しかし、その波状攻撃は僅か2人で時間稼ぎをしなければならない優人達にとっては寧ろ好都合な作戦でもある。
いきなり100人を相手にしたら2人では瞬殺される可能性が高過ぎるからだ。
それがたったの10人程度ならば何とか対処しきれる。
優人達は森道に罠を仕掛けた後、森の入り口で待機をした。
その翌日、ライザックの第一小隊がテトの森入り口に進軍してきた。
ライザックの第一陣は森道の真ん中で待機していた優人とリッシュに気が付くと、その歩みを止め、厳戒体制をすぐに整える。
優人は納刀している刀に手をかけ、いつでも抜刀出来る体制で第一陣と向き合う。
敵は刀剣類を持った者が5人。
槍が3人。
弓が1人と、魔法使いが1人いる。
魔法使いは恐らくは召喚魔法使い。
セオリーで考えればいきなりオプティムを出せる3人の内1人がここに来るはずはない。
まずは手の内を見るためにも、こいつらは捨て駒的な連中だと優人は見ている。
「エ・・・エルフがいるぞ!!」
第一陣の1人がリッシュに目をやり、声を出す。
エルフを狩りに来たのに、エルフにビビるって・・・馬鹿なのか?
優人はその1人に心の中でツッコミを入れる。
ライザックエルフ討伐部隊第一陣が武器を抜く。
優人はライザックの一人の剣士の得物に目が止まる。
武器の大きさはロングソード程度だろうか?
しかし、刃が波打った形状の剣なのだ。
フランベルジュ・・・。
その波打った刃で突き刺されたり、切られたりすると、傷口が複雑になる為、普通の剣で切られるより痛みが大きく、手当ても難しいとされる剣である。
刃が波打っているので、優人が良くやる剣の刃を合わせ、そのまま滑らせて相手を斬ると言う技が使えないと言う特性もある。
まずはあいつを始末した方が良いな・・・。
優人は最初の標的をフランベルジュに絞る。
「弓兵部隊!弓を放て!!」
優人が相手に聞こえる声で指示を出すとリッシュが森道の脇にある弦をかまいたちで切断した。
パシュ
プシュ
プシュ
リッシュが弦を切ると木々の隙間から優人が仕掛けた木の弓矢が放たれる。
しかし、その弓矢は10本中まともに飛んだのは2本のみ。
他の8本はギリギリ森道まで届いた所で威力を失い、地面に落ちた。
そして、その2本の弓矢も第一陣は直撃をしてもかすり傷すら与えられなかった。
・
・・
・・・。
「優人?」
リッシュがあまりのお粗末な結果に優人に聞く。
優人はばつが悪そうに顔を赤らめた。
工作は苦手なんだよ・・・。
優人は心の中でリッシュに言い訳をする。
「よしっ!ミッションドライヴ!!」
優人はミッションドライヴで自分の移動速度を上げ、一気にフランベルジュに近付くと、横振りに抜刀する。
スバッ!!
日之内玄乃鳳凰の切れ味は抜群。
軽く、フランベルジュを持つ剣士の上半身と下半身を一刀両断した。
「よしっ!作戦成功だ!弓兵部隊は第二作戦に移れ!!」
優人はいるはずもない弓兵達に大声で指示を出す。
そのタイミングでライザック第一陣は急接近した優人に気付く。
このトラップは仲間がいることを予想させ、誰もいない森に警戒をさせる事。
そして、不意打ちするための時間稼ぎ用のトラップである。
殺傷力は無くても、トラップとしての仕事は果たしてくれた。
「う・・・うわぁあ!!」
気付けば目の前に接近している優人に気付き、別の剣士がショートソードを振り上げる。
「遅い!!」
優人は横振りに振り抜いた刀を持ち替え、振り上げた両腕を切り払う。
「うぐっ!」
腕を斬られた剣士は顔をひきつらせる。
その隙に優人は一歩後ろに下がり、そのままその剣士の心臓を貫いた。
ズル・・・。
剣士が絶命したのを確認すると、優人はゆっくりと刀を引き抜き、剣士の体を後に押す。
ドサッ。
優人は残心も取らずに周りの他8人を威圧する。
8人も動きを止めて優人に注目する。
「コール!インプ!!」
次に動き出したのは召喚魔法使い。
呼び出すと、インプが8体呼び出される。
「風よ、切り裂け!!」
インプが呼び出されると同時にリッシュのカマイタチがインプの翼を全て切り落とした。
ドサッドサッと翼を斬られたインプが地面に落ちる。
「くそっ!瞬殺かよ!!」
召喚魔法使いは地に落ちたインプに文句を言うとまた何やら詠唱を始めるが、その詠唱はすぐに止まり顔色が青ざめる。
「い・・・息が・・・。」
ドスッ!
