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リアルファンタジア  作者: なぎゃなぎ
第四章~新たな旅の序曲~
29/59

第二十八話~テーベの隠里~

達磨返し。

シールドを頭上に構え、敵の兜割りを防ぐと共に自分と敵の下半身を見えない状態にし、両足を砕くという体の小さいノームならではの技だ。

綾菜の提案でまた新しく技が産まれた。

相変わらず技に名前を付けたがる綾菜に優人とシノの表情も和らぐ。

ふと周りを見ると、唸っている亜人狩り達の姿があった。

そんな亜人狩り達を見つめ、綾菜が悪い顔をした。


「お仕置きターイム!!」

綾菜がすっとんきょうな声を上げる。


「お仕置き?止めを刺すの?」

優人が綾菜に聞く。


「む~・・・散々ノームをいじめ続けて来てたしね・・・それも良いと思うけど、命乞いされちゃあそれは出来ないっしょ?」

言うと綾菜は大剣使いの所まで歩いて行き、しゃがみこむ。


「アースヒール。」

綾菜はシノが切断した脛の切り口に大地の回復を使う。

優人は『あれ?』と思った。

神聖魔法の回復は暖かい光を当てて回復する。

しかし、風水魔法で回復をする場合、もっと面倒くさいイメージだったのだ。

水の癒しで綺麗にして、火の癒しで消毒して、大地の癒しで皮膚を繋げる。

前に優人がエシリアに傷の手当てをしてもらった時はそうであった。


「消毒も洗浄もしないで皮膚だけつけると止血だけしか効果がないデス。

あの足はほっとくと腐り始めるデス。痒くて痛くなるデス。」

シノが優人に答える。


「鬼か・・・。」

優人がシノの説明に感想を言う。


「綾菜を一度ぶちギレさせたデス。

そんなもんで済ませないと思うデスが・・・。」

シノが綾菜を見ながら言う。


「す・・・すまねぇ・・・。」

止血が終わり少し落ち着いたのか大剣使いは綾菜に礼を言う。


「いいえ。」

綾菜はニコリと爽やかな笑顔を返し、大剣使いのおでこに人差し指を当てる。


「イリュージョン・フィアー。」

綾菜の指先が一瞬光ると大剣の男の動きがピタリと止まった。

そして、大剣の男から少し離れ、両手の手の平をかざす。


「ペイン。」

綾菜の手の平から緑色の煙が現れ、大剣の男を包み込み、そして、男の中に消えていった。

少しすると、大剣使いは体をガクガクと震わせながらもがきはじめた。


「えっ?」

優人は大剣使いの変な反応を見て何が起きたか理解できず、綾菜の顔を見る。


「ああ。まずは止血して死なないようにしてあげた後、イリュージョンって魔法でその人が思う最も怖い幻覚を見せてるの。

そして、最後のペインは直接神経細胞に痛みを与え続ける魔法だよ。

つまり、彼はこれから死ぬまでひたすら怖い幻惑と痛みを受け続けるんだね。

殺すなって言うからこれしかお仕置きのしようが無いじゃない?」

綾菜が可愛く言う。

優人は話を聞いてゾッとする。


神経に直接痛みを感じさせ続けるって・・・。

気を失っても痛みだけ続く・・・。

と言うか幻覚だから気を失っても見え続けるのでは・・・。

しかし、直接はダメージを受けている訳ではないので死ねない。

大剣使いが死ぬときは、足から腐り始めた傷跡が致死量まで達するか、餓死するか、過労死か・・・。

いずれにせよ、最後まで苦しむのが確実だ。

残酷すぎる・・・。


「恐っ!」

優人は綾菜に怯える。

綾菜は他の亜人狩りの所へ行き、同じ事を繰り返した。


「残酷過ぎないか?」

優人は綾菜を、止めようと話し掛ける。


「残酷ね。でも、彼らのしてる事は亜人という心を持った人の心を完全に無視した行為だよ?

