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リアルファンタジア  作者: なぎゃなぎ
第二章~大国の宮廷魔術師~
12/59

第十一話~定例会議~

再び闇の日。

ミルフィーユとシノの体調は万全となり、綾菜は本日の脱出も成功を確信していた。

今回は眠りの魔法の罠をしかけるのも止め、堂々とヨシュアを倒して城門を出ていこうと考えていた。

しかし、今回は時間になっても定例会議の呼び出しも無く、塔を出てもヨシュアの姿は見えない。

綾菜達は肩透かしにあったと思いながら城門まで歩いて行った。



城門前まで行くとやっと、ヨシュアと他に3人がいた。

1人は見慣れた宮廷魔術師クレイン。

もう1人はミルフィーユの発熱の時にお世話になった、宮廷司祭長ラッカス。

そしてもう1人はラッカスほどの巨体に体全体を隠せるほどの大きな盾とロングソードを携えた聖騎士。

その聖騎士は国内でも有名な人物である。

聖騎士団長シン

世界の剣と称じるジールド・ルーンの中で、最強と言われる男。

特に、でかいラージシールドを使った防御能力が高く、ここ10年近くの間、鎧に傷をつけたことすら無いと言われている。

その為ついた呼び名が『鉄壁』を超え、『移動要塞』とまで言われている。

クレインもそうだが、ラッカスもシンも70近い老人である。

老人だが、未だにその武功は健在である。

絶世期はどれほどのバケモノだったのか想像するだけでも恐ろしい。


「お?来た来た。じゃじゃ馬どもめ。」

シンが綾菜に気付き嬉しそうに声を掛けてきた。


「じゃじゃ馬とは言ってくれますね?今回はこの4人ですか?

ダレオス陛下がいらっしゃらないようですが、大丈夫ですか?

どうせなら五英雄揃えてくれば良いのに。」

強気に答える綾菜の額には一筋の冷汗が垂れている。

シンは先日、熊の亜人のドグルフを腕相撲で負かしているのをこの目で見ている。

ラッカスはシリアの誤診に気づきミルフィーユを助けた事から恐らくシリアよりも格上だという事も分かる。

クレインも綾菜に風水魔法だけならば格上だ。

この4人の布陣で唯一穴があるとしたらヨシュアだが、ヨシュアも言うほど弱くはない。


「ふん。俺とクレイン、ラッカスが揃うと怖いぞ?本気で来るんだな。」

シンが綾菜を挑発する。


「コール、パペットゴーレム!!」

綾菜は返事をせずに奥の手である召喚魔法をいきなり使う。

もはや不意打ちにもならないが、このメンツ相手に出し惜しみは出来ない。

すると2体の、手のひらサイズの猫と人間の入り混じったような生物が現れた。


「じゃっじゃーん!ゆーにゃ参上でし!!」

まず、自己紹介をしてきたのは『ゆーにゃ』。

綾菜が世界樹の枝を使い、優人をイメージして作った直接攻撃型のゴーレムである。

武器は持ってなく攻撃はぐるぐる回転しながら突撃するというシンプルなモノなのだが、この2体のゴーレムは空中をふよふよ浮いている。

どの角度、どの位置からも攻撃が出来るのでやっかいである。


「あにゃですわ。」

そして、もう1体が綾菜をイメージして作ったゴーレム。

こちらは後衛専門で基本的にゆーにゃの防御上昇や回復を担当している。

最終手段で『ダグフレア』と言う大爆発を起こさせる魔法も扱える。


「2人はヨシュアを相手して!!」

綾菜が2人に指示をだす。


「分かったでし。おい!!ストーカー男!こっちだ!!」

言うとゆーにゃはふよふよ1体で遠くへ飛んでいく。

それを黙って見送るヨシュア・・・。



「え?行ってあげないの?」

行かないヨシュアに綾菜が聞く。


「いや・・・あいつじゃなくてお前を止めれば良いわけだし・・・。」とヨシュア。


「ってなんで勝手に移動とかしちゃうのか分からないですわ・・・。」

なぜかあにゃもゆーにゃを1人にさせてここにいる。


「いやいや!!2人とも、ゆーにゃが可哀想でしょ!!」

綾菜が2人を叱る。


「行ってやれ。」

ゆーにゃが不憫に思ったのかシンがヨシュアに行くよう命じる。

そしてヨシュアは渋々ゆーにゃを追い始める。


「さて、俺の相手は誰かな?」

シンが綾菜に言う。


「シノ、ミルちゃん。2人でお願い。」


「です!!」

「デス。」

シノとミルフィーユは声をそろえて返事をする。


「じゃあ、魔法合戦のこぼれ球に当たらねぇように俺らも離れるか。」

言うとシンも遠くへ歩き出す。


「では、私はシリア司祭とですね?」

ラッカスがシリアを連れて遠くへ行く。


「今回は個別戦のようですね?オプティムを呼びますか?」

クレインはわざとらしく言う。


「呼ぶわけないでしょ?パペットゴーレムは私の魔力で動いてるんだから。」

綾菜が答える。


「ですよね?」

クレインは両手でかまいたちを出し、綾菜に飛ばす。

綾菜は前回同様両手に魔法障壁を張り、それをはじく。


クレインを相手に魔法弾の打ち合いは歩が悪いのは前回で知っている。

綾菜は隙をついてインプを5匹召喚し、クレインを襲わせる。


「インプごときじゃあ100匹いても相手になりませんよ?」

クレインは肩で笑って見せる。


しかしそんな事は綾菜も百も承知である。

インプに補助魔法をガンガンかける。

防御力上昇。

攻撃力上昇。

魔法耐性上昇。


「なるほど・・・」

クレインはインプ5匹と戦闘を始める。



カァン!!


