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エピソード1 ブラッド&モツパーリナイ

昔おじいちゃんから聞かせてもらった昔話を、今も覚えてる。3本の妖刀と、悲しい人生を生きた男の話。江戸時代中期だろうか。その男は幼いころに両親を失い、商人一家に引き取られた後はまるで奴隷のように昼も夜も働かされたのだという。そんな日々を5か月もの間過ごしていたある日、男は商人一家が家宝として大事にしていた刀に触れてしまう。その瞬間を見つかり、商人一家に殺されそうになったその時、男が手に持っていた刀は紅色の刀身をした妖刀に姿を変え、気付いた時には商人一家を皆切り捨てていたのだという。そして男はその妖刀を手に、流浪の旅に出るのだった・・・・・。これが、一つ目の妖刀「瞬花しゅんか」のお話。私は純粋にその話は好きだった。そんなすごい刀が本当にあるなんて思わなかったけど。でも認めざる負えないな、いま私が持っていて、それで目の前にいたヤクザ・モンを切り裂いた、それこそがこの妖刀「瞬花」なのだから。



これはこの状況から約3時間前だろうか。私の名前は白咲しろさきユリコ。特に大したこともない三つ編みツインテのハイティーン。その日は3人の友達と遅くまでカラオケに行ってたの。クールなドリンク飲み放題、イカした音楽歌い放題、そりゃもう楽しかった。カラオケを存分に楽しんで、店を出る頃には外は真っ暗。空はきれいな星空だった。3人の友達に「また学校で」なんて会話を交わして、そしてバスに乗って帰ってきたのが、今から5分前くらい。私の家は大きな和風のお屋敷みたいな感じ。私、ヤクザの娘なんだ。玄関の前に立って和風引き戸を開けると、いつもはパパの舎弟のみんなが迎えてくれるんだけど、今日は違った。玄関からの景色からしてまったく違った。舎弟のみんながモツやらなにやら撒き散らして廊下で死んでいたのだ。


「なにこれ、モツ煮パーティ?ってなわけないか。」


自慢ではないが死体への体勢が異常に高い私は、これを他のヤクザの襲撃だと速攻で理解した。耳を澄ませると、屋敷の奥の方で刀がぶつかり合う音や、ドスの効いた男の掛け声や女の悲鳴が聞こえてきた。


「セイヤー!」


「ズババー!!」


「イヤーオタスケー!!」


私は急いで土足のまま屋敷の奥へと駆けていった。途中の部屋で飾られていた白鞘の刀、ヤクザソードを手に持って、モツをまき散らして死んでいる舎弟や召使いレディを踏み越えて、とうとう私は一番奥の部屋で、ヤクザソードとは違う、素敵な刀を手にしたおじいちゃんの元へとたどり着くことができた。そこには今にもおじいちゃんにヤクザソードで斬りかかろうとしていたダサいスーツ姿をしたヤクザ・モンの男がいた。


「おじいちゃん!!」


「ユリコか!来ちゃいかん!!」


「アァン?なんが女か。」


「女だからって舐めんなコラー!!」


男が私に向きなおすと、私は持っていたヤクザソードを抜いて男に切りかかった。


「セイヤー!」


「フンガー!」


私が振り下ろしたヤクザソードを、男は技のカケラもない力技で斬り払い、私はその勢いでしりもちをついてしまい、私の持っていたヤクザソードは天井に突き刺さった。南無三!私は男に逆に追い詰められてしまったのだ。男の笑みとともに、私の首元に向けられるヤクザソード。私も、廊下の人たちと同じようにモツをまき散らして死んでしまうのか・・・・・。あの世でもモツ鍋食べられるかな?そんなことを走馬灯じみてフラッシュバックする幼いころの記憶と共に思っていたその時だった。おじいちゃんの持っていた刀が、赤く薄い霧を放ちながら私の手にふわふわと吸い寄せられてきたのだ。


「な、なに・・・・・?」


「な、なんだコラー!手品かコラー?!!」


「おお、こ、これは!」


困惑する私と無駄に威嚇を始める男。おじいちゃんだけが、何か確信を持ったような表情をしていた。そして、寄ってきた刀を私が握りしめたとき。



私は、豹変する。



私は両手と両足を使い、人間とは思えないようなゴキ〇リじみた速さでバックして立ち上がると、その刀を抜いて黒い刀身を晒し、鞘を捨てると私の瞳が血のように真っ赤になって、闇に光った。


「な、なんだテメーは?!」


「今からモツの盛り合わせになるヤツに、答える義理なんてない。」


「なんだとゴラー!!」


ヤクザ・モンが私に斬りかかってくる。しかし今の私は違った。私は男のヤクザソードを斬り払い粉々に砕き、鼻筋に一文字の傷をつけてやった。その瞬間、私の刀は黒い刀身から、まるで血を吸ったかのような真紅の色に変化した。そこからは一瞬だった。


