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何故か彼女はついて来る  作者: 坂津狂鬼
因果応報
4/28

死体は消えて、世界は流れる

夕日に染まり終わる教室。

死体と少女と少年とその少年の忘れ物とその他色々な備品が沈黙の教室に存在した。

しかしその沈黙は一瞬。すぐに少女によって壊された。

「……あっ」

黒笠くろかさ灯澄ひずみはバレてしまった事で動揺した。

これから彼はどういう対応をするのだろうか? もしかして自分を襲って来たりするのだろうか?

そうしたら、彼は死んでしまう。

灯澄はそう思い、出来れば彼が襲ってこない選択をする事を祈った。


「っ……」

蓮野はすのかげるは無意識に息を呑んでいた。

それでいて自然と視線は死体の方に向かっていた。人の好奇心という奴だろうか?

黒板に貼り付けられたように佇んでいる死体。

西宇津理学園の制服(男子用)を着てはいるが、顔面が破裂したように四散している為、一体誰なのかを確かめる事が出来ない。

景は心の底から、畑沼ならば良いのに、と祈りつつ、自分の鞄へと向かう。

彼は死体にも灯澄にも目を向けず、鞄を取る。

現実から逃げている、というには脚に一切の震えがない。

それどころか、無意識に息を呑んだ後の彼は冷静沈着だった。

一言でいえば興味が無い。自分には関係無い。

これが窓の外の風景ならば、景ももう少し興味を持ったかもしれない。

しかしココは窓の内。興味が無いもの。

興味が無いものをあれやこれやと考察する気力など景は生まれた時から持ち合わせていないのだ。

「………思わなかったの?」

鞄を持ち、教室を出ようとしたところで灯澄は質問をした。

「こんな光景を見て……あたしを見て、死体を見て、怖いって思わなかったの?」

「知るか。興味が無い。それに、自分には関係無い事になんでわざわざ恐怖しなきゃいけないんだ?」

景は灯澄の顔を見てそう言うと、そのまま教室を後にする。


しばらく廊下を歩いていると………。

「ちょっと待ってぇー」

後ろから先程と同じ声が響いて来た。

無視しよう、と景は思わなかったがわざわざ立ち止まる程の仲でも無いのでそのまま歩き続けていた。

灯澄は小走りでこちらに近付こうとしている。いずれ追いつくだろう。

そう思ってもいた。

そして景の予想通り、数十秒後には灯澄は追いついて来ていた。

「何か用なのか?」

「い、いや……とくにこれといった用は無いんだけど……………」

並列に歩きながら、景は灯澄の質問を待ってみた。

「そ、その………座右の銘は何ですかっ!」

「………」

彼女も見てか見られてかは知らないが、かなり動揺しているんだろう。仕方が無いさ、だって死体だもの。人が死んでいたんだもの。

景は哀れな者を見る目で灯澄を見ながらそう思い、一応彼女の問いに真面目に返してやる事にする。

「無関心。あとは好奇心は人を殺すってとこかな。無駄に人の事を詮索したりするな」

「むむぅ………あたし、好奇心は人を殺すって言葉は一番嫌い」

「お前の好みなんて知った事か」

「まぁ、そうなんだけど………………」

何故か不貞腐れた灯澄を景は見事にスルーし昇降口へ。当然、灯澄もその後をついて行く。

「そういえば、ランクS。お前の名前を知らないんだが」

「あたしは貴方の名前を知ってるよ、ランクX」

「なら、あとはそっちが名乗るだけだな」

灯澄は少し罵倒する意味を込めて言ったのだが、ものの見事に景にスルーされる。

無能者である事を言われることに景は何の抵抗も無い。むしろ階級などに興味は無い。

灯澄は少し悔しそうにしながら、自分の名を言うことにした。

「……黒笠灯澄。ともしびに、水が澄むとかの澄で灯澄って読むの」

「そうか。これで警察に連絡するときに犯人の名前をしっかりと言える」

「酷い、売るの? 女の子を」

「そっちこそ酷い言い様だな。殺人現場を見たら通報するのが一般人の行動だ」

まあ、景には警察にわざわざ通報する気など無いのだが。むしろ明日の朝まであの状態で放置したらどうなるのかが景には興味があった。

人間観察は趣味では無いが、変化がある背景の方が日常風景よりも見る価値がある。

しかしそれには灯澄が死体をそのまま放置しておいて、戸締りなどをする教師か警備員があの教室の施錠を忘れるか教室内を見ずに施錠する必要がある。

そうなれば、景が望む背景が見れる前に警察が来てしまう。

景が望むものが見れる確率など、限りなく0に近い。

確率など景の興味の範囲外なのだが。

景たちは昇降口で上履きから靴に履き替え、校門を出ようとする。

すると灯澄が、

「あ、景は生徒寮じゃないからココでお別れだね」

「…………生徒寮?」

景が自分の通う学校について知ってる事など、名前、中高一貫である事、才能開発に力を入れている事、その三つだけである。

敷地内の事など自分の教室と体育館しか知らないのだ。

「説明されたでしょ………って、景は4月中の記憶が無いんだっけ。ならしょうがないか」

「ムカつく言われようだな。言い返す事は出来ないけど」

「ウチの学校は生徒寮があるんだけど規模が小っちゃくて、全生徒数より部屋が少ないの」

「もうちょっと計画的に立てる事は出来なかったのか………」

呆れて嘆息を吐く景に、灯澄は説明を続ける。

「希望制でその部屋を貸してるんですけど、あたしは激戦を乗り越えて無事に部屋を勝ち取る事が出来たんです」

「それはご苦労だったな」

「っていう訳で、さような………また、明日!」

