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リアルファンタジア  作者: なぎゃなぎ
第五章~魔法の国の案内係~
31/59

第三十話~異端の苦悩~

古びた遺跡の中で腰をついている優人達を複数人の人間たちが囲むように立っていた。

全員が全員優人達を警戒しているのが空気間で分かる。

無理矢理な高速移動による失敗だ。

シエラ1人の時ならばこういう事にはならなかったはずである。

フォーランドでやったように神秘的な登場が成功なのだろう。


「うむ・・・。」

優人は緊迫した顔でこちらを睨む地上界の人々を見て、困った顔を見せる。


「お前達は何者だと聞いている。」

先程聞いてきた男がもう1度優人達に聞いてきた。

その質問に対し優人は黙って立ち上がると、シエラをゆっくりと指差す。


「?」

シエラは優人の行動の理由が分からず、優人の指先に視線を送った。


「女神だ!!」

優人は答える。


「はぁっ!?」

優人の言葉にシエラが顔を赤らめる。


「はぁ?」

優人の発言に新人神隠し子達も混乱し始めた。


「ちょっと!こんな状況でそれは無理が有りすぎるでしょ!?」

シエラが優人に怒り出す。


「えっ?だって俺達の時、堂々とそう言ってツカミをとったじゃん?

テレパシーやれ!テレパシー!!」


「ツカミとか言わないで貰えます?

あれは、神秘的な雰囲気だったから通用したんですよ!

つか、あの時もあなたがバカにする失敗したじゃないですか!!」


「え~・・・。俺的にはシエラとの距離がグッと縮まった気がしたけどなぁ~・・・。」

言うと優人は声を出して笑って見せる。


「ほんっと性格悪いと思いますよ!地上界の男は糞ですね!永遠に解り合えません!!」


「ああ。地上界の男と書いて糞と読むんだ。

天上界の女と書いて馬鹿と読むのと同じでな。」

答えて優人は鼻で笑って見せる。


「ムキー!!」

返す言葉が見付からず、シエラが地団駄を踏む。


「だ・・・だからあなた方は・・・。」

新人神隠し子の男は少し緊張が解れたのか、もしくは呆れたのか力の抜けた声でもう一度聞いてきた。

そのタイミングで優人は男に向き直り、真面目な顔で答え始める。

「初めまして。俺は水口優人。

半年前位に日本からここに来ました。

信じがたいですが、あなた方は神隠しにあい、この世界に連れて来られたようです。

戻り方は現時点では分かっていませんが、とりあえず安全な所までご案内致します。」


優人の話に周りはざわめく。

地上界から突然ここへ来た彼等の気持ちは分からなくも無い。

優人自信も最初、訳が分からなかったのだから・・・。

優人はこの新人神隠し子達が少しでも今を受け入れる事が出来ないかと考えながら再び話を始める。


「何かのドッキリだとか、拉致だとか・・・そういうのは考えずに、とりあえず、近くの街か村まで行きましょう。」

口で話すよりここを見せた方が早いと思い、優人は提案する。

しかし、優人の問い掛けに返事は一向に戻ってこなかった。


「・・・。」

少しの沈黙が場を包み込む。

優人は正直、少し苛立ち始めていた。


「君、だぁれ?」

聞き覚えのある優しい声が突然した。

声の主はミルフィーユである。

シルバーブロンドと言う表現がピタリと合う程、綺麗で柔らかそうな髪をした男の子にミルフィーユが話し掛けていたのだ。


男3人、女2人、こどもが1人・・・。

その綺麗な金髪の男の子が1人のこどもなのだろう。

横には母親らしき人物が男の子を抱いている。

母親の髪は黒色を染めた形跡がある。

顔付きから見ても母親はアジア系だ。

つまり、あの男の子はアジアとヨーロッパのハーフなのだと優人は察した。


「あら、可愛い。お羽とお尻尾を付けて何かのコスプレかな?

ほらっ、クライス、ご挨拶は?」

母親らしき人物がミルフィーユに気付き、息子に挨拶を促す。


男の子は母親の腕から離れ、ミルフィーユに挨拶をする。

「クライスです!君は?」

元気で聡明そうな面持ちでクライスと名乗った男の子はミルフィーユに答えた。


「クライス?私、ミルフィーユ。宜しくね。」

言うとミルフィーユはニコリと微笑む。


「うん。」


「あらあら、ミルちゃん!お友達出来たの?」

2人のやり取りを聞いて綾菜が2人の所に行き、クライスの母親に会釈をする。


「うん。クライス君って言うんだよ。」

ミルフィーユが綾菜にクライスを紹介する。

クライスも綾菜に会釈をしてみせた。

クライスの歳はミルフィーユの1個か2個上だろうか?