ヨシュアはゆーにゃの攻撃を盾で防ぐ。

その直後に剣で攻撃するがあーにゃは遠くに逃げる。


「くそ!!すばしっこい!!」

ヨシュアは攻撃がまったく当たらないゆーにゃに苛立っていた。

グリフォンの時もそうだが、空中を呼びまわる相手はどうしても分が悪い。

ゆーにゃの動きが不規則すぎて全く読めないのである。


「へっへーだ!俺を放置しようとするから罰が当たったでし!」

ゆーにゃはさっきの事をかなり根に持っていた。

ヨシュア達がゆーにゃの所へ着くと、1人で地面にうずくまり泣いていたのだ。


「うるせぇよ!さっきまで泣いてたくせに!!」


「はぁ?泣いてないでし!!」

ゆーにゃは顔を赤くして怒鳴る。


「泣いてましたわ。」

あにゃもヨシュアに賛同する。


「泣いてないでし!!」

ゆーにゃはあにゃの方を向いて文句を言う。


ガン!!


ゆーにゃがあにゃに気を取られている隙にヨシュアが接近し、盾でゆーにゃを叩き付けた。


「がふっ!」

地面に叩き付けられたゆーにゃはぴくぴくしている。


「アースヒール!」

あにゃが大地の回復でゆーにゃを癒す。

ゆーにゃはひゅんと飛んでヨシュアを距離を取る。


「不意打ちとは卑怯でし!!卑怯だからストーカーは嫌いでし!!」


「だからストーカーじゃねぇよ!!」

ヨシュアが言い返す。


「いつも綾菜を見てるでし!召喚されてなくても見てるでしよ。」


「み・・・見てねぇし!!」


「そして、何エロい想像してるんでしか?」


「そんな事考えてるの?卑猥ですわ・・・」


「見てねぇし、想像してねぇよ!!」

今度はヨシュアが顔を赤らめる。


「いやぁああああああ!!こいつキモイですわ!!」

あにゃがあからさまにヨシュアから距離を置く。


「お前ら・・・なんか傷つくぞ・・・」

ヨシュアが若干参り始める。


「ふ・・・そろそろとどめでし!!」

ゆーにゃは凹んだヨシュアに体当たりをする。


ガン!!


「痛いでし・・・」

ゆーにゃはヨシュアの鎧に突っ込んだのだが、ヨシュア達、聖騎士の鎧は聖なる加護を受けている。

当然堅い。


ガン!!


そして、頭を押さえて痛がっているゆーにゃをヨシュアが盾でまた叩き落す。

ゆーにゃはまた地面に落ちる。

少し、そのまま静かになり、再びふよふよ飛ぶ。


「あにゃ・・・回復でし・・・」


「ウインドヒール!!」

あにゃがゆーにゃを回復してあげる。


「よし!元気になったでし!今度は顔を狙うでし!」


ヨシュアは『こいつバカだな』と思った。

ゆーにゃの強みは不規則な攻撃でどこに来るか分からない事にある。

顔を狙うと宣言したらもうヨシュアは顔を守るだけで良いのだ。


ガン!


ガン!!


ガン!!!


ゆーにゃの攻撃は全てヨシュアの盾で回避される。

体当たりなので当然ゆーにゃはダメージを食らう。


「あにゃ!回復でし!!遅いでし!!」

ゆーにゃはあにゃの援護の遅さに文句を言いだす。


「ゆーにゃが勝手にダメージ食らいすぎなんですわ!!」

あにゃもゆーにゃに不満をぶちまける。


「はぁ?援護があにゃの仕事でしよ?のろまあにゃがダメでし!!」


「ゆーにゃが援護に頼り過ぎなんですわ!少しは自分で何とかしてほしいですわ!!」

2人はヨシュアを無視して睨み合い始める。


「を・・・をい。」

険悪な2人を心配そうにヨシュアが見守る。

しかし、ヨシュアの不安をよそに2人はとうとうぽかぽか殴り合い始めた。


ええ~・・・。


喧嘩する2人を呆然として見るヨシュア。

綾菜を呼んで止めさせるべきか考えていた。

その瞬間である。

大爆発が巻き起こりヨシュアは巻き込まれた。

突然の事にまったく反応できないヨシュアはそのまま吹っ飛び気を失う。

あにゃが最終手段のダグフレアをゆーにゃにぶちかましたのであった・・・。



その後、あにゃは綾菜の所まで行き、服にしがみついて泣きじゃくる。

それから少しして真っ黒になったゆーにゃが綾菜の所へ来て、肩に座り惚ける。


邪魔だ・・・。


綾菜は2人を無視して、クレインと戦うインプたちの回復に努めていた。


ジールド・ルーン脱走戦その一

ヨシュア・マールグレイ 対 ゆーにゃ、あにゃ

ヨシュア 負傷により戦闘不能

ゆーにゃ あにゃのダグフレアの精神的ショックにより戦闘不能

あにゃ ゆーにゃにいじめられたショックにより戦闘不能


結果 引き分け



ガキン!!


