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リアルファンタジア  作者: なぎゃなぎ
第三章~失望と幻滅の先にあるもの~
20/59

第十九話~反撃~

早朝5時。

綾菜達は砦の正門付近に待機していた。

前回の時とは違い、本気で迎え撃ってくるであろうスールム兵との戦いは初めてである。

それに加え、一度死を経験している綾菜としては殺し合いと言った事は極めて避けたい事でもある。

腰にレイピアと杖を付け、アレスの出陣の号令を待つ綾菜はいつもとは違い、多少緊張していた。

震える手を口の前に置き、自分息を吹きかけ、自分を落ち着かせようとする。


「ママ?怖い?」

綾菜の横に立つミルフィーユが綾菜の心配をしてくれる。


「大丈夫だよ。それよりミルちゃん。無理しちゃだめだからね?私から絶対に離れちゃだめだよ?」

綾菜は自分の緊張が幼いミルフィーユに伝わらないよう一度大きく息を吸い、自分をたしなめる。

この戦闘の先には夢にも見た優人との再会が待っている。

例えどんなに怖くても、ここだけは乗り越えねばならない。


ゆぅ君に会ったらめいいっぱい甘えてやる!!


綾菜は強く決心を固めようと努める。


「あれから約1時間・・・8000人の兵士相手に優人さんは無事でしょうか・・・。」

シリアが不安を口にする。


「大丈夫デス。綾菜の彼氏デス。弱ければ務まるはずがないデス。」

シノがシリアに答える。


2人の会話が耳に入ると綾菜は振り向き、2人に答える。

「ゆぅ君は多分大丈夫だよ。昔からめちゃくちゃしてきてるから。

剣術は人生を剣に捧げた国内でも有名な剣士に直接教わってるし・・・。

この私をぞっこんにさせる位人心掌握術に長けてるから、もしかしたら8000人のスールム兵を味方にしちゃってるかもよ?」

出来る限り明るく振る舞い、みんなを心配させないように必死に気を遣う。



「全員いるか!?これより全軍で討って出る!!アレスより作戦の説明を行う。」

クルーガーが砦前に集まっている騎士たちの注意を引く。

そして、騎士たちの意識がクルーガーと横に立っているアレスに集まると、アレスが騎士たちに話を始める。


「昨日、この砦に大量のプラムが打ち込まれた。

俺はこれを奇跡だと思い、ありがたく食べさせてもらった。

しかし、これは奇跡では無く、宮廷魔術師綾菜の彼氏による援護であったと予測できる。

ここにいるみんなに聞く。

未だかつて、砦に直接砲撃を打ち込んだやつはいたか!?

食料を大砲に入れて砲撃を飛ばしたやつはいたか!?」


アレスの言葉に一同は黙り込む。

天上界でこんな発想、こんな大砲の使い方をする人間は今までいなかったのである。

アレスは静まる騎士たちを見渡してから話を続ける。


「奇跡と言うなら綾菜の彼氏の存在こそが奇跡だ!!

その奇跡が今、この外で8000人相手に戦闘をしている!!

おそらくは苦しい戦いをしている事だろう・・・。

しかし、戦況を見ていた限りでは、スールム兵同士の同士討ちを始め、かなりの数の敵戦力を削っている事が予測できる。

我々、世界的に有名なジールド・ルーン騎士団がこれ以上、1人の人間に武功を奪われて良いと思うか!?」


「おおーーーーーー!!!」

アレスの言葉に大声で騎士たちが返事をする。


「俺たちが奇跡と言う名の綾菜の彼氏を助け出す!!

そして、砦前に待機しているスールム兵を一掃する!!」


「おおーーーーーーーー!!!!!」


「これより作戦を告げる!!」

アレスの演説で騎士たちの士気が高まるのが分かる。

アレスが話し始める前よりも砦内の気温すら高くなった気が綾菜はしていた。


「作戦は単純且つ明快!!