幼児に変わり無いがしっかりしているイメージだ。


「私はこの子の母親の真城綾菜と申します。」

綾菜がミルフィーユを抱きかかえながら母親に挨拶をする。


「あ。始めして。クライスの母親のリン・バーナードと申します。」

綾菜とリンはお互いに挨拶を交わしながら何故か気まずそうに会話を繋げている。

その会話にクライスの歳の話があり、実はミルフィーユと同じ4歳だと言う事が判明した。

綾菜が「ミルちゃん、ちっちゃいね?」とミルフィーユに言っていた。


「あ・・・あのぅ~・・・。」

綾菜とリンの会話を遠くで眺めていた優人の元へ痩せた男が近付いてきた。

付けている黒渕眼鏡は度が強いのか男の目が見えないほど分厚い。

肩まで掛かる長さの黒髪は油なのか水なのか分からないが、湿っているように見える。

何となく優人はその男から少し距離を取り、目を合わせた。

男は優人の視線に気付き、話をし始める。


「僕は、田代健と言います。

ここは、何かのゲームの世界ですか?

あの羽の女の子、さっき飛んでたんです。

本物ですよね?」


「・・・。」

優人は一瞬返事に戸惑った。


地上界からいきなり天上界に来て、ミルフィーユを一発で受け入れたのはそれに近い何かを経験しているのか?

この世界を『ゲームの世界』と例えたが、ゲームの世界に入ると言う事が有り得ると思っているのか?


優人も半年前まで地上界にいた。

バーチャルリアリティーと言う仮想現実を作り出すシステムがかなりの精度で一般に普及される時代だったのは知っている。

しかし、ゲームの世界に行くなんて技術まで出来ているなんて考えもしなかったのだ。


「君は・・・いつの時代のどこの国の人間なんですか?」

そこで優人の出した結論はこうだ。

神隠しは次元の歪みから生じる。

次元の歪みは場所だけでなく、時代や時間軸をも狂わせる。と。


「えっ?平成の日本ですよ。」

優人の問い掛けに健は普通に返事をした。


「・・・?」

意外と言うか、当たり前過ぎる返答に優人が赤らめた。

そんなもの、見れば分かるのだ。

しかし、何故このケンと言う男は困りもしないで、状況を受け止める事が出来るのだろうか?

優人は疑問が残る中、とりあえず彼らを安心させようと健の質問に答えることにした。


「ここはゲームではないよ。

日本があるのが地上界と言うのに対してここは天上界。

地上界で死んだ人間か、神隠しにあった人間が行き着く所らしい。」

ケンは優人の説明を聞き「なるほど・・・。」と納得していた。


何故、この説明で納得出来てるんだ?


優人が健に呆れていると、最初に「誰だ?」と聞いてきた男が痺れを切らせ、怒り始めてきた。


「いい加減にしろ!私は今、仕事中なんだよ!

こんな強引な誘拐の仕方、犯罪だぞ!