自分たちが楽をするために牧場なんてやり方も、シノちゃんみたいに里のみんなとの絆さえも壊すような卑怯な事・・・。

シノちゃんが今までどれだけ苦しんだか考えると、やっぱり許せない。」

綾菜が優人に答える。


綾菜は感受性が人一倍強い娘だ。

他人の痛みでも自分の痛みのように苦しむ事すらある位に・・・。


優人は綾菜の言葉に信念を感じ、これ以上止めるのを止めた。

後ろを振り向くとテーベのノーム達がお礼を言いに優人達に近付いて来た。


「あの・・・助けて頂き・・・。」

里長らしきノームが優人に口を開く。

「待った。」

優人が里長の言葉を止めさせる。

里長は急いで口を止め、優人の顔を見た。


「残念ながら、俺はお前達なんて大嫌いだ。助ける気も全くなかった。だから、礼はいらない。」

言うと、優人は里長から離れ、里を離れようと歩き出した。


途中、綾菜とすれ違いざまに綾菜に声をかける。

「綾菜が礼を受けてやってくれ。俺は村に待たせてるミルの所へ戻る。」


「もう・・・。」

綾菜は優人に困ったような顔を見せるが引き受けてくれた。


こうして、優人は一足先に山を下り、綾菜とシノが里の人達の礼を受けた。



「強いって羨ましいデス。」

テーベでの礼を受け、綾菜と一緒に山を降りるシノが口を開く。


「ゆぅ君の事?」

綾菜が聞くとシノは黙って頷く。

そんなシノに綾菜はため息を付き、優人の昔話を始める・・・。


「ゆぅ君はこどもの頃、勉強も運動も全くダメだったらしいの。

体も弱くて・・・でも動物が大好きな優しいの男の子。

そんなゆぅ君が唯一誰よりも出来たのが走り高跳びって言う競技。

でも、その走り高跳びにも裏切られてね、彼は何もかもが嫌になった。

とんな時にゆぅ君を無理矢理外に引きずり出した近所のおじさんがいたの。

そのおじさんはね、ゆぅ君を無理矢理走らせたの。

ゆぅ君は何が何だか分からずにおじさんに付いていった。

なんか走らなきゃいけないと思ったんだろうね。

だけど、ゆぅ君は走り出してすぐに立ち止まっておじさんに言った。

『もう、辛いから勘弁来て下さい!』って。

だけど、おじさんは返事をしなかった。

次の日も、その次の日もゆぅ君を無理矢理走らせたの。

だけど、やっぱり運動の苦手なゆぅ君はすぐに根をあげてね・・・。

1週間しないでもう一度苦しくなったときに立ち止まっておじさんに言った。

『もう無理です!走りたいなら一人で走れば良いじゃないですか!!』って。

そしたら、そのおじさんは黙ってゆぅ君の遥か後ろにある木を指差してこう答えたんだって。

『君は前はあの木の所で無理だと言った。それが、今日はここまで走って見せた。』ってね。

そのおじさんはゆぅ君に伝えたかったの。

『成長しないモノはない。』って。

苦手な運動でも、頑張れば少しでも出来るようになる。

頑張り続ければ得意に変わるってね。

結局ゆぅ君は1年間おじさんと走り続けて、いつの間にかおじさんと対等に走れるようにまでなった。

その後、おじさんは中学校に入る前のゆぅ君に英語を教えた。

誰よりも早く勉強をすることで誰よりも良い成績を出せるように。

結果、中学校最初の中間テストでゆぅ君は英語でトップの成績を出した。

勉強が出来なかったゆぅ君だけどね、英語をやるに当たって和訳をする為にある程度の国語力がついた。

