ギンコ・ゴートーオブスレイ ー前編ー
ここからはユリコの語りではなく普通のナレーションです。
自身の祖父を追って山のふもとにひっそりと建つ神社に駆けこんだユリコ。神社の一室には電気が点いており、中には祖父がいた。すでに布団も敷いてあったので、ユリコは詳しいことは後回しにしてそのまま眠りにつく。そして朝、日曜日だ。朝ご飯に神社に仕える巫女に作ってもらったモツ鍋を祖父と共に食しながら昨日の情報整理を行うことにした。
「で、おじいちゃん。昨日のことなんだけど。」
「そうじゃな。こうなってはユリコにも詳しく説明してやらんといかん。・・・・・で、どこまで話したんじゃったかのう?」
「ヤクザ・モンどもが持ってた刀の話からだよ。瞬花の話は聞いた。」
「おお!そうじゃったか!」
ユリコはこの状況での祖父の悠長さに呆れながらも、祖父の話を真剣に聞き始めた。
「さて、あのヤクザ・モンどもが持ってた刀。一見普通のヤクザソードだが、実はあれは瞬花のような特殊な能力を持つ刀のコピー品なのじゃよ。」
「コピー?量産されてるの?」
「ぎょうさん量産されとる。」
「そういうギャグ今はいいから。」
「あ、そうですか。」
「続き。」
「オホン!その特殊な刀と言うのが、3本の妖刀のようなものに対抗するべく後の世に作られた、聖刀なのじゃよ。」
「聖刀・・・・・。」
「そうじゃ。それで、ゴクドーカイ・ヤツザキドーの手にあり、量産されておるのが12本あるその聖刀の一つなのじゃ。」
ユリコは祖父の話を聞いていて、一つ不審な点に気付いた。
「ってかおじいちゃん、なんでそんなに詳しいの?」
「え?それはわしの父上が当時その聖刀を管理してたからじゃよ。父上の死亡と共に行方をくらませておったのじゃが、まさかゴクドーカイに盗まれておったとはのぉ。」
「ヤバイねそれ。」
「そうじゃな。これからもゴクドーカイは、瞬花を含む3つの妖刀と、残り11本の聖刀を狙ってくるじゃろう。」
これからも妖刀を狙ってくる。その言葉を聞いて、ユリコは自分の足元に置いてある妖刀を握り、胸のあたりまで持ち上げて眺めた。そしてユリコは大きくため息をついてから話し始めた。
「おじいちゃん、アンドロイドは妖刀を集めて世界を支配するとか言ってた。刀を持ってたら私が危ない、刀を渡しても世界が危ない。やるしかないよね。」
「そうじゃ!全てを終わらせるにはゴクドーカイを倒すしかない!わしも協力しよう!」
張り切る祖父とは裏腹に、ユリコの決意は自衛を行うというだけの淡いものであった。しかし、それでもやるしかないと思うと、ユリコは再び大きなため息をついたのであった。その後朝食を完食し、片づけも巫女に任せて2人は再び今後の行動について会議を始めた。その内容は非常にシンプルであった。
「そうと決まればまずはケンドーじゃ!!」
「ケンドー?昔少しだけやったことあるけど、それがなんになるの?」
「ケンドーは古くから剣技の基礎としてあらゆるサムライたちが学んできたものじゃ。ケンドーを極めた者が、戦いを制するのじゃよ。」
「ふーん、つまりは修行ってわけね。」
「うむ!今日からビシビシいくぞい!まずは準備運動からじゃ!」
こうしてユリコの修行の日々が始まった。始めは体操やランニングをこなして、その後に木刀を持って素振りを何十、何百と繰り返した。ユリコは元からそこそこの運動神経はあったものの、運動部のように激しく動き続けることはなかったため、特訓メニューを少しこなすと息が上がってきてしまった。それでもユリコはその後も全身を使う非常に疲れるケンドーの特訓を続け、午前の特訓メニューをこなしてみせた。
「よし、午前はここまでじゃ!早速昼食の用意をしてもらうぞい。」
「はー!疲れたー・・・・・。」
ユリコは顔中を流れる汗をタオルで拭くと、そのまま縁側に座り込んだ。妖刀を身に着けていない状態ではやはり通常の非力な女である。あの屋敷でヤクザ・モン達を蹂躙したのも、すべては妖刀の力によって身体能力が飛躍的に強化されていたからである。ユリコは修行をすることで、改めて当時の己がいかに異常な状態であったかが実感できた。これにより、修行にも多少は誠意をもって打ち込めることだろう。祖父が麦茶の入ったボトルとコップを持ってユリコの元へと来た。
「ユリコや、初めての修行ということもあり体ならし程度のメニューにしたが、どうじゃ?」
「え、あれよりもっと激しいの?体追いつかないって・・・・・。」