訴えてやる!!」


「・・・。」


男が怒鳴り、辺りが静まり返る。


「訴えたけゃ訴えろよ。

それが出来ないから、せめてと思って助けに来てやっただけだしな。

逆に訴え方を教えてくれ。

それと、神隠しに合う直前の記憶は意識を失っていたはずだ。

バリバリ仕事をしていたと主張するなら早めに嘘だと言った方が良いぞ?」

優人が怒鳴る男に吹っ掛ける。


「ぐ・・・。」

男は優人の冷酷な眼差しに一瞬怯むが、その後怒りながら外へと歩き出し、そして、振り向いて「覚えてろよ!」と言い捨てると外へと出ていった。

やっぱり地上界にいる中年男性は山田のような人物が多いと思いながら優人は男を見送った。


「あ・・・僕の蛙。」

クラウスが少し離れていたところに落ちていた蛙のおもちゃを取りに小走りし拾い上げると、安堵の顔を浮かべる。


「かえる?」

ミルフィーユは初めての同世代の後ろを追いかけて歩いて来た。


「うん?うん。蛙なの。」

ミルフィーユに気付き、クラウスは蛙のおもちゃを床に置くと、蛙のお尻から繋がっているチューブの先にあるゴムのボールを小さな両手で押す。

すると、蛙のおもちゃの後ろ足が真っ直ぐに伸び、蛙のおもちゃが少しだけ前に進んだ。


「わぁ・・・。」

その蛙の動きを見て、ミルフィーユの表情も明るくなる。

ミルフィーユはクラウスと蛙のおもちゃの所まで行き、正座をして蛙のおもちゃを眺め始めた。

クラウスも自慢気にゴムのボールを押して蛙の後ろ足を動かす。

2人はその単調な蛙のおもちゃに夢中になっていた。


良くあんなもんに夢中になれるな・・・。


優人は蛙のおもちゃに夢中になる2人を見て、呆れに近い感心をする。



「さて・・・。そろそろここを出よう!

近くの街まで行って保護してもらわないと。」

綾菜が残った5人に言う。

5人は綾菜に従い、建物から外へと出た。


建物の外はフォーランドの時と同様に獣道になっていた。

その獣道を抜けると、もう歩き馴れた山道に繋がる。


「サリエステールって治安はどうなんだろうな?」

山道を歩きながら優人は綾菜とシエラに話しかける。


「サリエステールは草木を大切にしてる国って事と新聞に載るような事件が起きてないって事しか分からないわ。」

シエラが優人に答える。


「私も、この国はよく知らない。

魔法学園の同期が宮廷魔術師として士官してるけど、そんなに仲良くなかった人だし・・・。

そもそもサリエステールって小国だよね?」

と、綾菜。


「うん。エルンやジールド・ルーン、グリンクスなんかと比べると領土も人口も比べ物にならない位のレベルね。

だから逆に怖いってのもあるけどね。知識人がいるかどうか・・・。」


「それは大丈夫でしょ?

エルンの魔術師を宮廷魔術師として迎えてる位だし、ある程度の文化はあるんじゃないかな?」

シエラと綾菜がお互いに意見を出しながらこの国の状況を知ってる範囲で予測し始めた。

優人は2人の会話を聞きながら、山道を先頭に立ちながら下り続ける。


その間、健が優人に色々と質問をしてきていた。


腰の刀と背中の槍は本物か?

人を殺した事はあるのか?

この世界の魔法とは?

娯楽はあるのか?

亜人の種類は?

ミルフィーユは何の亜人なのか?


優人は面倒臭いと思いながらもケンの質問に丁寧に答えていた。

そんな時だった。

最初に怒って出行った男が山道で倒れていた。


「!?」


優人は急いで男に近付き、確認をする。

男は心臓に直系1センチ程の穴が開いており、そこから大量の血を流し、絶命していた。


「生きてる?」

男を見る優人に綾菜が近付きながら聞いてきた。


「死んでるな。傷跡からして、弓か槍かな。

しかし、槍にしては小さいから、弓か?」

推測をしている優人だが弓だとしても疑問が消えない。

もし弓ならば、わざわざ刺さった矢を抜くだろうか?

そして、何のために殺したのか?

山賊や物取りならば、衣服や金目の物、食糧を奪うのだろうが、この男の遺体は何かを荒らされた形跡が無い。

殺すために殺されたのだ。


「視力強化。」

優人は視力を上げ、周辺を警戒する。


「マジックシールド。」

綾菜も自分を中心とする半径2メートル程度の結界を張る。

「この傷跡は恐らくマジックアローね。

相手は魔法使いの可能性が高いわ。

シエラ、安全な所に着くまで交換で結界を張りながら進みましょう。」


「えー・・・。」

シエラが嫌そうな顔をするが、渋々綾菜に従う事にしてくれた。


「皆もこの結界から出ないでね。」

綾菜が言い、一行は恐怖と不安に苛まれながら下山を続けることにした。

地上界の人間ならば、動揺し、慌てるかと思ったが意外とみんな素直に従ってくれたのが幸いだと優人は少しだけ安堵していた。



カンッ!

トシュッ!!