騎士団本体で敵の本陣へ乗り込む。

上級、中級、下級騎士を前線に、聖騎士団は各騎士団の援護をする。

騎士は攻撃優先で聖騎士は防御、回復に努め、戦死者を極力抑える。

先ほど通達した50人小隊には各騎士を均等に割り振っている。

そして、各小隊長16名には紫煙弾を渡し、連絡が行きわたるようにしてあるので簡単な作戦報告は即座にできるようにしてある。

途中、口頭による作戦変更をする時の集合場所は俺が持っている緑煙弾を打ち上げる。

その時は16人の小隊長は即座に集合するように。

そして、クルーガー率いる50人小隊のみ、西の森を経由し、西の森付近で戦闘している部隊と接触。

その後、優人の元へ移動し、優人を保護せよ。質問がある者はいるか?」


「おおーーーーーー!!!」

騎士たちは声を出し、アレスの作戦に賛成の意を表す。


「では・・・開門!!」

アレスの言葉で砦の大きな門が鈍い音を立て、開かれる。

そして騎士たちが一斉に砦の外へなだれ込む。



「俺たちの小隊は1番最後に出陣だ。本体が派手に戦い、隠密で西の森を目指すぞ。」

クルーガーが綾菜達に指示をする。


「クルーガー小隊長。俺たちが西に行く理由は?直接優人を助けに行った方が早い気がするんですが・・・。」

ヨシュアがクルーガーに質問をぶつける。

綾菜は『良くこういうやつ、いるよなぁ~・・・。』と思いながらヨシュアを見る。


「西の森で戦闘をしてくれている部隊の正体を見極める事が狙いだ。

もし、その部隊が優人と繋がっているなら、早い段階で優人の作戦が分かるかも知れん。」

クルーガーは出陣していく騎士たちを見送りながらヨシュアの問いに答える。


「優人の作戦?そんなもん、敵の殲滅以外ないと思うんですが・・・。」

ヨシュアがクルーガーに突っ込む。


「それは俺たちの考えだろ?先ほどアレスが言ってただろ?

この砦に直接砲撃するのも、大砲に食品を詰めて打つのも天上界では考えもつかないやり方だと。

綾菜もそうだが、地上界の人間は俺たちの想像もつかない事を考える。

より上の・・・奇跡と見違う程の発想をな・・・。」


クルーガーの説明に綾菜が割って入る。

「ゆぅ君は、歴史が好きで、地上界の過去の戦争での作戦をたくさん知っています。

多分、私よりも色々作戦を考えていると思います。」


「ふむ・・・。」

綾菜の言葉にクルーガーがうなずく。



「そろそろ、俺たちの番だな。隠密作戦だからな。あまり派手に戦火をあげるなよ?」

言うとクルーガーを先頭に綾菜達も砦を出る。

砦の外は戦いで乱れているだろうと思っていたが思ったより静かであった。

騎士達の進軍が思ったよりも早く、もうかなり先の方まで戦闘場所が移っていた。


「えっ!?」

あまりの状況に綾菜があっけにとられる。


「どうした?苦戦していると思ったか?」

クルーガーが綾菜に声を掛ける。


「え・・・だって10倍の戦力でしょ?」

綾菜がクルーガーに言い返す。


「下級騎士は傭兵上がりの騎士で戦闘慣れしている。中級騎士は騎士学校の卒業生で、上級騎士はその中でも優秀な騎士だ。

それに加え、聖騎士は至高神ジハドの教えを受けていて神聖魔法まで使える。

騎士団の火力と聖騎士の守りが一つになった小隊は世界的に恐れられる陸戦部隊になる。

当たり前の結果だ。」


「だったら籠城なんてする必要なかったじゃん!!」

クルーガーの返答に綾菜が怒りだす。


「そう怒るな。今お前が言った通り10倍の兵力相手じゃそれでも敗戦の恐れがあったんだよ。

この状況はお前の彼氏が敵陣の後方に敵の意識を集めてくれた事によるものが大きい。」


「ふ~ん・・・。」

綾菜は優人の名前が出ると何故か嬉しい気持ちになってしまっていた。

それも、陸戦最強のジールド・ルーンの騎士が陸戦に置いて褒める時に優人の名が上がるというのはなぜか誇らしい。

綾菜は不満げな顔は変えずにポリポリ鼻の頭を掻いてみせる。


「とにかく、西の森へ向かうぞ!!」

綾菜が照れて黙るのを見て、クルーガーの顔は一瞬緩んだが、すぐに戻し、指示を出す。



少し進むと、スールム兵がクルーガーの小隊の前に現れる。

数的には100人と言ったところだろうか?


「行くぞ!!ヨシュア、援護を頼む!!」

言うと、クルーガーは背中に背負ったグレートソードを抜くと、スールム兵の群れに飛び込んでいった。


ザシュッ!

ザシュッ!!