所変わって、シノとミルフィーユコンビ対シン。

シノがガンガンシンに攻撃を繰り出すが、すべてシンの盾により防御される。


「くそ・・・」

シノがどんな攻撃をしてもシンの盾がすべて受け止めてしまう。

しかも普通なら盾で防御してもシノの一撃に吹っ飛ぶなり、よろめくなりするのだがシンはビクともしない。


「攻撃は中々に良いな。火力、的確性ともに高得点だ。良い集中力だ。」とシン。


「そんな言葉より倒れてほしいです。」

シンの言葉にシノは挑発で答える。


「しかし、弱点も浮き彫りだな・・・」


「そんなもんないです!!」

言うとシノはダッシュしてシンに近づき、大斧を振り回す。


ガン!!


その大斧をシンは盾で止める。

シノの斧が止まるとシンは足払いをする。

その足払いに簡単に引っかかり、シノは尻餅をついた。

シンはシノの鼻の目の前にロングソードを突き立てる。


「く・・・」

シノはシンを睨みつける。


「これがお前さんの弱点だ。攻撃に集中し過ぎて他のものが何も見えてねぇ。」


「見えてるです!!」

シノは鼻の前にあるロングソードの切っ先を斧の柄で弾くと、再び攻撃をする。


ガン!


しかし、シンの盾に防御される。


ドゴッ!


シンはシノの腹に膝を入れる。

「ぐふっ!」


膝で蹴られたシノは痛みで斧を離し、吹っ飛ぶ。


「く・・・」

両手で体を起こそうとするシノにシンは歩いて近づく。


「メイン前衛がこんな半端では後衛は不安だな?前衛がやられると後衛は無力になる。」

シンはシノに説教を続ける。


「知るかです!!」

シノは素手でパンチをするが、シンはそれをするりとかわし、シノの腕を握り持ち上げる。


「前衛が頼りないと、後衛を危険にさらす事になるんだぞ!!

お前を助けようと近づいた綾菜やシリアがお前より先に殺されるんだ!!

知らんで済まされるか!!」

シンがシノに怒鳴る。

その剣幕にシノがビクッとなる。


その後、シンはシノを斧の方へ投げる。


シノは両手で起き上がる。

シンの言葉で、シノはこないだのグリフォンとの戦闘を思い出す。

シノはグリフォンの炎で動けなくなった。

そのシノを回復しようと来たシリアにグリフォンは襲い掛かって来た。

その時は何とか撃退できたが、シンが言っているのはあの状況の事なのだ。


「でも・・・私には大斧しかないです・・・」

シノは地面に向かって呟く。

シノは大斧を握るとシンに向かって突っ込んでいく。


ガン!

ガガン!