警戒しながら山道を進む優人達に不意に何かが当たり地面に落ちた。

優人達一行の緊張が走る。

何かが落ちたが落ちた形跡は有るが落ちた物が残っていない。


「マジックアローだ・・・。」

シエラがボソッと言う。

つまり、相手は魔法使いだと言う事だ。

優人は周りを警戒しながら敵の姿を探すが見当たらない。


「どこにいる!?」

敵の姿を目視出来ず、優人は焦りだした。


「あそこです!!」

健が木の枝の上に立つ人間の姿を指差した。


「木の枝!?」

優人は驚きの声を上げる。

木の上に潜む事は出来る。

そこから枝にしがみつきながら弓を射る事も出来る・・・と思う。

しかし、枝の上に立つ事なんて人間に出来るのだろうか?

しかも弓を射るなんて・・・。

それはかなりのバランス感覚が必要な芸当である。


優人は健の指差した方向にいる人間に目をやる。

耳が尖っている細身の男の姿が確かに木の枝の上に凛と立っていたのだ。

その手には弓を持ち、冷たく感じる冷ややかな眼差しはジッと優人を見つめていた。


「亜人か・・・なんの亜人だ?」

シルバーブロンドの綺麗な長髪は風になびき、これから戦闘が始まるのに怯えや緊張すら感じられない雅やかな男。

亜人にも色んな種類がいる事は優人は天上界での旅で知っている。

同じ動物からの変異だとしても人間の要素が強く、元の動物の能力や特徴だけを引き継いだ者。

見た目も何もかも元の動物で、逆に人間の特徴を引き継いだ者。

動物からの変異だけではなく、妖精からの変異種もいる。

優人の戦術は『読み』から始まる。

これは相手の癖や性格をある程度予想してから戦う技術だが、亜人に関してはもう一つ特性の見極めが重要になる。


何が強くて何が弱点か。


これが分かれば戦闘は飛躍的に楽になるのだ。


しかし、今回は検討が付かない。

木の枝に平然と立っているバランス感覚。

魔法を使う。

耳が尖っている。

少し枝の上の男とにらみ合いながら優人は色々と可能性を挙げるが納得行く答えに辿り着けない。


ダッ!

優人は考えるのを止め、敵のいる方向へ走り出した。

分からない物を考えても無駄だと言う判断である。

相手が何者か分からないが、弓を武器とし、魔法を使う。

これを警戒して、戦えば糸口はその内見付かる。



ドスッ!


えっ?


敵に向かい走る優人の右腕に痛みが走った。

優人は慌てて身をかがめさせ、木の影に隠れた。


敵は一人じゃない!?


優人は矢が消え、血だけが流れている右腕を見ながら再び周りを警戒する。


「ゆぅ君、大丈夫!?」

綾菜の心配する声が聞こえる。


「大丈夫だ!敵は複数いるぞ!!」

優人は綾菜に警戒を呼び掛ける。


「分かった!気を付けて!!相手は森戦のスペシャリストのエルフよ!!」


エルフ!?


さっそく綾菜が口にしていた詩の種族の登場だ。

エルフ・・・。

諸説有るが、北欧神話では『自然を司る妖精』とされている。

寿命が無く、人間や妖精と言うよりは神に近いとされる事もある種族だ。

また、エルフは色んな物語に登場するが、姿形も特徴も毎回違う。

優人は必死に考える。


自然を司る妖精ならば使う魔法は風水魔法だろう。

すると、何も残さず消える矢は空気を圧縮したものだろうか?

神話の話を元に考えれば動きも俊敏で、あのバランス感覚ならば木の上を枝から枝へ走るように動けるはずだ。

つまり、どんなに優人がダッシュをしても追い付けない。

ミッションドライヴを使っても木に道を阻まれ、思うように加速出来ない。

距離が縮められなければ、弓の餌食になるのは自分だ。


完全に不利だ・・・。


キラッ!


優人が状況分析をしていると、視界の端で何かが光るのに気が付く。


バッ!!

トスッ!


優人は何だか分からずに身を翻す。

優人が隠れていた木に穴が空いた。

それを見て、エルフの矢だと確信する。


エルフは何人いるんだ!?


初めに優人と睨み合ったエルフ。

そのエルフに接近中に死角から矢を飛ばしたエルフ。

そして、隠れている優人の対角線上にいたエルフ。

全部で3人か・・・。

少なくとも3人だと言う判断が正しいと優人は認識を改める。


もし、矢が魔法であるならもっとかわしずらい魔法を何故使わないのか?


