再会?
タイトルなんかに意味はない
「ッ! 邪魔です!」
目の前に上から人の体が背中から降ってきた。
腹部には誰かが乗っていて、人体が地面に落ちると同時に景を跳ね飛ばし灯澄の傍に寄る。
いきなり跳ね飛ばされた景は、数秒、自分に何が起こったかを整理し、ブチ切れる。
「何すんだよ樋川ァ!」
「威勢が良いですね。うるさいですね。少し黙ってくれませんか。というか邪魔です」
三日前と同じ、制服姿のまま樋川は景を罵倒する。
「ムカつく言い方だなぁ……さっきの爆発はお前がやったのか?」
「違いますよ。貴方と同じクソゴミ……ではなく敵側がやったものです。まったく、ド派手にブチかましてくれて迷惑極まりない」
「思うんだけど、喧嘩売ってんだよなぁ? 今すぐぶっ飛ばして良いんだよなぁ?」
「舐めた口を叩いてると、返り討ちにしますよ?」
「二人ともっ!」
睨み合いを続ける樋川と景を仲裁するため灯澄が割って入った。
「落ち着いてください……樋川さん、その人は?」
「敵の一人です。残りは二人。今すぐにでも潰しに行きたいんですが、貴女の護衛が最優先事項なので」
「はぁ? 黒笠には絶対防御が自慢の才能の壁があるだろ」
「それをブチ破った本人は知らないんですか? まだ黒笠灯澄は才能を使えません」
「す、すいません……」
景は樋川の発言に驚き、灯澄は少し申し訳なさそうに縮こまる。
「……そういえば、貴方の才能は何なんですか? 黒笠灯澄の才能をブチ破った程だから―――」
「オレの才能は、ランクXの――」
「クズですか」
「勝手に決めつけんなぁ!」
「二人ともっ!」
何故この二人はこんなにも仲が悪いのだろうか……? と疑問に思いながらも灯澄はまた仲裁する。
「ともかく移動しましょうよ。ここじゃ危険だと思うんです」
「確かに。貴女とクズの二人は才能が使えませんからね」
「絶対に後でぶっ飛ばす」
三人は近くにあった、女性用の洋服店に潜入し、作戦会議を行う。
まず最初に、景は樋川へ自分の才能を説明した。
「……つまり、クズの才能は紛い物のコピー能力ということですか」
「まあ、簡単に言えばなぁ」
「使い物になりませんね」
「ズバリと言うなぁ」
「ただのコピー能力なら、相手と同じ使い方をすれば大体は使えるんですから良いですけど、貴方の能力は相手の才能が分かった上で意識的に作り変える必要がある」
「それは、大変ですね」
「自分の才能を得意げに話すバカもいますけど、あくまで稀にいる程度です。自分の才能に自信が無い奴らは才能を隠して戦うのが定石です。確実に分かるまでに時間が掛かる。それに分かったとしても次は作り変えるのに時間を要する」
「いや、多分だが作り変えるイメージが強ければ一瞬で作り変えられる……とは思う」
「才能者と戦うのは……黒笠灯澄の件が初めてですよね?」
「あぁ。あの時に二回、才能を使用した」
「それしか才能を使ってないという事ですか……まぁ、仕方が無いでしょう。あくまで一般人ですから貴方は」
「まあなぁ」
「そうだ。いっその事、今この場で逃げたらどうですか? 楽ですよ逃げるのは、悔いるだけで済みますから」
「そうですよ。蓮野くんは巻き込まれた形だし、相手の狙いはあたしだし、きっと安全に逃げられますよ!」
「黙って話を進めろ。時間を無駄にする気は無い」
「蓮野くん…………」
遠回しに逃げる選択を否定した景。灯澄はどこか悲しそうな表情を浮かべた。
樋川は景の言う通りに話を進める。
「なら囮になってください」
「敵を一人一人にするためか」
「その通り。多分ですけど相手は、こちら側から誰か……まあ言ってしまえば俺が出て来て、黒笠灯澄の護衛が居なくなるのを待っています。ですから俺のフリをして外で敵を釣ってきてください」
「だが最悪、速攻でぶっ飛ばされてお前が二対一で不利になぁるぞ」
「大丈夫。貴方には才能があるでしょ。どうにか踏ん張ってください」
「無茶苦茶だなぁ」
「相手はぶっちゃけ強いですし、三人のうちの一人は奇襲の不意打ちで倒したようなものです。マンツーマンでも勝てるかどうか」
「そこまでかよ……」
「まあ俺も何の対策を持たせずに貴方に行かせるのは無謀だと思うんで、少しは教えますよ」
「何を?」
「才能者との戦い方」
「―――――という位ですね。それじゃっ、さっさと出てけクズ」
という一言と共に洋服店を追い出された景は、いつの間にか人のいなくなったショッピングモールを歩いていた。
(……何だ? おかしいだろ、人が降ってきて救急車が呼ばれたりしたら、むしろ人が集まるだろ…………そもそも)
洋服店内で、人の姿を見たか?
答えなど当然決まっている。見ていない。居なかったからこそ、ああいう話が出来た。
しかし、不自然だ。
廃墟の様に、人の気配がまったくしない。ショッピングモールだと言うのに。
あり得ない。これは確実に、
(才能者の仕業……敵か?)
絶対にそうとは言い切れない。
景と同じように、巻き込まれた才能者がいる可能性だってある。
その才能者が、無駄な気を遣わせて人を掃った可能性だってある。
「ん? あぁ、景君じゃないか」
人のいないモール内で声が反響し、どこから聞こえたのかは分からないが、景を呼ぶ声がした。
「こっち、こっち。後ろだって」
声の言う通りに景が振り返ると、数メートル後ろで30代前半の男性が微笑んでいた。
男性は言う。
「久しぶりだね、景君。君の記憶を消した時以来じゃないかな?」
ほらバトらなかった。すいませんでした。俺の責任です。