「おう、じゃあな」

灯澄に軽く手を振った後、景は早々に校門を出て帰路に着く。

学校から家への帰路の中、景は灯澄について考えていた。

そもそも景が自分から誰かの名前を聞くという事は、その人間に興味を持ったという事なのだ。

景が黒笠灯澄に興味を持った理由は二つ。あの光景と、その後自分にぶつけてきた質問だ。

あの死体は、景の推察だと灯澄がやったもので間違いない。経緯や動機、正当防衛うんぬんは置いといてだ。

黒笠灯澄はあの死体を殺した。すこし文学的におかしな文章だが、景の推察ではそうなっている。

そしてその殺人犯なる灯澄は、おそらく犯行をして数時間も経っていないのにも関わらず、犯行後であれ景に現場を見られたのにも関わらず、座右の銘を聞いて来た。

動揺していたんだと思っていたが、さすがにその後の態度を見たら動揺だけでは説明がつかない。

景と普通に会話するかの様な接し方をしてきた。

普通の殺人犯など存在しない事は重々承知だが、いくらなんでも狂っているとしか思えない。

または人を殺す事になれきっているというところか…………。

初犯であれ、連続犯であれ、黒笠灯澄は景の興味を惹きつけた。

しかし、名前を聞いた後の会話。

(………名前は自己紹介で言うだろうから、呼び捨てであれ問題は無い。生徒寮に住んでいない事も少し調べれば分かる事かもしれないが……何故、記憶喪失だと知っている?)

景はその点が気になっていた。しかし、それについて灯澄には問わなかった。

今日、畑沼との会話。景はさり気なく自分が記憶喪失であることを告げている。

その時の会話をたまたま聞いた、という風に言い訳される可能性があったから聞かなかったのだ。

しかし何故、わざわざ景と畑沼の会話に聞き耳を立てる必要がある?

大声で話していたわけでもない。元々声が大きいわけでもない。話をわざわざ聴こうと思わなければ、他のクラスメイト達の会話に掻き消されてしまうほどの声量だった。

席の関係? それとも………。

景の思考は家に着くまで続いていた。しかし家に着くと共に考察を諦める。

謎な部分が多く、また当人に接触しなければ分からない事だらけである。しかしそれは不可能で無いにしろ、面倒な事になる。

理由などは簡単だ。明日、黒板に貼り付けられていたあの死体が見つかれば警察が生徒全員……最低限、景のクラスの生徒全員に事情聴取を行なうだろう。

景は警察にわざわざ嘘などを吐く気は無い。正直に犯人と思しき人物の名を言うだけだ。

そうなると、灯澄に会うには留置所か少年院などに面会として行かなければならない。

そんな面倒な事までして彼女と話したいわけでは無い。

故に景は黒笠灯澄についての思考を全て記憶の彼方へ捨て去り、家の中に入る事にした。



翌日。

「………驚いた」

無表情のまま呟かれた景の言葉。彼の内心は今、台風が直撃した海岸ように荒れていた。

登校したての景が見た風景は、何一つ変わり映えのしないいつも通りの教室だった。

それはある意味平和の象徴であり、不変的で世界は今日も正常に回り続けてる証拠の一つである。

………などと言えるのは、景と違い昨日の光景を見てない者だけだろう。

確かに昨日、黒板には死体が貼り付けてあった。

しかし、黒板はチョークの粉の後すら残さず綺麗であり、その綺麗さが景の感情を恐怖で煽った。

そして景がその死体の殺人犯であると予想した黒笠灯澄は、教室の真ん中より前の席で優雅に本を読んでいた。

(…………ふざけるな…………)

別に景は変化した教室の風景を見たかったわけでは無い。むしろ、そんなものはどうでもいい。

今重要なのは、まるで昨日の光景が嘘のように世界が流れて、黒笠灯澄が何食わぬ顔でこの教室にいるという事実である。

昨日、あの光景を見たのも黒笠灯澄と話した事も全て自分の妄想や夢だったというのなら景は素直に受け入れる。その後に自分を嘲笑し律しればいい話だからだ。

しかし分かる。分かってしまう。分かりたく無いものが分かってしまう。

昨日のあの光景も黒笠灯澄と話した事も全て事実でありながら、その上で、昨日の黒板に貼り付けてあった死体がまるで存在しなかったように世界が流れて行っている。

景はその証拠を掴んでいる。いや、掴まされた。

ランクSの少女と面識を持つ機会など、普段の景には無い。興味が無い事を忘れる癖があるから記憶を頼る事は出来ないが。

在るとすれば、昨日の会話しかないだろう。それしか無いのだ。

しかし彼女は、黒笠灯澄は教室のドアの付近で佇む景に気が付くと、よりにもよって笑顔で手を上げてきた。

おはよう、などの意思表示なのだろうか? ちなみに景の後ろに生徒など一人もいなかった。

(………ふざけるな………)

もう一度、心の底から景は思う。

好奇心は人を殺す、とはよく言ったものだ。好奇心が無ければ人は何も学ぼうとしない。

何も学ばないという事は無知という事だ。真に人を殺すのは、好奇心などではなく無知だ。

無知こそ人を殺す最高の凶器だ。

景は昨日、灯澄に言った言葉を否定した後にもう一度、灯澄の顔を見る。

未だに灯澄は笑顔でこちらを見ていた。それが景の感情が恐怖に震える原因だと知っていてやっているのだろうか?

しかし、いつまでもここで躊躇い続けるわけには、動き出さないわけにはいかない。自分の感情を抑えつけて景は教室に足を踏み入れる。

―――――出来れば全てが、自分の夢である事を望みながら。

サブタイとかって、考えるのが面倒ですよねぇ~

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