しかし、どんだけ攻撃してもシンの盾を弾くことが出来ない。

シンはシノの攻撃を盾で弾くたびにシノの足を引っかけたり、頭を叩いたりしている。


「はぁはぁ・・・」

シノの息が切れる。


ミルフィーユは空を飛んでシンをずっと見ていた。

シノと作戦を練ったのだ。

シノがある程度シンの気を引くので、隙が出来たら一気に魔力衝撃波をシンに当てる。

今回は綾菜と初めてあった時と違い、ある程度のコントロールが出来るようになっている。

正面のみ放つという事が出来るようになっている。

しかし、シンに隙が出来ないのだ。

シノと打ち合いが始まってからもう20分は立っているのだが、ずっとミルフィーユを威圧し続けているのが野性の感で分かる。


でも・・・シノちゃんの体力がそろそろ限界です・・・。


ミルフィーユは空で焦っている。

それからもシノの攻撃は続くがシンには決まらない。

もう、シンも言葉を出さずにシノに付き合っていると言う感じだ。


「くそ!!」

シノが大きく振りかぶって一撃を入れる。


ボキン。


シンが盾で大斧を弾くと、とうとう大斧の柄が音を立てて折れた。

シノはそのまま地面に倒れこむ。

過労で気を失ったのだ。

ミルフィーユはもう待っても無駄だと悟り、空から魔力衝撃波を放つ。


「遅い!!」

シンはミルフィーユの魔力衝撃波を盾で受け止め、衝撃波の波動の波を読んで、剣戟を飛ばす。

この剣戟とは、元素魔法の魔力衝撃波と同じなのだが、剣の振りで起こる力も加わる分、速度と攻撃力が増す。

剣戟に当たるとミルフィーユは「ぎゃん!」と声を出し、地面に落ちる。

しかし、打たれ強い竜人の子であるミルフィーユはこのままでは終わらない。

着地と同時にシンに向かって炎を吐こうとする。


「それはさせん!」

ミルフィーユが炎を吐く前にシンのシールドアタックが直撃する。

吹っ飛ばされるミルフィーユはそのままダメージで起き上がれなくなる。


「く・・・」

ミルフィーユは地面に倒れたままシンを睨みつける。

シンはミルフィーユに近づく。


「お前は特に問題だな。こと戦闘に置いて言えば誰もが羨む能力を持っているのに全く生かせていない。

誇り高き竜人はその筋力、硬さ、魔力だけでも常人を圧倒するのに、炎まで吐ける。

お前は戦士になれば俺と張れるし、魔法使いになれば綾菜を超える。

このままでは勿体ないぞ。」


言うとシンはヨシュア達の方を見る。

「さっきの大爆発は少し気になるな・・・」

言うとシンはヨシュア達の戦闘場所へと足を運んでいった。



「うっうっぅ・・・。」

シンの姿を見えなくなるとシノが両手で顔を抑え仰向けに倒れたまま大粒の涙をこぼしていた。


「悔しいです・・・悔しいです・・・。」

シノは今回の戦闘で完全に露呈された防御の甘さ。

全力でやった攻撃すら全く効かない無力さ。

その他行動の遅さと言った弱点を心底痛感した。

しかも戦った相手のシンは完全に手を抜いていたのがやっていて分かった。

手を抜かれ、説教しながらの相手に手も足も出なかったのだ。

プライドの高いシノはこの惨敗が重くのしかかったのである。


ジールド・ルーン脱走戦その二

聖騎士団長シン 対 シノ、ミルフィーユ

シン 無傷

シノ 過労の為戦闘不能

ミルフィーユ 負傷の為戦闘不能

結果 シン勝利



そして、シリアとラッカスの戦いに場面は移る。

ラッカスは手袋を着けた両手を前に出して握りしめ、シリアと対峙していた。

シリアの武器は昆。

長い棒である。

魔法大国エルンにあるジハドの教会はその広大な敷地内に武術の練習場まである。

天上界の神官は基本的に武器を持つことを禁止されているが、戦神ブラドを息子に持つ至高神ジハドの教えは寛容だ。

戦闘があるこの世界において身を守るため、または己が信念を守るための戦闘を許可してくれている。

その教えに乗っ取り、魔法大国エルンにあるその教会は武術の練習場まで設置されているのだ。


流派を『聖光神牙流』という。

この流派は魔法大国エルンにある教会の名前である聖光教会と言う名前から由来している。

この教会は戦争孤児を引き取り育てる等の社会奉仕も行う。

そしてこの孤児の大半はジハドの教えに目覚め、大人になって世界に飛び立つ。

教会の設立初期にその子達の不遇の死に悩んだ大僧正エルオが、過去に自分が戦場で使った戦術を教える為にこの流派を開いた。

聖光神牙流には『剣術』『槍術』『杖術』『昆術』『弓術』があり、どれも実践的で世界的に有名でもある。

シリアは大僧正エルオより直接教えを受けた昆術の達人でもある。

戦闘において基本的にはシノに前衛を任せ、自分は後衛にて回復や攻撃補助を中心にしているがそれはあくまで役割分担の為だと割り切っていた。


「はっ!」

シリアは一気に距離を詰めてラッカスに昆を振るう。

ラッカスはシリアの攻撃を右腕で受け止める。

ラッカスの腕は元素魔法で硬化させているらしく、ダメージは入っていない。

ラッカスはシリアの昆を受け止めた右腕を滑らせ、シリアとの間合いを詰め、左で腹部を打ち上げる。

それをシリアは後ろに飛んで回避し、昆を地面に突き立て、バックステップの勢いを使い、昆を一周周りラッカスに蹴りを繰り出す。


ガシッ!


その蹴りも右腕で受け止める。

しかし、シリアの攻撃は止まらない。

受け止めらた足を地面に置く勢いで昆を地面から抜き、その勢いをそのままに剣術で言う兜割の軌道でラッカスの頭に入れようとする。

それをラッカスは腕をクロスさせて受け止める。

その瞬間にシリアは昆を一端手放し、一気に距離を詰め、右腕で一直線にラッカスの腹部に拳をうずめる。


「ぐぅ!」

昆の兜割を両腕で止めたので急なシリアの超至近距離の一撃に対応が取れず、もろに食らうラッカス。

足の力が緩み後ろに後ずさりしそうになったラッカスはここで足を無理やり踏ん張らせ、こらえる。


ガシッ!


シリアの腰に手をまわし、力いっぱい締め上げる。


「きゃあ!」

シリアは思わず悲鳴を上げる。

ラッカスの巨体から筋力の高さは想像できるが、このベアハングに掛かる力は想像を超えていた。

シリアの腰骨がギシギシと音を立てる。


「どうしますか。シリアさん?降参しますか?」

ベアハングを仕掛けているラッカスはシリアの豊満な胸の下からシリアの顔をうかがっている。


きつい!!そして、何かエロい!!