クルーガーの一撃は重く、一撃で敵の甲冑を凹ませる。

真っ二つに切り裂くと言う事はないが、あの一撃であばらが数本は折れるだろう。

しかも、折れたあばらを甲冑がひたすら圧迫し続ける。

痛くて攻撃を食らった相手はうずくまり、立てなくなっていく。

そして、クルーガーの後ろを追うヨシュアは、クルーガーの死角からの敵の攻撃を盾で防御し、

クルーガーが傷を負えば即座に神聖魔法で回復を施していく。


「こういう戦い方をジールド・ルーンはするんですね。」

シリアが綾菜に話しかける。


「うん。安心の戦い方だね。高い火力と防御力を上手く使ってる。」

綾菜はシリアに答える。


「陸戦最強。世界の剣デス。」

そしてシノが感想を言う。


「さぁて・・・私たちも行きますか!!」

言うと綾菜が召喚魔法を唱える。

「コール、ゆーにゃ!あにゃ!!」


ポンッ

ポンッ


と2つ小さな音を立て、人間と猫を合わせたような小さなゴーレムが姿を現す。

「呼ばれて出て来てポンッポンでし!!」とゆーにゃ。

「参りましたわ。」とあにゃ。


「2人とも、今日は大事な戦いだからね!!真面目にやってよ!!」

綾菜は出て来た2匹のパペットゴーレムにきつく言う。


「任せろでし!綾菜と優人があっちっち作戦でしね!!」

ゆーにゃが綾菜に向けてふよふよしながらガッツポーズを見せる。


「あっちっちするんですか!?えっちぃですわ!!」

そして、あーにゃの言葉に顔を赤らめるあにゃ。


こいつら・・・やっぱり閉まっとこうかな・・・。


2匹のパペットゴーレムの発言に言い知れぬ不安を抱く綾菜だが、2匹は気にせず前線へとふよふよ飛んで行く。


「よしっ!隠し技の出し惜しみは無しです!ミル!!」

今度はシノが気合を入れる。


「はい!!」

ミルフィーユが返事をするとシノはミルフィーユに飛び乗る。

そして、シノがミルフィーユの背中に乗るのを確認するとミルフィーユがパタパタと空を飛び始める。


「何だと!?ミルライダーシノ!?可愛すぎるじゃないか!!!!」

2人の合体を見て綾菜が目を輝かせる。


「綾菜・・・テンションおかしくなってるよ。」

シリアが綾菜にツッコミを入れる。


「ミル。あまり高く飛ぶと弓の的になるデス。低めの飛行で一気に敵を回り込むデス。」


「はい!!」

シノが指示を出すとミルフィーユが一気に前方へと飛んでいく。



「私から離れるなと言ったのに・・・。」

飛んでいく2人を見送りながら綾菜が呟く。


「ま・・・まぁ、シノが一緒だから大丈夫でしょ・・・。」

シリアが綾菜を慰める。



「お?女がいるじゃねぇか?」

綾菜をなだめるシリアの所に2本のショートソードを持った男が来た。

周りには数人の黒ずくめの騎士もいる。


「はぁ・・・またこういう品のないタイプ?」

綾菜が下げてた顔を上げて男を睨む。


「おお?そっちの子も可愛いじゃねぇか?」

二刀流の男は綾菜を見てテンションを上げる。


「よしっ!ぶっとばす!!」

綾菜が言う。


「私も一撃良いですか?」

シリアも昆を構え、綾菜に聞く。


「うん。やっちまいましょう。」

綾菜もレイピアを抜いてシリアに答える。


「おお?美女2人で接近戦か?良いね!来いよ!!可愛がってやる!!!」

二刀流の男が嬉しそうに2本のショートソードを構える。


ダンッ!!


先に動いたのは綾菜。

レイピアは直刀に分類される剣である。

斬りには向かないが、逆に突くことに特化している。

刀身が細く、力のない人間の突きでも貫通出来るように工夫されていると言う事と、普通の剣よりも軽いのが特性である。

似たような特性の武器でエストックというのもあるが、エストックは刃が無いのが綾菜は気に入らず、レイピアにした。

綾菜は刀さばきはある程度知っているが、優人のように刀を扱えるかと聞かれれば、扱えない。

唯一出来るのは突き技のみである。

理由は優人が突き技の覚えが悪く、よく館長にしごかれていたのを見ていたからである。

力も日本刀を振り回し続けるほどの筋力は無い。

そんな綾菜にとって、レイピアは相性がとても良い。

剣なのに軽く、突きに特化しているからである。

もっとも、優人の突きとは比べ物にならないほどお粗末ではあるが・・・。


ドスッ!


綾菜の突きが二刀流剣士の左肩に突き刺さる。

予想以上に素早い綾菜の突きに反応しきれずに刺された肩を、大きく目を見開いて見る男。


「てぃ!!!」

ドコッ!

その男の右腹に容赦なく入るシリアの昆。


「ぐふぅ!!」

シリアの一撃で地面に倒れこむ男。


「痛てててて・・・ちょっと待て!!」

男はシリアに殴られた腹を押さえながら立ち上がる。


ドン


男が立ち上がった瞬間、直径30センチ前後の炎の球が男に当たる。

炎は男の布の服に燃え移り、全身が燃える。

そして少しジタバタした後、地面に倒れこみ、動かなくなる。


「古代語魔法。ファイヤーボール。少し魔力消費量の多い魔法でとどめを刺してあげたんだから恨まないでね。」

綾菜は男にファイヤーボールを放った体制のまま一言言い、周りの黒づくめの騎士たちを見る。

黒づくめの騎士たちは綾菜と目が合うとビクッとして見せた。


「さて・・・傭兵が騎士に紛れているみたいだし・・・あまり長期戦は良くないわね。」

綾菜がシリアに言う。


「そうですね。傭兵は品がないので好きではありませんし、早く終わらせちゃいましょうか?」

シリアが綾菜に答える。


綾菜はシリアにアイコンタクトを送ると、レイピアを納刀し、透明な空気の膜を複数作り出した。

元来、かまいたちは高速で風を動かすことで発生する真空状態が皮膚を斬る現象を言う。

綾菜はそれを今回は空気の膜の外に空気を出す事で幕の中を真空状態にしたのである。

その透明な膜にシリアが神聖魔法の傷口を癒す魔法、キュアの逆唱えを追加で掛ける。

逆唱えとは元来の魔法の効果と真逆の効果を発動させる魔法の高等技術である。

シリアの逆唱えキュアが綾菜の膜に掛かると膜は薄い黄色い色に変わる。

その黄色い幕を綾菜は宙に浮かせたま、スールムの騎士の方へ飛ばす。


パンッ!

