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こちら異世界警察署 ~おもな仕事はロリ女神署長の靴磨きとチート転生者の取り締まりです~



「ん? んー……まだ靴に汚れが残っているよ? 使ってもいいんだよ……舌とか」


 革張りのソファに腰を下ろし、偉そうに頬杖なんかついて一生懸命靴を磨いている俺を見下してくる万年一日署長のナザル。容姿は子供おつむも子供辛うじて着ている警察署長の服だけが子供意外の判断材料。その肩ぐらいまで伸びた髪が玉虫色って事を除けばこの世界の神様だなんて信じろって方が無理だ。


「外歩いてないでしょ署長……」


 そう言いながらも靴を磨いてしまう俺。警察学校時代に染み付いた縦社会の構図から抜け出せない自分の間抜けさについ嫌気が差してしまう。


「口答えとはいい度胸だね……初めての射撃訓練で調子に乗って銃口覗きこんだら間違って頭吹き飛ばした間抜けなホンカン君をこの世界につれて上げたのは誰だと思っているのかな?」


 反論できない。せっかく手にした公務員という地位を自分から頭ごと吹き飛ばしたのは確かに俺だ。俺だけれど死んでこんなドラゴンとか魔法とか貴族とかオークとか女騎士とかいるような世界で超過勤務するとは思わなかったのも俺だ。地獄があるなんて思わなかったな。


「あのねぇ、ホンカンじゃなくて俺にはケイジって名前があるんすよ。いい加減覚えてくださいよ」

「いやだってウチの刑事違う人だし……」


 親がややこしい名前をつけたせいで散々いじられてきた名前だが、まさか地獄でもいじられるとは思わなかった……などという思い出はとりあえず置いといて俺達は視線の先をこの警察署唯一の刑事に移した。通称ワガハイデカ。


「ワガハイの機能のスベテはマザーコンピューターによるシアワセでコウフクなシャカイのタメのモノでアリマス。ラブあんどピースなシャカイの実現にゴキョウリョクください」


 今のところ四パターンぐらいしか聞いたことのないワガハイデカの台詞のうちの1パターンが署内に響く。見た目は絵描き歌で表現するとまる書いて上にまる書いて終わりという顔とバケツのない雪だるま。ちなみに残りは『ケイコクします』と『サイバンなどというムダなシステムは存在しません。ベンゴシは死滅しました』と『サクジョしました』だ。


「うんうん、ワガハイデカは頼りになるね」


 署長が3XYZ年から連れてきた凄い奴でキルレシオ158/2の凄いやつ過ぎてなおも出世街道爆進中。ちなみに死亡数が2なのは自己再生機能があるから。こいつを量産するだけで多分色々鎮圧できる。


「それに比べて我らが異世界警察署の面々と来たら……」


 辺りをぐるっと見回してから、盛大なため息をつく署長。ちなみにこの署は総勢五名と一体。つまり後三人なのだがここにいるのはあと二人。


「まったく話になりませんな忍者巡査長は! 隠密すぎてまさか職場にすら顔を出さないなど! やはり闇討ちなどという卑劣極まりない手法でしか戦えない輩などこの世界の秩序を護る警察組織には不要なのです! 伝統的かつ格式高い騎士道精神という奴を一からみっちり叩きこまねばならんのです署長! 聞いてますか署長!」


 この無駄に声のでかい上に乳もでかく話が長い金髪ポニーテールはアンネローゼ・ヴァルテンシュトルフ・ロビンソン・ザ・ソードブレイカー。長いのでアンネ巡査長で姫騎士刑事なんて呼ばれてる。俺の階級一個上の彼女で唯一の現地採用枠。ちなみに検挙数はゼロ。もちろん前口上が長いから犯人に逃げられるという笑えないカタブツの極み。何故俺より階級が上なのかなどと思ってはいけない。署長がアレなのだから。


「ごめん聞いてない……」


 嫌そうな顔で首を横に振る署長。なんで採用したんだろう。


 あと話に出てきた忍者巡査長。忍者らしい。実は俺も見たことがない。アンネ巡査長も見たことがない。署長はあるらしい。らしいである。なぜ階級が俺より上なのか。


「フッ、姫騎士よそう熱くなるな……カオスの落とし子たる我々に秩序などという楔は不要なモノ……いずれはラグナロクがインセンティブにコミットして世界大戦を引き起こし神はその座からプリントアウトされるであろう……」


 この難しい言葉を使おうとしたせいで余計にアホに拍車がかかるのっているのは自称魔王のパルナ元帥。警察のはずなのになぜか元帥。どこから来たかは知らない。白髪のロングヘアーに整った肉体に褐色の肌と黙っていれば美人なのだが頭からは角丸出して喋らせたらアホ丸出し。転職したい。