そして、次の瞬間、リッシュの放った空気の弓が召喚士の喉を貫き、召喚魔法使いは絶命した。
そして、召喚魔法使いの魔力供給を失ったインプ達もその姿を消滅させた。
シュッ!
インプが消えた直後、リッシュに向けて一本の矢が放たれた。
ブオッ!
しかし、その矢は突如吹いた風に阻まれ、その勢いを失い地面に落ちる。
「エルフと戦うのに魔力の無い矢を持ち出すなんて馬鹿なのか?」
リッシュは弓兵に言う。
「くっ・・・。」
弓兵は弓を構え直しながらリッシュから距離を置こうとする。
ドスッ!!
しかし、リッシュが一気に弓兵に近付き、自分のショートソードで一突きする。
「えっ!?」
今のリッシュの動きを見て声を上げたのは優人だった。
今、リッシュは瞬間的に自分の移動速度を上げたのだ。
その元素魔法の使い方は、優人の使うミッションドライヴに似ていたのだ。
「元素魔法の筋力強化はある程度魔力コントロール出来る奴なら誰でも出来るよ。
もっとも、段階的な強化はやらないけどね。」
優人の視線に気付き、リッシュが優人に答える。
「こ・・・こいつら、かなりやるぞ!」
第一陣の槍使いが言う。
後、剣士が3人。槍が3人・・・か。
優人は敵の戦力を確認しながら、息を整える。
そのタイミングで第二陣が後ろからやって来るのが見える。
あいつらが付いたら撤退だな。
そう決めると、優人は一旦納刀し、身構える。
優人が第一陣から距離を離すのに気が付き、リッシュも優人の所まで下がってきた。
「撤退か?」
「奧に見える第二陣が来たら落とし穴を過ぎるまで撤退しよう。」
聞くリッシュに優人は答える。
「了解。それまで、もう1人くらい削れるな。」
「だな。1人、もう1殺しておこう。」
リッシュに優人も答える。
ダンッ!!
