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何故か彼女はついて来る  作者: 坂津狂鬼
因果応報
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アレ

「どうしたケイ? お前が珍しく窓の外も見ずに机に突っ伏すなんて……なんかあったのか?」

「黙れ畑沼。今日は話しかけんな」

心配して話しかけてきた畑沼に対し、景はキッパリと顔も見ずに失礼極まりない事を言う。

「そうかい」

景からそう言われなれている畑沼は、拒絶を受け取り、どこかへ行ってしまう。

(……今はこれでいい。相手を誘い込むにはこの状態の方が良い…………)

机に突っ伏したまま、思案する景にしばらくしてからまた話し掛ける人物が一人。

「景、ちょっと話があるんだけど」

「……どういう話だ? 黒笠灯澄(ランクS)

景はそう言いながら、表情の起伏が少ない自分の顔面に感謝していた。

朝、景は灯澄に話しかける事なく自らの席に直行。そのまま突っ伏して授業を受けていた。

自分から話し掛けるのが癪だったのだ。非常に子供っぽい理由だが、それが景の本心だった。

あくまで景は無関心を座右の銘に掲げているだけで、無感情なわけでは無い。

ポーカーフェイズと無関心によって、中学校の頃に人型ロボットかげるん一号という変なあだ名を付けられた景ではあるが、もしも自分のあだ名に興味があったのならば、そのネーミングセンスの無さを糾弾しただろう。

無関心≠無感情である。景だって所詮は一般庶民である。

無関心無感情の完璧超人の冷血漢など、一般家庭で育ってきた景にとっては無理な要求である。

ともかく。

景は興味を持った黒笠灯澄との接触を自発的にするのが非常に気に食わなく、イジメっ子よろしく、黒笠灯澄を無視したのである。

そして相手からの接触をずっと待ち続けたのである。本当に子供っぽい事をするものだ。

「まあまあ。慌てずに、お昼でも食べながら話そうよ、景」

待ち続けた結果が、昼食の時間である。

「あぁ。分かった」

午前中を無為に過ごした景は、席を立ち、素直に灯澄の後をついて行く。


連れ出されたのは屋上、なわけが無く……そもそも西宇津理学園は屋上へ通じる扉の鍵をいつも閉じている……中庭の一角であった。

そこで早急に昼食を済ませ、質疑応答に移る。

景としては窓は無いにしろ、遠くの景色まで見渡せる屋上の方が魅力的ではあったが、相手から話を集中して聞いた方が良いという理由で、どうにか自分を納得付けてはいた。

―――――2秒前までは。

「何故、そんなに引っ付く」

「ベンチが狭いからだけど?」

「そんな訳があるか。とにかくもう少し離れろ、スペース空いてるだろうが」

「嫌よ。離れちゃう」

西宇津理学園の中庭は、整えられた芝生に所々花壇が有り色々な花が植えられている。木製のベンチもいくつかあり、その一つに景と灯澄は座っている。ちなみに二人の距離は数センチにも満たない。

ベンチの長さから言って、3~4人用だろう。だから景の言い分に間違ったことなど一つたりともない。

景の判断は至って正しい。中庭の様子が渡り廊下から見えていて、割と大勢の生徒にその密着している様子を見られて殺意を抱かれ、しかし女子の方は名も高きランクSの為に才能を使用し今すぐ殺そうとする本能をどうにか抑え、後で景が一人になったところを闇討ちしようと目論む生徒がいる事に気付いているかはさておいて。

景の判断は至って正しい。

「あたしが景に聞きたい事は、距離を取ってでも出来るけど………」

そう言って灯澄は景の耳元に口を近づける。

「景があたしに聞きたい事は、距離を取っても出来る事なの? 犯罪チックじゃない話なら離れても良いけど」

灯澄の判断も正しい事には正しい。

景が今すぐに訊きたい事の基準点となるのは、あの光景―――あの死体である。そして客観的に見ても主観的に見ても、灯澄はあの死体を作り出した張本人。言わば殺人犯だ。

中庭には今現在、景と灯澄以外の人間が居ない。しかし何処で誰が聞いているかなど分からないものだ。

例えば、渡り廊下のギャラリーがさらに増え、二人の会話を盗み聞きしようと画策し、才能まで使ってどうにか会話を聞き出そうとしている不当な輩が居ないとは限らないのだ。というかむしろ居るのだ。

加害者としては、なるべく、去った危機を掘り返したくはないだろう。

目撃者としては、なるべく、去った危機の真相を聞きたいのだろう。

景は、この密着具合か事の真相か、どちらかを妥協しなければならなかった。

「……ならアレに関する事は一切聞かない。だから離れろ」

「残念…………」

灯澄はがっくりと肩を項垂れ、景との距離を取る。

がっくりと残念そうにしたのは決して灯澄のみでは無い。

当然、渡り廊下にて闇討ちを企画していた数名の生徒も動機が無くなってがっくりと暗いオーラを出しながら項垂れている。

正当な理由なしに学校で才能を使うのを良しとはしない、という校則で定められているからである。無闇に校則を破るほど彼らも愚かではないという事か。

ちなみに、風紀委員長が正当の理由(リアルに充実してそうな輩が30秒以上イチャイチャしている現場を目撃したなど)と認めた場合、殺しさえしなければ致命傷まで黙認されるという矛盾を大いにはらんだ狂った沈黙の掟があるのだが………景がそれを知る事になるのはしばらく後の事である。