パパンッ!!


騎士に黄色い球が当たると膜はやぶれ、真空になった空気がかまいたちとなり騎士を切り裂く。

騎士たちは軽い怪我を負う。

そして、その傷口にシリアのキュアの逆唱えが発動。

傷が徐々に広がり、重症になる。

大勢の騎士たちが急に血を吹き出し、倒れる。

地味だが恐ろしい戦闘手段である。



「ミル。そろそろ降りるです。降りたと同時に炎を吐くです。」

ミルフィーユに乗りながらシノがミルフィーユに指示を出す。


「分かりましたぁ~!」

ミルフィーユはシノの指示に楽しそうに返事をし、炎を口の中に溜めてから、高度を落とし、降りると同時に炎を吐く。


ゴゥ!


ドラゴンの炎は他の魔獣と比べても殺傷力は高い。

まだ4、5歳の幼児ではあるが、ミルフィーユの炎もその殺傷力になるだろうと想像できる程の威力がある。

一吹きで5人のスールムの騎士が消し炭になった。


「痛いです・・・。」

まだ火を吐くのが苦手なミルフィーユはまた口を火傷して、口を押え、しくしく泣き始める。


「戦士は簡単に泣いてはダメです!!」

ミルフィーユから飛び降りたシノはミルフィーユを狙って近づいてくる騎士を片手斧で切り倒し、泣くミルフィーユを一括する。


「もうママの所に帰りますぅ~・・・。」

両手でこぼれる涙を拭きながらミルフィーユは綾菜のいる方へトボトボと歩き出す。


「こ・・・こら!!戦闘中です!!」

シノが歩くミルフィーユを追いかける。



ドーン!!!!


強烈な轟音と共に天に向かって火柱が立ち上がる。

あにゃのダグフレアがゆーにゃに炸裂した瞬間である。


「おーおー・・・派手に暴れてるなぁ~。」

ミルフィーユの炎の次はあにゃのダグフレア。

綾菜は次々と巻き起こる爆発を遠くで見ながら呑気に眺めている。


「ママァ~・・・。」

ミルフィーユが綾菜の所まで泣きながら戻ってくる。


「あらあら・・・唇がただれちゃって・・・熱かったの?」

綾菜にしがみつくミルフィーユを抱きかかえながら綾菜が風水魔法の水の癒しをミルフィーユの唇に施す。


「綾菜ァアアアア!!」

そして次に来るのはあにゃ。

ゆーにゃと喧嘩してダグフレアをぶっぱなしたとふよふよ飛びながらやって来た。


「はいはい。喧嘩したのね?何があったの?」

綾菜の胸にしがみつくあにゃの頭を撫でながら綾菜があにゃの話を聞く。


「ゆーにゃが馬鹿って言うんですわ。」

あにゃが綾菜にゆーにゃの愚痴を言う。


馬鹿って・・・。


相変わらずのくだらない理由の喧嘩に綾菜も絶句する。

そして、シノと真っ黒になったゆーにゃが綾菜の所に戻ってくる。


ガンッ!!