2人は一度目を合わせ、頷くと同時に走り出す。
確実に格上だと思っている敵が動き出す恐怖は全ての動きを鈍らせる。
優人とリッシュの突然のダッシュに反応が遅れた槍使いは次の瞬間、優人の抜刀の餌食になり、リッシュのショートソードの一突きに絶命する。
「ひぃ!」
剣士と残った槍使いが悲鳴を上げながら身構える。
優人は後ろを確認し、第二陣が接近してきているのを見ると、リッシュに「撤退だ!」と声をかける。
リッシュは黙って頷くと、後ろを振り向き、走り出す。
優人もそのリッシュの後ろを追うように走り出す。
優人は走りながら後ろを警戒する。
第二陣と合流した剣士3人と槍使い1人は状況を第二陣に伝え、そのまま14人で優人達を追いかけ始めた。
予想通りだな。
優人は敵の動きを確認して、安心をする。
少し走ると不自然に地面の上に霧がかかっている場所に到着する。
この場所は真ん中以外を走ると落とし穴がある。
優人はリッシュを前に走らせ、その後を付いていき、霧を抜けた所で立ち止まって、霧を抜けた敵を迎え撃つつもりでいる。
後ろから「うわぁ~!!」と言う声が聞こえる。
優人は霧を抜け、振り向く。
すると、付いてきてると思った敵が霧の前で立ち止まっていた。
14人いたはずの敵は9人まで減っている。
「んっ?」
優人は霧の前で立ち止まる敵の動きが理解できず、首を傾げた。
「ホ・・・ホワイトブロウ・・・。」
第二陣の魔法使いらしき人物が変な言葉を呟いている。
「なんだ?ホワイトブロウって?」
優人は横でにやけているリッシュに聞く。
「やつら、中途半端に魔法を知ってるから変な勘違いをしてるんだよ。」
「勘違い?」
「ああ。次元魔法に全てを飲み込む超重力の白い煙を造り出す魔法があるんだ。
しかし、もし、あれがホワイトブロウなら俺達も無事じゃない。
知識が中途半端だからこういう事になるんだな。どうする?優人?」
リッシュが優人の判断を仰ぐ。
「あそこで勝手に立ち止まってくれるのは有りがたいが、ネタがバレる前に数を削りたいな。」
「了解。」
答えると、リッシュは風の弓を出し、風の矢をセットする。
ギリギリ・・・。
リッシュが弓の弦をゆっくりと引くと、それに合わせて空中に複数の風の矢が現れた。
そして、放つ。
ビュンビュンビュン!!
リッシュが矢を放つとその矢達が一斉に霧の向こうで立ち往生している第二陣に遅い掛かり、そして、全滅させた。
「マジか!?」
優人はリッシュの魔法の殺傷力の高さに驚く。
「ん?どうした?」
リッシュは驚く優人に聞く。
「いや・・・お前、かなり強いんじゃないか?」
優人がリッシュに言うと、リッシュはクスリと笑って見せた。
「基本的に魔法使いは前衛から見れば反則的な強さを持ってるように見えるだろうね。
けど、駄目なんだ。
もし、これを優人と一騎討ちでやろうとしたら、放つ前にお前に斬られる。
魔法には威力を効果的に発動させる条件がある。
良い魔法使いはその条件を上手く利用出来るかにあるんだよ。
俺のヴァルキリーランスも、一見万能だが1日に1回しか使えないしね。」
「なるほどね・・・。」
優人はリッシュの返答に納得する素振りを見せた。
遠くに第三陣の姿が見え始めた。
戦闘はまだ始まったばかりだ。
優人は再び気合いを入れ直し、第三陣の到着を待った。
「さて・・・と。」
波状攻撃第三陣。
優人は彼らの到着を待ちながら情況の整理をする。
ライザックのエルフ討伐部隊の要はオプティム召喚である。
そのオプティムの召喚が出来る召喚魔法使いは3人。
今回は100人いる部隊を10人小隊に分け、波状で進軍してきている。
その作戦は敵ながら悪くない作戦だと優人も納得していた。
森の道は幅が3メートルしかない。
ここで大群で押し寄せてきても上手く身動きが取れないからだ。
エルフが森を使ってどう戦うか分からない以上、波状にし手の内を見ながら徐々に攻め込む作戦の方が事故も少ないと言う理由もあるかも知れない。
その上での今回の布陣ならば納得が行く。
ライザックの軍師はそれなりに戦術を知っている人物で、攻めより守りの思考が高いと優人は予想している。