英文を理解する為にその国の文化を知り、社会の成績も上がった。

そんなゆぅ君は中学校を卒業するときには勉強もスポーツも一目置かれる実力になってたの。」


綾菜の話は所々地上界の人間でなければ分からないような専門用語が出ていたが、知識も運動も出来なかった優人は出来ないなりに努力して、成長したのだと言う事は分かった。


「それでも、ノームは手足が短くて不利なのは変わらないデス。」

シノの劣等感は死ぬまで消えない。

シノは俯きながら綾菜に答える。


「ゆぅ君の剣士としての弱点。シノちゃんは分かる?」

綾菜はまた優人の話をシノにふる。


「優人さんに弱点?あの人に隙は無いデス。」

シノは答える。


「実は手首の弱さなんだ。しかも弱いとかそんなレベルじゃなくて、本気で抜刀したら手首痛めるレベル。」


「?」

シノは綾菜の言ってることが分からず、綾菜の顔をじっと見つめる。

抜刀したら手首を痛めるなら抜刀出来ないからだ。

しかも、優人は抜刀を土壇場の切り札で使うイメージがある。


「本当だよ?筋トレしても筋肉痛になる前に筋痛める位弱いの。」


「いや・・・。それはさすがに無いデス。そうなら剣士なんてやれないデス。」


「でしょ?ゆぅ君も苦しんだんだ。けどね、手首を捨てることで克服したの。彼ね、手首は私と同じ位の太さなのに肘より上の筋肉がもりもりなの。」


「そんな所鍛えてどうするデス?手首の弱さは斧もですが剣も致命傷デス。」


「手首以外の筋肉を鍛えて、他の部分で手首の負担を軽減させてるんだよ。だから、ゆぅ君の技は厳密に言うと元来の流派の技から少しかけ離れてるの。」


「そうなんデスか?」


「うん。人よりも強い下半身と鍛えた手首以外の筋肉でゆぅ君は刀を振ってる。

まぁ・・・他の筋肉を鍛えた事である程度だけど手首も鍛えられるようになったみたいだけどね。」


「それって結局弱点無くなってるデス。」


「だね。」

シノのツッコミを綾菜は簡単に認めてしまった。

結局強いから強いのだ。

シノは少しガッカリするが、綾菜がまた口を開く。


「劣等感は弱さじゃない。強くなる目標だ。」


「いきなりどうしたデス?」

シノは綾菜に答えた。


「私がゆぅ君の話で言いたかった事。

劣等感って自分で自分の嫌いな所でしょ?

そこが嫌ならそこを無くせば良い。

無くせないなら補う方法を考えれば良いんだもん。

答えが分かってるって事じゃん?

ゆぅ君は運動が苦手だから走って克服した。

勉強が出来ないから勉強して克服した。

手首が弱いから他を鍛えて補った。

結果、弱点が無くなった。

そしたら強みしか残らないんだもん。

はたから見れば強く見えるじゃん?」

綾菜がシノに言う。

シノはハッとした。


手足が短いなら回転を上げて早く走れば良い。

間合いが短くて当たらないからフェイントを織り混ぜた戦い方をすれば良い。

身長の低さは普通は狙い辛く、避け辛い下半身への攻撃がしやすい。

シノにとって、下半身は狙い易く避け辛い攻撃ポイントなのである。

ノームは体が丈夫で筋力が高い。

利点なら探せばいくらでもある。

優人は体が弱く、力も無かった。

頭も悪くて秀でた所が無かった所から今のところまで鍛えてきたのだ。

そんな優人と比べて自分はどうだろう?

体が小さいと言う弱点しか見ていない。

筋力も体力も基本能力は優人より圧倒的に有利ではないか?

