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蒼の考察 by紫苑

今度は弟君の視点から。

 唐突ですが、僕の兄「嵯峨野 蒼」について、聞いて下さい。

 あ、僕は「嵯峨野 紫苑」。

 嵯峨野 蒼は僕の2つ上の兄です。


 僕の兄は、かなり変なんです。

 かなり、いやものすごく、ですね。

 世間的には、「寡黙で文部両道、家族を大切にする男前」と評価されています。

 いえ、そうですけどね、対外的には。

 本人は「対外への仮面は必要だろ」とか言ってましたが。

 本性は……、あれ?

 ものすごく家族を大切にしてくれているのは、本当ですね。

 僕にも、兄として厳しくも優しいです。

 僕の友人の兄は、友人をとても虐げているそうですが。


 世間の評判は良い兄ですが、ものすごく変わった人なのでもあるんです。


 例えば、兄が3歳の誕生日プレゼントで、「古武道」「なぎなた」を習わせて欲しいと頼み込んだらしいです。

 赤ん坊の時、いつ死ぬかわからないほどぐったりしていたらしい兄に、両親は「確かに身体を鍛えた方が良いかも」と思ったらしく、OKしたそうです。

 でも、なぜ「なぎなた」?


 ちなみにどうしてそんなことを知っているかと言うと、僕が小学校2年の頃ちょっといじめられていた時、兄が圧倒的な力で助けてくれたんです。

 だから、どうして「兄は子どもなのに強いのか」と両親に聞いたんです。

 ついでに兄にも聞きました「どうして古武道となぎなたをしようと思ったの?」と。

 そのどちらも、近くに道場があった訳ではなかったので。


 兄は言いました。

「戦うには、技術が必要だからな。

 ここでは、古武道と薙刀が良いと思った。

 父母には「身体を鍛えたい」といえば、許可が出ると思ったしな。

 まあ、道場は4歳からしか許可されなかったが


 あ? 剣道?

 戦……、有効な間合ってか。まあ、役に立ちそうな体術だと思った。

 次は杖術を考えてるな」


 ……、変な人です。

 当時10歳の子どもの言葉です。

 ちなみに、今は3道場で師範代の腕を持っています。


 また、変な本を集めている人です。

 なんと言うか、オタク……?とはなんだか違う気もしますが。

 2次元系の本ではありません。

 でも怪しいんです。

 なんか「魔法」とか書いてある本や宗教や物理、錬金術……。

 一見すると「中二病」に罹患しているようです、兄はもう高校3年ですが。

 でも妙に専門書なんですよね、文字ばかり…。なんというか、専門書なんです、中身が。

 日本語の本だけではないのが、我が兄らしいのですが。


 そう、兄は本当に頭が良いのです。

「言語習得をしなくてどうする。幸いここは、インターネットから無料で情報が得られるからな。

 親に負担かけずに済む。少しくらいなら自分で何とかできるが、オレはまだ未成年だからな」

 とか言ってました。

 化け物級です、兄の成績は。

 何カ国言語を話せるのでしょうか、聞きたくない感じです。

 ついでに株か何かで、学生身分以上にお金を持っているようです。

 曰く「本代は自分で稼ぎたいと頼んだ」らしいですが。

 何でアラビア語で本が配達されてくるのでしょうか。

 ちなみにバイト(肉体労働)は、「時間がもったいない」らしいです。


 あと、兄の趣味はアクセサリーを作ること、のようです。

 聞いたら「まあ、派生だがな」とか言ってました。

 ファッションに疎そうな兄メイキングアクセサリー、ものすごくカッコいいんです!

 絶対売れるし、人気になります!