もし、そうなら、次来る第三陣はオプティム召喚が出来る召喚魔法使いを1人投与している可能性が高い。
第一陣は事故防止の為の捨て駒。
第二陣は第一陣の穴埋め、もしくは敵の動きの確認用の部隊。
そして、第三陣はオプティムを使い、エルフの魔法を封じて本気でエルフ狩りを始める部隊である。
魔法を封じ、エルフの攻撃力が落ちたらエルフを倒し、その後の第四陣や第五陣を使い、削られた戦力の補強をする。
その作戦の為、第三陣は召喚魔法使いを守る役割の人間もいるはずである。
綾菜の援軍も、ファゴットの援軍もまだ来ない。
ここからが本当の戦いである。
「・・・。落とし穴か・・・。」
第三陣が到着し、地面の霧を見てながら1人が見抜いた。
まぁ・・・濃い霧であっても所詮は霧である。
落ち着いて良く見ればネタなどすぐにバレるものである。
しかし、この落とし穴にはもう一つ意味がある。
真ん中横幅1メートルの道である。
こうする事で前衛での斬り合いが1対1で出来るのだ。
オプティムを呼び出されても、リッシュが逃げる時間くらいは稼げる。
問題は飛び道具だが・・・。
優人は第三陣のの得物を確認する。
ミドルシールドとロングソードと全身鎧の男が1人。
ジールド・ルーンのアレスやシンレベルの奴だとヤバいな・・・。
そして、槍使いが2人、ショートソードが2人いる。
立ち位置から見て、ショートソードの2人は相棒同士と見る。
連携攻撃がウザいが、横幅1メートルを上手く使えば何とかなるか?
他には魔法使いが2人。
召喚魔法使いが1人ともう1人は・・・?
そして、弓兵が3人。
横幅一メートルの妨げが三人か・・・。
「優人。こいつら、さっきまでのとは格段に雰囲気が違うぞ?」
空気を読んだリッシュが優人に小声で話し掛けてきた。
「ああ。ここからが本当の戦いだろうな・・・。
もう一度確認しとく。倒す事が目的じゃない。
援軍までの時間稼ぎだ。」
優人はリッシュに言う。
リッシュは黙って頷く。
リッシュとは付き合いは浅いが優人はリッシュの理解力の高さだけは信用に足ると判断している。
リッシュは頭の回転が早く、優人の作戦や狙いを少ない説明で把握してくれる。
キリキリキリ・・・。
優人とリッシュが小さい声で話していると、弓兵が1人、こちらを狙って弓の弦を引き始めた。
シュン!
そして、風を切る音と共に矢が放たれる。
「風よ!」
リッシュもその矢に対応し、バク-ムで強風を起こし、矢を弾く。
その風の風力でリッシュの霧まで飛ばされてしまった。
「!?」
霧が晴れて、その下で落とし穴に引っ掛かり、串刺しになっている仲間に気付き、第三陣の表情が青ざめる。
シュン、シュン、シュン・・・。
第三陣がまた矢を放つ。
それをリッシュが強風で弾き飛ばす。
こいつら・・・攻めて来ないのは何故だ?
弓兵とリッシュが遠距離の打ち合いを続けている事に優人は不思議に思い始めた。
召喚魔法使いがさっさとオプティムを出してしまえば良いのにそれすらしない。
狙いは何なのだろうか?
そこで優人はもう1人の魔法使いに目をやる。
この部隊の狙いはリッシュの魔力の消耗か?
いずれにせよ、このままでは埒が空かない。
とりあえず、突進をして撹乱させるべきか?
優人は色々考えた結果。
背中に閉まっておいた槍を抜き、投槍の構えをし、魔力を込める。
オプティムを召喚しないならしなければ良い。
魔力が溜まると、優人はその槍を第三陣目掛けて投げた。
バチバチバチッ!!
優人の槍には麒麟の力が込められている。
魔力を込めると雷の力が槍から発動するのである。
ガギィン!!
優人の槍をミドルシールドの男が止める。
バチッ!!
「ぐわっ!!」
槍が当たると同時に電撃が盾やガンドレットを通り、ミドルシールドの男に伝わる。
「ちっ!」
本来なら敵全体に電撃を飛ばしたかった優人は思わず舌打ちをする。
全員を麻痺させたかったのに、先頭のミドルシールドが電撃を全て受け止めてしまったのである。
優人は腰の刀に手を掛けると、横幅1メートルの道をダッシュで走り抜け、ミドルシールドの男の首を狙って抜刀する。
シュン!