体の小ささは強みにもなり、足の遅さは鍛えれば解決できる。


「達磨返し・・・。良い名前デス。」

シノは綾菜が付けてくれた名前を誉めた。

シノは達磨を見たことは無い。

しかし、達磨は何度転んでも立ち上がるらしい。

願いを込めて片目を開かせ、叶ったらもう片目を開かせる。

達磨の片目を開かせる時は願いを叶えるまで何度でも起き上がる覚悟をするのである。

どういうものかイメージが出来ないが、負けても負けても起き上がる強い精神を持つ何かなのだろう。


シノは少し考え、そして綾菜の顔を真剣な眼差しでジッと見つめてきた。


「綾菜・・・親友のあなたにお願いがあります。」


「なぁに?」


シノは最近考えていた思いの丈を綾菜に伝えた。


・・

・・・。



「うわぁ~ん!ゴホッゴホッ!!」

一足先に村の定食屋へと戻り、ミルフィーユを抱いてなだめていた優人の元に号泣している綾菜と困った顔をしているシノが戻ってきた。

この定食屋は2階で宿屋もやっていたらしく、ミルフィーユは2階のソファーで毛布にくるまり、寝ていた。

優人の顔を見るなり泣き出して寂しくて不安だったと訴えてきた。

あにゃとゆーにゃは優人の姿を見ると『仕事修了!』と言い、異次元ルームに勝手に帰って行った。

優人がちょうど泣くミルフィーユを宥めて、腕の中で寝かし付けた直後の事だった。


『今日の俺の家族は号泣するのが流行りなのか?』

優人は泣きじゃくるミルフィーユとの格闘直後の連戦に深くため息を付き、ミルフィーユを抱いたまま綾菜に近付いた。


「どうした、綾菜?」

聞く優人に綾菜は返事をせず胸にしがみついて泣き続ける。

目を覚ましたミルフィーユが優人に抱かれながら綾菜の頭を撫でる。


「テーベに残りたいと言ったら泣いちゃった。」

シノが優人に答える。


「えっ?どうして?」

優人がシノに聞く。


「亜人狩りからあの里を守りくて・・・。

でも綾菜がここまで泣くとは思わなかったの。

やっぱり一緒にいた方が良いのかな・・・?」

優人はここでシノが語尾にデスを付けるのを止めてる事に気付いた。

それは奴隷のフリを止めたと言う事を物語る。

優人はそれが嬉しかった。

シノが今まで張っていた意地を止めたのだから。


「いいや。甘やかさないで良いよ。

綾菜は甘やかすとキリがないから。」

優人がシノに返す。


「うっさい!馬鹿!!八つ当たりパンチ!!」

綾菜が優人の胸にパンチをする。

八つ当たりと知っててやる八つ当たり程タチが悪い物はない。


「ママどうして泣いてるの?」

ミルフィーユが綾菜の心配をする。


「パパがいじめたの。」

綾菜がとんでもない事をミルフィーユに言う。


「パパ、めっ!」

ミルフィーユが優人に抱っこされながら優人を叱る。


これはどういう気持ちで言ってるんだ?


優人の腕に抱っこされてる癖に優人を叱るミルフィーユに優人はツッコミを入れる。


「いや、ミルさん。悪の根元はシノさんですよぉ~・・・。」

優人はミルフィーユに答える。


「シノちゃん、めっ!」

今度はシノを叱るミルフィーユ。


「元は綾菜だよ。」

何でも信じるミルフィーユにシノもいい加減な返しをする。


「ママ、めっ!」

ミルフィーユは泣いてる綾菜を叱る。


ここまで来るともはやミルフィーユは何について叱っているのだろうか?