「大丈夫じゃ!あの時も妖刀をあれほどまでに使いこなしたのじゃ。おぬしならば一週間たらずでそつなくこなせるようになるはずじゃ。」
「そうかなー。」
「まぁまぁ、麦茶を飲んで、昼食後は休むがよい。それからは、午後も1時から6時まで修行じゃぞ!」
「はーい。」
ユリコはやる気のない返事をしてから、祖父から受け取った氷水のように冷えた麦茶を一気に飲んだ。そして昼食のモツライスを食べ、1時になると再び修行に打ち込むのであった。
そして時は流れ、オレンジ色の夕日が町を照らす夕方の5時。住宅街に囲まれた神社から遠くにある繁華街の路地裏で、5,6発の銃声が響く。
「おいコラ!さっさと金目のモンわたさねぇから勢い余って全員殺しちまったぜ。」
「仕方ねぇぜ親分!あいつら電気ショック銃なんて持ってやがったんだ!」
そこには黒光りする銃を持った4人の男と、アワレにも胸や頭部に風穴を開けられて死体となった3人の女子高生がいた。南無阿弥陀仏。男たちはヤクザ・モンにも劣る恐喝殺人の常習犯グループだ。今は3人の女子高生を捕まえて金品を要求しようとしたところ、懐やバッグから電気ショック銃を取り出そうとしたので、やむおえず発砲、殺害したのだ。電気ショック銃は世界を牛耳る超大企業「ワールドワイド・ヤマモトカンパニー」の制作した護身用の銃で、殺傷能力がなく最善の護身手段として爆発的にヒットした商品だ。相手に銃弾の代わりに電気ショックを放ち、そのまま気絶させるというものであり、さらに相手の放った銃弾の軌道をそらし、失速させる電磁波も放つという優れものである。しかし、すでに構えているのであれば銃の方が早い。女子高生たちが電気ショック銃を最後まで隠していたことが今回の自身たちの敗因となったのだ。男たちはこの死体についてどうするか議論を交わしていた。
「で、これどうずんだ?俺ァ死体とヤるなんて趣味はねぇぜ?」
「あったら怖いですよ。とりあえず金目のモンだけ奪って逃げやしょうぜ?」
「目利きは任せるぞ、スズキ。他の2人は外見てこい。」
親分と呼ばれる男が3人に指示を出す。スズキと呼ばれたものは死体漁りをはじめ、残りの2人は繁華街の外で異変に気付いた者がいないか確認するために、外へ出るべく振り向いた。しかしそこにはこのグループにとって驚愕の光景があった。なんと2人のマシンガンを構えたスーツのヤクザ・モンと、その2人の間に高級そうな白いスーツに赤いネクタイを身にまとった金髪オールバックの男が立っていたのだ。この男達もゴクドーカイ・ヤツザキドーのヤクザ・モンだ。2人はすぐに異変を親分とスズキに伝えたが、そこで金髪の男が「動くな!!」と一喝。グループは固まったままヤクザ・モンを見ているしかできなかった。
「見てたぜ~?ずいぶんなことするじゃねぇか。」
「親分、こいつヤクザ・モンですぜ!」
「ダメだ、銃を構えている。」
親分も、手下の3人もおびえていた。この世界ではヤクザ・モンは食物連鎖の頂点。弱肉強食の世界の支配者なのだ。親分は部下と共にドゲザして、恐怖のままに命乞いを始める。
「ど、どうか見逃してください!金目のモンも全部渡します!だから、お命だけは・・・・・!」
「おいおい、顔上げてくれよ。俺はそもそもお前らを殺ろうって気も金目のモン奪う気もねェ。お前たちに、俺たちを助けて欲しいんだよ・・・・・。」
親分は「え?」と言うように困惑したような顔で部下と共に顔を上げた。それを見ると、金髪の男はドゲザする親分に近づき、その目を相手の目線の高さに合わせて話し始めた。
「実は昨日、大きな仕事の前に俺の部下が反抗するヤクザの屋敷を襲撃したんだけどよ、なんでかみんな死んじまって人で不足なんだよなぁ。そこでお前らみたいな犯罪慣れしてるやつを捕まえて戦力の足しにしようってことになって、困ってた所偶然お前らを見つけちまったんだ。報酬はお前らが一生遊んで暮らせる額の金を用意しよう。もちろん、引き受けてくれるよな?」
「は、はい!やらせてください!命が助かって、金までもらえるなんて嬉しいこたぁないですぜ!!」
「おうおう、いい子だぜ。おい、こいつらを車に案内しろ。」
親分の答えは決まっていた。即答だった。ヤクザ・モン相手にこんな虫のいい話はないが、どのみち断ればこの場で処刑。拒否権はなかった。金髪の男はマシンガンを持ったヤクザ・モンに車への案内を任せ、グループの4人はそのヤクザ・モンの後に続いた。金髪の男はそれを一番後ろで怪しい笑みで眺めながら、ゆっくりと歩いて車へと向かった。