しかし、接近した優人を狙って槍使いがミドルシールドの男の脇の下から槍を刺してきた。
優人は咄嗟にそれをかわす。
こいつら、思ったより連携も取れるのか!?
一旦、距離を取りながら優人は敵の居場所を再確認する。
弓と魔法使いをまず撃ち取るべきか!?
動けない鎧も動き出したら面倒臭い!!
優人が一瞬葛藤している隙に槍使いが2人、ミドルシールドの前に立ちはだかり魔法使いがミドルシールドに近寄る。
回復をする気か!?
優人は焦り、リッシュに目を向ける。
弓兵の矢を魔法で捌きながらチラチラと優人を見てたリッシュはすぐに優人の視線に気付き、一度頷いて見せる。
優人はもう一度視線をミドルシールドに近寄る魔法使いに送る。
トシュッ!
次の瞬間、ミドルシールドに近付いた魔法使いにリッシュの風の矢が突き刺さった。
「うぐっ!」
魔法使いの顔が歪む。
「司祭殿!!」
ミドルシールドが突然のリッシュの風の矢で倒れる味方を心配して声をあげる。
その声を聞いて、優人はニヤリと笑う。
意味が分かった。
剣士とエルフの2人組相手ならば回復は使えない。
それに対し第三陣は司祭と言うヒーラーがいた。
消耗戦に持ち込めばそのうち剣士とエルフは疲労で戦闘が出来なくなる可能性がある。
それが狙いでオプティムの召喚をしなかったのだ。
「ミッションドライヴ!!」
優人はいきなり3速まで速度をあげ、槍使い2人を無視して、司祭の首をはねる。
バシュッ!
司祭の首が飛ぶ。
優人は司祭の確認をせず、弓兵目掛けてダッシュをする。
「前衛!和装を止めろ!!」
弓兵の1人が叫ぶ。
4速・・・。
しかし、ミッションドライヴ中の優人に追い付ける訳も無い。
ドスッ!!
優人の鳳凰は弓兵1人の心臓を突き刺した。
「コール・オプティム!!」
そのタイミングで召喚魔法使いがオプティムの召喚を成功させた。
優人は他の弓兵に遅い掛かる。
弓兵が接近しつつある優人に弓を向ける。
「崩れたな。仲間を信じられないやつに未来は無い。」
優人は突進する足を緩めずに弓兵を切り捨てる。
そのタイミングで槍使いが優人の方へ走ってきた。
その槍使いの後にはショートソードを抜いたリッシュの姿。
崩れた陣形は崩壊が早い。
エルフの足は人間よりも早い。
槍使い2人が優人に接近し、槍を振り上げようと立ち止まった瞬間、リッシュのショートソードが槍使い1人の心臓を背中から突き刺す。
優人はもう1人の槍使いに対応すれば良い。
優人は槍使いの突きを横にかわし、戻す槍と同じ早さで槍使いに接近し、心臓を一突きする。
「ふぅ・・・。」
気が付くと、最後の弓兵はリッシュがショートソードで仕留めていた。
残すは、召喚魔法使いとショートソードのコンビ、そして、一人で痺れているミドルシールドの4人である。
「ぐ・・・ぐぅ・・・。」
ミドルシールドの男が必死に立ち上がり優人とリッシュを睨む。
どうやら第三陣のショートソード2人は召喚魔法使いの護衛が任務でその任務を忠実にこなしているようだ。
常に優人とリッシュの動きを警戒し、召喚魔法使いから離れようとしない。
「まさか、エルフ側に人間もいたなんてな・・・。」
ミドルシールドの男が優人に話し掛けてきた。
狙いは分かっている。
麻痺が解けるまでの時間稼ぎ。
もしくは、第四陣の到着を待つかだ。
「どっちの側とかは特に無いがな。
強いて言うなら治安向上が目的かもな。」
優人は歩きながらミドルシールドの男に近付く。
麻痺しているうちに仕留めるのが当たり前だ。
しかし、この男に優人は興味があった。
天上界に来て、まともに倒せていないシンやアレスと同じタイプの戦士・・・。
出来れば、完全な状態で斬り伏せたい。
「優人。第四陣の姿が見え初めて来てる。早くしないときつくなるぞ。」
リッシュが優人に忠告をしてくる。
「あ、ああ・・・。」
優人は返事をするとミドルシールドの男の首を斬り、止めを刺した。
本当は戦いたかった・・・。
こんな事を考える自分が自分でも恐いと思う。