その答えはすぐにピンと来た。

エルフは自然を司る妖精。

木々を無意味やたらと傷付けたくないのだろう。

矢程度ならばともかく、派手な魔法は木を枯れさせる恐れがある。


優人は対角線上で優人を狙ったエルフを1度目視すると、背中の槍を抜き、投げ槍の構えをとる。

それに気付き、エルフはそれをかわそうと木の上を移動し始めた。


無駄なんだよ!


優人は心の中でエルフにツッコミを入れ、元素魔法を槍に込めて投げた。


バチバチバチッ!!


麒麟の力を帯びた優人の槍は元素魔法を込めると雷撃の一撃を放つ。

電気は空気に触れると放電し、周りにその威力を伝える。


ドサッ!


優人の槍をかわしたエルフは電撃に触れ、痺れて木から落ちた。


「足、1速。」

木から落ちたエルフ目掛けて優人は走り出す。

2速・・・3速・・・。

徐々に走る速度を上げ、自分の間合いにエルフが入る。


「鳳凰!お前の力見せてみろ!!」

優人は柄を握り抜刀をする。


キィン!


えっ・・・。


予想だにしていなかった手応えに優人の体が硬直した。

まさかの受け太刀をされたのだ。

しかも、痺れて木から落ちたエルフでは無く、別のエルフに。


近くで見るとやはり上品で美しい顔立ちをしたエルフだった。

他の2人のエルフとは違い、長い髪を太い1本の三つ編みに纏め、多少戦闘向きにしてある。

美しく青い瞳が近い場所で優人を冷たく見返す。

優人の刀を受けるショートソードを持つ腕も白く、優人より細い。

一瞬女とも見間違えそうな風体だが、はやりこのエルフも男である。


「なぜ襲う?」

優人は刀を握る手の力を緩めず、そのまま押し込むようにして、エルフの男に聞く。


「ここは人間の立ち入りを禁じている。」

エルフの男が答える。


「好きでいる訳じゃない。神隠し子を村まで送るだけだ。」


「信用しない。」

言うと、エルフは優人との鍔迫り合いから逃れようと、後ろへ飛び、間合いから抜ける。

優人はそのままの体制で手の内を変え、エルフ目掛けて突きを放つ。


シュッ!

その優人の突きは難なくかわされた。

エルフの動体視力もかなり高いようだと優人は感心した。

その瞬間、優人の腹部に手の平の温もりを感じた。


!?


優人は焦る。

さっき麻痺させたエルフがもう回復していたのだ。


「バクーム!!」


「ぐっ!」

優人はエルフの手から突然現れた突風を腹部にゼロ距離で直撃し、吹っ飛ばされた。


ドンッ!

木の幹に激突し、そのまま崩れ落ちる。


「かはっ!」

優人の口から大量の鮮血が吐き出される。


やばい!内臓がやられたか!?


血を吐き、呼吸がままならなくなる優人。

しかし、エルフの攻撃は休むことが無い。

今度はショートソードを持ったエルフが優人に斬りかかってきた。

それを受けようとした優人の右腕に痛みが走る。


最初に受けた矢のダメージがあった!?


優人は万事休すと観念し、目を閉じる。

しかし、そこに助けに入ってくれたのは綾菜だった。

優人に結界が張られたのだ。


「ゆぅ君!遅いから心配しちゃったよ。」

駆け寄る綾菜は結界に守られた優人に目を合わさずに声をかけ、そのまま優人を追い越してショートソードを持つエルフにレイピアを振るう。


キンッ!

エルフは綾菜の攻撃を軽く受け止める。


ドンッ!

しかし、次の瞬間、エルフが顔を歪めた。

いつの間にか召喚されていたなーにゃがエルフの腹部に体当たりをしていたのだ。


「あにゃ!なーにゃにダクフレア!!」

なーにゃの体当たりを食らったエルフから距離を起きながら綾菜があにゃに指示を出す。


「えっ?でし?」

青ざめたなーにゃが綾菜を悲しそうに見た直後、大爆発がエルフ2人を巻き込んだ。


「きゃあ!」

その爆風に綾菜は吹っ飛ばされて悲鳴をあげる。



爆発が止み、爆風が収まると。

黒焦げの凹んでるなーにゃとエルフの遺体が1つと・・・ボロボロになったエルフがショートソードを杖がわりにして立っていた。


「はぁ・・・はぁ・・・。」

エルフの男はボサボサになった髪を戻す事も無くこちらを睨んでいが綾菜は気にせず優人の元へ駆け寄ってきた。


「バクーム直撃はやばいよ!あにゃ!ゆぅ君の回復に全力使って!!」


「ですわ!」

青ざめた綾菜が優人に近付き、あにゃと一緒に優人の治癒に入る。


「なーにゃ!最低でももう1体いるから警戒して!

