味気ない勝利
久し振りに、タイトルなんかに意味はない。
………………。
…………。
「おい黒笠。起きろ」
「ん、ん~?」
「起きろよ」
「ふぎゃっ!?」
敢えて記述はしないが、とても人がするとは思えない外道な方法で灯澄を起こした景。
突然の事に動揺し、辺りを見回している灯澄はガラスが飛び散る光景に絶句していた。
「一体、何が…………?」
「別に。それより帰るぞ黒笠。もう眠い、今日は解散だ」
「別にって、そんなわけないでしょ!? 何も無かったらこんな風景、目にしませんよ!」
灯澄の言葉によって景は無意識に少し前に記憶を遡っていた。
『降参です』
樋川の才能で発せられる熱を、自身が作り変えた才能で拡散していく。
熱がダメだと判断すると、空間を振動させ超音波を発生させたが、それすらも景が作り変えた〈霧散分解〉は拡散させてしまっていた。
どういう攻撃をしてもそれは才能によって拡散、霧散していく。
勝負は景の優勢。いずれこのままだと負ける樋川は、そう言った。
『…………?』
『黒笠灯澄は好きにしてください。俺は依頼主から契約違反してきたので、そっちの問題を片付けたくなりました』
自身の敗北よりも任務を優先してきた樋川にしては異常に潔い退きだった。
景は当然、樋川の態度の変わり様に疑問を持ち、臨戦態勢を解かなかった。
『ストライキですよ。何度も何度も依頼を変えやがって、俺を駒の用に使っている奴が気に食わないから話をつけに行く。ただそれだけの事です』
『お前らしくない』
『簡単に言えば、退けという依頼に変わった、っていう事ですよ。もう俺に敵意はありません』
そう言うと、樋川は景に背中を見せてショッピングモールを立ち去った。
「……嫌いだな、ああいう意味分からない奴」
「景…………?」
「っ、ともかく帰るぞ黒笠」
そう言って、痛むからだを無理に動かしながら景はその場を立ち去ろうとする。
「あ、待ってください! 蓮野くんっ!」
「…………」
今まで横になってた灯澄も急いでその後を追う。
ところで。
当然、人は間違う時がある。誤字脱字やうっかりなど。
人は完璧な機械ではない為に、間違う時がある。それは当然だ。
ただ……間違うと言っても、決してやってはいけない間違えというものもある。
例えば、先程の黒笠灯澄のように。
「黒笠。お前に一つ聞きたい事がある」
「何ですか?」
追いついて来た灯澄に景は一つの疑問……いや、確信した事を問い質す。
「お前、正直もう記憶戻ってんだろ?」
「…………えっ?」
「いやもう、演技とかいいから」
「何言ってるんですか……?」
「さっき、景って呼んだろ。普段は蓮野くんって呼んでるのにな」
「……それは親しくなったからいいかなぁって」
「蓮野くんってまた呼び直したのは?」
「そ、それは恥ずかしかったからで…………」
「赤面一つしてなかったのに、恥ずかしかったと?」
「それは……」
「こっちが知ってる黒笠灯澄という人物の幅は狭い。ただ記憶を失った後の黒笠灯澄のことなら90%の確率で知っている」
「なら残りの10%じゃないんですか……ね?」
「記憶喪失後の黒笠灯澄は、感受性豊かだ。恥ずかしかったら赤面するだろう」
「たまたまですよ……たまたま…………」
何かを誤魔化すように歯切れの悪い言葉を返す灯澄に対して、景の言及はまだ終わる事を知らない。
「〈想起修正〉黒笠霧雄。同じ苗字だ。父親、兄、親戚。言ってたことからしてどれかだろう」
「あのクソ親父、なんで景と接触なんか…………っ」
「ああ、親父さんか」
「あっ……」
とうとうボロが出てしまった灯澄。景は冷めた目線で残りの疑問を解決するために問う。
「いつから?」
「…………ついさっき。本当についさっきなの!」
「あぁ、だから」
勝手に納得したように景は頷き、そのまま灯澄を突き放すように歩を早める。
灯澄は半ば、走る様な形で必死に景に追いつこうとしていた。
ついさっき。その灯澄の言葉に嘘は無い。
〈想起修正〉によって灯澄の記憶が戻ったのは樋川との戦闘中。
そして樋川にも退くように命令して、今に至る。
そういう訳か。
景は納得する中、隣でなにか必死に言い訳をする灯澄を見て一言。
「何で、ついて来てんだお前?」
「酷い! 景さっきまで帰ろうとか言ってたじゃないですか!」
「もう敬語やめたら?」
「これが素なんです! 悪いですか!? 悪ければ直しますけど!」
「別にどっちでも。興味ないから」
「あ、酷い。一番酷い。一番傷付くんですよそういう言葉!!」
わぁわぁと騒ぐ灯澄をウザく感じたのか、景はとうとう無視という態勢を敷いた。
それでも何故か彼女はついて来る。
今の景にはそこまでして彼女が、灯澄がついて来る理由を知る術は無かった。
文章にまず味気が無い。勝ち方浅い。浅すぎる。足がつく!
いままで他の物を書いてたから、そこら辺は勘弁してください。
というわけでやっと次回から新編です。