シリアはラッカスのベアハングから逃れようと足をばたばたさせて抵抗する。

後、胸に顔が付かないように体を後ろに捻らせているが、これは逆に技を強くさせてしまっている。


「こ・・・降参なんてしません。こんな・・・セクハラですよ!!」


「ええ!?」

思いもしないシリアの言葉にラッカスの腕が緩む。

その隙にシリアはラッカスの腹を蹴り、ベアハングから逃れる。


「す・・・すみません。そんなつもりではなかったのです。」

なぜか戦闘中に謝り始めるラッカス司祭。

大きな体が小さくなり、顔は肌の露出した頭まで赤くなっている。


「ぷっ。」

シリアは歳にして70近いラッカスが20台前半のシリア相手に縮こまる姿を見て可愛いと思いつい笑ってしまった。


「降参してください。ジハドは武術を許容してくださいますが、無駄な戦闘は望む所ではありません。」

ラッカスはシリアにもう一度降参を促す。


「これは無駄ではございません。」

シリアはラッカスに答える。


「と、言いますと?」


「これは定例会議をサボるという大切な理由のある戦闘です。」

シリアは両手を胸の前で組み、祈りの姿勢になり答える。


ガンッ!


力いっぱいラッカスの拳がシリアの頭に当たる。


「痛っ!!」

シリアは頭を撫でながらラッカスを見る。


「ただのサボりじゃねぇか!!」

ラッカスが怒る。


「ただのサボりですって?至高神ジハドの教えには価値観の違いを受け入れる教えもありますよ!」

シリアがラッカスに言い返す。


「サボりはサボりです!価値観の違いとかと言う問題ではありません。

国からお給金をもらっている以上、国の仕事に参加するのは当然の義務です。」


「正論ばかり言って!だから大人は嫌いです!!」

シリアは逆切れをする。


「正論と認めているじゃないですか?」


「女の子は甘いスィーツを食べなきゃ生きていけない生物なんです!!」


「そんなの定例会議の後にしろ!!」


「私は貴方を許しません!至高神ジハドの名において、貴方を罰します!!」

酷い理屈をこね、シリアが昆を構えなおす。


「至高神の名をそんな安っぽい正義で使うな!!」

ラッカスも構える。


シリアは昆を持ってラッカスとの間合いを一気に詰め、昆を払う。

それをラッカスは後ろに飛んで回避し、シリアの振るう昆が止まるタイミングで一気に間合いを詰めなおす。

そしてシリアの腹部に手を開いて触れる。


「ん?」

腹を触られたことに気付くシリア。


「魔力譲渡。」

ラッカスが言うとラッカスの手が光り、シリアの魔力をどんどん奪っていく。


魔法には逆唱えと言う技がある。

本来、魔力譲渡は魔力の尽きた人間に自分の魔力を与える神聖魔法である。

それを逆唱えすることにより、逆に相手から魔力を吸収する。

ラッカスの手から逃れようとするが、なぜかラッカスの手が体から離れない。


「あ・・・そんな・・・。」

魔力をほとんど吸い尽くされたシリアはそのまま意識を失う。

前のめりに倒れこむシリアをラッカスはそのまま支え、ゆっくりと仰向けに寝かせてあげた。


「ふぅ・・・セクハラをするつもりはありませんが私も神官である前に一人の男です。

あなたのような綺麗な女性とこんな近距離で戦闘をしていると心が奪われそうになってしまいます。

こんな決着は望む所では無いでしょうが、ご勘弁を。」

言うとラッカスは気を失ったシリアを後にクレインの戦場へと歩いて行った。


ジールド・ルーン脱走戦その三

宮廷司祭長ラッカス 対 シリア

ラッカス ちょっと精神的に照れているが無傷

シリア 魔力が尽きて戦闘不能

結果 ラッカス勝利



ラッカスがクレインの元に戻ると、クレインはインプ相手に苦戦をしていた。

クレインが弱いのではない。

綾菜の補助魔法が強力すぎるのである。

インプの数は3体。

おそらく5体まとめて召喚するのが綾菜のインプ召喚のルールなので、2体は倒したのであろう。


ラッカスは綾菜に気付かれない距離から魔法を唱える。

「リターンデーモン。」

この神聖魔法は邪悪なる存在を魔界に強制送還させる魔法である。

妖魔のインプは神聖魔法は天敵である。

インプ3体の体が光に包まれ、そのまま姿を消す。


「あ・・・」

綾菜が急な魔法にびっくりし、振り向く。


「苦戦していますね。クレイン。」


「ラッカス・・・遅かったですね?」