綾菜の頭に突然痛みが走る。

後ろを振り向くと、ヨシュアだ。

クルーガーも戻ってきている。


「痛いわね・・・。」

綾菜がヨシュアに文句を言う。


「隠密作戦の意味わかってんのか!?」

ヨシュアが綾菜に怒鳴る。


「何よ突然?」

綾菜がヨシュアに不貞腐れながら言う。


「今、この戦場で一番派手に戦火が上がってんじゃねぇか!!ここが!!」


「あ・・・。」

ヨシュアの言葉に綾菜の言葉が詰まる。


「お前のペット4人衆を自重させろ!!」


ペット・・・。


ヨシュアの言葉にさりげなく傷つくシノ。


「分かったわよ!!一同整列!!」

怒るヨシュアに綾菜は不貞腐れながら4人を整列させる。

4人は素直に整列する。


「全員反省!!」

綾菜が言うとみんな一同にピシッとする。


「あにゃと喧嘩したでし!」

「ダグフレアを打ちましたわ!!」

「火を吹きました!」

「火を吹かさせたです!!」


「うん。じゃあ今後どうするの?」


「こそこそ戦うでし!!」とゆーにゃ。

「嫌な誓いだな。」とヨシュア。


「魔法を使いませんわ。」とあにゃ。

「お前は魔法使いだろ?」とヨシュア。


「火を吹きません!」とミルフィーユ。

「火傷するからな。」とヨシュア。


「ぶっ殺すです!」とシノ。

「お前は何も分かってないよね?」とヨシュア。


「よしっ!」と綾菜。

「全然良くないだろ!?」とヨシュア。


「もぉー・・・うるさいなぁ~・・・。」

綾菜がヨシュアをめんどくさそうに睨みつける。


「いや、だから、これは隠密なんだよ!出来る限り目立たずにやれって話をしてるんだよ!!」

ヨシュアが綾菜に怒る。


「あー・・・これだから綾菜にふられたんでしな?けつの穴が小さいでし。」

ゆーにゃがヨシュアを馬鹿にする。


「おま・・・今それを言うか!?」

ヨシュアの怒りの矛先がゆーにゃに向く。


「いえいえ。器の小ささじゃありませんわ。死ぬつもりで告白とか、後ろ向きなのがいけませんわ。」

とあにゃがヨシュアにアドバイスをくれる。


「今はそういう話は良いだろ!?」

ヨシュアは顔を赤らめながらあにゃをたしなめる。


「お前・・・死ぬ気なのか?」

話を聞いていたクルーガーがヨシュアに聞く。


「もう・・・勘弁してくれぇええええええええ!!」


「あんたが一番うるさいよ?」

動揺しまくるヨシュアに綾菜がとどめを刺す。

ヨシュアはガクッと地面にうなだれ、静かになる。

そのヨシュアを見て、クルーガーは少し顔を緩めるが、やはりすぐに表情を戻す。


「とりあえず、ここの騎士どもは一掃した。

綾菜の彼氏が後方で、聖騎士が正面突破をしてくれているからそっちにスールムの兵力が集中している。

今のうちに早く森まで急ごう。」


「うん。」

クルーガーの指示にうなづき、綾菜達は西の森に向かって走り出した。



砦前の総力戦が始まり30分は経ったであろうか?

