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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

白昼夢

作者:

高い壁と鉄格子で覆われたすり鉢状のコロシアム。

わあわあと観客が騒ぐ。

可動式の鉄柵で区切られた内で殺し合いが始まった。


記憶の始まりはサビまみれの鉄の剣とボロきれのような服で飢えた闘犬と対峙した所からだ。

黒く大きな闘犬は口のはしから滝のようにヨダレを垂らし、血走った目で獲物を狙っていた。普通の人間であればそれだけで死んでしまいそうなほど恐ろしいのに、不思議なほど何も感じない。

正面から向かってくる闘犬の左側に走り避けた。がら空きの胴体に剣を凪いだが切れず、たいした傷もつけられない。闘犬が回り込み大口を開けて迫る。切れないのならとはみ出てる舌に振り下ろす。切り落としはできなかったが半ばまで刺すことが出来た。怯み退くのに合わせ剣を抜き、目を狙う。再びの突進。たかく跳躍。上から、体重と重力で突き刺す。頭蓋を抜け、上顎から先が見えるほど深く突き刺さった。

倒れ伏す闘犬から突き刺した剣を引き抜くのに苦労する。サビまみれの剣はもろく、もうヒビがあちこちに入っていた。


剣が折れたのは四回目の交戦だった。

剛腕が自慢の人間のもつ手斧と打ち合った時、刃の部分が砕け散った。

足元にあった1mほどの鎌のような刺が生えている腕を拾う。速さであればこちらが有利。先の打ち合いで手がすこし痺れているが問題は無い。刃でなく柄の部分を狙い薙ぐ。半ばまで削れたが切れてはいないが、男は手斧を捨てた。直接殴りにくるなら好都合。避け躱し誘導し足を払えば刺のびっしりはえたトラップに倒れる。ひときわ大きな刺が喉の背中側から見えた。

拾った手斧は少し重たく感じたが、振るぶんには問題はないだろう。


手斧がなくなったのは十二回目の交戦だった。

ゲル状の人外に取り込まれて溶けてなくなった。

半透明の体に触れるのはなぜだか危ないと思い、手近なものを拾って投げた。取り込まれるとグズグズに溶かされてしまうようだ。篝火か何かの松明が落ちていた。混戦のなかで土台が壊れたのだろう。燃えていない端を握り、ほかの武器と同じように投げる。見事命中。液体燃料に火が燃え移ったように一気に燃え広がり、ガラスをひっかいたような耳障りな音が響く。

足下にあったモーニングスターは綺麗に残っていた。


モーニングスターが砕けたのは何度目かの交戦だった。数えるのが面倒になったからか覚えてない。

かなり硬い材質のゴーレムの頭を砕くのと一緒に砕けてしまった。かなり振りまわしやすい、使い勝手のよい武器だったのに。硬くて何度も何度も同じ場所を狙って殴っていた。ミシミシと鳴っていたし、目に見えるヒビも入っていたからそろそろと思い、跳躍し叩く。術者とゴーレムが前後に並んだ時、核ごと頭を砕けたのはよかった。倒れ込んだゴーレムに潰され下半身がなくなった術者の懐に飾りのついた短刀がしまわれていた。


短刀が折れたのは、巨大な鳥のカギ爪だった。

空を飛ぶ相手には少々不利な道具でお飾りも邪魔だと思っていた頃だ。滑空してきた嘴は避けれたが、その体に隠れた爪は間に合わず、短刀を突き出した。ほんの少しの傷の代わりに刃の半ばほどでぽきりと折れた。 何回か前の黒ずくめの人間が持っていた鎖鎌は短刀より使いやすかった。このとき首をはねたため頭から血をかぶりボロきれのような服がますます赤くなってしまった。

滴る血は鬱陶しいと知った。


気がつけば周りが静かだ。

区切られていた鉄柵はなくなっており、立っているのは自分ひとり。

なにか観客に言われているようだが、何を言っているのかわからない。わあわあとがやがやとこちらについて言っているは分かるが、話している言葉は理解できなかった。


新しいのが来る。首をはねる。新しいのが来る。トラップを使う。新しいのが来る。殴る。

何度繰り返したか、数えるのが面倒なほど戦った。

獣だったり、人間だったり、化物だったり、大きかったり、小さかったり、とバラバラだった。

男や女。大人に子供。複数。単数。様々なモノが来た。

全て殺していった。

一撃で、切り刻んで、蹴り転がして、叩き潰した。

刃物だった。鈍器だった。松明だった。なにかの残骸だった。

なぜだか殺し方は知っていた。どこか遠くで習ったような、強い誰かを見ていたような、昔からやっていたような。


どれほどそうしていただろう。どれだけなにかを殺したか。

数分か、数日か。何年も、何十年もいたような気もする。

目の前には若い男。商人と言われる奴らしい。

自分を買ったという男。

足には重り、手には枷。


これは武器?男は敵?


人を殺すのに道具はいらないと

いつのまにか鍛えられたこの手で首をへし折った。



とてもとてもたのしかったの

つよいやつとたたかうほど

からだのおくからあつくなって

あたまはどんどんさえていく

たおしたときのこうふんも

きずをつけたかいかんも

とってもとってもたのしかったの

せすじがあわだつあのかんかくが

みるがわでしかなかったのに

このてでこのみでころせることが

うごけることがたまらなくうれしくて

いきているぎりぎりを

きょうかいせんのはのうえを

はだしでふらつくようないまが

なによりもたのしかったのよ

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