そのエルフにも気を付けて!!」


「その前に詫びろでし!」

黒焦げたなーにゃが綾菜に文句を言う。


「私の魔力を吸ってさっさと回復して仕事して!!」


「はいでし!」

なーにゃはすぐに綾菜に敬礼して答えた。



「リッシュ!女がいる!戦力的にもこれ以上は危険だ!

撤退するぞ!」

どこからともかく、声がする。


「分かった・・・。」

その声にショートソードのエルフは答えると、1度綾菜と優人を一目見、そしてスッと姿を消した。



綾菜の治癒は30分程掛かった。

かなり傷が深かったらしいが、優人はとりあえずは一命をとりとめた。

立ち上がり、綾菜と2人で結界を張り続けているシエラの元へと戻る。


「逃げられました?」

シエラが優人と綾菜に聞いてきた。


「ええ・・・。まずいね。」

綾菜がシエラに答える。


「次はかなり戦力強化してくるよ。急いで村まで行かないと・・・。」

シエラが綾菜に言う。

綾菜は黙って頷いた。



「なんでエルフを追い返したんですか!?」

森道を急いで抜けようとする優人達に文句を言い続ける男が1人。

地上界の新人神隠し子の健である。

ケンは地上界でエルフの出てくるアニメや映画を見ていて、エルフに憧れを持っていた。

地上界のエルフはどんな作品でも上品で優雅。

そして、高貴で美しく描かれている。

その神秘的な能力はいつでも女神のように優しく、物語の主人公を導いていた。


ケンは言う。

『エルフは等しく人間を見下している。』と。


それのどこが良いのかと優人が聞いたらケンはこう答えた。

「人間でどんなに金持ちの家に生まれようが、どんなにハンサムだろうが、どんなに権力を持ってようがエルフからしたら関係無い。

全てが所詮人間だで済まされるから、平等なんです。」

優人はイマイチ納得は出来なかったが、健の風体を見て、その意味を納得した事にする。


健は?せていた。背も160をちょっと越す程度だ。

顔にはいくつもの吹き出物が出来ており、無駄に伸ばしている髪の毛は脂ぎっている。

男の優人としてはちょっと不快感はあるものの、あまり気にしないが綾菜やリン、シエラと言った女性陣はあからさまに嫌そうな視線を健に向けていた。

恐らく健は綾菜達の視線を感じながら生きてきているのだ。

そんな健に取って、圧倒的な美しさを持つエルフが綾菜達に「所詮同じ人間じゃん。」等と言い捨てたならば多少なりとも気が晴れるのだろう。

そんな健の目の前で優人と綾菜はエルフを打ち負かし、追い返してしまったのだ。

彼の怒りはそこにあるのだろうと優人は思っていた。


「じゃあ、健はどうすれば良かったと思う?

何も言わず、エルフに殺されるべきだったか?」

優人は健に意地悪な質問をぶつけてみた。

しかし、健は躊躇わず答える。


「当たり前です!崇高なエルフが私達の死を望むなら、それが正解に決まってます!!」


「ふむ・・・。」

そんな健の返事に優人も少し考え、そして健に語り始めた。


「俺は『死』と言う解決策を取るのを賢いとは思わないな。

死ねば全ての可能性を無くさせる事になる。

例えば、エルフをここまで信用している健を今ここで死なせたらそれで終わるが、もし、この後、お前のエルフ愛が世界に広がって、エルフと共存出来る時代が来るとしたら・・・。

それがエルフの願いだとしたら、ここで健を殺す事は過ちなんじゃないか?」


「優人さんの質問には無理があります。

そもそも、エルフは人間との共存なんて望んでいないでしょうし、俺なんかの気持ちが他の人間に伝わるなんて有り得ません。」

健の返答に優人は一瞬苦笑いをする。


「健の気持ちが本物なら伝わるさ。

それに、共存を望まないって事は人間を絶滅させるか、ひたすら戦闘を繰り返すのがエルフの望みなのか?」


「エルフは静かに暮らしたいだけなんです。

人間が森に近付かない事が大切なんです!!」


「ならば、人間が森に近付かない事を世界に約束させる事が共存ってやつだろ?

