才能開発
駄文で自分自身が何書いてるのか分からなくなった
西宇津理学園。
それが自分が通う高校の名前であった。今知った。
どうやらこの西宇津理学園は中高一貫校……つまりはエレベーター方式の学校らしいのだが、自分は高校受験をしてここにいる。案外、生徒数が足りないのかもしれない。
まあそんな事、知った事じゃない。第一興味がない。
この西宇津理学園において、一番力を入れているのは才能開発と呼ばれるものだ。
才能と呼ばれる特殊能力を、薬などで人為的に開花まで誘導する。それを世間一般に才能開発と言うのだ。
この才能開発の発端は、数十年前にとある大学の実験中にたまたま発見された事から、とはなっているが、とある大学の名前も何の実験をしていたのかも明らかではない。
試しに、次世代の担い手であるインターネットを駆使して当時のニュース記事を調べようと思ったが、一切情報を得られなかった。次世代の担い手にはもう少し頑張って貰いたいものだ。
この不明な点が多い才能開発。しかしもっと不明な事があるのだ。
この才能開発を受けて才能を開花した者を、才能者と呼ぶのだが……その才能者の総数は少ないのだ。
数十年前に発見されて、ウチの学校のように才能開発に力を入れている所があるのにも関わらず。
噂によると、どうやら学校を卒業してしばらくしたらいつの間にか才能が消えていたらしいのだ。
多分、正確には才能が使えなくなったという事なのだろう。
この件に対して学校側などは薬の効力が切れて才能が使えなくなった、と弁解している。
まあ才能が無くても一般生活にはなんの支障も無い。故に世間では大して騒がれていないのだ。
しかし自分は思う。もしも薬の効果が切れて才能が使えなくなったのだとしたら、何故全員そうならない?
何故、学校を卒業していつまで経っても才能が使える者がいる?
………………今、考えたところで真相には辿り着けないか。
ならもっと目先の問題からだ。
「なあ畑沼、お前の才能って何だ?」
「珍しく窓の外を眺めてないと思ったら……才能開発に興味持っちゃった?」
自分の隣の席に居た輩に話し掛けたところ、ムカつく口調で質問が返ってきた。
ちなみにこの輩、畑沼とは小学校からの腐れ縁である。
自分はこの縁を一刻も早く断ち切りたいのだが、中々物事は思い通りには進まないものである。
「まあ、そんな所だ。それでお前の才能は何だ?」
「分からん。そういうお前は?」
「自分のを知らないからお前に聞いてるんだ。4月の記憶が丸々無くなって困っててな」
どうやら才能開発は4月中に行われていたらしいのだが、自分は席の関係によって心的に死んでいた。
その為、4月の記憶が丸々無くなっているのだ。憶える気が無かった、と言った方が正しいだろうが。
「俺もだ。4月の記憶が無い……」
「それは驚いた」
そう言いながら、顔の筋肉を何一つ動かさず目の色も一切変わらぬ自分。
嘘を吐いているわけではない。所謂ポーカーフェイスというやつだ。
外面では驚いてないように見えても、内心では4月の記憶を無くすバカが身近にもう一人いて驚愕しまくりなのである。
「明るい高校生活を送ろうと、告白したらフラれたんだ…………うゎーん」
「………まあ、人生長いんだから頑張れよ」
残念ながら哀れな畑沼に掛けてやる言葉は、こんなものしか思いつかなかった。
しかし。
畑沼はこの調子だとしばらく話を出来そうにない。インターネットをいくら駆使しようともこれ以上は情報収集できないだろう。
学校側から渡された資料は全て読みつくした。もう手詰まりか………。
まあ、この学校は幸い才能開発に力を入れている。待ち続けていれば、そのうち才能が何なのか分からない自分にも声が掛かるだろう。
果報は寝て待て、って事か。
しかし自分は寝てるよりも、窓の外を眺めている方がいい。睡眠より趣味を優先したい。
どうせ待つしかないんだから。
という事で待ちに待って、午後の授業。
才能の実践授業やらなんやらを2時間……正確には100分かけてやるらしい。
2クラスの合同授業らしいが、ウチの学校って一学年何クラスあるんだろうか?
「ところで畑沼。自らの才能がどういった物か分からないアホ共は何処へ行ったらいい? それとも才能無しで混じれという鬼設定か?」
「残念ながら、イージーモードで先生に才能について教えられるそうだ。ちなみに4月にやった内容らしいな」
「早くも留年生気分を味わえるわけか。大層、親切な学校だなココは」
合同授業は別館の体育館で行われるらしい。別館と言う事は、教室が有る方が本館なのだろうか?
4月中の記憶が無いと結構困るな。自分に調べる意欲が無いというのも問題なのだが。
体操着に着替え、体育館に移動。
取り敢えず、畑沼の方が色々と知っているので仕方なく後をついて行くことにする。
『それでは、才能の実習授業を―――――――』
出席番号順で2列に並ばされて、その前で先生がマイクを持ちながら何かを言っている。
この体育館で、入学式も行われたらしい。憶えていないが。
憶えてなさ過ぎる。せめて才能がどういった物かは憶えていたかったものだ。
「それで、畑沼。どこに行けばいいんだ?」
「ケイはつくづく人の話を聞かないな。いや、興味が無いだけか」
「ケイじゃない、カゲルだ」
畑沼はよく…というか完全に、名前をケイと勘違いしている。
景と書くから、決してケイと読めない事も無いんだが…………。
「ほら行くぞ、ケイ」
「だからケイじゃなくて――――」
その時、不意に視線を感じた。
悪意や殺意がある禍々しい奴じゃなくて、純粋にこちらを見ているだけの視線。
その方向を見る。生徒が大量に居て、誰が見ているかは分からない。
視線の主が無駄に動揺して動かなければ、の話だが。
姿までは、はっきりと見えなかったが女子生徒だとは思う。
何故にこっちを見た? まあ、俺には分からないし関係の無い事か。