「ほざくな魔王! そのカオッ、かおしゅ……!」


 ちなみにアンネ巡査長は自分の名前以外の横文字に弱い。むしろ剣の腕前意外弱い。人選ミスである。でも耳まで真っ赤にして机をバシバシ叩き出す。やめてよ静かにして下さい本当。


「ハッ、やはり文明栄華の極みたる横文字には弱いみたいだな……ボールペンホチキスカッターノートバインダークリアファイル鉛筆……」

「おのれ魔王! 私をかどわかそうと!」


 全部文房具です。あと鉛筆は横文字じゃありません。


「だが貴様がそうするというのならこちらにも手段がある……」

「ほう……やはり我々は互いに憎みあう定め。よかろう輪廻のスパイラルの終着点がここだというのならやはり決着をプリントアウ」


 プリントアウトはかっこいい言葉じゃないよ元帥。


「ににんが」

「……グフッ!」


 突然血を吐き出す元帥。


「にさんがろくにしがはちにごうじゅうにろくじゅうに……」

「やめろおっ、七の段までいくんじゃない!」


 見ての通り数字に弱い。弱いっていうかもう駄目。十までは十分かけて数えてるのを見たことがあるが元帥の脳内ににある数字は『1』と『2』と『たくさんだけ』なのだ。


「アホばっかりだなぁ……やっぱり頼りになるのはワガハイデカだけだね」


 手足すら無いワガハイデカに向かって歩いて行って頭をなでなでする署長。完成した雪だるまを愛でている子供に見えなくもない。


「ケイコクします」


 だが非情かなワガハイデカ、信頼しているのはマザーコンピューターから与えられた唯一の使命のみであった。


「あの署長、靴も綺麗になったし今日上がっても良いでしょうか……」

「えー……」


 露骨に嫌そうな顔をする署長。まだ出勤してから三時間ぐらいしか立ってないけど。実際この署はワガハイデカが年中無休二十四時間警備してくれているから他の人材はいらないのだ。ありがとうワガハイデカ俺達が寝ている間にキルレシオをまた更新して欲しい。


「でもこれから事件とか起きるかもしれないし……」


 署長がつぶやいた次の瞬間、署内に警報の音が鳴り響く。事件発生の知らせだ、さっきまでアホやっていたアンネ巡査長と元帥が襟を正して立ち上がる。ワガハイデカは目の色を物理的に青からオレンジに変える。忍者巡査長不在。俺はそのままため息をつく。


「どうやらこの異世界を混乱させようとする悪党が出てきたらしい……!」


 咳払いをしてから胸を張って喋り始める署長。少し粘れば今日は帰れるコースだったんだけどなぁ。


「皆の者……出動だ!」

「「「……サー、イエッサー!」」」


 だから軍隊じゃないんだってば。




「思い出した……俺は穀潰しのニートだったがエロ漫画買う帰りにトラックに跳ね飛ばされたところをロリ女神に転生されたんだった……」


 鬱蒼とした森の中、キノコを握りしめながらそんな事を言い出す美男子。あれで美男子じゃなかったらヤバイ実に逮捕案件である。それかキノコが木じゃなくて股間から生えてたりとか。


「幸い魔法の終業も積んでいるし幼なじみは可愛いしこの間あったお姫様は俺に気があったしこれは……」


 俺達は互いに顔を見合わせて頷く。この男が悪法もまた法なりなんて言うが署長が気分で作った法律に引っかかっていることだけは確かなのだから。


「……そこまでだ!」


 署長意外飛び出す俺達。並ぶ姫騎士魔王と巡査。胸の手帳を突き付ける。


「異世界け」

「やあやあ我こそは陛下直々にソードブレイカーの称号をたまわ」

「悲劇だな……自らのフューチャーをスポ」

「いさつ」

「ったヴァルテンシュトルフ・ロビンソン家が長女アンネローゼ・ヴァルテンシュトルフ・ロビンソン・ザ・ソードブレ」

「イルするとは……やはり人類はいつまでたってもその愚行から逃れる事はできな」

「イカーである! 我が師より承った護身の剣、今こそ貴様に試すさせてもら」

「い」

「おう!」

「だ!」


 協調性なんて無かった。


「あの、二人共合わせて暮れると助かるんすけど……」

「なぜ横文字の素晴らしさがわからない女と歩を同じにすればならないんだ?」

「こっちこそ算数すら出来ぬ輩に合わせてやる義理など無い!」


 もうこんなのばっかりである。少しづつではあるが着実に慣れてきている自分が怖い。


「クソっ、男がいなかったら俺のハーレムに加えてやってもいいものを……!」


 いきなり上から目線でそんな事を言い出す転生者。そうそれなんだよなあ。


「悪いな……君に恨みもつらみもないがハーレム共謀罪で身柄を拘束させてもらおう」

「ハーレム共謀罪……!?」

「説明しよう! はーれみゅ共謀罪とは別に自分のものでも何でもない容姿と才能を使って純真無垢たる婦女子をたぶらかそうとする不逞の輩をこの世から一層する為に作られた法律なのである!」