「セイヤー!!!」


「ズババー!!」


紅く染まった刀はまるで紙のように軽くなり、斬った感覚もわずかなほどの切れ味で、私は男を3枚オロシに変えたのだ。


「ワオゥ!!見事な3枚オロシ!!」


おじいちゃんはあまりの美しさに歓喜の声を上げた。そして騒ぎを聞きつけた屋敷の中にいた他のスーツのヤクザ・モン数名が、私のところに集まってくる。私はそれに臆するどころか、まるで獲物を前にした獣のごとく舌をなめずる。


「「「シネヤコラー!!!」」」


スーツのヤクザ・モンが一斉に私に斬りかかってくる。これも一瞬だった。


「セイヤー!!!」


「「「グババー!!!」」」


私はスーツヤクザどもを瞬く間に両断し、全滅させた。そこに残っていたのは私とおじいちゃんと、モツの塊になった死体どもだけであった。そして現在に至る。南無阿弥陀仏。



私はもはや死体屋敷と化したこの場所で、唯一綺麗だった風呂場周辺へとおじいちゃんと共に来ていた。そしてシャワーを浴びて返り血を落とし、身体を拭いて制服に着替えると、客室の間に待たせていたおじいちゃんと共に今の状況と今後の行動について考えることにした。


「遠くに住んでるお父さんやお母さんは無事として、まず何から聞こうかな。」


「まずは今ユリコが持っている刀からじゃ。3つの妖刀の昔話はよく聞かせてやってたもんじゃな。」


「そうだね。私も、男の悲しい運命がどこか好きだった。」


「うむ、そしてこの3つの妖刀はな、ただのおとぎ話ではなく実は実在するのじゃ。今ユリコが持っている刀がその一つ・・・・・。」


「一つ目の妖刀、瞬花・・・・・。」


私は鞘に納められた刀を手に持って眺める。


「そうじゃ。そしてその3本の妖刀が実在することに気付いたヤクザ・モンどもがさっき、攻めてきたのじゃよ。わしらも抵抗したのじゃが、やつらなかなかの使い手でのぉ・・・。」


「たしかに、屋敷には30人くらいの舎弟さんがいたはずだけど、皆殺しにされてた。だけど、あのスーツのヤクザ・モンはせいぜい5,6人くらいしかいなかったはずだね。」


「そうじゃな、それを可能にしたのは、その刀と同じように相手の刀にも特殊な力が宿っていたからなんじゃ。ここで詳しく説明してやりたいところじゃが、そろそろ向こうが異変に気付く頃じゃろうて。ここから逃げるぞい!」


おじいちゃんはそう言って立ち上がると、部屋の窓から外へと出て行った。私もそこから外に出ておじいちゃんについていくことにした。


「ねぇ、逃げるってどこかアテでもあるの?」


「あるぞい。山の中にあるわしの神社に住み込む。」


「えぇ、私あそこ苦手。虫がうるさいもん。」


「この際文句はナシじゃ!」


そんな会話をしながら夜道を進んでいく。そして神社手前の角を曲がると、その先で中学生くらいの女の子が待ち構えるように立っていた。私は不審にに思いながらも、その女の子に話しかけた。


「君、こんな夜中になにしてるの?なんとなく察しはつくんだけどー・・・・・。」


「ユリコや、この小娘・・・・・。」


「アンタガ屋敷ヲ攻メタヤクザ・モン共ヲ皆殺しニシタヤツダナ?」


案の定、女の子はあのヤクザ・モンの仲間だった。しかもこれは、今急速に広まりつつある人型アンドロイドだ。見た目は人間と見分けがつかないが、機械音の混じったボイスが機械である何よりの証拠だ。その手にはヤクザソードが握られている。


「おじいちゃんは先行ってて。」


「えぇ?!わし殺されない?」


「ジジィノ方ハイイヨ。アタイノ目的ハ妖刀ダカラネ。」


「そ、そうか。それじゃわしはこれにて。」


そそくさと屋敷へ向かうおじいちゃん。私はそれを見送ると、アンドロイドと会話を始めた。


「で、アンタたちの目的は何?」


「ソリャモチロンソノ妖刀サ。ソレサエアレバ、アタイラ「ゴクドーカイ・ヤツザキドー」ガ世界ヲ支配スルコトモデキルカラナ!」


「ヒーロー番組の悪役じゃないんだからさ・・・・・。」


私が呆れながら話を聞いてると、アンドロイドは最後に伝言を言ってきた。


「ソウダ、最後ニボスカラ伝言ダゾ。「我々はどんな手を使ってでも、3本の妖刀を集め、世界を支配する。貴様も妖刀の呪いから逃れられると思うな。」ダソウダ。チナミニアタイハコノ伝言ノ再生ヲ終エタ瞬間ハイパーバトルモードニ移行スル。オイノチチョーダイ!!!」


伝言を終えたアンドロイドが一瞬にしてヤクザソードを抜いて斬りかかってきた。しかし私はアンドロイドが刀を振るより速く、居合のごとく瞬花を抜くと同時にアンドロイドを斬りつた。


「セイヤー!!!」


「アババー!!!」


憐れにも斬られたアンドロイドは胴体と下半身がサヨナラしてそのまま地面に落ちていった。南無阿弥陀仏。そして私はアンドロイドのすべての機能が停止したことを確認して、おじいちゃんの待つ神社へと向かって歩き出した。

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