さらに余計な情報だが、あと3秒、景の判断が遅ければ彼は致命傷を負わされていた。

非常に残念である。

「作者から殺気が…………」

「ん? 景どうしたの?」

「いや……何でも無い」

致命傷を負わされれば良かったのに。非常に残念である。

「それで、お前は何を訊きたいんだ?」

景の問いに、灯澄はどこからかB5サイズのノートとシャープペンシルを取り出し、

「えぇーとっ………まず一人称。それから好きな食べ物、あと一応だけど趣味も。それからそれから―――」

「ちょっと待て」

個人情報の聞きだしを始めた。景は慌ててそれを言葉で抑止する。

「何で止めるんですか?」

ふくれっ面の灯澄であるが、景の顔は半ば青白くなり始めている。

「何でそんな事を訊くんだよ?」

「それは、景が気になるから!」

景の人生経験上、そんな事を言われるのは生まれて初めてではあるがロマンを感じなかった。むしろ恐怖を感じた。

殺人犯に好意を抱かれたとしても、景としては大迷惑である。

「いやー、景ってなんかいつも窓の外を見てるじゃない?」

「まあ、趣味だからな」

「それって本当に趣味?」

「…………は?」

「大丈夫! 分かってるからあたしは! 景ってアレなんでしょ?」

「……アレ?」

景はとてつもなく、黒笠灯澄が自分に対して大きな誤解を抱いている気がしたが、あえて言わなかった。

というよりは、灯澄のいうアレというのが何なのかが知りたくなってしまった。

はたして彼女は自分の事をどういう奴だと思って接触を図ってきたのだろうか? バカなのだろうか?

彼女のバカさ加減に付き合ってみるのも一興と思い、真実を口にする事を先延ばしにしてみた。

「そう! 景って実は…………秘密組織の一員なんでしょっ!!」

結論、バカである。

以上が景の思考の全てであった。

冷めきった景の態度に対抗するように、灯澄は熱く夢を語る子供の様にはしゃいでいた。

「窓の外を見てるのは、皆と関わらないようにするためで! 唯一話しかけてくるあの男子は組織の内通者で! それでそれで!」

「そうかそれは良かったな。ところで、それが真実だとして、当人に話したらどうなると思う?」

「大丈夫、あたしには才能があるから」

さっきの興奮は一体どこへいったのやら。灯澄は極めて冷静に淡々と告げる。

ランクSなりの意地なのか? と景は疑問に思ったが、先の誤解を解くことを優先した。

「安心したところ悪いが、秘密組織など知らん。何だそれは? 人を改造してライダーでも造るのか?」

「それは悪の組織だよ! しかも相当古いよ!」

「なんだ正義の組織だったのか。それじゃぁあれか? 銀と赤の巨人と共に3分以内に怪獣を倒す地球辺りを防衛してる奴らか?」

「それは軍隊! というよりそれも古いよ!」

「そうか。あの時から時計の針は遥かに進んでしまったのか………」

「なんで急に詩人っぽく!?」

灯澄がぎゃあぎゃあ喚く中、景は極めて冷静だった。というより景が灯澄を騒がせていた。

しかしいつまでも景が聞くのを我慢できるわけでは無い。

「そろそろ、お前について聞いていいか?」

「ダメ」

自分の血管ともいい理性が切れるとしっかり音が鳴るんだなぁ、とのん気に思いながらも景の拳は次第に強く固められていく。

「放課後まで待って。お願い、景」

「そっちはお昼休みのうちに聞けて、こっちは放課後までお預けと?」

「そっちの方が多く聞けるからいいじゃん」

「なら何で昼休みに誘った」

「一刻も早く事の真相を知りたかったからだけど?」

景は悩んだ。もしかしたらこれは相手のボケなのではないのか、と。

それはこっちの台詞だ! っと大声でツッコミを受けるのを待っているんじゃないのか、と。

そんな事を悩んでいるうちに、灯澄は素早く席を立ってしまう。

「あ、待て―――」

「またね、蓮野景(ランクX)

相手に話し掛けたときの皮肉を返し、黒笠灯澄は校舎へと戻ってしまう。

「………結局、お預けか」

景も続いて、喪失感に見舞われながらも席を立ち校舎へと戻る。

放課後、どこで待っていればいいのかすら聞いていない事には灯澄が立ち去った時に気が付いた。

しかし別にそこは考慮しなくてもよいだろう。

どうせクラスは同じなのだから。嫌でもまた会う。嫌でも相手から話し掛けてくる。

蓮野景には拒否権は無かったし、拒否権を行使する気も無かった。

あるのは放課後に何があるのかへの興味関心。

この時の景の辞書には、後悔、という言葉は無かった。経験不足が原因であろう。

そしてこれから迎える放課後、黒笠灯澄と関わる事でその言葉は景の辞書に刻まれていくのであった。


景さん、頼みますからもう少し動揺してください。

途中で「あれ? 何でこうなったんだっけ?」ってなったんですから。

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