本心
タイトルなんかに意味は無い
「やぁー、いっぱい買いましたねっ!」
「お蔭で財布の残りが、帰りの電車代と同じ額になったがな」
ショッピングモール内にあるカフェテリアにて、両手一杯の紙袋を隣の椅子へ置き直した景が言う。
「ちゃんと責任取ってくれましたね!」
「あぁ、これで良いんだよな?」
「何言ってるんですか?」
「…………」
灯澄の言葉によって完全停止した景に追い打ちをかけるように、さらに一言。
「まさかこの程度で人の記憶を消した責任が取りきれるとは思ってませんよね?」
「……これ以上、何をしろと?」
「本当の事、話してください」
景の瞳をまっすぐ見つめ、回答を待つ灯澄。
十数秒の沈黙の後、景は条件を付けた。
「取り敢えず、飲み物奢れよ。金が無いんだ」
「真相はこの前、話した通りだ。それ以上の事は何もない」
灯澄からコーヒーの入った紙コップを受け取りながら景は言う。
「なら、詳細に話してください。あんな曖昧な説明じゃ納得いきませんから」
景と対面の席に座りながら灯澄は言う。
「…………」
「何で黙るんですか? 詳細を話すとまずい事でもあるんですか?」
「……まあな」
「じゃあ、この前言ったことのどこまでが本当の事なんですか?」
「全てだ。曖昧ではあるが、言ったことは全て真実だ」
「記憶を消したのが蓮野くんって事も」
「あぁ」
「気分で記憶を消したって言うのも」
「あぁ」
「お見舞いに来た理由が監視っていうのも」
「あぁ」
「あたしに嘘の態度で接していたというのも」
「あぁ。全て真実、本当の事だ」
コーヒーを啜りながら景は答える。
灯澄は少し視線を落としてから、もう一度まっすぐと景を見つめ問い質す。
「嘘の態度って、どういうのですか?」
「…………は?」
「いえ、だから、その……嘘の態度っていうからには、気になるじゃないですか」
「何が?」
「だからっ、どの態度が嘘の態度だったのかが気になるんです! 答えてください」
「全て。お前に接してきた態度全てが嘘の態度」
「にゃッ!! …………にゅぅ……」
間髪入れずに放たれた景の言葉に、灯澄はショックを受けた後、徐々に徐々に縮こまっていく。
「黒笠、お前は多分本心で接してきてくれた。だけど、こっちは本心で接してこなかったんだ」
「あ、なんだその程度」
縮こまっていた灯澄は一瞬にして元に戻ってしまった。
「まさか蓮野くん、その程度で嘘の態度うんぬん言ってたんですか?」
「ん? あぁ、そうだけど?」
「それなら皆、嘘吐きですよ」
景の言葉を、灯澄は笑いながら否定する。
「人は皆、最初から本心で他人に接する事は出来ませんよ。だってそんな事をしてたら大事な人が分からなくなっちゃいますから」
「大事な人が分からなくなる……?」
「うぅーん……簡単に言うとですねぇ……二人だけの秘密とか出来なくなっちゃうんですよ。二人だけ、特別な人だけに見せれる自分とかが有っても、あたしは構わないと思うんですけどね」
「だけど黒笠、お前は本心で接してきて」
「だってそれは蓮野くんがあたしにとって特別な人だからですよ」
「特別……?」
「記憶を失ったあたしに一番普通に、今まで通りに接しようとしてくれた最初に出来た友達ですもん」
「…………」
バカらしい、間違っている。
景はそう思った。
灯澄は、本心を明かすのは大事な人だけで良い、と言っている。
つまりは一番最初は誰もが他人に本心を隠して接していると言うことだ。
間違ってはいない。むしろ当たっているだろう。
だけど景と灯澄は初対面じゃない。最初からずっと景は本心を偽ったまま接している。
それに対して灯澄は、景のことを友達だと言って、本心から接してきている。
間違ってる。いつ自分が灯澄の友達になると言ったんだ。
よりにもよって自分が傷つけた相手が、自分の事を友達だと言ってくるなんて……間違っている。
「でも意外でした。景って案外、素直で優しい人だったんですね」
「んなわけ無いだろ」
コーヒーを一気に飲み、中身が無くなった紙コップを握り潰しながら景は言う。
「黒笠と友達になった覚えはないし、素直で優しい性格になった覚えもない」
「でも事実そうじゃないですか」
「どこが」
否定し続ける景に、灯澄は呆れたように言う。
「お見舞いに来て、誰かに追いかけられていればその場に走ってきて、両手一杯の紙袋の分だけあたしに買ってくれて、自分が本心から接していない事にちょっと罪悪感やら感じている人が素直で優しく無いなんて事は有り得ないと思うんですけど。まあ確かにあたし達は友達じゃないかもしれませんが……」
言い終わりに少し灯澄はしょんぼりしていた。
景は灯澄の言葉を自分の頭の中で、整理し、再度考え、結論を出す。
「……もう日が暮れ始めてる、さっさと帰るぞ」
「そうですね」
景は席を立ち、それに釣られて灯澄も席を立つ。
景の中で結論として出たものは、結局自分は記憶を消したことでなおさら黒笠に付き纏われる、というものだった。
逃げようとしたって逃げられそうにない。それが景の結論だった。
「おい黒笠、明日からは本心から接する事に決めたから」
「本当ですか? 信じられません」
「別に信じなくてもいい。勝手な独り言だと思ってくれて構わない」
「なら、あたしも明日からは今まで通りに接しますね。これはあたしの独り言ですから絶対に無視してください」
「大丈夫だ、安心しろ。明日から黒笠を無視するのは予定済みだ」
「酷いっ! 明日じゃなくてさっきの独り言を無視してくださいって言ったんです!」
「今から無視していいのか?」
「……つまり蓮野くんは今現在あたしをウザいって思ってるんですか?」
「よく分かったな、新たな才能か?」
「本当に蓮野くんは酷いですぅ!!」
灯澄がそう言うのと同時であった。
目の前に人体が降ってきたのは。
グダグダ街道まっしぐら、って感じの文章ですよね今回の。
やっぱり一つの物を書いてる時は他の物を書かない方が良いわ。
取り敢えず、多分次回からバトりますよ。多分ですけど