いつの間にか戦闘狂になってきてるのだ。
「リッシュ。一旦退こう。」
優人はリッシュに言う。
「次のポイントまでか?」
リッシュが優人に聞く。
「ああ。あそこの3人を撃ち取りたい所だが、それをやっていると落とし穴の向こうへ行く機会を失いかねない。」
優人がリッシュに言うとリッシュは第三陣の生き残り3人を1度睨み、優人に従う事にした。
「ここから距離を置けばオプティムの魔力吸収の範囲からも逃れるかな?」
落とし穴の向こうへ歩きながら優人がリッシュに聞く。
「ああ。しかし、また呼ばれたら意味がないがな。」
リッシュが答える。
「そりゃそうか。」
優人は答える。
道幅1メートルの道を越えると優人達は立ち止まり、そして第四陣の到着を待った。
第四陣が来たら、距離を保ちながら第2の落とし穴まで走る。
しかし、第三陣の生き残りがいる以上、その落とし穴もあまり意味を成さないだろう。
情況は徐々に悪くなってきているのを優人は実感していた。
綾菜は昨日のうちに援軍要請に行ったはずである。
何故こんなに遅れているのか?
ファゴットが引き連れて来るだろうドワーフ部隊はどこから来るだろうか?
暗雲立ち込める戦況に優人は不安の色が隠しきれずにいた。
ザッザッザ・・・。
テトの森の戦い、第四陣。
優人とリッシュは第2の落とし穴に向けて撤退をしていた。
第三陣の生き残りと第四陣は合流して優人達を追いかけてきている。
「リッシュ、第2の落とし穴を渡りきった所で迎え撃つぞ!」
優人は撤退しながらリッシュに作戦を告げる。
「分かった。」
第三陣の生き残りがいると言う事は霧で隠した落とし穴もネタがバレているハズである。
引っ掛かる可能性は低い。
しかも、エルフ討伐隊はスールムの時の様な数合わせの素人でも無い。
まともに戦い続ければ確実に不利なのは分かっている。
次の落とし穴以降がヤバい・・・。
優人は走りながらどう切り抜けるか必死に考えていた。
エルフの援軍が来ても、オプティムを呼ばれればただの弓兵になる。
どう考えても勝機が見出だせない。
優人は苦悩の表情を浮かべながら走っていた。
「優人は、オプティムを呼ばれたら、エルフは何も出来ないと思っているのかな?」
優人の表情を見て、リッシュが走りながら話し掛けてきた。
「ああ・・・。魔法が使えないと厳しいだろ?」
優人はリッシュの質問に率直に考えを口にする。
「俺は、逆の見解なんだ。
エルフと人間のハーフでどっちかを贔屓している訳じゃなくて、純粋に思ってる。」
「んっ?」
優人はリッシュの言葉の意味が理解出来ず、聞き返す。
「例え、オプティムを召喚しようが、どんな手練れを出してこようが、人間は森のエルフを怒らせたら勝ち目は無いんだよ。
エルフだけじゃない。ドワーフやノーム、ウンディーネやサラマンダー族全ての精霊から亜人化した亜人の本気には人間は手も足も出ない。」
リッシュが断言する。
「その根拠は?」
優人は天上界についてはさほど詳しくは無い。
しかし、ついこないだノームのシノの隠里の件もある。
あそこのノーム達は人間により支配されていた。
少なくとも、ノームは人間に勝てないと優人は思っている。
「基本的に精霊派生の亜人は戦闘を極めて避ける。
人間達はその性格を利用してるだけなんだ。」
「ふむ・・・。」
優人は腑に落ちない面持ちでリッシュに答える。
そうこうしている内に、第2の落とし穴にたどり着く。
優人とリッシュは躊躇うこと無く、その落とし穴の中心を走り抜け、優人はすぐに走ってきた道を振り向いた。
少人数で多数と戦闘をする時、一番厄介なのは囲まれた時である。
囲まれないように戦闘をする事を考えるならば、幅1メートルの落とし穴の通路を利用するのが回り込み対策として有効だと判断したのである。
もっとも、刀で槍を相手にする時はかなり不利な戦いになるのだが・・・。
「おい!!少し待て!!」
第三陣を抜き、走ってきた第四陣のエルフ討伐隊に向けて、第三陣の人間が声をあげた。
しめた!!