昨晩より振り続ける大雨は止む気配を未だに見せず、ただひたすら雨を降らせ続けている。

濡れる体も気にせず、綾菜達はひたすら西の森を目指し、走り続けていた。

時折、スールムの兵士が現れるが、クルーガーとヨシュアの連携に瞬殺されていた。


アレスたち本体が完全に戦況を支配している。

報告を受けるまでも無く、綾菜達を追う敵兵が現れないのがそれを物語っている。

陸戦に置いては世界最強とまで言われるジールド・ルーンの名は伊達では無かったのである。

攻撃と防御、回復を上手く組み合わせることでここまで頼もしい部隊が出来るとは綾菜も予想が出来なかった。

もし、予想できたとしてもこれの実行はかなり難しい。


ジールド・ルーンに置ける『聖騎士』とは、至高神ジハドの加護を受けた司祭であり、騎士でもある人間を指す。

これはかなり特殊な人間である。

元来、司祭は神に仕え、戦闘を嫌い、極力避け、何よりも平和の為に尽力を尽くす職業の人間である。

その司祭が剣を持ち、戦う。

これを神は許さない。

天上界にもいくつかの神が存在するが、戦闘を認める神は至高神ジハドか戦神ブラド。

それといくつかの邪神位のものである。

そして、ジハドは『己が信念の元に平和の為に剣を持て』と言う思想。

戦神ブラドは『正々堂々と正面から戦い、己が力と勇気を証明せよ』と言う思想である。

司祭であり、騎士であるにはかなりの制約がかかるのである。

そう考えると、ジールド・ルーンの聖騎士は全員、信念をジハドに認められ、戦う騎士達なのである。

弱いわけがない。

信じるものの為に戦っているのだから。



少し走り進むと、部隊の最前線にいたクルーガーとヨシュアが立ち止まっていた。

2人の視線の前には異様に長い槍を片手に持ち、長く縮れた髪を無理やり一本に縛る大男と、その周りには数人の弓兵が立っていた。


「大槍・・・シュラか!?」

ヨシュアが大男に言うが大男はヨシュアの問いに答えず、黙ってクルーガーを見つめ、こちらに向かって歩みを進めている。


「来るな!来るなら斬るぞ!!」

ヨシュアが大声で虚勢を張る。


「そう騒ぐな。知り合いだ。」

クルーガーがヨシュアをたしなめる。


「え?」

クルーガーの言葉にヨシュアが黙る。


「クルーガー。誰なの?」

綾菜も前線まで来て、クルーガーに聞く。


「ガルーダ山賊団の頭領だ。あの槍はシルトレン。元来ああやって持ち歩く品物じゃない。

シュラの大槍とも違う。聖騎士名乗るなら武器の知識位持っておけ。」

クルーガーがヨシュアと綾菜の問いにまとめて答える。


「シルトレン?」

綾菜がクルーガーに聞く。


「ああ。簡単に言えば、携帯用防馬柵だ。槍の柄を地面に突き刺し斜めに構えて走ってくる馬を突き刺す武器だ。

馬の突撃に耐えるためにかなり頑丈で重い。そして刺しやすいように出来る限り細く作られているんだよ。

戦闘に置いて、払いが出来ないから突き専用の武器とも言える。

あんなもん使う人間はガルーダさん以外、俺も知らん。」

クルーガーがガルーダから目を離さずに綾菜に説明をする。


「ふむ・・・とりあえず、やっちまいますか?」

綾菜が身構える。


「お前の思考回路はどうなってるんだ?恐らく敵じゃないんだよ!!」

クルーガーが今度は綾菜をたしなめる。


「かなり面白い部下たちだな?ジールド・ルーンは漫才の集団にでもなったのか?」

そのガルーダと言う男は少し微笑みながらクルーガーに話しかける。


「お久しぶりです。ガルーダ元副団長。」

クルーガーがガルーダに丁寧に挨拶をする。


「久しぶりだな。今はお前が副団長か?立派になったじゃねぇか。その体つきでお前の戦闘力が想像できるぞ。」

ガルーダもクルーガーの挨拶に答える。


「まだ、あなたには敵いませんよ。」

クルーガーが謙遜して見せる。


「本体は本陣に向かったように見えたがお前たちはここで何をしている?」

ガルーダが本題を切り出す。


「西の森からの援軍の正体を突き止める為に来ました。」

クルーガーが答える。


「なるほど、砦の指揮者はアレスだったか?シンの息子のくせに頭が切れるようだな。悪くない作戦だ。」

ガルーダがうなづく。


「昨日のプラムはあなたがたですか?」クルーガーも質問をする。


「そうだ。厳密には優人と言う地上界の戦士の作戦だがな。」

ガルーダが答える。


「やはりそうでしたか・・・ところでガルーダさんは、俺たちに力を貸してくれるのですか?」


「ああ。優人にそうするよう仕向けられた。」

クルーガーの問いにガルーダが返事をする。


「ゆぅ君・・・優人はこの後、何を企んでいますか?」

2人の会話の終わりを待ち、綾菜がガルーダに質問をぶつける。


「ゆぅ君?君が優人のお目当ての彼女か?雨に打たれて、びちょびちょだが、可愛らしいお嬢さんじゃないか。」

ガルーダの見た目と反した紳士的な返答に綾菜は少し面食らったが、元は騎士だったと考えるとこれはこれでありなのかと勝手に納得する。

綾菜の反応を少し見、ガルーダが綾菜の問いに答え始める。


「優人は・・・もしかしたら、ここいら一帯の地形を変えるような作戦を立てているかも知れんな・・・。

その時、この周辺にいるものは恐らく全滅する。」

ガルーダは砦の方を見ながら綾菜に答える。


「ゆぅ君が?私たちも巻き込んで???」

綾菜がガルーダに聞く。


「いいや。お前たちを逃がしてからの作戦だろう。この奥にある森を抜けて撤退をしろ。」

ガルーダが綾菜とクルーガーに忠告をする。


「西の森?そこを抜けると急流の川が流れているはずです。しかもこんな大雨です。渡れるわけがないですよ。」

クルーガーがガルーダに言う。


「渡れなければなぜ、ここに100人近い俺たちがばれずに来れたと思う?

南の大橋をこんな大人数で渡ればばれるだろ?」

ガルーダの返答にガルーダがはっとしたような顔をする。


「確かに・・・それに、南の大橋は恐らくスールム兵に包囲されている・・・。

だから、優人は一気に攻めるような真似をしないで南方面に敵の注意を引きつけていたのか!?