優人はそんな事を考えながら面倒臭くなり、ミルフィーユの背中をポンポンと叩く。


「お前はもう寝なさい。」

ミルフィーユは背中をポンポンされ、優人の胸に顔を埋め、ほぉずりを始める。


「とりあえず、話は2階の部屋で聞くよ。今夜の部屋を取ったんだ。後、食事も。」

優人が言うと綾菜とシノは優人に従い、2階の部屋へと進んだ。



2階の部屋に着くと、優人はすでにうとうととしているミルフィーユをベットに寝かせ、部屋の真ん中にあるテーブルの横にあるイスに腰掛ける。


「綾菜も落ち着いて。まずは飯を食べな。」

優人に促され、綾菜とシノもイスに座る。

優人は綾菜の性格を理解しているつもりだ。

多分、シノが自分で考えた事自体はうれしいはずである。

多分、綾菜の今の涙は寂しさから来るもんなのだと言う事も理解している。


・・・それってさっきまで泣いてたミルフィーユと同じ理由じゃねぇか・・・。


ふとそんな事を考え、少し脱力する。


「シノは里の人間を嫌ってると思ってたけど、会って気が変わったの?」

優人は食事を始めたシノに話し掛けた。


「変わってない。今も里の仲間は嫌い。

多分、優人さんと同じ理由で前よりももっと嫌いになった。けど・・・。」

そこまで言ってシノが口どもった。


「けど?」

優人はシノの答えに興味を持つ。

優人自信は嫌いな連中の為に本当は一緒にいたい仲間と別れるなんて多分考えもしないからである。

シノが何を考えているのか知りたいと思ったのだ。


「テーベは私の故郷なの。嫌いだけど・・・ノームでも・・・人は変われるなら変えていきたいと思ってる。」


「・・・。」

優人は返す言葉が一瞬見付からず黙る。


人は変われるし、変えられる。

それは優人自信も分かっている。

自分も綾菜と出会い、変わる事が出来た人間の1人だから。

しかし、変わるのも大変だが、変えるのはもっと難しい。

価値観が違う人間に自分の価値観を理解させるのは並大抵の努力では中々出来る事ではない。

相手を変えるには価値観を理解し、認めて貰う事から始まる。

テーベのノームはこどもを売り渡してでも自分達の身を守ろうと言う連中ばかりである。

平和主義と無責任の違いに目を背ける卑怯者達だ。


優人は思う。

平和主義とは戦争の無い世界、争いの無い世界を創るために尽くす人間の主義であると。

その為には時として戦闘も行う必要がある。

その時に腰が退けるやつは平和主義者ではない。

平和主義と言う綺麗事を述べる卑怯者だ。

平和主義を理由に問題の本質から目を反らそうとする無責任な人間だと考えている。

そういう意味では優人はシノこそ平和主義論者として正しいと思う。

『こどもを守る為に戦う。』

それを煙たがる仲間の視線を気にせず、1人で勝てない相手に立ち向かう姿は立派だと優人は思っていた。

もっともシノのその行動理由がただの人間不審だと思い、少しガッカリもしたが・・・。

しかし、今のシノは違う。

人間不審から来る理由でこんな事を言っているのでは無く、むしろ優人や綾菜を信じてるからこそこうやって相談してくれているのだから。


「他人の心を入れ換えさせるのは簡単な事じゃないぞ?」

優人はシノの考えに対して、頑張れと背中を押すか、現実をもう一度叩きつけるか悩んだ結果、後者を選んだ。

信用して話してくれるシノに無責任な返しはしたくなかったのだ。


「覚悟してる。」

答えるシノは優人の目を真っ直ぐ見返していた。

そのシノの目を見て優人は安心し、立ち上がる。


「分かった。元々俺がシノにどうこう言えた義理でも無い。ただ、一つ約束してほしい。」


「・・・?何を?」

シノは優人に聞く。


「離れても俺達は仲間だ。シノの逃げる場所にもなるし、手に負えなければ力も貸す。」


「分かってる。困ったら今度は無理しないで助けを求める。」

シノの返答に優人は満足し、シノに手を振ると、テーブルを離れ、ミルフィーユの寝てるベットに横たわった。



「綾菜・・・。」

横たわる優人を少し見た後、シノは綾菜の心配をする。


「分かってるよ。応援する。」

綾菜はシノに答えると食事に手を付け始めた。

その後、シノと綾菜は言葉を交わさず、食事を済ませ、最後の夜を共にした。



翌朝、起きると、優人達は源乃の作業場に行くために、シノはテーベに戻るために共にツアイアル山を登る。

昨日、不機嫌だった綾菜もこの日は吹っ切れたのか、シノやらミルフィーユやらをいじりながら山を登った。



そして、別れの時は来る。

テーベへ繋がる獣道の前でシノは立ち止まる。


優人達も立ち止まり、シノの方を振り向く。

「じゃあな。」


「はい。」

優人はぶっきらぼうに挨拶をするとミルフィーユを抱っこして歩き出し、少し離れた所の木の幹に背もたれし休憩を始めた。

綾菜とシノを少し2人で話をさせてやる為である。



「・・・。意外と短かったね。3年位かな?」

綾菜がシノに話し掛ける。


「うん。そんなもんだね。綾菜にはびっくりさせられっぱなしだった。」

シノの返しに綾菜は「ふふ。」と笑う。


「綾菜・・・。本当にありがとう。あなたと会えて、私は変われた。」


「ううん。シノちゃんが元々優しい子だっただけだよ。こちらこそ、ありがとう。」

2人は少し見つめ合い、そして別れを告げ、綾菜は優人達の方へと走っていった。

優人とミルフィーユは走ってくる綾菜に気付くと立ち上がり、一度シノに手を振り山を登り始めた。


シノはその後ろ姿をひたすら見つめる。

優人と綾菜は何やら楽しげに話をし、時折綾菜が優人に攻撃をしたりしている。

ミルフィーユは道端の花や虫に近付いては綾菜に呼ばれ、ウロチョロしている。


「だから、早く歩け。」

シノはボソッと3人に文句を呟いた。

シノは3人の姿が見えなくなってもその場に止まり見送り続けた。


綾菜からは『優しさ』を、優人からは『強さ』をシノは教わった。

綾菜の優しさは力強く、根気強かった。

その優しさは切れた絆も、拒まれた絆すらをも結ぶ力を持つ。

優人の強さは弱さから来ていた。

弱さを知って、それを補い続ける覚悟。

弱さに負けない強さを教わった。

この強さは劣等感すらも強さに変える奇跡の強さだ。


シノはテーベで道場を造ろうと思っている。

戦闘についてはまだまだ未熟だが、そこは弟子達と共に技術を高める。

大切なのは綾菜と優人の教えてくれた『心』である。

この心を武をもって伝えて行きたいと考えている。

目指すべきは『武道』。

流派の名前は、優人と綾菜の共通点。

2人を育んだ国から取るつもりだ。

その名も・・・日本流戦斧術。

この流派がテーベで流行る事となるのはもう少し未来の話しである。

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