それを健がやれば良い。」


「俺にそんな力ある訳ないでしょ?」


「どうしてそう言える?

エルフが好きで、エルフに殺されても良いと思ってるならエルフの為になる事を命懸けでするなんて大した事無いだろ?」


「命懸けでも俺みたいな一庶民に何が出来るんですか?

俺はコミュ症ですからね!!」


「コミュ症?俺に好き放題言ってるじゃんか?」


「そういう問題じゃないです!!

もう、優人さんと話してても埒があきません!!」

健は怒鳴るとスタスタと歩いていく。

優人はそんなケンの後ろ姿を見ながら思う。

健が本気でエルフの為に何かしようとすれば世界は変わり始めるかも知れないのに・・・。

勝手に自分の限界を決めつけるのは勿体ないと優人は天上界に来てから思うようになっていた。


・・

・・・。


「頼む!ジンスが人間にやられたんだ!

村に入れてくれ!!」

時を同じくして、先程のエルフの男達3人はエルフの村の前にいた。

綾菜の、厳密にはあにゃのダクフレアの直撃を受けた仲間のジンスを抱え、リッシュが村の門兵をしているエルフの女性に村での治療を懇願していた。


「マダン・クロセス様の許しは出ていない。

男の村への立ち入りは禁じられている。」

門兵の女エルフは冷酷にリッシュに答えた。


「じゃあ、村に入れてくれなくても良い!

ジンスの手当をしてくれ!!」


「それも我らの知った事ではない。何度言えば分かるのだ?」

傷付いた仲間を抱え、表情一つ変えずに平然と見捨てる女エルフをリッシュは黙って睨む。


「もう止めろ、リッシュ。人間が村に近付くのを拒み、追い払ったのは俺達が勝手にした事。

これが例え村の為だったとしても、凍りついたマダンの心には響かない。」


「・・・どうしてだ・・・。

救える仲間を見殺しにしてまで、村の規則を優先させる価値がどこにある・・・?」

リッシュは生き絶える仲間を見つめながら呟いた。


リッシュはエルフの村の族長マダン・クロセスの一人息子である。

父親はこの国、サリエステールの現国王、ジョセフ・アブレーク。

エルフのマダンと人間のジョセフは昔、恋に落ち、そして、リッシュが産まれた。

2人はリッシュを『人間とエルフの絆の証』だと言い、大切に育ててくれたのである。

しかし、世間の目がリッシュの存在を許さなかった。

ジョセフが王位継承するに当り、反対の声が上がった。

『跡継ぎが人間でもエルフでも無いハーフエルフで良いはずがない。』と・・・。

そこで、王位に目が眩んだジョセフはマダンとリッシュを追放し、王位に就いた。

王都を追放されたマダンは完全に男性不審に陥り、エルフの村に戻ると、すぐにエルフの男を村から追い出した。

そして、『人間は自然破壊を目論む悪人』だと村のエルフ達に植え付け、人間の立ち入りも禁止し始めたのである。

元々、エルフは人間の亜人狩りの被害も多発していたと言う事もあり、マダンの閉鎖的な施策は村のエルフ達に支持され、現状に至る。

エルフの男達は村を追われた後、少し離れた森で暮らすようになったが、リッシュは大好きな母親を守りたい一心で数人のエルフの仲間と村の周辺の警護をするようになったのだった。



「なぁリッシュ。俺達もそろそろ潮時じゃないのか?