 兄の絵画能力はスゴイと思っていましたが、遺憾なくここで発揮されている気がします。

 でも「売り物じゃねぇ」と言って、自分と家族にしか作ったものは渡していません。

 僕もいくつか持っていますが、「絶対外すな。常時身につけろ。違うのが欲しけりゃ作ってやる」と言われたストラップとベルトアクセを、とりあえず常時持ち歩くようにしています。

 カッコいいので、嬉しいですしね。

 兄自身は、自作のアクセを目立たないように多数身に着けているようです。

 髪は染めていないし、成績はトップですし、礼儀正しいですし、教師たちも目くじらを立てていないようです。


 変な兄ですが、兄は兄。

 僕をとても大切にしてくれているのがわかります。

 ブラコンと呼ばれても仕方がないくらい、大好きですしね。


 でも、僕には不安があります。

 僕が7歳になった時でした。

 夕食の後、僕が誕生日ケーキのろうそくの火を吹き消した後です。

 にこやかだった兄が、突然真面目な顔をしたのです。

「父さん、母さん。それに紫苑。お願いがあるんだ」

 と、切り出しました。

 僕たちの家は、ちょっとした資産持ちの名家です、その時まで僕は知りませんでしたが。

「どうしたんだ?」

 父さんはその時まで、兄を「一風変わった子だな」と思っていただけだったようです。

 父さんの質問に、母さんもケーキを切っていたナイフを一旦置きました。

「今日で紫苑も7歳。子どもとして安心できる歳になったよね。

 だからお願いです。

 この家は、紫苑を後継として育ててください。

 紫苑、押し付けて悪いが「嵯峨野家」は、お前が継いでくれ」

 きっぱりと言った兄に、母さんはぱちくり呆然として、父さんは眉を顰めました。

 僕? 

 僕は意味がわからなくて、ぽかーんとしていました。

「え、え? あおくん、なに?

 お母さんたちが嫌いになったの?」

 涙目になった母さんに、兄はちょっと困ったような表情を浮かべていたように思います。

「もちろん、父さん、母さん、紫苑、をオレは愛している。

 でも、オレには同じくらい愛するモノがあるんだ。

 ……それにオレは、家族以外に心を配ることができない、冷酷なほどに。

 だけど、家名は「嵯峨野」だ。途絶えさせるわけにはいかない。

 だが紫苑が生まれた。きっちり7つの年まで生きた。

 だから、嵯峨野は紫苑に任せられると思った」

 淡々と話す兄に、僕はちょっと怖くなった。

 だって、なんだか兄が遠くに行ってしまいそうだったから。

「兄ちゃん、いなくならないよね?」

 僕が思わず聞くと、兄は驚いて僕を見た。

「紫苑はオレの家族だろう。

 いつかそばにいなくなるかも知れないが、呼べば絶対駆けつけてやる。

 約束だ」

 ゆったり頭を撫でながら、兄は優しい目をしていました。

 今から思えば、とても大人びた表情でした、子どもとは思えないほどの。

「流石「嵯峨野」である、と言われるよう、名誉を損ねるどころか上げるように努力は惜しまない。

 勉学もなんでも、トップレベルであるようにする。

 だけど、ゴメン。

 オレは狭量で異端なんだ、どうしようもないくらい。

 ……不甲斐なくてゴメン」

 頭を下げた兄を、両親は様々な表情を浮かべて見つめていました。

 重苦しい沈黙が落ちたリビングで、僕はとりあえず空気を読めよ、という発言をしていました。

「ねえ、ケーキは?」

 ……子どもだったんです、一ケタ台の。

 いえ、兄も一ケタ(9歳)でしたけど。

「そ、そうね!

 その話は後で! 今はしおちゃんのお誕生日を祝うケーキを食べましょう、みんなで!」

 パチン、と手を叩いた母さんを父さんと兄は見て、ゆっくりと笑みを浮かべました。

「そうだな。

 菖蒲、紫苑に苺とプレートをやれよ」

「母さん、オレはちょっと小さめにね」



 わいわいケーキを食べた後、僕は寝てしまいました。

 だからどんな話し合いがされたのか、未だに僕は知りません。

 ただその時から、兄は今のように変わりました。

 とっても変わった趣味と人格を持っている兄です。

 兄は、そこらの高校生とは全然違う、変な人です。

 でも兄はとても父さん、母さん、そうして僕を大切にしてくれています。

 それは疑いようがありません。

 誕生日から少しの間、父さんと母さんは兄の扱いに困っていたようですが。

 今は家族の仲、結構良い方だと自負できます。





 でも、僕は今思います。

 あの時、兄は地球という科学の発達した世界にいながら、違う世界に生きることを決断したのだろう、と。




 僕が巻き込まれ、違う世界に踏み入れてしまった時のことも、どうか聞いて下さい。

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