いつもの朝 by蒼
「うむ!
我ながら、美味い味噌汁だな!」
出汁の鰹節にこだわっただけあった、と思う。
アルレリアの時には研究優先のため、かなりの頻度で限界に達するまで没頭し、空腹と栄養、睡眠不足で倒れていた。
しかし転生して思った。
「健康を維持してこそ、長時間研究が出来る!」と。
倒れていた(2~3日治療室で気絶していた)時間を何十回も繰り返していたのは、今から思えば時間の無駄遣いだったと思う。
倒れないためには、適度な運動と食事があればいい。
もちろん、魔方陣を描くための材料の調合も得意としていたオレ。
時折ロスに無理やり魔法薬や治療薬の調合をさせられるくらい、実力があった。
よく医師長には嫌な顔をされたものだが。
料理も、調合の一種だと思うとやりがいを覚えるぞ。
いそいそと茶碗にご飯をよそい、いつものように静かな朝のリビングで、一人静かに食べる。
妄想に浸っていても、誰にも気づかれないからだ。
(今日はようやく、ようやく!
アレを試せるのだ!)
ぐふふ、と内心笑いながら食べ終えると、ちょうど父親の稔がリビングに入ってきた。
「おはよう。
もう行くのか?」
「おはよう。
父さんこそ、毎日早いね。
オレは、今日、早く登校したいし」
「そうか。
お、ありがとう」
茶器を下げるついでに、父親にこだわりのお味噌汁とご飯、選びぬいた茶葉で暖かいお茶を注ぐ。
暑くなる時こそ、飲み物は温かい方が良いのだ。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
「おう。蒼も気をつけて行ってこい」
早速朝食に手をつけた父親の言葉に押されつつ、置いてあったカバンを持ってそのまま玄関に向かう。
もちろん、途中で手洗いと歯磨きを済ませてからだ。
「行ってきます」
我ながら、ものすごく上機嫌な挨拶になっているのがわかる。
語尾に音符をつけたい気分なのだ。
いやあ、この世界の「学校」というのはスゴイ。
術を使わずとも、敷地内には関係者立ち入り禁止なのが徹底されている。
つまり、関係者が明確なのだ。
ならば、関係者が敷地内に不在な時間も、学校という特色柄明確なのだ!
「いやあ、この世界で「実験」する場所の確保、苦労すると思ったのだがなぁ~」
「魔方陣」や「魔法」など存在せず、それらは「中二病」な人が使いたいと願うモノ。
そんな認識のこの世界にもちろん、その実験のための施設などある訳がない。
しかし!
「魔方陣」に関する最高峰であり!
ガルファーナの歴史上、最高の「魔導士」と言われたオレに不可能ではなかった!!!
この世界「地球」で、「魔方陣」の実現に成功したのだ!
いやもう「魔方陣」が使えるならオレ、「中二病」患者でイイ、と思っている。
つーか、この地球にも魔獣が出現しているし。消されてもいるみたいだから、「中二病」患者、もとい魔術師的なの、いると思うがな~。
中間試験期間中の夜、父親の通勤ルートに出現した魔獣を「魔方陣」で撃退した蒼は、晴れ渡った青空を見上げながら首を傾げる。
自分と同じ病の患者など面倒に決まっているので、探す気はない。
しかし、世間の常識と世界の理の差異は、若干気になるのだ。
「まあ、いいか」
開いたばかりの校門から学校に入った蒼は、裏庭の方に足を進めた。