サバイバル
タイトルなんかに意味は、無い…………ッ
『連絡します。一年生の午後の演習の授業ですが、諸事情により自習とします』
学校の所々に付けられたスピーカーから流れた放送。それが景の逃走劇の始まりの合図だった。
「諸事情って……まあ関係の無い―――」
景のその呟きは、上空で轟く小さな雷雲によって遮られた。
本能的に景は、それが自分に害を成すものだと認識し、少しばかりベンチから離れる。
するとその雷雲も景の動きに合わせて、その頭上へと移動する。
「…………再構成」
景はそう呟きながら振り向き様に右手を振るった。
背後から景に迫っていた火球は、突如降り出したスコールによって掻き消されてしまった。
(……雲に気が向いてる隙に、背後からドーンっか…………)
今もなお景の頭上にある小さな雷雲も、音も無く背後から迫ってきていた火球も、誰かの才能であろう。
直感的に景が火球に気付かなければ、なおかつ雷雲の才能をすぐさま豪雨を降らせる雲を発生させる出現系才能に再構成できなければ、火球の威力にもよるが、今頃は火傷を負っていただろう。
(敵は二人、その上……この雷雲は囮か攻撃方法の一種かも分からない…………)
雷雲は常に景の頭上に来るが、その高さは限られているようだった。
校舎へと走って移動し、景は灯澄と合流することを考える。
黒笠灯澄はランクSだ。才能からして盾として使えば、たちまち襲撃者を撃退できるだろう。
そんな酷い事を考えながら、景は自動販売機がある場所へと向かっていく。
その間も火球の攻撃は止まず、屋内に入った為にスコールによって掻き消すこともできないので、水球を飛ばす才能を再構成し、灯澄の元へと向かっていた。
自販機が目に映り、その近くに灯澄も姿を発見した景は大きく息を吸い、助けを求めようとした。
しかし、その声は突如出来上がった大きな壁に防がれる。
「……ッ!?」
突如目の前が行き止まりとなり、後ろからは火球が追撃をしてくる。
一瞬にして追い詰められた景は……、
「再構成ッ」
水のバリアのような物を創り出し、なんとか火球を防御する。
(…………相手の姿は見えないのに、こちらの行動が邪魔され続けている……連携というよりは、どこかで監視してるのか?)
依然として止まない火球の攻撃に嫌気が差しながら、景は必死に頭を回す。
そもそも何故自分がこんな急襲を受けているのかすら理解できない状況なのだが、それでもこの窮地からの脱出方法を模索する。
(……元の才能がそこまで強くない。だからこっちも相対的に能力が低くなる……この問題すら解決できればあるいは……)
景の才能はあくまで、修正。元の才能から能力を創り直す。
元の才能のランクが低ければ低いほど、創り直した才能の能力も低くなる。
逆に言えば、元の才能のランクが高ければ、創り直した才能の能力も高くなる。
景の感覚から言って、今自分を急襲している人間たちの才能はランクA未満。
特別優秀でも無い。言ってしまえば、中の下あたりの才能。
個の力はさほど強くはない。連携などをすれば強いのかもしれないが。
(職員室。取り敢えず、そこをゴールとするか…………)
逃げ込む場所を決め、景は水のバリアによる防御から水球による迎撃に才能を切り換えながら、その場から逃げ出す。
「……チッ」
景は舌打ちすると共に、その場にへたり込んだ。
職員室は厳重に鍵が閉まっており、応答しなかった。
教室へと逃げ込んだが、演習の授業中であるため誰も居らず意味が無かった。
保健室や体育館。それに授業が行われていそうな場所へ行こうとすると行く手を壁に阻まれる。
結局、屋上へと逃げ込むと同時に疲れきった体が自然とその場に腰を落としてしまった。
(何なんだよっ……途中から追撃が火球だけじゃなくて雷撃に触手、矢に犬まで出てくるし…………)
普段、窓の外を見る事しかしない無関心人間にしては今日はよく動いた方である。
才能の使い方も授業などで教わるより実践的かつ直感的に身に着いた。
ただ一つ問題があるとすれば、まだその急襲が終わった確証が得られないということだけだ。
思考を巡らせていると、景の制服のポケットの中で何かが振動した。
携帯だった。
(…………そういや、出遭った頃にメアド交換したんだっけか……)
完全に本人は今の今まで忘れていたが、確かに景の携帯のアドレス帳には黒笠灯澄という人間のメールアドレスが登録されてある。
灯澄から送られてきたメールの内容を無視し『助けろ、襲われてる』と短く簡潔に今の状況をまとめた返信をした。
数十秒後、灯澄から直接電話が掛かってきた。
『景っ! 襲われてるってどういう事ですか!?』
「知るか。まんまだ」
『まんまだ、って……ともかく景は今どこにいるんです?』
「屋上」
『今すぐ行きます』
「……っていうかさ黒笠。お前にメアドも電話番号も教えた記憶が無いんだけど」
『きっと記憶喪失です。あたしと同じですよ』
絶対嘘だ。
景はそう思いながら灯澄の言い訳を聞き続けていた。
マイページが一新してて驚きましたよ。
まあ展開がグダグダなのはいつも通りですけど。