あんたの歪んだ精神、根元からぶちのめしてやる!
大岩の地。(アゼル山脈の東部一帯)
そこは岩の聖地で、巨大な岩たちが重なり合い、その偉大さは恐れをも感じさせるものだった。切り立つ岩肌はどんなものでも切り刻めることができる強固な剣、またどんなことでも崩れない強固な守りと信じられている。その為、昔から人々は何かあるとすぐそこにかくれていた。
それは今も同じだ。その複雑に絡み合った岩の間を縫うように地下深く進むと、地下帝国に辿り着く。人々が無意識の内に大岩に頼っているのは言うまでもないだろう。
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午後三時過ぎ、俺達は仕事を終え、健太の家へ早々と向かっていた。しかし、家まで200メートル足らずの所で、足止めをくらうことになる。まず、俺たちの目に映ったのは、妙に群がった5人の姿。よく見ると7,8歳くらいの子供を中央に、まわりが罵声を掛けている様子だった。
「おい、テメェ。どこ見てほっついてんだよ!俺の服がテメェに触れたせいで汚れちまったじゃねぇかぁ?」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
どうやらその子は、見た目からして15,6の人間にぶつかってしまったようだ。それに、よりに寄ってGRFRに。GRFRとは、一般にフリークを指す。フリークは分かり易く言えば、獣人だ。例えば、今、ヒステリックに喚きながら子供の胸倉を掴んでいるGRFRなんかは、狐のような黄金色の耳を持っている。そいつの耳はピクリ、ピクリと動いている。ありゃ、早死にするだろうなー。
「ごめんなさい、ごめんなさい 」
子供が今にも泣きそうに顔を歪ませた。それををヒステリックな少年の仲間であろう少年たちが愉快そうに笑いだす。
「ハァ」
これだから野犬は困る。俺は呆れと同時に深くため息をついた。
「ん」
変に立ち尽くしていると、奴らは俺たちに気がついてじろみしてきた。それもそのはず、この廊下には奴と俺たちしかいないのだ。昼間に住宅街にいるのは子供か、不良か、病人くらいしかいないもの。他は仕事だ。もちろん、GRFRにも仕事がある。軍の仕事が。そして彼らが普通の住宅街に来ることは滅多にない。ということは、こいつら不良の類だな。
一瞬、絡まれるかと思ったが、あいつらは俺らを無視し、子供を虐めるのを再開しだした。そんなに、子供は面白いおもちゃなのか。狐が子供に向き直ると、子供は本当に泣き始めてしまった。それを見た周りの奴らがわざと耳に手を当て、大袈裟に顔をしかめて非難しだす。
「おい!おめぇの頭は猿か!」
俺は大股で歩み寄って、そう怒鳴った。向こうの動作がぴたりと止り、ピリピリとした不穏な空気が流れる。少年のひげが、ぴくぴくと動き始めた。
「ユ、ユウト!」
健太が悲鳴に近い声で、そう俺を呼んだ。確かに相手は年上で、尚且つフリーク。力の差は言うまでもないだろう。しかし此処まで来て退却等は有り得ない。俺は再び声を張り上げた。
「年下をいじめるなんて、かっこ悪いぜ。フリークかなんか知らんが、もう少し人間らしくしたら?それ以上に動物らしくなったら、上をほっつき歩く怪物となんも変わらねぇ。だろぉ?」
周りのフリークたちが俺をこの世のものではないかのように見る。視線が半狐の男子に向けられた。
「よーくーも、俺たちを侮辱してくれたなぁ。平民よぉ。いや、違うなぁ?白髪の老いぼれと、弱虫ハイエナ、それに、メスのカラスってとこか!そうだろ?」
周りのフリークたちは一気に力を得たように、そうだ、そうだと、声を上げだした。
「なんだって?」
俺は不機嫌な声を上げた。俺たちをそう呼んだからには赦さねぇ。麗も顔を赤くし、わなわなと震えているようで、健太は逆に青白い表情になっている。
俺はコートを脱ぎ捨てた。それに合わせ相手もコートを脱ぐ。先ほどの子供は投げ捨てられ、こちらのほうに逃げてきた。すると、麗が男の子に応じた。
「後は任せて、逃げて。わたしたちがあいつらをコテンパンにしてやるんだからっ 」
麗はやる気満々で、声を張り上げた。
「かかってこい!私にフリークの力を見せつけてくれない?案外強いんだから。あんたたちのメンタル傷つけてやる!」
だがその声はフリークたちに笑い飛ばされてしまう。
「何よ何よ?私じゃ足りないわけ?」
「ウヒィ、お前なんて一蹴りで終わっちまうよっ 」
フリークがケラケラ笑い、もともとつり目なのにさらに目を吊り上げ、なんとも顔が酷い有様をしている。
「フン、女子に負けるのが怖いだけでしょ。この弱虫が。」
麗が吐き捨てるかのように言った。すると、狐は何かいいものでも考えついたかのように目を細めた。
「そこまで言うならいいだろう。俺たちの中で一番身柄が低いやつと闘ってみろ。
白髪! もし、女が負けたら、人質になるってことだ! 楽しみだな?」
「そ、そんな卑怯なこと」
不安で口籠る。
「言い始めたのはこいつだぜ」
そこで俺は後ろを振り返り、やめろと口パクをしたが麗は聞いてくれなかった。
「いいの。絶対に負けない自信がある」
「だとさ」
狐が楽しそうに言う。とても不安だが、麗を信じるしかなさそうだ。事実、地味に麗は強い。1対1なら多分負けない。勝つか、逃げるかするだろう。麗は複雑な地下道のスペシャリスト。絶対に追いつけない。
「狐、あんたのその歪んだ精神、根本からぶちのめしてるよ。俺はあんたに負けない」
俺はそう言い、フリークたちを睨みつけた。
戦いの始まりだ――
~アゼル帝国の豆知識~
歴史的背景
五つの植民地を得た黄金時代に、新生物である狂獣によって衰退の一途を辿ります。それで国は解決策として植民地もろとも地下へ潜りました。
※この地下帝国を別名、アングラウンドと呼ぶこともあるのでお気を付けください。
ユウトが生きているのはそれから150年後。植民地は自然解消し、わりかた平和な時代になりつつあります。
地形
アングラウンドはアゼル山脈の地下にあります。もし帝国を地面ごと真っ二つに割れるとしたら、卵型の奇妙な世界が露わにされるでしょう。卵上方は山の中で標高的には地下ではありません。しかし土の中であることには変わりませんので地下として扱おうと思います。
長文をすみません。小説本文でも扱いますので、宜しくお願いします。