その隙に俺たちが西の森から脱出しやすいように・・・。」

クルーガーは砦内の物見塔で優人を見た時に疑問に思っていた。

『何故、優人は敵の隙を突いて一気に砦まで来なかったのか』と。

との意味が分かると同時にアレスの敵陣総攻撃は失作だと言う事に気付く。

そのクルーガーの顔を見て、ガルーダが口を開く。


「一つ、作戦にミスがあったとすればアレスの判断が早すぎた事だ。

このタイミングで本陣総攻撃は騎士であれば誰もが考える。俺も悠長にしすぎた。

本来ならば砦の正門あたりでお前らと合流すれば話は早かったのだからな。」

ガルーダがクルーガーにフォローを入れる。


「急いで、アレスに撤退を伝えに行きます!!」


「いいや!!!」

クルーガーが走り戻ろうとするのをガルーダが止める。

クルーガーが立ち止まりガルーダを見返す。


「お前たちは優人の救出に向かってくれ。このまま西の森に入り、大橋近くから行けば比較的安全に優人に会えるはずだ。

1人でかなりの数と戦闘をしている以上、あいつの疲弊とダメージが心配だ。普通なら完全に戦死している状況だ。

俺たち山賊部隊には回復できる人間がいない。お前たちの方が優人の助けになれるはずだからな。

しかし、大橋には近づきすぎるなよ。あそこらへんにスールムは陣を動かす可能性があるからだ。」

ガルーダがクルーガーに指示を出す。

クルーガーは少し悩んだが、騎士を25人。ガルーダの部隊に入れることで承知し、ガルーダと別れた。


ガルーダ部隊はアレス本体と合流。撤退の指示出し。

クルーガーの部隊は優人の救出。そして、撤退である。

当然、綾菜達はクルーガーと共に優人の救出部隊にいる。



一行は再び走り始め、西の森に入る。西の森は情報通りスールム兵の姿は見受けられない。

綾菜達は急いで森を走り、頃合いを見て森から出る。

遠くにスールムの兵たちの姿が集まっている。

やはり大橋付近に陣を作り、ジールド・ルーン騎士の撤退阻止を図ろうとしているのが分かる。

綾菜達は極力見つからないように気を付けながら戦場を駆け抜けようとするが、じきにスールムの兵士たちに囲まれ、混戦が始まった。


ズバァ!!


クルーガーの一撃がスールムの民兵を斬り捨てる。

「くそ・・・これじゃあ、優人に到達できないじゃねぇか・・・。」


斬っても斬っても湧き出るスールムの兵士にクルーガーが苛立ち始める。


「早くいかなきゃ・・・こんなのゆぅ君一人で生き抜けるわけがない・・・。」

綾菜も魔法でガンガン敵兵を殲滅しながら愚痴がこぼれ始める。

その時であった、急に大きな影が綾菜達の目の前に現れた。

その男は馬に跨り、太くて大きな槍を持っている。

細く開かれた目には感情を伺えない不気味さがある。

男はヨシュアに目をつけると馬を走らせ、ヨシュアを槍で突く。


ガシャン!!


「く・・・は・・・。」

男の槍を止めようとしたヨシュアの盾が突き抜け、脇腹に男の槍が刺さる。

男が槍を抜くとヨシュアがしゃがみ込む。

大量の出血を抑える手から血があふれ出す。


「きゃああああああ!!」

思わず、綾菜が悲鳴をあげた。

シリアが急ぎヨシュアの元へ行き、腹部に治癒の魔法を施そうとするが、今度はシリアにその槍が向けられる。


ガキィン!


その槍をクルーガーの体剣が受け止めた。


「そう・・・やすやすとやられるかよ・・・。」

クルーガーが剣で抑えながら大槍を持つ男を睨みつける。


「お前がクルーガーだな?」

男は非情な眼差しをクルーガーに送る。


「ああ・・・お前がシュラだな?」

クルーガーの睨む目に力が入る。

クルーガーはぐいっとシュラの持つ槍を押し返し、シュラから距離を取る。


「シリア!!ヨシュアを連れて離れろ!!」

クルーガーがシリアに指示を出す。


「は・・・はい!!」

シリアもすぐに返事をし、ヨシュアを担いでシュラから離れる。


「無益。」

シュラがシリアを見ながら呟く。


「何が無益だ?」

クルーガーがシュラの呟きに問いかける。


「私を前にその命が持つと思っているのか?」

シュラがクルーガーの問いに答える。


「そんなもん・・・やってみねぇと分からねぇだろ?」

クルーガーがシュラに答え、綾菜に近づく。


「逃げろ。早く優人の元へ行け。」

クルーガーが綾菜に言う。


「みんなで逃げましょ?」

綾菜がクルーガーに答える。


「バカ言うな。こいつには勝てない。俺が少しでもこいつを引き留めるから・・・。」

クルーガーが綾菜に言う。


「バカはあなたよ。勝てないのに戦う意味は何?」

綾菜がクルーガーに言い返す。


そのやり取りをシュラも聞いていた。

「逃げたければ逃げれば良い。私の馬の脚から逃れられると言うならばな。すべては無益だ。」


「ふん・・・かなりの手練れのようだが、安心しろよ。この戦場にお前を倒せる男が2人もいる。

アレスと・・・優人だ。こいつらの撤退は無益じゃねぇ。俺の死も、その糧になる!!」

クルーガーがシュラに出来る限りの虚勢を張る。


「ふん・・・己の力量を知り、それでも向かうか?愚かな事だ。」

シュラがクルーガーを鼻で笑う。


キン!


クルーガーはシュラに攻撃をしようとするが、馬に乗っているシュラに攻撃は届きづらい。

やっと届く切っ先も、いつもの力が入らず軽く槍で弾かれる。


「くそ・・・。」


ドスッ!!

馬の上からシュラの一撃がクルーガーを襲う。

クルーガーがそれをかわし、次の一撃に備えようとするが、シュラの方が早く槍を構え直している。


ダメだ!!間に合わない!!!


ドシュッ!!