「そんな、はーれみゅ共謀罪なんて知らなかったんだよ!」


 地味に煽ってくる転生者。まだ余裕があるなこの男は。


「フッ……犯罪者共はいつも自分の無知を棚に上げる。少し考えればわかるはずだ……はーれみゅ共謀罪がいかに卑劣極まりないディスタンスかはな」


 地味に煽ってくる元帥。やめるんだ弱点把握されてるんだから。


「ちなみに懲役は何年だ魔王」

「え、あ、たくさん……」


 言わんこっちゃない。


「……面倒だから死刑にしよ」

「ほう、貴様と意見が会う日が来るとはな」


 お互いに顔を見合わせうんうんと頷く二人。法律ってなんだろう。試験の時勉強した気がするんだけどなぁ。


「覚悟おおおおおおおおおおおおおっ!」

「インフェルノに焼かれ灰燼と化すがいいいいいいいいい!」


 奇声を上げながら剣を振り回し始めるアンネ巡査長とところかまわず炎の魔法を撃ちまくる元帥。その時署長は木の陰からこちらを見ている。手伝ってくれ。


「そんなもの……神からチートを授かった俺には効かない!」


 だが無理だ。そう、曲がりなりにも奴はチート転生者だ。剣とか魔法とかは大体の奴らよりは上。手際よく剣をさばきみぞおちに蹴りを入れ魔法も跳ね返したりしてみせたりでさらばお二人そのまま寝てて。


「くそっ、何が異世界警察だ人が面白おかしく第二の人生を歩こうっていうのに! 悪いがここは逃げさせてもらおう!」

「あ、待て!」


 突如走り去る犯人。残っているのは俺とホンカンデカ。だがホンカンデカはいくらキャタピラ走行とはいえこのぬかるみと雑草だらけの森の中では本領を発揮できない。


「……今日は帰って昼寝する予定だったのにさ!」


 だから俺は走る。走るのだが追いつかないそりゃそうだよ俺ランニング嫌いだったんだもん。どんどん開く犯人との距離、このまま逃げられるかと思ったその時。


「……あいてぅ!」


 突如盛大に転ぶ犯人。痛みに耐えかねたのかそのまま足を抑えてその場に転がる。


「畜生、なんでこんな所にまきびしが……!」


 ありがとう忍者警部補。普通に出勤してくれたらもっと嬉しいです。


「……悪いな、これも仕事なんだ」


 追いついた俺は腰の手錠を外す。こういう時、俺には言うべき言葉がある。警察学校で教わった、とても重要な言葉というのが。


「えーっと、なんだ。お前には黙秘権とか弁護士を呼ぶ権利が」

「サイバンなどというムダなシステムは存在しません。ベンゴシは死滅しました」

「あ」


 後から聞こえてくる声に振り返る。だがもう遅いワガハイデカの目の色は血の色に染まっていたのだから。


 放たれる熱線、漂う肉の焦げる匂い。苦痛にゆがむ転生者の顔別にゲームみたいに光の粒になったり消えたりしないそのまま全身を科学の力で焼かれ続けとうとう消し炭になる犯人。


 まあ、うん管理社会に見せしめって必要だもんね。


「サクジョしました」


 やったぜワガハイデカ今日もキルレシオが上がったぜ。


「しかしやはり悪は耐えない……あ、靴汚れちゃった」


 肩で息を切らしながら革靴についた泥をまじまじと見つめる署長。運動不足だよね実際。


「だがいつの日か真の平和が訪れるだろう……戦え異世界警察署! 犯罪を撲滅するその日まで!」


 明後日の方向を指差して、声高らかに宣言する署長。


 そう俺たちの戦いは、始まったばかりなのだから……!






「でも異世界転生って全部署長の仕業でしょ?」

「うん」

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― 新着の感想 ―
[一言] >>「……面倒だから死刑にしよ」 「ほう、貴様と意見が会う日が来るとはな」 ここに到るまでの流れが最高に笑えた
[良い点] いろんな意味で酷すぎるオチがそれまでの酷い流れを押し流していくかのよう。 姫騎士刑事の件は笑ってしまった。 [気になる点] 全体的に誤字が多く、地の文が区切りが悪い為読みにくく感じる部分が…
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