「シリアさんもなかなかにやりましてね。シンはまだですか?」とラッカス。


「シンの事だ。おそらく戦闘を楽しんでるんでしょう。早く助けに来てほしいものです。」とクレインが答える。


2人のやり取りを聞いて綾菜は愕然とする。

ミルフィーユは戦闘経験はないが、シノとシリアはそこそこに戦闘経験がある。

そして2人ともかなり優秀であると思っている。

特にシリアは魔法大国エルンでも右に出るものがいないとまで言われていた大僧正エルオに直接戦い方を教わった手練れだ。


大僧正エルオは世界的にも有名な人物だ。

過去の大戦で王族を守り、1人で1万人を超す大軍を全滅させたという戦闘話から始まり、逆に1000人を超す大怪我人を1日で回復させたという話まである。

とてつもなく体術も魔力も高い人物である。

特に綾菜は魔術師としてのエルオを尊敬と畏怖の念を込めて知っている。

エルオはルーンマスターとして、『風水魔法』『古代語魔法』『召喚魔法』『神聖魔法』『暗黒魔法』の五つの魔法を使いこなす。

そして、エルオの使う融合魔法『エイスフェアリーズアタック』と言う魔法は島一つを一瞬で海に変えると聞いていた。

そのエルオの教えを受けているシリアがそう簡単にやられる訳が無い。

しかし、ラッカスがここに来ているのも事実である。

それほどまでにラッカスが強いと考えるのが妥当なのであろう。


「接近戦はシンが来るまで私がしましょう。」

ラッカスは言うと綾菜の方まで走り出す。


「うわわわ!!」

綾菜は走って逃げだす。

でかい図体のラッカスに追われるのはさすがに怖い。

綾菜とラッカスの鬼ごっこが始まる・・・

と見せかけて、綾菜は急きょラッカスの方に振り向き接近する。

突然の綾菜の行動にラッカスは許を突かれる。


ラッカスの懐を取った綾菜は腹部に手を当てる。

「ボム!!」

綾菜が言うと手のひらで大爆発が起こる。


「ラッカス!!」

クレインが大声で名を呼ぶ。

ゼロ距離で綾菜の爆発魔法を食らったラッカスは断末魔に似た声を出し、吹っ飛び、仰向けに倒れる。

綾菜はそのまますぐに風水魔法のかまいたちを繰り出す。

シリアを倒す程の相手に手加減など出来るはずもない。

綾菜は全力だ。


「はぁっ!!」

ラッカスが大声を出すと、綾菜のかまいたちがかき消された。

そしてむくっと立ち上がるラッカス。

綾菜の起こした爆発で腹部の服が破けている。

ラッカスは腹部を撫でながら立ち上がる。


「ふむ・・・油断した。思ったより強いですね・・・。」

ラッカスは肌の露出した頭皮を掻く。


「当たり前でしょう?弱ければとうの昔に打ち取ってますよ。」

クレインがラッカスに文句を言う。


「おお?盛り上がってるじゃねぇか?」

体を真っ黒にしたヨシュアの足を持ち、引きずりながらシンが来た。

シノと戦ったにもかかわらず一つもダメージを受けていないのが見て分かる。


「おい。ラッカス。こいつの回復をしてやってくれ。」

シンはヨシュアをラッカスに渡す。


最悪だ・・・。


綾菜は青ざめる。

クレイン1人できついのに、ラッカスとシンまで来た。

それにヨシュアまで回復されたらひとたまりもない。


「よ・・・ヨシュアの回復は卑怯よ!!」

綾菜は理不尽なクレームを言う。


「おお?魔法は禁止じゃないだろ?まぁ、良いぞ。ヨシュアは無しだ。」

シンが答える。


「シン。接近戦は気を付けてくださいよ?」

クレインが言う。


「どうだかな!!」

クレインの忠告を無視してシンは綾菜に突進してくる。

綾菜はレイピアを抜きシンを迎え撃とうと身構え、シンに突進する。

そして二人の間合いで綾菜がいち早くレイピアを突こうとする。

シンは大きな盾でそれを防ぐ。

綾菜はレイピアを持っていない左手をシンの盾に当てる。

「ディバインヒート」

綾菜が盾に魔法を唱えると急に盾が赤く熱する。


「あちっ!」

シンは急に熱くなった盾を投げ捨てる。

その隙にレイピアをシンに突き立てる。


ヒュン!


しかし、その一撃は空を切る。

間一髪でシンは綾菜のレイピアを回避した。


「危ね!!」

シンが焦って綾菜から距離を取る。


ディバインヒート

金属加工に使う付与魔法である。

この魔法を使うと金属は3000度まで温度を上げる。

ものによって金属の融点は違うが温度の上昇は途中で止め、調節ができる。


「だから言ったでしょ!!綾菜さんの怖さはその魔法の応用力なんですよ!!

