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何故か彼女はついて来る  作者: 坂津狂鬼
因果応報
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因果応報

「これは………なんだ?」

部屋に転がったままの死体を凝視しながら、景は背後にいる灯澄へ問いかける。

「死体だけど?」

「ふざけてるのか?」

「なんか資料でね、才能は大きなショックがあると開花しやすいってあったから。どう? 才能は開花した?」

一体どこの資料だよ……。

景は首だけ動かし背後の灯澄を見る。

彼女は、笑っていた。

「自分の才能が何なのかは分かってるし開花(,,)もしている(,,,,,)。ただ使い物にならないだけだ。それよりも………お前がこれをやったのか?」

「微妙だね。勝手に死んだに等しいし」

灯澄の中途半端で意味不明な回答に、景は眉をひそめた。

「そっか……もう景の才能は開花してたのか。それじゃっ、これにはもう用が無いね。片付けさせるよ(,,,,,,,)

そう言った直後、灯澄は携帯を取り出しどこかへ電話を掛ける。

二言三言、会話を交わし電話を切った灯澄に景は問いかける。

「どこへ掛けた?」

「知りたいの?」

探るような目で灯澄に見られた景は、しばらく逡巡し、押し黙る事に決めた。

その様子を見た灯澄は笑顔で頷き、

「うん、それが一番いい判断だよ」

そう言った後に景の前に出る。

つられて景も視線を前に移すと同時に、呆気にとられた。

無くなっていた。死体が、全て。跡形も残らずに。

「本当は、教室でもこういう風になるはずだったんだけど……その前に景が来ちゃったんだよねぇ」

「………何を、した?」

目の前の普通の光景に目を見開きながら、景は灯澄へ問いかける。

「ん? だから片付けさせたんだよ(,,,,,,,,,)。あたしの家って金持ちだからね、こういうものの処理が上手い人達を雇って、やってもらってるの」

「………ふざけてる」

「割とマジメなんだけどなぁ」

そう言って灯澄はベットの上に座る。

それを見て景は窓辺の近くまで行き、そこに腰を下ろす。

「どうする? 何から聞きたい?」

「お前の才能から」

灯澄は景を見ながら聞いて来るのに対して、彼は外の景色に視線を預け答える。

そんな景の様子をクスクスと笑いながら、灯澄は問いに答える。

「あたしの才能は変異系、自分を対象にした攻撃の対象をすり替える(,,,,,)能力」

「対象をすり替える能力?」

「簡単に言えば、絶対防御の能力かな? あたしに向かって放たれた暴力はあたしを(,,,,)介せずに(,,,,)他の人に当てる事が出来るの」

「さすがランクSだこと……」

自分に向かって放たれた暴力を自分を介せずに他人に当てる事が出来る能力。

つまりそれは、デコピン、拳で殴る、足で蹴る、ナイフで刺す、銃で撃ち殺す、小さな暴力から人を殺すほどの暴力までありとあらゆる痛みを他人に押し付ける事の出来る能力という事だ。

銃であれ核弾頭であれ才能であれ、彼女を人為的に殺すのは不可能。それどころか自ら放った攻撃が自らを殺す可能性すらあるのだ。

絶対防御。人為的に作られた不幸を他人に押し付ける才能。彼女に絶対に攻撃は届かない。

いや、絶対とは言い切れない。才能を無効化さえ出来れば、彼女に攻撃は届くのだ。

しかし。

もしも才能を無効化させる技術があったとしたら先程の死体は生まれなかったのではないか?

「才能を無効化させる才能。そういった矛盾を孕んだ能力でしか、お前を傷付ける事は出来ないってわけか」

「あたしはそういったデタラメな才能者タレントに出逢ってないから、今のところは絶対防御の能力っていうわけ」

「デタラメなのはどっちだ………」

変異系の才能には時々稀有な能力が発見されることがあると景は聞いていた。

しかしこの才能は稀有というレベルで済むのか、という疑問が景の脳内では巡っていた。

それとも才能というのはその位でなければ稀有な能力とはならないのか……。

「だからさっきの死体は自滅したんであって――――」

「そんなのは説明されなくても分かってる。それより次の質問だ」

言い訳をしようとした灯澄の言葉を遮るように景はそう言う。

黒笠灯澄に対する疑問は大方晴れた。

自分を何故知っているのかも、死体が出来上がった理由も、死体が消えた理由も。

残る疑問は一つ。景の中では予想はついているが、詳細が分からない。

「黒笠……お前は何故、殺されかけた?」

あくまで黒笠灯澄の才能はやられたものをそのまま返す才能。それ以上にして返す事は出来ないのだ。

つまり死体が出来上がるという事実は、黒笠灯澄が殺されかけたという事実に等しい。

何故、彼女は殺されかけなければならない?

「さっき金持ちだからって言ったじゃん。だからだよ」

「それは理由の一つだろ」

外に向けていた視線を灯澄に移し、景はそう言う。

「金持ちってだけで連日殺されかけるほど、この世は物騒じゃない。ところ構わず連日殺しに掛かるほど、暗殺者とかは無知じゃないと思う」

昨日は教室で、今日は寮の部屋で。二日連続で殺されかけている。しかも最悪の場合、人の目につくような場所で。

プロの暗殺者というものを景は知らないが、灯澄を殺しに掛かるにしても、もう少し計画的にやるだろう。場所も選ぶ。

景ならばそうする。人の目につけば割り込まれる可能性もあるのだから。

「アイツらは馬鹿ばっかりだから人目とか気にしないんだよ。だから、ところ構わずあたしを殺しに来る。でも大概はあたしが一人になった時に殺しに掛かってくるから人目を少しは気にしてるのかも?」

「………お前が寮で生活してるのもそれが原因か?」

「景って凄いね。何でわかったの?」

「金持ちが寮で生活なんかするかよ。しかも毎日殺されかけてる奴が。断然、実家に居た方が安全だ。そういうものの処理が得意な人間だって雇えるんだろ?」

「でも、あたしにはコレがあるから」

そう言って、灯澄は笑う。

その笑顔を見て、景はまた外へ視線を戻し言う。

「誰かに守って貰った方が楽だろうが。わざわざ人が自殺するシーンを見なくて済むんだから」

「自殺って、酷い表現だね景」

あははは、と大声で笑い出した灯澄を無視するように景は外を見続ける。

彼女は誰かにわざと刺客…ともいえない人間を送られている。彼女はそれが死ぬ度に片付けている。

故に昨日、教室には死体と黒笠灯澄があり、そして今日、教室には死体が無くなっていた。

ただそれだけ。それ以上は無い。

無視し続ける景の姿は、まるで灯澄にはもう興味を無くしたと言わんばかりの雰囲気を纏っていた。

その姿を見た灯澄は笑うのを止めボソリと、

「………昔は、誰かが守ってくれるって信じてたんだけどね………………」

何かを呟いた灯澄に、景は目も向けずに探りもせずにいた。

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