始めは10人近くいた仲間ももう2人。

これ以上やった所で村のエルフ達は男を許さないと思うぞ。」

ジンスの墓を作り終え、汗を拭きながらもう1人のエルフがリッシュに言った。


「・・・。」

返す言葉の無いリッシュは瞳を閉じ、考え込む。


分かっている。


この村での男と女の間に出来た亀裂はもはや埋める事は叶わない。

しかし、リッシュは母親であるマダンを諦めたくなかった。

どんなに冷たくされても、酷い仕打ちを受けても忘れられない記憶がある。

優しかった母親の笑顔が大人になった今でもリッシュの心を締め付ける。

裏切った父親を恨む事もある。

しかし、父親もまた、優しかった。

心の底から何かを恨む事も、諦める事も出来ない。

そんな狭間にリッシュは苦しんでいた。


村が一つだった頃は亜人狩りなんか恐くも何ともなかった。

人間がどれだけ森に進入してきても追い返すのは容易だったらしい。

それが今は戦力が分散されている。

昔の森のエルフの脅威は今は無い。

これはつまり、亜人狩り達からすれば格好の機会なのである。

エルフは、筋力が弱いが魔力が高い。

また、細身の美形が多い。

この特徴のせいか、女エルフが亜人狩りに目をつけられる。

今のエルフの分裂は亜人狩りから見れば、高額な女エルフが低いリスクで捕獲出来るチャンスなのだ。

リッシュはそれを阻止したくて男性陣で森の警護をしてきていた。


「そうだな・・・。

グリルは、もう男の村へ戻ると良い。

後は俺が何とかするから。」

リッシュは仲間のエルフを村へ帰るよう促した。


「お前は愚かな人間の血をひいているからだろうな。

余計な感情を持ち、その為に苦しんでいる。」

少しの沈黙の後、グリルが口を開いた。


「・・・。そう・・・なのかもな。」

グリルの言葉にリッシュも否定出来ないでいる。


「正しいのはテトの村を見捨てる事だよ。

リッシュ、お前は確かに愚かだが、優しい男だ。

村を追い出された男エルフがお前に付き合って森を守り続けていたのはお前の人間性だ。

俺も、お前は愚かだが、嫌いではない。

一緒に男の村へ戻ろう。」


「ありがとう。グリル。

でも、俺はまだやりたい事がある。」

村への帰還を促すグリルの申し出を断るリッシュ。

グリルは少しリッシュの表情を伺うと、黙って振り向き、1人で村への帰路へと着いた。



「さて・・・と。」

リッシュはグリルの姿が見えなくなるまで見送ると、自分の顔をパチっと叩いて気合いを入れ直し、ジッと人間の街のある方向に顔を向ける。

リッシュのやりたい事。

それは、この国にいる亜人狩りの殲滅である。

本当はずっと亜人狩りの本部に殴り込みに行きたかったが、仲間のエルフ達は皆、無駄に戦闘をしたがらなかった。

降りかかる火の粉のみ払い続ければ良いと言う考え方がエルフ達の主流の考え方である。

仲間に止められ、その仲間を巻き込みたくなくて、リッシュは殴り込みを諦めていた。

しかし、今はもう、自分1人しかいない。

1人でこの広大な森を守り続けることも出来ない。

確実は方法はもはやこれしかないのだ。


リッシュはローブを羽織り、森の木に飛び乗ると、枝から枝へ風のように飛び移り、人間の済む街へ向けて移動を始めた。


幼少時代、優しい母親と優しい父親に大切に育てられた暖かい思い出のある人間の街。

そこが自分の死に場所だと覚悟をしながら。

しかし、ただでは死なない。

全ての亜人狩りを絶滅し、エルフに手を出す事の恐ろしさを人間に植え付ける。

そうすれば、元々戦闘を嫌うエルフと人間とが争う事は無くなる。

本来ならばマダンとジョセフの3人でまた楽しく暮らしたいが、それは叶わぬ願いである。

せめて、幸せに生きて欲しい。

リッシュはひたすら森道を木をつたって移動した。

そして、森を抜け、街道に入る。

エルフの森からの街道には人影が少ない。

森に来る人間は亜人狩りしかいないが、来る亜人狩りは全て倒し続けていたからだ。

ひたすら走るリッシュの前に1組の人間のグループが視界に入る。


あいつらだ!!


リッシュは先程戦闘をした人間達だとすぐに気付き、マジックアローの準備をしながら人間達との距離を詰め、そして、ある程度の距離から弓を射る。


カンカンッ


しかし、リッシュの矢は魔法の結界により弾かれた。

リッシュは移動の速度を緩めず、人間達を追い抜き、人間達の進行方向を塞ぐ形で街道に足をつけた。


「さっきのエルフだ!!」

和装の剣士が刀に手を置き、身構えた。

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