優人は心の中で思わずガッツポーズを取った。
落とし穴のネタを知らない第四陣はあっさり走り抜けた優人達を見て、警戒せずに落とし穴に落ちる。
「うわぁ~!!」
断末魔の声と共に2人落ちる。
第三陣が途中で制止したせいで被害はさほど出せなかったようである。
第四陣は残り8人。
剣が3人。
大鎌が1人。
戦斧が1人。
槍が2人。
魔法使いが1人残っている。
第三陣が剣が2人とオプティム召喚が1人いる。
槍と鎌が厄介だな・・・。
「コール、オプティム!!」
優人が第四陣の得物を見ていると、案の定第三陣の召喚士がオプティムを呼び出した。
落とし穴に仕掛けたリッシュの霧が晴れ、落とし穴のネタが第四陣にも知れ渡る。
槍使いが1人、槍を構え横幅1メートルの道を突進してきた。
「ここを渡り切らせる訳に行くか!!」
優人も横幅1メートルの道に抜刀の構えをしながら走り込む。
槍の先はまっすぐ優人の顔面に向けられている。
このままでは槍の餌食になるのは自分だ。
優人は槍が刺さる寸前で左下に身をかがませる。
その動きに反応した槍使いは槍の穂を優人のいる左下に合わせる。
ミッションドライヴ!
その瞬間、優人はミッションドライヴを使い、自分の速度を上げ右手に移動し、一気に距離を詰め抜刀する。
バシュッ!!
優人の抜刀した刀は槍使いの上半身と下半身を真っ二つに斬り、まずは槍使いを1人仕留めた。
シュン!!
優人に斬り落とされた槍使いの上半身の影から剣での突きが優人を襲う。
優人からしてみれば完全に死角からの攻撃である。
この攻撃に優人は反応しきれずに、左肩をかすった。
「くっ!」
優人は後ろへ下がり、体制を整えようとする。
しかし、もう1人、剣使いの後ろに付いてきていた剣使いが後ろへ下がった優人との距離を一気に詰めてきた。
マジか!?
シュン!!
思わず、優人は後ろに倒れる形で2人目の攻撃をかわす。
そして、次の瞬間に剣士2人が落とし穴を越えて来てしまった。
「くそっ!連携か!!」
簡単に落とし穴を抜かれた優人がつい文句を口にする。
落とし穴を越えた剣士の1人にリッシュがショートソードを突き立てる。
キィン!
ドンッ!!
剣士はリッシュのショートソードを弾き、リッシュの体を開かせると自分の肩をリッシュの胸に当てた。
「くっ・・・。」
胸に肩を力一杯当てられたリッシュは顔を歪めながら剣士から距離を取ろうとするが、その剣士はリッシュを肩で押し倒そうとグィッと力を入れ、リッシュの足をわざと踏んだ。
ドサッ!
