プロローグ
拙作ですが、楽しんでいただければ幸いです!
宜しくお願いします。
気づけば、男たちの首が飛んでいた。しかもそれは、一瞬にして一斉にして起きたこと。男たちの頭の鎧がそれぞれ、日の光を散々と照り返し、ドクドクと溢れんばかりの血液をまき散らす。まるで、横に並ぶワイングラスが一斉に赤い液体を周囲にぶちまけたかのようだ。無意識にボーとそれを眺める。
「……! 化け物だ、コイツは化け物だぁぁ!!」
目の前の兵たちが俺を指差して叫びだした。呆然とした意識の中、ぬるっとした感触に手を見つめる。ああ、血だ。開かれた手には、血と何か黒い肉のようなものがこびれついていた。
「あ……ああ……」
口が重たい。何も喋れない。
「敵を恐れるな! こいつを殺せば内部に侵入できる。この戦い、われら――グハッ」
手で周囲を薙ぎ払った。何かが飛び、何かが崩れ落ちる。
「ヒイッ……!」
周囲が息をのんだ。恐怖にチラつく目線を感じる。
「お……おれは……」
正直、周囲による攻撃よりも、自分の内の強い感情を押えることで精一杯だった。臓器の奥底からザワザワとした嫌なものが蠢いてくる。それは良心を食い千切ろうと一生懸命で、憎い。まるで寄生虫のようだ。本体を食って、ぶっ壊して、生きたまま弄ぶ。きっとこれはそれぐらい恐ろしいものなのだろう。
「あああぁぁ!!」
奇声を上げ、よだれを垂らした。もう、限界だ。耐えられない。どう足掻いても、どう泣き叫んでも、どう願っても変わらない。俺は俺のままだし、この世界は冷徹なまま。もう、どうしようもないんだ。俺は泣きたかったが、俺の体はすでに人ではなかった。だから涙なんてモノ、俺の目には存在しない。
「ああ……」
赤い景色の中、己の何かと戦いながら、俺はそっと願った。――せめてあの時に戻れたら。そしたら、俺は自分を説得していたはずだ。甘い夢なんて抱くな、夢を追って自分を苦しませるなと……。――俺は唇を噛んだ。鉄の味がじわっと広がるが、逆にそれがおいしく感じられる。なぜだ。これは、俺がよく知っている嫌な味だったはずなのに。
「……そうか」
そうか、俺は負けたんだ。そしてそれを悟った瞬間に力が急に、まるで空気が抜けたかのように萎んでしまった。己の呪われた力に抵抗する気力も湧かない。けど、これでいいんだ。さっさと楽になれば良かった。
「笑えるぜ、どんなに強くなっても頑固だけは治らなくてよ……」
もう戻れない。もう取り返せない。後悔を滲ませながら、俺の意識は深く深くに沈んでいった――