クルーガーが負けを覚悟したその瞬間、弓がシュラの槍を持つ手に当たる。

シュラの手には小手が付けられていて、ダメージはなさそうだが、一瞬、動きを止める事は出来た。


「何してるの!!早く、攻撃して!!」

弓を打った先を見ると綾菜が魔法の弓を射っていた。


「お前・・・逃げろって!!」

クルーガーが綾菜に怒鳴る。

その隙に槍を構え直すシュラ。


ドン!!


今度は空中からミルフィーユが体当たりをする。

これにはシュラも体制を崩し、馬から落ちそうになった為、自ら飛び降りた。


「ドラゴンハーフ?しかも、赤い髪に赤い羽根。赤い尾・・・獰猛な赤竜の亜人か・・・子どもとはいえ厄介な・・・。」

シュラがミルフィーユを見てぼそぼそと言う。


「ママ!!逃げて下さい!!!」

ミルフィーユは必死に綾菜を逃がそうとする。


「うるさい!!」

シュラの一撃がミルフィーユに飛ぶ。


ガン!


「ぎゃん!!」

シュラの一撃を直撃し、ミルフィーユが地面に叩き落される。


「ミル!!」

ミルフィーユにとどめを刺そうとするシュラに綾菜がレイピアを引き抜き飛び込む。


ガキン!!


綾菜のレイピアの一撃は難なくシュラに受け止められる。


「女の細腕で俺を倒せると思っているのか?」

シュラが綾菜に言う。


「シリア!!ミルを連れて離れて!!!」

綾菜はシュアの言葉を無視し、ヨシュアの応急処置を終えたシリアに声を上げる。

シリアは走り、ミルフィーユを連れてシュラから距離を取る。

そして、クルーガーがシュラに一撃を食らわせようと突進をする。

シュラは綾菜を弾き飛ばし、クルーガーの攻撃をかわし、槍を持ち直して、ミルフィーユを持つシリアに突進をする。

そのシュラの足をシノが片手斧で斬りかかる。

シュラはそれもいち早く気付き、回避する。


「くそ・・・連携が厄介だな・・・。」

シュラがシノを睨む。


「修羅場の数なら負けないです。ミルも綾菜も、シリアも殺させないです。」

盾を身構え、シノがシュラを睨む。

「綾菜!!しっかりするデス!!いつも通り魔法で援護するデス!!」

シノが珍しく綾菜に怒鳴る。


「シノちゃん・・・。」

綾菜は自分の顔を叩き、気合を入れ直すと、シノに防御力上昇と武器に硬度アップの魔法を掛ける。

「シノ。ありがとう。シリアは回復に専念してるから私達で少し時間を稼ぐわ!!」

綾菜の言葉にシノは黙って笑って答える。


シュラはかなりの手練れで力がめちゃくちゃ強いデス。

常に冷静で相手の動きを見極めて戦うタイプで決定打を打たせてくれないデス。

シュラに勝つためにはまず、リズムを崩すデス!!


シノは得意の分析をし、シュラに突進をする。

片手斧で攻撃をすると見せて、シールドアタックを狙う。

しかし、シュラはシノを無視し、綾菜に突進を始めた。


え?


予想をしてなかったシュラの行動にシノの動きが止まる。

綾菜もまさかここで自分に来るとは思わず、反応が遅れる。


キィン!!!!!!!


綾菜は何者かに押させる感覚があり、地面に尻餅をついていた。

しかし、そこには人の姿は無く、目の前で槍を振り下すシュラの動きが中途半端な状態で止まっていた。

綾菜は何が起こったのか分からず、その風景をただぼんやりと見つめている。


サッ・・・


そして次の瞬間、シュラは何かの攻撃を避けるように後ろへ飛んだ。


「シュラ様!!伝令です!!!」

攻撃の手を止めたシュラにスールムの騎士が走って寄って来た。


「どうした?」

シュラが騎士の方を向く。


「カルマ軍師とシュダム将軍が・・・優人に打ち取られました!!」


「何!?」

騎士の報告にシュラの顔色が変わる。


「それだけではありません!優人と接触した民兵や傭兵が次々に反旗を翻し、軍の命令を無視してスールム国領に撤退をしている模様です!!」


「なんだそれは!?優人とは何者だ!?」

シュラが動揺をする。


「本陣より伝令で早急に優人を仕留めろとの事です!!」


「分かった。急ぎ、優人を仕留めに行く。」

言うとシュラは馬に再びまたがる。


「待て!!」

クルーガーがシュラを呼び止める。


「時間がない。命拾いしたな。」

言うとシュラは敵軍の中に姿を消していった。



綾菜は尻餅をついたまま目の前を見つめ続け、ボロボロと涙を流し始めた。


「綾菜?」

シノが綾菜を心配して声を掛ける。


「ゆぅ・・・君・・・。」

綾菜は小さい声で優人の名を呼ぶ。

その声は小さすぎて優人の耳には届かない。

何故ここで自分が優人の名を呼んだのかも綾菜は分からないでいた。

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