前回の魔法勝負でオプティムを召喚するとか・・・ありえない魔法の使い方をするんです。

今だって金属鍛冶の時使うもので戦闘で使うような魔法ではないんです!!」

クレインはシンに怒鳴る。


「わりぃわりぃ。ここまでとは予想しなかったんだ。」

シンがクレインに詫びを入れる。


「綾菜さんは気を付けて下さい。未知の獣と戦うと思って下さい。」

クレインがもう一度忠告をする。


綾菜は少しむっとする。

化け物扱いされるのは気分が悪い。

少しミルフィーユの気持ちが分かった。

そして、最悪なことにここでヨシュアの回復を終え、ラッカスも戻ってくる。


3人に囲まれる綾菜。

そして3人とももはや油断が見えない。

ここで綾菜は降参をした。


ジールド・ルーン脱走戦最終

聖騎士団長シン、宮廷神官長ラッカス、宮廷魔術師クレイン 対 綾菜

シン 左手に軽い火傷

ラッカス 腹部にダメージ

クレイン 魔力消耗

綾菜 降参

結果 最高戦力3人組



あの激闘から1時間後。

綾菜達はぶっちょうずらで会議の円卓に座っていた。

4人は両手を縄でぐるぐる巻きにされているのである。


「どうした?綾菜魔術師。」

ダレオス陛下が綾菜に機嫌を尋ねる。


「何がって・・・縄で縛るとか・・・斬新な会議風景だなと思いまして・・・。」

綾菜が皮肉を言う。


その綾菜の言葉にシンが大笑いする。

「悪かったな!今回ばかりはどうしてもお前らに話を聞いてもらい・・・というかお願いがあってな。」


「お願い?」

綾菜はシンに答える。


「ああ・・・。」

シンは遠い目をする。


「その前にまずはフォーランドの件から話をさせていただきます。この新聞を読んでください。」

クレインが話に割って入り、2日前の新聞をみんなに配った。


フォーランド内戦終結へ

亜人狩りとフォーランド政府による内戦が急きょ終結した。

詳細は以下のとおりである。

昨晩未明、いきなり闇市を含む城下町4か所で爆発が起こる。

その爆発個所はすべて亜人狩りのアジトであった事が判明。

この爆発により亜人狩り組織は壊滅した。

その後、無数に現れるゾンビの群れに城下町は混乱を極めた。

このゾンビの群れを束ねていたのはひそかに噂されていた第三勢力であった。

その第三勢力の筆頭カルマは王宮にて指示を出していたが、ジールド・ルーンの聖騎士エナ・レンスターと、その場に居合わせた和装の剣士の手により打ち取られる。

和装の剣士についての詳細は謎である。

サコクの剣士である可能性はまずないので神隠し子かノディーの可能性が疑われる。


ノディーとは綾菜の様に一度死んで天上界に来た人間の事を差す。

体を地上界に置いてきていて、魂だけの存在になっている者である。

しかし、地上界で一度は死んでいるがこの世界にいる間だけは生きている人間のように生活が出来る。

この世界で死んだとき、本当の死が訪れると言う。


「サコクってどこですか?」

綾菜が新聞の記事を読んで確認をする。


「サコクとははるか東方にある和風の国だ。剣術が盛んで剣士のレベルがかなり高い。

しかし、サコクは海外との付き合いは一切していないんだ。

サコクの剣士がフォーランドに来る事なんてまずありえない。」

シンが綾菜に答える。


「もしカルマを倒したのが神隠し子かノディーだとしたら少し気になりますね・・・。」

言うクレインに綾菜がむっとする。


「どうしていけないんですか?」


「基本的に元地上界の人間は戦闘が苦手なんです。それがカルマを倒すというのは何か裏がある可能性があるんです。」


「私もノディーです。何か裏があると思いますか?」


「綾菜さんは天性でしょ?特別なパターンです。」

クレインの言葉に綾菜は腑に落ちない顔をする。


「綾菜は魔剣ミスティルティンを知ってるか?」

シンが綾菜に質問をする。


「魔剣?魔界の植物のミスティルティンなら知っています。肉食植物です。」

と綾菜。


「そう。そのミスティルティンだ。なぜ魔剣と呼ばれているか察しは着くか?」

シンの質問に綾菜は口を紡ぐ。


ミスティルティンとは宿り木と言われる植物である。

生き物に寄生し、付近に敵意を持つ別の生き物に自動で攻撃を行い、相手の血を吸って成長する。

しかしそんなもの体に植え付けるなんて馬鹿な話はまずない。

シンがこんな質問をして来ると言う事は、それをやる馬鹿がいるという事なのだろうか。


綾菜の表情を見て、シンはふっと笑う。

「おそらくお前が今考えているバカなやつが存在してるんだ。

ミスティルティンを体に植えるだけで騎士より強くなれる。

天上界で戦うすべを持たない地上界の人間が手を出しやすいんだ。」


「けど・・・ミスティルティンは成長すればするほど大量の血を必要とするようになります。

敵がいなくなれば関係ない人を襲うか、それをしなければ自分が食われます。」

綾菜はシンに言う。


「そうだ。過去にミスティルティンに手を出し、一度は英雄と呼ばれ、最後は大量殺戮者として処罰されて死んだ騎士がいる。

俺はそういうやつを2度と出したくない。その和装の剣士を調べる必要がある。」

とシン。


「それだけではないな。カルマが黒幕ならほっては置けない。恐らくまた復活する恐れもある。

いずれにせよ、シンとラッカスをフォーランドに遠征させるつもりだったんだそうフォーランドにもフレを出している。」

とダレオス。


話を聞くとカルマは300年前からジールド・ルーン周辺でちょくちょく事件を起こしては討伐されているらしい。