それによりバランスを崩したリッシュは地面に尻餅を付く。
「まず1人!!」
剣士が尻餅を付いたリッシュに止めを刺そうとショートソードを振り上げる。
ドシュッ!!
そのタイミングで優人は自分の方を向いている剣士をかわし、リッシュに止めを刺そうとしていた剣士を背中から心臓目掛けて突き刺した。
「ぐふっ!」
優人に刀を突き立てられた剣士は血を吐いてそのまま倒れる。
優人は直ぐ様背中に突き刺した刀を抜き、背後から追い掛けてくる剣士に間合いを合わせ、横振りに切り払う。
それに気付いた剣士は後ろへ逃れた。
そうこうしている内に落とし穴を大鎌と戦斧が渡りきる。
「くそっ!まずい!!」
優人は自分と向かい合う剣士と大鎌と戦斧を交互に睨みながら相手の動きを探る。
「優人、済まない。」
リッシュが立ち上がり優人に詫びを入れる。
「構わない。魔法無しでこいつらを相手取るのは少しきついな・・・。」
「ああ・・・。」
リッシュもショートソードを構え治し、優人に答える。
バッ!!
次の瞬間、大鎌が動き出した。
大鎌・・・鎌は刃が内側に付いている。
武器の形状からして見た目より近めの間合いで敵の体を巻き付かせる為に回り込むように柄を扱う。
そして、相手が刃の中に入れば後は力一杯引けば敵を倒せる。
滅多に使う奴はいないので、その馴れない動きに翻弄させるのが狙いだろう。
・・・。
冷静になって考えてみれば隙だらけの武器だと優人は気付いた。
鎌の動きは気にせずに一直線に近付いて得意の抜刀術で息の根を止めれば良い。
回り込む動きより直線の動きの方が無駄が無い分早いのは容易に想像できる。
優人は向かってくる大鎌に対し、一旦納刀し、一気に間合いを詰めようと走り込む。
キィン!
はぁっ!?
突然の事に優人は抜刀を早め、剣士の攻撃を受け止めた。
大鎌を一気に仕留めようとした優人と大鎌の間に剣士が割り込んで来て、優人の動きを止めたのである。
その瞬間が命取りになる。
優人と剣士を回り込むように大鎌を振り、そして優人の背後から鎌の刃を引いてくる。
前には剣士。
後ろには鎌の刃が優人を襲う。
ふざけんな!!
不意に優人は身をかがめ、大鎌をかわす。
そして、横に逃れ、体制を建て直す。
優人が鎌を避けたので、その鎌は剣士の首を跳ねた。
「くそっ!すばしっこい!!」
大鎌が文句を言う。
攻撃直後は誰でも隙が出来る。
優人はもう一度大鎌に距離を詰めようとする。
ドゴッ!!
「か・・・。」
しかし、突進しようとした優人の腹部に鎌の峰を大鎌使いが当てて来たのである。
後ろに吹っ飛ばされる優人。
そこに大鎌が止めを刺そうと大きく振りかぶる。
リッシュは戦斧に捕まって援護に間に合わない。
優人は崩れた態勢のまま、刀で大鎌の一撃を受け止めた。
しかし、大鎌の一撃を受け止めると言う事は相手に背を見せる形になる。
ドンッ!!
大鎌使いは優人の背中に蹴りを入れる。
思わず、鎌を止める刀の力が抜けそうになる。
しかし、刀を握る力が抜ければ優人が鎌の餌食になる。
この状態になると鎌は片手で引っ張りながら優人に蹴りを浴びせる事が出来る。
ドンッ!!
ドンッ!!
ドンッ!!
背中を蹴られる度に痛みが走るが優人は必死に鎌を受け止める刀の力を抜かないでいる。
リッシュも戦斧使いとの戦闘が中々終わらない。
万事休すか・・・。
優人は必死に堪えながら援軍を待ち続けていた。