本当のバンパイアは殺しても死なない。

バンパイアを倒すには元となる灰を浄化しないといけないのだ。


「そういう訳なんだ。そこで綾菜達にお願いがある。」

いつになく真剣なシンの表情に綾菜はつばを飲む。

「実は今、この国はスールムと言う隣の国と戦争をしている。

その国との国境にある砦を俺の息子が責任者で守りに入っている。

おかげでスールムとは海上戦だけで済んでいるんだが、実はスールムが砦に籠城戦をしかけてきたんだ。

もう1か月近く息子はそれを耐えているが、もう砦の食料も底を尽くだろう。

3日後にヨシュア筆頭に聖騎士団の援軍を送り食料も届ける。

そこにお前たちも同行してほしいんだ。」


「砦の援軍ですね?承知しました。」

綾菜は二つ返事で答えた。


「あの・・・デス。」

話がまとまりつつあるところで普段あまり話さないシノが口を開く。


「どうしたの?シノ。」

綾菜は俯くシノに答える。


「武器と防具を買ってほしい・・・デス。」

シノはあまりお金の使い方を知らないのでお金は全て綾菜に渡しているのだ。


「ああ・・・シンさんとの戦闘で壊れたみたいだしね。分かったわ。後で武器屋に行きましょう。」


「片手斧と盾が欲しいデス。」


「え?片手?」

意外な言葉に綾菜が聞きなおす。

シンは黙ってシノの言葉を聞いている。


「盾が必要です。」


「一朝一夕で盾と片手斧が使いこなせると思うのか?」

話に割って入ったのはシン。

さっきの戦闘で何があったのか知らない綾菜はシンとシノを交互に見る。


「団長の言葉は、合ってるです。盾の使い方、教えて欲しいデス。」

シノはシンの顔をまっすぐに見つめて話す。


「お前がやりたいなら教えてやる。ただし、明後日には俺たちはフォーランドへ行く。

明日1日で基本を実践で叩きこむ。その後は砦へ行く途中でヨシュアに教われ。それで良いか?」

シンは答える。


「はい。デス。」

シノはヨシュアに教わるのは屈辱だと思ったが、それ以上にさっきシンに手も足も出なかったことの方が堪えたのである。

そして自分のプライド以上に大好きな綾菜を守れるようになりたいという気持ちも大きい。


「よし。じゃあ、盾は城にある聖騎士の盾を一つくれてやる。防御の魔法が付与されている分店にあるものより良い品だ。

ヨシュア。後でシノに渡しとけ。」

シンが言うとヨシュアはすぐに返事をする。

聖騎士の規律の厳しさを肌で感じる瞬間だ。


「私も武器持ちたい!」

ミルフィーユもシノに続いて言う。

綾菜はミルフィーユを戦闘にあまり立たせたくないと思っていたのでこの希望には返事に困っていた。

そこにシンが助け舟をだす。


「綾菜。お前が2人をどういうつもりで甘やしているのかは分からん。

しかし、愛情を受けたものが返す愛情をを受け取らねぇのは優しさとは言わねぇぞ?」


「ミルはまだ子ども。赤ちゃんです。」

綾菜はシンに言い返す。


「それでも竜人だ。戦闘のサラブレッドで現時点で強力な魔法衝撃波と炎を吐く。

堅い皮膚は鎧並みの強度にまで成長できるし、筋力はその内屈強な大男よりも上になる。

最強の卵が大好きなお前の力になりたがってるんだよ。

俺としてはそれほど勿体ない事はねぇ。

それでも、お前が可愛がっているミルの気持ちは無視するのか?」

シンの言葉に綾菜は返事が見つからない。


「ママ?私も強くなってシノちゃんと前で戦うの。その方がもっとママが安全だよ?」

少しの沈黙をやぶりミルフィーユが綾菜をなだめるように優しく話しかけてきた。


ミルフィーユの気持ちは凄くうれしい。

しかし、綾菜はミルフィーユを戦わせるために奴隷商人から奪ってきた訳ではない。

護身用程度に魔力衝撃波のコントロールだけは教えて、今回もシノの援護程度をしてくれれば良いと考えていた。

でも、ミルフィーユは戦いたいと、しかも前衛をやりたいと言う。

綾菜は心底悩んだ。


「ミル・・・攻撃されると痛いんだよ?」

綾菜はミルフィーユに聞く。


「我慢する。」

ここまで言われると綾菜は断れない。

仕方なく、ミルフィーユに軽い鎧と盾とある程度距離を取って戦えるハルバートを買ってあげる事にした。


ハルバートとは槍のような武器だが、先端が槍と少し違う。

中心は槍の様に尖っていて、左右に斧と大鎌が付いている。

中央の槍で突きが出来、斧で払いもできる。間合いを詰められれば大鎌を後ろに引くことで攻撃も出来る。

しかし、扱いが難しい事と重たいことが欠点だ。

元来、ハルバートは両手で扱う武器だが、ミルフィーユの筋力であれば片手でうまく扱う可能性もある。

あと、盾と鎧で防御ができればいくらかは安心だ。


盾は会議の後、シンに頼みシノと同じ聖騎士の盾をもらい受けることになった。

聖騎士の盾はヨシュアが扱っているのと同じスモールシールドと言う小さめの盾であった。

シンのようにでかいラージシールドの方が安全じゃないかと尋ねたところ、

ラージシールドの扱いは物凄く難しいとの事で素直にスモールシールドをいただいた。



定例会議の後、買い物を済ませ、翌日、ミルフィーユとシノはシンに盾の扱い方を丸1日かけて教わる。

夕方に傷だらけで帰って来た2人を見て、シンに文句を言いに行こうとした綾菜を2人が止めてなだめた。


2日後、綾菜達は砦の援軍へと向かう事になった。

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